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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第7章 幻影への鎮魂歌
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第百六十六話 幻影のファントムvs緑瑪瑙のメノウ(後編)

ゾッ帝原作者であるsyamuさんがどこへ向かってるのかもうわからない…

 

 討伐際の準決勝戦。

 ショーナとレオナの戦いはショーナが勝ち残った。

 不完全燃焼感の残る試合ではあったが。

 そして次の試合、ミサキとサイトウの試合が今、行われていた。


「お…おぐぁ…」


 何とかミサキ相手に数分間粘ったサイトウ。

 身体中に怪我を負いながらも必死でミサキに食らいついていく。

 だがやはり彼女には勝てなかった。


「う、うう…やっぱ勝てんわ…こいつには…」


「昔と同じだねー…私のかち!」


「ぐうぅ…」


 そう言ってその場に崩れ落ちるサイトウ。

 勝者はミサキ。

 決勝戦は彼女とショーナの戦いとなる。

 担架で運ばれるサイトウ。

 それ尻目にミサキが、待機室のショーナに対し大声で叫ぶ。


「ハァ…次がいよいよ決勝だよ…!…ハァ」


 試合後ということもあり息が荒れているのだろうか。

 肩で息をし汗を大量に流すミサキ。

 それを見た大会運営の係員が彼女に駆け寄る。


「は、はやく来なよショーナくん、決着付けッ…け…」


「大丈夫かい、少し医務室で様子を見たほうがいいんじゃないか」


「いい!は、はやく戦わせて!観客もさっさと入れてよ!」


 準決勝は公開せず、決勝は大々的に観客に公開することになっている。

 討伐際最後の試合と言うだけのことはある。

 ミサキの要望をうけ、少し早めに観客を会場に入れることに。

 決勝の試合も若干早めに行うこととなった。


「キミが不利になるだけじゃないのか?少し休んだ方が…」


「そんなのいいから早く!」


 先ほどから彼女の身体に奇妙な変化が訪れていた。

 息が荒れているのは疲れからなのでは無くそのせいだった。

 手は震え異常な寒気がする。

 係員に見られぬよう手を抑える。


「さっさとはじめないと…」


 ショーナも早く始めることには異存は無かった。

 むしろ少しでも早く決着がつけられることがうれしかった。

 会場に観客が入り、試合場の準備が完了した。

 試合場に立つミサキとショーナ。


「さぁ、決勝のはじまりだよ」


 自身の腕に刻まれた紋様をショーナに見せつけながら言うミサキ。

 黄色い幾何学模様の刺青。

 何も知らぬ者からすればそう見えるだろう。

 先ほどまではショーナもそれが何かは分からなかった。

 だが先ほどのメノウの無色理論(クリア・セオリー)を見て全てを察した。


「レオナもアレのせいで…」


 あれはレオナに刻まれてモノと同じモノ。

 異常な力を発動する代わりに精神を犯す。

 体にも重大な悪影響を残す。

 もともと悪人のミサキにその効果は薄いようだが。


「…ッ」


 無言で構えをとる二人。

 …それと共に試合が始まった。


「すぐに終わらせるよ!」


 ミサキが地を蹴りショーナに襲いかかった。

 速攻で勝負を決める気だ。

 それを避けず彼も同じく、ミサキの懐に潜り込む。

 そして…


「ずあッ!」


「ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!」


 彼の手刀でミサキの紋様をズタズタに引き裂いた。

 腕に正確に刻まれたその紋様。

 それは深く傷つけられた場合効果を発揮しなくなる。


「魔力が…私の…」


「やっぱり北アルガスタのアレと同じだったのか…」


 北アルガスタで以前戦った生ける屍。

 あれにも黄色い紋様が刻まれていた。

 メノウがそれを見て何か言っていたのをショーナは覚えていた。

 内容までは覚えていなかったが、恐らく紋様に関することだったのだろう。

 なぜそこで詳しく話を聞いておかなかったのか。

 

