第百七十二話 囚われの少女 メノウ
原作ゾッ帝の新省発表にはまだ時間かかりそうですかね…?
謎の二人組に連れ去られたメノウ。
気を失っていた彼女が次に目覚めたのは、監獄の中だった。
監獄とは言っても清潔感の無い牢獄では無い。
ベッドとトイレ、小さな机の置かれた個室のような場所だ。
でかい枕と薄い羽毛の毛布、机には酒瓶とそれに刺さった長い雑草と花。
「なんじゃあ、ここは」
そう言ってベッドから起き上がるメノウ。
先ほど受けた衝撃からか、身体中に鈍い痛みがする。
とはいえ十分我慢できる程度だが。
ふと気が付くと、今自分がローブを身に纏っていないことに気が付いた。
「ぬっ」
下着代わりの薄い肌着とスパッツのみ。
通りで妙に風通しがいいと感じたわけだ。
メノウがいつも身に纏っているローブは魔法具の一種だ。
誰かの手に渡り悪用されると困る代物。
取られてしまったのか…?
「う~ん…お!」
いつものローブは部屋の隅に軽くたたまれて置かれていた。
ひとまず胸を撫で下ろし安堵するメノウ。
とりあえずそれを身に纏い再びベッドの上に両手を広げながら座る。
勢いよく座ったためベッドが、どんっと音を鳴らした。
「さ~て、どうするかのぅ」
メノウが真っ先に思いついたのは『脱出』だ。
相手がまともな集団ではないことはわかる。
すぐにでも逃げるのがベストだ。
しかし…
「(今のワシは『何故か』魔法が使えんのじゃ…)」
王都ガランを出発してから、ここ数日間。
何故か魔法が使い辛くなっていた。
今のメノウの魔力は同年代の鍛えていない少女のそれ程度の能力にまで落ち込んでいた。
一応、基礎的な身体能力は衰えた訳でもない。
だが普段のメノウは魔力で自身の能力にブーストをかけている。
魔法が使えなくなった今、普段通りの戦いを行うのは不可能だろう。
「(魔力が体内で出口を求めてぐるぐるしておる)」
妙な具合で魔力を出すことが難しくなっているのだ。
身体の異変ではあるが病という訳でもない。
メノウ自身よくは分からないが、このままでいるわけにもいかない。
「ドアは…?」
見た目の割に強固なドアらしく今のメノウの体当たり程度ではどうにもならなかった。
ドアには小さな窓がついていて外が見えるようになっている。
外は単なる廊下、部屋のドアにはやはり鍵がかかっていた。
「電子ロックと錠前の二つか…」
単なる錠前程度であれば、メノウは適当な針金などで解除できる。
だが電子ロックと特殊な鍵の二重になっている。
これでは開けるのは難しい。
「ぬ~…」
ふと天井に目を移す。
空調ダクトがある。普段ならばジャンプで軽く届く高さだ。
そこに潜り込んで逃げることができるだろう。
しかし今の彼女では不可能。
「えい」
枕を投げてダクトにぶつけてみる。
ダクトのカバーが外れたが、だからと言ってどうにかできるわけも無い。
ベッドと机を動かして台にしても届かない高さだ。
やはり空調ダクトからの脱出は不可能だろう。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛^~」
ベッドの上で頭を押さえ悶絶するメノウ。
と、その時廊下の方から何者かが歩いてくる音がする。
床をける靴の音だ。
「お~いガキ、メシだぞ」
メノウをさらったあの東洋人の声だ。
それを聞いたメノウはふとあることを思いついた。
そしてそれを行動に移す。
一方、それを知らぬ東洋人の男は食事のトレーを投入口に入れようとする。
だが…
「ん、あのガキどこ行った!?」
ドアの小窓から部屋を覗く東洋人の男。
だが部屋の中にメノウの姿は無かった。
よく見ると空調ダクトのカバーが外されているのに気が付いた。
「あそこからか!?」
慌てて中に入り確認する。
近くには投げつけた枕が落ちている。
かがんでそれを拾おうとする男。
そこへ…
「ぬっ!」
「おっぶぇッ!?」
花瓶代わりに使われていた酒瓶、それを構えるメノウ。
そしてそれを思い切り男の頭に叩きつけた。
彼は奇声を上げながらその場に倒れ気を失った。
メノウは部屋の死角に隠れ、襲う機会をうかがっていたのだ。
単純すぎる作戦であり、ここまですんなり上手くいったことにメノウ自身も驚きを隠せない。
「こんなにあっさり上手くいくとは…しばらく寝ておれ!」
鍵などが入った小さな箱を男の手から奪うとメノウは部屋から飛び出した。
もしかしたら別の監視者がいるかもしれない。
気配を探りながら進んでいく。
少なくとも近くに人の気配はないようだ。
