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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第7.5章 俺のメノウを返せ!
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第百七十三話 メノウ、寝る

 

 逃走しようとしたメノウ。

 だがその途中で敵に見つかってしまった。

 身体の自由を奪われたメノウはそのまま監禁部屋へと戻されてしまった。

 その後…


「あの女の子がまさか逃げ出すとはねぇ…」


 一階にある作戦室に集まる誘拐犯たち。

 ホワイトボードの前に立つリーダーの女。

 そしてその前の会議用の長机を囲むように椅子に座る三人の男。

 ショーナを襲った巨漢。

 謎の黒装束。

 そして先ほどメノウを連れ戻した老兵。

 東洋人を見張りに残し、残り四人で反省会という訳だ。


「…いや、その」


「…すみません」


「まったく…まったく…」


「いや、本当に…すみません」


「…」


 そういって謝ったのは巨漢と黒装束。

 彼らはメノウをさらうために雇われた傭兵。

 計画を立てたこの女性。

 ホワイトボードの前に立ち、嫌味を言うこの女性。

 年齢は二十代後半、少ししわが気になる年頃のこの女性。

 もうすぐ三十代の『リート』から高額な金を積まれ仕事を任されたのだ。


「『クース』、『ヌリーグ』、あなた達にはたくさん金を積んだんだからちゃんとしてよね」


 黒装束の男『クース』と巨漢の『ヌリーグ』にそう言うリート。

 この二人は仕事をサボり酒宴。

 見張りを怠っていたのだ。

 怒られても仕方がないだろう。


「まったく…『コーグン』がいなかったらあのまま逃げられてたんだから」


 奥の席で腕を組み座る老兵『コーグン』に目をやるリート。

 このコーグンという男、本名は『カイーイ=ショーン・コーグン』という。

 数十年前の世界大戦の際にとある国の軍の重鎮だった男だ。

 全盛は過ぎているものの、その力と頭脳は今も健在。

 詳しくは不明だが、現在は傭兵として各地を渡り生計を立てているらしい。


「その二人が頼りないだけだ」


「頼りにしてるわよ」


「ところで『スウリ』のヤツは…?」


「あの子の部屋の前でずっと見張りよ」


「そうか…」


 先ほどメノウに気絶させられた東洋人の男『スウリ』。

 メノウを逃がしてしまった罰として部屋の前での見張りをさせられていた。

 またメノウが逃げぬよう細心の注意を払いながら。



 --------------------


 その頃、最上階の監禁部屋にて。

 メノウは扉越しに監視をしているスウリに話しかけていた。

 片腕を枕にしベッドに寝ながら、先ほど運ばれてきた食事のパンをかじりながら。


「お~い、ワシをここから出してくれんのか~?」


「ださねーよ!」


「じゃあパンとスープのおかわり貰っていいか?」


「やらねーよ!」


「チっ…」


 舌打ちをし、メノウはふて寝した。

 食事だけは綺麗に完食してあった。


 --------------------



 そんなやり取りがされているとは思いもせず、会議という名の反省会を続ける四人。

 そんな中、ヌリーグがある質問をリートぶつける。


「ところでリートさん、ちょっといいか?」


「なによヌリーグ」


「何であのガキを狙ったんだ?身代金目当てではないだろう」


 クース、リート、ヌリーグ、スウリ。

 そしてカイーイ=ショーン・コーグン。

 このメンバーを揃えるだけでリートは多額の資金を使っている。

 さらに準備金などを考えると誘拐による身代金では到底賄いきれない。


「身代金なんてチンケなものが目的なわけないじゃない!」


 そして彼女自身は外国のとある超有名実業家の娘。

 そもそも金には困っていないのだ。

 メノウを誘拐し身代金を要求するような立場の人物では無い。


「あの子はただの子供じゃないのよ」


 単なる誘拐など街のチンピラを使えばいいだけのこと。

 ある程度名の知れた傭兵であるコーグンや工作員のクース、実力者であるヌリーグとスウリを雇う必要は無いはずだ。

 逆に言えば、これは『単なる誘拐』などではないということだ。


「つまり…それってどういう…?」


「言っても理解できないでしょうしね」


「はぁ…」


「とにかく、金は払ったんだからちゃんと仕事はしてもらうわ!」


 そう言いながら机を勢いよく叩くリート。

 本人的には発破をかけたつもりだったのだろう。

 それ以上の話が続くことは無く、今回の反省会はとりあえずこれでお開きとなった。


「払った金の分、ちゃんと働いてよね。サボりは厳禁!」


 リートしそう言って自室へと戻っていった。

 残された三人も各自それぞれ元の持ち場、或いは自室へと戻っていく。


「前金で半分貰ってるし、まぁ仕事の間は真面目にするか」


