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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第7.5章 俺のメノウを返せ!
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第百七十七話 メノウの言葉を思い出せ!

 膝をつき腹を抑えるツッツ。

 隠し持っていた予備の撃剣の存在を見抜かれ、それごと銃で撃たれてしまった。

 幸い銃弾は体に当たることはなかったが、着弾の衝撃により体の内部を大きく痛めた。

 内臓や骨にもダメージが通っているかもしれない。


「くそッ…」


「…ッ!」


 その銃撃でケースが割られ落ちた撃剣。

 苦し紛れにそれを拾い上げようとするツッツ。

 だがそれもコーグンによって防がれてしまった。

 撃剣をオートマチック銃で撃たれ、弾き飛ばされてしまった。


「油断も隙も無いガキだ」


「う、うるさい!」


 そう言いながらツッツを見るコーグン。

 銃を向け、抵抗できぬようにしながら。


「ツッツ!」


「ご、ごめんなさいメノウさん…助けてあげられなくて…」


「もういい、無理は…無理はしないでくれ!」


「う、うぅ…」


「ツッツ…!」


 メノウが叫ぶ。

 そんなメノウをロープで巻き手中に収めたリート。

 既に目的は半ば達成したような物だ、そう考えると半ば笑みを浮かべる。

 だがコーグンは全く別のことを考えていた。

 子供とはいえ油断はできない、と。

 そう感じた彼は雇い主にある提案をした。


「リートさんよ、こっちとしてはさっさと撃ち殺したいんだが」


「ダメよ、そう言う野蛮なことは嫌いなんだから。殺すのは最後の手段よ」


「チッ…」


 内心悪態をつきながらも、リートに従いそれ以上の追撃を止めるコーグン。

 彼としては障害になりそうな人物は先に殺しておくべきだと考えている。

 だが、リートは依頼者。

 彼女の言うことは今回の作戦においては絶対。

 依頼者である以上従うしかない。

 リートの勝手な指示ではあるが…


「下の奴らはどうした?」


 改めてツッツに問う。

 彼女がここまで来たということは下の階の者達は役に立たなかったということだ。

 コーグンの問いに対し、ツッツは笑みを浮かべながら答えた。


「へへへ、それはね…」


「ん!?」


「こういうことだ!」


「俺のメノウを返せ!」


 その声と共に現れたのはカイトとショーナ。

 下の階の者達、ヌリーグとクースは既にこの二人が倒したのだ。

 そして今、丁度屋上へと到達したという訳だ。


「大丈夫かツッツ!」


「カイトくん…」


「あっちで休んでろよ、邪魔だからな。無理するなよ」


「う、うん」


 そう言って物陰に座り込むツッツ。

 先ほどの衝撃がかなり効いていたらしく、座ると同時に少しほっとしたような表情を見せた。

 一方、メノウを捕縛しているコーグンとリートは…


「た、倒しちゃったの!?」


「あとはスウリだけだが…」


「いない…逃げたのねあの役立たず!」


 そう吐き捨てるリート。

 自分たちには今、メノウという人質がいる。

 しかし逆に言えば優位性はそれだけ。

 それを失えばあっという間に敗北する…

 彼女はそう考えた。

 もうすぐ迎えのヘリが来るが…


「…助かりたいか?」


「え?」


 小声でリートに言うコーグン。

 策があるのだろうか。


「相手はガキが二人。戦って勝てない相手じゃない…」


「けど下の二人がやられたのよ?それに…」


「おいスウリ!そこにいるんだろう」


 コーグンが叫ぶ。

 ヘリポート脇の小さな物置小屋、そこに彼は隠れていた。

 勝ち目がないと悟った彼は全てが終わるまで隠れてやり過ごそうと思っていたのだろう。

 しかしコーグンに言われ小屋から出てきた。


「い、いや隠れてたわけじゃ…」


 見苦しい言い訳をするスウリ。

 だがそんな彼を無視しコーグンが言い放つ。


「やるぞ」


「え?」


「あの二人を片付ける!」


 そう言いながらスウリを睨み据える。

 たったそれだけのことだった。

 だが、ここでいうことを聞かなければ…


「ちッ…!クソぉ!」


 コーグン、そしてやけくそになったスウリがショーナとカイトに向かって襲い掛かってきた。

 人質であるメノウはリートが捕縛している。

 このままヘリが来るまで時間を稼ぐつもりなのだろうか。


「ショーナ、じーさんの方は任せるぜ!」


「わかった!カイトは東洋人を!」


「終わったらあっちの女だ!」


「メノウを絶対…取り戻す!」


 二手に分かれるカイトとショーナ。

 ショーナがコーグンを。

 カイトがスウリを相手にする。


「俺の拳は変幻自在の高速拳、避けられるかな?」


「なにが高速だよバカにしやがって。逃げ隠れしてたやつに言われてもこわくねーよ!」


「こ、このガキ…!」


 一方のコーグンとショーナ。

 あのツッツのやられ方から見て、このコーグンという男は只者ではない。

 そう感じたショーナは甘さを捨てる。


「相手は老人…だけど!」


 相手は確実に倒す。

 そう考え構えをとる。

 それとほぼ同時にコーグンがショーナの間合いに入る。


