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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第8章 南アルガスタ編
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第百七十九話 平和な暮らしをおくってみよう!

 

 漆黒に包まれた空間にただ一人佇むメノウ。

 周囲には何もない。

 延々と黒いだけの空間が続いていく。

 眼を閉じ佇む彼女に襲いかかる一人の騎士。


『ハアァァァ!』


 かつてメノウと戦った『黒騎士ガイヤ』、その男だ。

 邪剣を構えメノウに斬りかかる。


『ッ!』


 それを避けカウンターの衝撃波を放つ。

 衝撃波にかき消されるようにガイヤの『虚像』は消えた。

 だが、それだけでは無い。


『ヒハハハハハ!』


 そのメノウを襲ったのは東洋の悪戯狐『汐之ミサキ』、

 十代にもかかわらず東洋の幻術と幻狐流剣術を極めた恐るべき少女。

 一撃は弱いが、その攻撃は多連続に及ぶ。

 刀を振るごとに放たれる炎と斬撃波がメノウを襲う。


『ぬっ!』


 戦巫女セイバーを展開し、炎をかき消す。

 後ずさりするミサキの『虚像』、そのまま後ずさりし黒闇の中へ消えていく。

 それとほぼ同時に暗闇を切り裂き現れたのは『魔竜オオバ』、東アルガスタでかつてメノウが戦った相手だ。


『てあッ!』


 戦巫女セイバーで攻撃を受け止めるも、相手がオオバでは長くは持たない。

 弾き飛ばされ地面に叩きつけられてしまう。

 オオバに追い詰められるメノウ。

 いや、大羽だけでは無い。

 フィーリアの陰『シャドー・フィーリア』

 幽忠武を率いる女頭首『マイビ・トウコ』

 幻影の牙『ファントム』

 これまで戦ってきた者達に囲まれるメノウ。


『あーここまでかー…』



 --------------------





「メノウ…メノウ…!」


「ぬっ」


「なに座禅組んで浮いてるんだよ」


 そのショーナの言葉を聞き、目を開けるメノウ。

 ここしばらく、彼女は体の調子が良くなかった。

 リートに捕まっていた影響もあるのだろう。

 身体を動かす代わりにイメージトレーニングをしていたらしい。


「いや、まぁいろいろとな。ははは」


 ショーナの自宅に転がり込み共に暮らすこととなったメノウ。

 なんだかんだ言っても普通に生活できているようだ。

 窓から差し込む日の光。

 太陽は時刻が昼であると告げていた。


「メノウ、もう体は大丈夫か?」


「ああ、心配ない。魔法ももう使えるようになったぞぃ」


「そうか、よかった」


 リートたちからメノウを取り戻して一か月が過ぎた。

 その間メノウは南アルガスタにあるショーナの自宅で療養していた。

 現在、彼は南アルガスタの四重臣の地位についている。

 そこそこの給金も出るため、結構いい暮らしをしているという。

 とはいえD基地は南アルガスタ内でもかなり辺境の地域。

 仕事も多く、交通などいろいろと不便なこともあるのだが。


「それにしてもお主がこれほどの家に住んでいたとはのぅ。驚きじゃ」


「ははは、まぁな」


 ショーナが現在住んでいるのは、D基地の近くにある家だ。

 一人暮らしだった割には広くメノウも驚いている。

 もともとあった建物を改装して作ったという。


「ショーナ仕事はいいのか?」


「今は休憩時間だからな」


「四重臣の仕事ってなんじゃ?」


「そうだなぁ…王都での要人警護とか、式典での武力誇示とか…」


「普段はなにしとるんじゃ?」


「役所の仕事の手伝いとか…ヒトを襲う野生動物や盗賊の討伐、指名手配犯の捜索とかとかかな…」


 その後もショーナの話は続いた。

 普段は警察や役所などその他諸々の公的施設の仕事の手伝いを行う。

 そしてそれらでは手が回らないようなものの対応。

 あとは事務仕事を少し。


「あれか?昔のシヴァやミーナみたいな感じかのぅ?」


「あの二人は極端すぎるぜ。参考にはならないよ」


 旧D基地所属のシヴァ、そして旧C基地のミーナ。

 ショーナによると、どちらもまともに仕事をしていたとは言い難いらしい。