「ヌリーグ、お前はいくらもらった?」


「俺は290万だ。お前は?」


「280万だ」


「俺の方が多いな」


「チェッ。コーグンの爺さん、アンタは?」


 クースの言葉に対しコーグンは返答はしなかった。

 だがその代り、指を四本立てた。

「240万か、俺達より少ないな」、そう思うクースとヌリーグ。

 傭兵などそんな物だろう、そう考えそれ以上詮索はしなかった。


「ところであのガキが一体なんなんだ?」


「何か特別なものがあるのかな?」


「スウリのヤツなら何か知ってるかもしれん」


「いや、知らないだろ」


 持ち場に戻る途中、そう話すヌリーグとクース。

 確かにメノウをさらいはしたが、それはあくまで依頼されたから。

 その理由までは、尋ねてもリートは話してくれなかった。

 頭を抱えるクースとヌリーグ。

 だが…


「あの少女は『竜の巫女』と呼ばれる特殊な能力者の一人だ」


 それまで口を閉ざしていたコーグン。

 彼がそう言った。

 それを聞き驚く二人。


「稀にいるという『異能者』という奴か…?」


「いや、違う。『異能者』は先天的、『竜の巫女』は後天的なものだ」


 ゾット帝国…

 いや、この世界においては『異能者』のような特殊な力を持つ者は迫害されることが多いという。

 異能者と言うだけで実験体にされてしまったツッツ。

 拉致監禁を受けた少年時代のジンやルビナ姫。

 迫害を受け続けたシェンなど、例を上げればキリがない。

 また、『幽忠武』は迫害された異能者が立ち上げた組織でもある。

 先天的か後天的、どちらにせよ特殊な能力を持つ者。

 未だに差別的な意識は民間に深く残っている。


「反異能者派の組織にでも渡して、見せしめで処刑するとか?」


「そんな下らんことになどつかわんさ」


「じゃあ一体なんなんだよ、コーグンの爺さん」


「あの少女の持つ『竜の骨』が目当てなのだろう」


「ホネ?」


「ああ…」


 そう言うとコーグンは二人に対して竜の巫女について簡単な説明を始めた。

 ラウル古代遺跡に伝わる伝説。

 生きた少女の四肢を竜の骨に換える儀式。

 それにより特殊な能力が与えられる、ということを。

 そしてその儀式の手順を事細かに…


「手足を切断し…」


「俺そういう話苦手なんだよ…やめて…」


 四肢の話の辺りでクースが音を上げ始めた。

 それに構わず話を続けるコーグン。

 竜の骨は古代から神秘的なものとして扱われている。

 それには特殊な力があり、使い方によっては飛躍の秘薬や究極の兵器にもなるという。

 それに…


「まぁ依頼主のことだ。『永遠の若さ』でも欲しいのだろう」


「永遠の若さ…ねぇ…」


「そんなものあるわけ…」


 その言葉を聞き、一気に懐疑的な顔になるクースとヌリーグ。

 そんなおとぎ話のような話を信じられるわけが無い、とでも言いたげな顔だ。

 確かに突飛な話だろう。

 しかし…


「あのメノウという少女がそれだ。肉体と精神ではかなりの年齢差があるだろう」


「そんなまさか」


「冗談だ。永遠の若さとは言い過ぎだが、竜の骨は『若さを保つ』とか『長寿』に効果があるのは事実」


 竜の巫女であるメノウを捕まえしかるべき処置をし殺害。

 特別な施設でその体内にある竜の骨を奪う…

 コーグンはそれが今回の作戦の目的ではないかと推測した。


「たぶん当たっているな、それ」


「だが爺さんよ、なんてそこまで詳しいんだ?」


「昔ちょっとな…」


 そういってコーグンは自室のある四階フロアへと戻っていった。

 後々スウリとメノウの監視の交代をする、そう言い残して。

 残されたクースとヌリーグ。

 先ほど酒を飲んでいたテーブルに戻り話を続けることに。

 だが話題は先ほど、コーグンの言ったことばかりになっていた。


「あの爺さん、妙に詳しいな。でたらめを言っている感じでもなかった…」


 そう言うクース。

 自分たちが説明を受けていないのだから、コーグンの知識は彼が元々持っていた物である。

 しかし何故そこまで『竜の巫女』に詳しいのか…


「カイーイ=ショーン・コーグン。ヤツはあの『総統』に仕えていたらしいぜ」


「『総統』ってあの…」


「ああ。数十年前の世界大戦のな」


「総統の軍はオカルティズムを積極的に取り入れていたと聞く。その過程で知ったんじゃねぇのか」


「あの爺さんやべーヤツじゃん」


「かもな」


 そうとだけ言うと、ヌリーグは再び酒を飲み始めた。

 それに続きクースも。

 注意されたにもかかわらず、再び説教前の酒宴が再開。

 その後、二人は朝まで飲み明かしたという…




名前:ヌリーグ 性別:男 一人称:俺 年齢:23歳

元総合格闘家の男。

出身は外国であり、所属していた軍を辞めたのちに流れの傭兵に転向。

現在はリートの元で働いている。

好きなものはたくさん飲める安酒。

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