「あのときメノウにきいておけば…」


 もしあれが何なのか尋ねておけば…

 その考えが彼の脳内を駆け巡る。


「これでもうそれは使えないぞ」


「そんな…」


「あれが全部をおかしくした…」


「うわぁぁぁぁぁぁ!あんな紋様なんかなくても勝てるんだあぁぁぁぁぁぁ!」


「そうだみんなあれが…」


「私が勝つんだ!」


「あれが悪いんだ!」


 そう叫ぶ二人。


 一撃で勝負は決まった。

 ショーナがミサキの頭を掴み試合場に叩きつけた。

 紋様の効果が乱れガタガタになったミサキの身体。

 もはやショーナの攻撃をまともに受けることのできる力は残されていなかった。


「き、決まった!勝者は南アルガスタのショーナ選手!彼が今年の優勝者です」


 一瞬何が起こったのかわからず沈黙する観客。

 その直後、大会進行者が大声を上げ勝者の名を上げる。

 それとともに歓声に包まれる観客。


「そうだ、メノウッ…!」


「後ほど優勝者に…」


「すみません、一旦離れますよ!」


「え、あっ、ちょっと!?」


 そういい残し試合場から去るショーナ。

 外へ出てメノウが残した魔力の残照をたどる。

 どうやら街の外の郊外へと続いているらしい。


「いくぞアゲート!」


 馬止めにつないでいたアゲートの紐を解きその背に乗る。

 アゲートも主人であるショーナの異常を感じ取っていた。

 しかしそれと同時に理解していた。

 メノウの身を案じる彼のことを。

 何がショーナを突き動かすのか。

 ここで急がなければ取り返しのつかないことになる。

 そう考えていたからだった。

 と、その時…


「おいショーナ!」


「カツミさん!」


「よかった、追いついたぜ!」


 ショーナと合流したのはカツミとグラウ…

 いや、ツッツだった。


「カツミさんと…えッ…?」


「ツッツです。僕の名はツッツ!カツミさんとメノウさんの知り合いです」


 簡単に状況を説明するツッツ。

 あまり時間はかけていられない。

 とにかく急ぐ。

 はやく、速く。

 馬の脚力に並走しながらカツミはショーナに問う。


「メノウのところか?」


「はい」


「急いでください、二人とも!」


「ああ、わかった!」


「いくぞ、頼むぜアゲート!」


 そのショーナの声を聞きアゲ―とがさらに走るスピードを上げる。

 街の裏道を抜け王都の外へと駆け抜ける。

 だがそこに…


『ガウウゥ…』


『グウゥゥ…」


 複数体の小型獣型ハンターの群れ。

 先ほどカツミたちが仕留めたのとは別の個体たちのようだ。

 三人の行く手を阻むように周りを取り囲むハンターたち。

 ざっと二十体以上はいるだろうか。


「クッソ、またこいつらか…」


 悪態をつくカツミ。

 先ほどまで戦っていたハンターと別個体とはいえまた戦うことになるとは。

 苦戦する相手ではないが数が多いとやはり面倒だ。

 構えをとろうとするカツミ。

 だが馬から降りたショーナがその前に立つ。


「ここは俺が全部片付けます!二人は先へ!」


「…わかった!」


 この場を彼に任せ先を急ぐカツミとツッツ。

 数が多いとはいえ相手は小型獣型ハンター。

 苦戦はしないだろうが時間はかかるかもしれない。


「アゲートは僕が預かります」


「頼む、ツッツ!」


「ええ!」


「すぐに片づけて後を追う。数分もかからない!」


 その言葉を信じこの場を彼に任せる。

 ツッツの駆るアゲート、そしてカツミが小型獣型ハンターの群れを飛び越える。

 彼女たちを追おうとする小型獣型ハンターもいたがショーナがそれを止めた。

 そして小型獣型ハンターを次々と倒していった。


「あいつに任せてアタシたちは先へ行くぞ!」


「ええ!」


 そう言って草原を翔る二人。

 普段は静かな草原。

 だが今日は違う。

 やがて彼女たちが見た物は…


「これは…」


「うぅ…」


 絶句する二人。

 メノウとファントムの戦っている丘『だった』場所。

 二人の攻撃のせいで周囲一帯の植物は吹き飛び荒野と化していた。

 大地は抉れ醜く変形。

 メノウの使用した魔法の効力で炎が消えずにまだ燃え続けている。


「あ、あれを!」


 ツッツが指さしたその先。

 そこではファントムの攻撃に追い詰められたメノウがいた。

 魔力をギリギリまで使ってしまったメノウ。

 まだ充分に余力のあるファントム。

 持久戦に持ち込まれてしまったのだ。


「終わりだメノウ!」


「くッ…!」


「させない!」


 そこに割って入るツッツ。

 撃剣でファントムの手を射抜き、天生牙で攻撃を受け流す。

 その彼女の顔を見て驚きの声を上げるメノウ。


「ツッツ!?」


「メノウさん、大丈夫ですか!?」


「お、お前さん…」


 だがその二人を遮るようにファントムが攻撃を仕掛ける。

 彼の持つ剣から放たれる斬撃。


「二人とも始末してやる!」


「させるか!」


「なに!?」


「ツッツ!どうしても話したいことあるんだろ!?時間はアタシが稼ぐ!」


 病院に侵入した際、カツミはツッツの…

 いや、『グラウ・メートヒェン』という存在の本当の正体を聞いていた。

 それはグラウ=ツッツという簡単な話だけでは無い。

 もっと重大な秘密が隠されているのだ。


「邪魔するな女ぁ!」


「いや、邪魔させてもらう!絶対に!」


 強大な力を持つファントムに対し何とか食らいつくカツミ。

 得意のスピードを生かし彼を翻弄する。


「ツッツ、やはりお前さんじゃったか」


 以前からグラウの正体がツッツではないか…

 薄々ではあるが気づいてはいた。

 だがツッツは静かに顔を横に振った。


「メノウさん、お話が有ります…」



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