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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第1章 邪剣『夜』と孤独の黒騎士
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第十六話 南アルガスタの最も長い夜(後編)

某所の浜川先生の作品(と浜川先生本人)に対する考察を見ました。

背筋がゾットするくらいおぞましかったです。

漆黒のトバリが降り、既に空は黒く染まっていた。

この永遠に続くかと思われた夜もやがて終焉を迎えることとなる。

南アルガスタの最も長い夜が終わりを迎える…


「や、やめろ!」


「どっせい!」


メノウは抱えてきた黒騎士ガイヤの妹を思い切り床に叩きつけた。

鈍く、重い音が部屋の中に響き渡る。

あまりにも突然の出来事に、その場の皆が一瞬固まる。

…ただ一人、ヤクモを除いて。


「どうしたガイヤ?妙な顔をして?」


メノウが言う。

それを聞き、先ほどまで組み合っていたミーナを弾き飛ばすガイヤ。

彼女もメノウの行動に虚を突かれ、避けきれなかったのだ。

ガイヤはメノウを睨み付けると、妹の下へ向かおうと駆けだす。


「これを渡してほしいなら…くれてやるわ!」


そう叫ぶと、メノウは先ほど床に叩きつけたガイヤの妹を彼めがけて蹴り飛ばした。

それを慌てて受け止め、メノウに憎悪の目を向けるガイヤ。

妹の安否を確認しようと彼女の顔を見る。

だが…


「な、なんだ…『コレ』は…!?」


ガイヤの顔色が変わる。

メノウが蹴り飛ばした『モノ』…

それはガイヤの妹などでは無い。

ただの精巧に作られた『人形』だった。


「やはり気付いて無かったか…」


「どういう意味だ?」


「お前さんは妹の病気をこう言った。『全身の毛や肌が段々と白くなっていく奇病』と…」


「…それがどうした?」


「あッ!…それって!?」


それを聞いたショーナが叫んだ。

彼はこの病気に心当たりがあったのだ。


「知っておったか、ショーナ」


「その病気の名前は『白亜病』、致死率は99%、現代科学や魔法の類でも治せない不治の病だ」


「意外と物知りじゃの」


「あ、ああ。以前の旅の途中、偶然知ったんだ…」


この『白亜病』という病は極々一部の地域でしか発病しない病。

それゆえこの病気を知る者は、現代の荒廃したこの世ではほとんどいない。

ガイヤの言った通り、全身の毛や肌が段々と白くなっていく奇病だ。

対人感染はせず、現在の科学や魔法では治療は不可能。

そして、この病気を患った者の余命は…


「もって半年の命、普通は二、三か月といったところじゃな」


「ふ、ふざけるな…そんなこと信じられるわけ…」


「信じる信じないは勝手じゃ。だが恐らく、本物の妹はもう…」


残酷なほど冷酷に言い放つメノウ。

一方、ガイヤからは先ほどまでの覇気はすっかり失せている。

メノウの言うことを必死で頭の中で否定しようとする。

だが、彼女の言うことは全て辻褄が合っている。


「(そう言えば俺はここ最近直接会っていなかった…)」


会おうとするとエレクションに止められ、仕事を渡された。

またあるときは面会謝絶だと言われた。

そして彼が妹と最後に会ったのは発症から数か月後のとある日だった。

やはり妹は既に…


「軍閥長!将軍!どういうことか説明してもらおうか!」


ガイヤが二人に向かって叫ぶ。

剣を構え、答えなければ切るとでも言っているようだった。

それを見たマーク将軍が必死で弁明する。


「わ、私は何も知らん!すべて軍閥長が…」


「この南アルガスタの実質的No.2の男が何も知らない訳無いだろう!」


「いや、将軍は本当に何も知らないよ!」


ガイヤの声を遮るように、何者かの声が部屋中に轟く。

その声の主、それは忍装束に身を包んだアズサだった。

それを見たショーナが驚いた様子で叫んだ。


「わ!アズサか!?なんだその恰好!アレか?過激派宗教組織なのか!?」


「ちが~う!これはくノ一! 昼は店のお手伝い。夜はくノ一。なぁ~んてねっ」


そう言いながら軽く印を結ぶふりをするアズサ。

元々あの東洋街(オリエントタウン)に住む者達は『サムライ』や『ニンジャ』といった者達の末裔が多い。

彼女も実家が代々の隠密をしているのだ。


「ショーナくん達二人にはばれなかったけど、メノウちゃんには一発で見破られちゃった」


「そこの女ニンジャ!将軍は何も知らないとはどういうことだ、ビックリさせてくれるなぁ!?」


ガイヤがアズサに向かって威嚇するように吠える。

妹に対する思いが暴走し、もはや半ば正気を失いかけているガイヤ。

だがアズサはそれにも全く動じない。

幼いながらもその胆力は大したものだ。


「ガイヤさん、将軍もあなたと同じってこと」


「将軍が俺と…?」


「そ、それはどういう意味だ?」


ガイヤとマーク将軍の二人か同時に叫ぶ。

名君と言われ、民衆からも慕われていたニック公。

そのような男が、エレクションを次の軍閥長にするとはメノウにはどうしても考えられなかった。


「将軍、いえこの南アルガスタそのものを軍閥長であるエレクションは欺き続けていたのよ!」


この城に入る前、メノウは隠密であるアズサに『あること』を依頼した。

それは前軍閥長である『YK・ニック公』の身辺調査だった。

ニック公はあの屋敷に監禁され、エレクションに都合のいいように利用されているのではないか?

