第百七十八話 メノウを取り戻した!
コーグンとスウリは倒れ、リート側の手札はすでに尽きた。
あとの始末は簡単だった。
倒れた二人とリートを捕縛。
その後は軍、または警察に引き渡すだけだ。
「ちょっと!もう少し優しくしなさいよ!」
「ダメです」
「私はあんたより一回りくらい年上…って聞いてる!?」
「それは関係ありません。それよりちょっと動かないで」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
「痛ッ…怪我してるから紐が結び辛いんですよ…」
そう言いながらリートを拘束するツッツ。
コーグンとスウリの二人はカイトに捕まっていた。
リートが手配していたヘリの操縦士にはすべての事情を話した。
どうやら彼も金で雇われていただけらしく、詳しい事情は知らされていなかったらしい。
「アイツらヤバい奴らだったのか…」
「そうです。できれば警察組織への連絡を…」
「ああ、無線があるからやっておくよ」
そう言ってヘリの無線で連絡を取る操縦士。
近くの飛行場の設備を経由し、警察へと連絡を試みる。
このヘリでリートたちを移送することも一瞬考えたが、さすがに無理があるだろうとのこと。
「少し時間がかかりそうだ。待っててもらってもいいか?」
「ええ、すみませんがお願いします」
操縦士に頭を下げその場を一旦離れるツッツ。
カイトの方の手伝いをするため彼に手を貸す。
「大丈夫?手を貸すよ」
「じゃあ頼むぜ」
「全部はやらないよ」
「へへ。騎士団に入ってすぐにこれだけの手柄上げるって、やっぱすごいと思うなー、俺は」
「まぁ確かに、今回はきみのおかげだよ、ありがとう」
「へへへ…」
そう言いながらリートたち三人をビルの下へと連れて行く。
一方、ショーナは捕まっていたメノウの拘束を解いていた。
固く縛られていた紐を斬り捨てる。
「メノウ、大丈夫だったか?」
「ふふふ、まぁのぅ」
「よかった…」
そう言ってメノウを抱きかかえるショーナ。
ずっと捕まっていたためまだメノウも本調子ではないだろう。
それにまだ魔法が使えないのか、というのも気になる。
彼女にそのことを尋ねると…
「まだ使えんな…」
「そうか。でもなんで…?」
結局、何故メノウが魔法を使えなくなったのかは謎だった。
本人ですら理由がわからないのだからどうしようもない。
と、その時…
「魔法が使えないのは当然よ」
「あ、ちょっと!」
拘束されたリートがツッツの静止を無視しながら叫んだ。
彼女は何故メノウが魔法を使えなくなったのかを知っているようだ。
「竜の生理現象や繁殖期が関係してるのよ」
「そうなのか!?」
「チッ!それを計算して今回の計画を立てたのに…」
そう言って落ちていた油の空き缶を蹴り飛ばすリート。
中に入っていた雨水が辺りにこぼれ広がる。
どうやらデタラメを言っているわけではなさそうだ。
「ち、ちょっといいか?」
「なによ?」
「メノウのこれって時期に元に戻るのか?」
「は?あたり前よ。自然現象なんだから!」
そうとだけ言ってリートは下の階へと降ろされていった。
幸いにも下の階には、メノウを閉じ込めていた座敷牢のフロアがある。
同じような座敷牢の部屋が何個かあったので、しばらくはそこに閉じ込めておけるだろう。
あとは軍や警察に連行してもらえばよい。
「…嘘は言っていなかったみたいじゃな」
「そうみたいだな」
そう言う二人。
とはいえ、ここからそのまま帰るという訳には行かなかった。
捕まえたリート一行をそのまま放置するわけにはいかない。
軍、警察が引き取りに来るまである程度見張っておかなければならなかった。
それも来るまでに数日間はかかるのではないか、とのことだ。
「くっそ~…アンタたち覚えていなさいよ…」
「リートさんよぉ、もういい加減諦めようぜ…」
「黙ってよ!大体スウリ、アンタがもっとちゃんとしていればぁッッ!」
「ヒェッ…」