「やはり早い!」


「随分といい眼をしているな、ガキのくせに」


「そりゃどうも!」


 あいさつ代わりに放ったショーナの衝撃波。

 だそれを軽く避け、背後をとるコーグン。

 懐からナイフを取り出し素早い突きを繰り出す。


「ッ!」


「くッ!短刀術か!」


「これまで多くの首を掻き切ってきた刃だ。年季が違う」


 連続の突きにもかかわらず、その動きはまるで機械のように正確。

 そして一切の息切れも、動きの劣化も無い。

 老人どころか、鍛えた若者ですらできるかどうかわからぬ芸当を軽々とやってのけている。


「無駄も隙も無い…!ヤバい!」


 近接戦闘や体術では分が悪い、そう考えたショーナは一旦距離をとる。

 そして小型の衝撃波を連続して放った。

 少しずつではあるが確実にダメージを蓄積していく戦術をとったのだ。

 だが…


「所詮ガキの浅知恵よ…」


 ナイフの先端をその衝撃波へと向ける。

 衝撃波がナイフの先端に着弾。

 すると、衝撃波はかき消されてしまった。

 衝撃波の弱点を的確に見抜いているのだ。


「そうして一歩ずつ近づいていけば…」


「なッ…」


「そら!」


「うッ!」


 再び一瞬で距離を詰められ驚嘆の声を上げるショーナ。

 そしてそれと共に右の手のひらをナイフで貫かれた。


「ヌグッ…!」


 声にならぬ声を上げ、手を引き抜く。

 衝撃波は手のひらから出すもの。

 これでは衝撃波は使えない。

 二発目のナイフを避けるべくコーグンを無理矢理投げ飛ばす。

 距離は取れたが受け身をとられダメージは通らなかった。


「ふふふ…」


「ちッ!」


 貫かれた手を布で巻き止血する。

 応急処置ではあるがこれで我慢するしかない。


「じーさん、アンタ一体何者だ…」


「教える理由など無い」


「…うぅッ!」


 少しずつではあるが、確実にショーナを追い詰めてきている。

 体力もコーグンの方が上なのかもしれない。

 息遣いが激しくなるショーナに対し、彼は全くあがっていない。

 このままでは消耗戦になり敗北してしまう…


「(このまま戦うか…それとも…)」


 ショーナはあることを思い出していた。

 以前の討伐祭で英雄ヒィークとの試合後、メノウとミーナに言われたことだ。


『いくらワシでも身体の奥までは治せん。もう少し戦い方を変えた方がいいぞぃ』

『一つの試合に全力を出し過ぎるのも考え物だってことさ』


 いくら魔法である程度は治るとはいえ、身体に負担をかけた戦いはできる限り避けるべき。

 大怪我、或いは死となると取り返しがつかないことになる。

 このまま戦えばほぼ確実にナイフで八つ裂きにされる。

 どうするべきか、そう考えていた丁度その時…


「うわッ!」


「おっと!」


 そう考えていたショーナの背にカイトがぶつかってきた。

 スウリと交戦中、こちらまで来てしまったらしい。

 ショーナとは違い善戦しているようだった。


「カイト!」


「よっ、苦戦してるのか?」


「ああ、まぁな」


「全くしょうがねえな、どれ少し…」


 カイトがそう言いかけたと同時に、彼が後ろへと下がる。

 その足元には弾痕が。

 今の会話の際にコーグンが撃ったのだろうう。


「チッ…厄介なじーさんだぜ」」


「オイ、どこ見てやがる!」


 コーグンの方を見ていたカイトにスウリが襲いかかる。

 その攻撃を避けるカイト。

 ショーナの横を通り抜け、距離をとる。

 と、その通る瞬間…


「あのじーさんの動き、十秒ほど止めろ…!」


 カイトが小声でそう言った。

 なに策があるのか?

 どちらにせよこのままではコーグンに負ける。

 カイトの…彼の言葉に賭けるしかない。


「うおお!」


 そう考えたショーナは勢いよくコーグンの元へと足を踏み込んだ。

 コーグンの動きを止めるのはそう簡単では無い。

 近づけばナイフの餌食。

 ならば…


「衝撃波と一緒に突っ込む!」


 あまり負傷していない左手から連続で衝撃波を出し、それと共に近づく。

 もちろん先ほどと同じようにナイフの先端で相殺される。


「同じ手か、つまらん」


 再び繰り出されるコーグンの刃の突きを紙一重で致命傷から外す。

 だが攻撃は当たっている。

 皮膚は避け赤い血が噴き出す。

 二回、三回、四回、五回とそれが繰り返される。

 そのたびに血が流れていく。


「ちょこまかと…!」


 一瞬のための後、コーグンがその狙いをショーナの心臓へと定めた。

 避け続ける彼の息の根を止めるため、確実に当てる。

 そう強い思いを込めて。

 と、その時…


「ショーナぁ!頭下げろ!顔曲げろ!」


 カイトの叫ぶ声。

 それと共にショーナが頭を下げる。

 咄嗟のことに反応しきれぬコーグン。


「スウッ…!」


「うわ!じーさん避け…ッ!


 カイトの策、それはスウリの攻撃をコーグンに誤爆させることだった。

 戦いの中でスウリの高速拳の動きを把握したカイトはそれをショーナと共に成功させたのだ。

 避けようと無理矢理軌道を曲げようとした結果、不自然な態勢となり衝突する二人。

 動きを封じられたところを気絶させられ、コーグンとスウリの二人は敗北した。


「やったぜ」


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