「…割と新しいビルだったんじゃな」
どうやらこの建物は比較的新しい建物らしい。
鉄筋コンクリート製のビル。
どうやら五階建てほどの小さなもののようだ。
とはいえ窓から覗く景色は荒地ばかり。
「…郊外の再開発地区か?」
ここがどこかは分からないが、新築のビルが荒地にポツンと建っているのはあまり見ない光景だ。
工事途中の再開発地区なのかもしれない。
もしそうだとするならば付近に民間人が住んでいる可能性は低い。
助けを呼ぶことはできそうにない。
しかし…
「車でも奪うかのぅ」
工事車両の一台でも奪えば脱出できるだろう。
ついでに他の車両のタイヤをパンクさせておけば追われることも無い。
ホバーボードの一枚でもあれば楽なのだが贅沢は言っていられない。
「よし、そうとなれば…」
早速下の階へと降りるメノウ。
もちろん見つからぬよう、細心の注意を払いながら。
この建物は五階建てのビル。
メノウは最上階の部屋に監禁されていた。
まずは四階。
「…誰もいないようじゃな」
四階は単なる物置のようだ。
人の気配はない。
続いて三階。
「誰かいるな…」
物陰に隠れつつフロア内を確認する。
半分は物置だが空いている空間は休憩エリアとして利用しているらしい。
そこには以前メノウをさらった巨漢が何者かと談笑していた。
テーブルに酒とつまみを、手元にはカードか何かを持っている。
さしずめ仲間内で賭け事か何かでもしているのだろう。
幸いメノウには気づいていない。
そのまま二階へと降りることに。
「お、ここは部屋が分かれているんじゃな」
最上階と同じく二階は複数の部屋に区切られていた。
恐らく本来は事務室として使用されるのだろう。
人の気配はないが、いくつかの部屋には使用した跡があった。
「…少し調べてみるか」
メノウは気になっていた。
なぜ自分がさらわれたのかを。
ショーナとの戦いを見る限り、単なる人さらいでは無いらしい。
もしかしたら魔王教団やウェスカー、大羽の組織の残党、または幽忠武の関係者かもしれない。
人が確実にいないであろう部屋に潜り込み、手掛かりになりそうなものを探す。
「何か無いか…?」
一瞬、電話や無線などが無いかとも考えたが探すのはやめた。
自分がどこにいるかも分からぬ今、仮に軍や警察に連絡したところで意味は無い。
ショーナに連絡を取ろうにも彼は通信端末を持っていない。
「んんん…」
何か所化部屋を探すも何も見つからない。
しかしつぎにメノウが入ったのは何やら手がかりがありそうな部屋だった。
大きなテーブルとホワイトボードが置かれた部屋。
どうやら作戦室のような部屋らしい。
ホワイトボードには殴り書きで書かれたメノウの誘拐計画。
そしてメンバーの名前。
「四人のメンバーと首領が一人…か」
メノウが思っていたよりもかなり小規模な組織のようだ。
全員で五人。
メノウが見たのは東洋人、巨漢、酒飲みの三人。
後二人は外出でもしているのだろうか…
「とりあえず、書いてあることは覚えておくかのう」
これ以上の情報は現段階では入手できない。
そう悟ったメノウはホワイトボードに書かれた内容を瞬間的に記憶。
そしてそのまま出口へと向かって走り出した。
「よし、このまま外へ…」
そう言って外へ飛び出すメノウ。
後は車を奪って脱出するのみ。
そしてショーナの元へ戻ればいい。
道は分からないがある程度はどうにかなるだろう。
メノウは楽観的にそう考えた。
しかし…
「ぐぅっ!?な、何もの…」
メノウの後頭部に鈍い痛みが広がる。
何かで殴られたような痛み。
それが広がると共に体の自由が利かなくなる。
「(誰じゃ…気配をまるで感じんかったぞ…)」
何者かに攻撃を受けた、それは理解できた。
だがそれ以上の頭が回らない。
言葉を発する暇も無く、その場に倒れるメノウ。
「ッ…」
意識はある。
だが身体だけが動かない。
「あ…くっ…」
身体に力を入れようとするも全く力が入らない。
そんなメノウの身体を一人の男が持ち上げた。
メノウの首根っこを掴み肩にかける。
「…子供の世話もできんのか。奴らは」
コート着たスキンヘッドの老人だった。
手には銃が握られていた。
このグリップでメノウを殴ったのだろう。
一見では分からぬが服の下にある身体の筋肉は老人のそれでは無かった。
全盛の若者のそれ、いやそれ以上かもしれない。
「まったく…あの『総統』が生きていた時代の同志たちが懐かしい…」
そうとだけ言うと、老人はメノウを建物の中へと連れ戻していった。