 前者は民衆いじめ、後者は部下に仕事を丸投げ。

 仕事内容も滅茶苦茶。

 当時の南アルガスタがどれだけ荒れていたかがわかるというものだ。


「ショーナ、昼飯喰ってくか?」


「おう」


 ちょうどお昼時。

 仕事に戻る前に食事をしていこう。

 そうメノウは提案した。


「そうじゃ、『この子』にも食事あげんとな」


「すぅ…すぅ…」


 メノウが浮いていた丁度真横。

 そこに置かれた小さなベッド。

 寝ている赤ん坊にめをやりながら。

 と、その時…


「おーい!」


 家のドアを叩き、呼ぶ声がした。

 来客のようだ。


「俺が出てくるよ。用意任せた」


「おう」


 ショーナが来客を迎える。

 こんな時間に珍しい。

 そう思いながら。

 その客とは…。


「ハァーイ!久しぶり!」


「レオナ!久しぶりだなぁ!」


「たまたまこの近くに用事があったからね、来ちゃった!」


 そう言って訪ねてきたのはレオナだった。

 彼女と会うのは、以前の討伐祭以来。

 日数にすると一か月と少しくらいになる。


「なんじゃー?誰じゃー?」


「私よメノウちゃん!」


「おーレオナー!久しぶりじゃなー」


「久しぶりー…ん?」


「ふぇぇ…」


「!?」


 メノウが抱きかかえている赤ん坊を見て目を丸くするレオナ。

 二人を見てショーナに視線を移す。

 そして再びメノウと赤ん坊へと視線を移す。

 そしてショーナへ…


「(産んだのメノウちゃん!?この歳で!?)」


「どうしたんじゃ、レオナ?」


「おめでとう、二人とも!」


「え?」


「なんじゃ?」


「赤ちゃん、結構前から…そういう…」


 レオナのその言葉を聞き、だんだんとその意味を理解し始める二人。

 彼女が何を言いたいのか。

 その真意を…


「あー!そうじゃない、レオナ!」


「違う、そう言うのでは…!」


「え?」


 レオナを奥の部屋に招き入れ、事情を説明する二人。

 この赤ん坊は近所の者から数時間だけ預かって欲しいと頼まれただけなのだ。

 二人の子、という訳では無い。

 週に二回ほど、この時間にメノウに子守りの依頼が来るのだという。


「あーそうだったんだ。私はてっきり…」


「いやーははは…」


「ははは…」


 乾いた笑いで対応するメノウとショーナ。

 確かに結婚するとは言ったが、まだ子供ができる時期では無い。

 …たぶん。

 ショーナが赤ん坊を再び寝かしつけ、メノウが食事の準備を始める。


「レオナもメシ喰ってくか?」


「じゃあ遠慮なく」


「パンとスープ、チーズくらいしかないが我慢してくれ」


 そう言ってメノウが料理を用意する。

 とは言っても、元々作り置きのものなのですぐに出てきた。

 作り置きできる物、長持ちするものなどを大量にストックしておき、少しずつ個別に出す。

 メノウはこういった食事の用意をすることが多い。

 ちなみにショーナは簡単な調理をする料理を作ることが多い。


「うん、おいしい」


「よかったーレオナに喜んでもらえて」


「もうレオナも家族みたいなものじゃし」


「水でも飲んでゆっくりしていけよ」


「いやぁ…ははは…」


 そう言いながら食事を続ける三人。

 季節の野菜、豆類の多く入ったスープ。

 安めの硬いパン、保存の効くチーズ。

 それらを軽く平らげた。

 赤ん坊の面倒を見つつ、その隣でメノウは本を読み始めた。


「なに読んでるのメノウちゃん」


「これじゃよ」


「あ、懐かしい!『護人コロナの伝説』ね!」


「ショーナが昔使っていた学校の教科書の束に混じっていたんじゃよ」


 メノウが持っていた本。

 それは『護人コロナの伝説』という本だった。

 外国の本らしく、このゾット帝国では教材として使用されている。


「あー俺が昔読んだやつだなー。懐かしいなー」


「赤ん坊を寝かしつけるときに朗読してたんじゃが、ちょっと気に入ってな…」


「私もこの話結構好きよ」


 そう言うレオナ。

 ふと、レオナがなぜ南アルガスタに来たのかを聞き忘れていたことに気が付いた。

 メノウはそのことを尋ねることにした。



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