座敷牢で叫び続けるリートとスウリ。
一方、他のクース、ヌリーグ、コーグンは特に抵抗はしなかった。
抵抗するだけ無駄だとわかっていたのだろう。
「のぅ、お前さんら」
「なんだよ?」
「出してくれる…訳では無いな」
メノウが話しかけたのはクースとヌリーグ。
彼らも悪人ではあるが、少なくとも酒を呑んでいる間は楽しかった。
捕まっていた間の束の間の心の休息だった。
そのことだけ礼を言いに来たのだ。
「酒の席、楽しかったぞ。またいつか一緒に呑みたいな」
「…へッ!」
「またいつか、な」
「ああ…!」
そうとだけ告げるとメノウは下の階で待つショーナたちの元へと戻っていった。
以前から気になっていたことが一つ、メノウにはあった。
何故ツッツが、ショーナたちと共に助けに来てくれたのか、ということだ。
「のぅツッツ、なぜお前さんが来てくれたんじゃ?」
「あ、そうだ!それ俺も気になってたんだ!」
ショーナも同様のことを助けられた際にきこうとしていた。
だが、いろいろあって結局聞けずじまいだった。
「そのことですが実は…」
「実は?」
「実は王都ガランでの例の事件の後、王女様たちから連絡があって…」
あの魔王教団、ウェスカー事件の後。
ツッツの元へ王女ルビナとルエラからとある連絡が会った。
それは王家の密偵として働かないか、というものだったのだ。
「信用できる外部の人間が欲しい、とのことです」
あの事件で改めて外部の人間の力が必要だと感じたゾット帝国王家。
高官であったウェスカーですら魔王教団と繋がりを持っていたのだ。
しかもこれは氷山の一角、探せばさらに多くの人間が繋がりを持っているのは確実。
それに対抗するため、少しでも信用できる人材が欲しかったのだ。
「なるほど…」
「僕も仕事を探そうと思ってたので丁度よかったです」
そしてツッツが雇われてすぐにリートたちの情報が入ってきた。
そのためカイトと共にそれを追っていた。
そこでショーナと出会い、助けた。
つまり彼を助けるために来たのではなく、出会ったのは完全な偶然だったという訳だ。
「今回の事件で、竜の捕獲組織の足取りもつかめるかもしれません」
元々カイトとツッツの目的は竜の捕獲組織の追跡。
今ここにいるリートたちは単なる末端に過ぎない。
だが、リートたちの背後にいるであろうその組織も今回のことでその正体を掴めるかもしれない。
「ところでメノウさんとショーナさんはこの後どうしますか?」
「え?そりゃこいつらの見張りを…」
「そうじゃよ、それをしないと…」
ツッツの問いに対しそう言うショーナとメノウ。
しかしその言葉に対しカイトが言った。
「馬鹿だなお前ら、さっさと病院へ行けよ!」
「メノウさんはまだ本調子じゃないし、ショーナさんは怪我を押して無理矢理ここまで来たんですよ。カイトくんの言うとおり戻った方がいいと思います」
「戻るって言っても…」
「リートたちが呼んだヘリが上でまだ待ってくれています。お二人はあれで帰ってください」
ツッツの言うとおり、メノウとショーナの二人はまだ本調子ではない。
ここにいて逆に体調が悪化する可能性も無くは無い。
帰れるうちに戻った方がよい。
ツッツはそう判断した。
「ここは僕たちに任せてください。これくらいできますよ」
今メノウの目の前にいるのは、数年前の守られるだけの存在だったツッツとは違う。
多くの戦いを潜り抜け、成長してきた一人の少女。
彼女もまた成長という名の進化をしてきたのだ。
「軍や警察が来るまで拘束しておかなきゃ何ねェしな。気は抜けないぜ」
成長しているのはカイトも同じ。
彼もあの年齢ながら、多くの戦いの場を経験してきたのだ。
その腕は信頼できる。
メノウとショーナはそう思った。
そして…
「メノウ」
「なんじゃ?」
「帰ろうぜ、二人で」
「…そうじゃな」
この場をカイトとツッツに任せ、メノウとショーナは帰ることにした。
元の生活…
これから始まる日常へと…