メノウはそう睨んだ。

もしそうであれば、彼を救い出しエレクションの呪縛から解き放って欲しい。

そうアズサに言ったのだ。

だが…


「メノウちゃんの予想は半分当たっていて半分はずれてたわ」


「お、それはどういう意味だい?」


アズサの言葉に目を丸くするメノウ。

てっきり自分の予想はほぼ当たっていたと思っていた。

だが、半分違うとはどういうことだろうか?


「ニック公は…既に死んでいたのよ」


「ば、馬鹿な!そんなこと…!」


アズサの証言を声を荒げて否定するマーク将軍。

だがここで、先ほどの彼女の言葉を思い出す。


将軍とガイヤが同じ…


妹を生きていると言われ続けていたガイヤ。

そして、ニック公が生きていると言われ続けていたマーク将軍。

あの言葉はそう言う意味だったのだ。

確かにマーク将軍も最近ニック公とは会っていない…


「ミイラ?って言うのかな、こういうの?」


そう言ってアズサは一枚の写真を取り出しマークに投げつけた。

写真に写っていたのは、ニック公の服を着たミイラ化した遺体。

彼と旧知の友であったマーク将軍たからこそ分かる。

この遺体はまさしくニック公本人…


「私が見たところ他殺では無かった。たぶん自然死ね」


恐らく、エレクションは父であるニック公が何らかの原因で死亡したのを目撃。

自分だけがそれを知っているのを利用し、彼の屋敷の周囲を都市開発区域とすることで人足を遠ざけた。

次の軍閥長にエレクションを任命するとの偽装文章と共に『YK・ニック公』の死を隠した。

マーク将軍とは代筆屋の手紙でやり取りをしていた。

…と言ったところだろう。


「ぐ、軍閥長!どういうことだ!ニック公は本当に…」


「だ、だでで…」


「説明できるわけ無いよね?ガイヤも将軍をも欺き、そして南アルガスタの民を全員欺いてきたなんて…」


それを聞き、マーク将軍が腰の剣を抜きエレクションに突きつける。

装飾用の剣で切れ味は低いが、殺傷能力は十分にある。

だがその分、受ける痛みも大きいだろう。


「ま、マーク!」


「気安く呼ぶな!」


もはや彼は、化けの皮を剥がされた裸のモグラおっさん。

この場に味方など誰一人としていない。

いや…


「や、ヤクモ!お前いくだで!」


唯一の味方とも言えるヤクモに救いを求めるエレクション。

床を這いつくばり、彼の下へと駆け寄る。

確かに彼はマーク将軍やガイヤとは違う立場の人間。

だが…


「自分でやれ」


「…へ?」


冷たく言い放つと、エレクションを足蹴にしヤクモはその場から消えた。

得意の縮地法を使ったのだろう。

全ての失態を晒したエレクションに愛想を尽かしたのだろうか。


「これでお前さん一人…じゃな?」


「テメーのせいでどれだけ苦労したと思ってるんだ…」


「アタシ達倒すために列車砲まで引っ張り出しやがって…」


メノウ、ショーナ、ミーナがエレクションを取り囲もうと彼に近づく。

だが、それを制止する者がいた。


…ガイヤだ。


俺にやらせてくれ、とでも言っているようだった。

剣をエレクションに向けてゆっくりと構える。

怒髪天を突くように彼の髪が逆立っているように見えた。


「黒騎士、とりあえず落ち着け!」


「俺の怒りは収まらん!」


そう叫ぶと、ガイヤは剣を思い切り振りかざした。

刃は空を切り、衝撃波となってその行く手を遮る物全てを切り裂く。

だが、ガイヤが切ったのはエレクションでは無い。


彼が切ったのはこの城そのもの。


エレクションの立っている場所からちょうど後ろが斬撃により切り裂かれた。

ガイヤ達のいる半分を残し、もう半分の城が音を立てて崩れていく。


「俺の怒り…妹の悲しみをその身に刻め!」


「だ…でぇ~!」


間抜けな断末魔、そして城の残骸と共に闇に消えていくエレクション。

全てを欺き、独裁を続けた男の哀れな末路だった。

あの一撃を喰らってはまず助からないだろう。


「お、終わったか…」


そう呟き、その場に座り込むショーナ。

これまで張りつめていた緊張の糸が一気に緩んだのだろう。

しかし、事はそう簡単では無かった。


「い、いかん!今の一撃で城全体が崩れ始めるぞ!」


マーク将軍が叫ぶ。

城の半分が崩れた事により、もう半分の残った城もバランスを崩し始めた。

このままでは残りの半分の城も崩壊する。

もってあと一時間と言ったところか。

城に残った兵士やスタッフなどに避難命令を出すマーク将軍。

残りの者達も急いで避難を始める。


「テリー、立てるか?」


「すまない将軍…」


「ガイヤ、お前は…」


先ほどの一撃を放った後、ガイヤはその場に呆然と立ち尽くしていた。

マークのその声を聞いたと同時に、彼の手から邪剣-夜-がゆっくりと抜け落ちる。

高い金属音が崩れゆく城の轟音をかき消すように響き渡った。

彼の身体からすべての力と生気が抜け、その場に崩れ落ちていく。


「が、ガイヤ!」


「お、おい!」


皆がガイヤに駆け寄る。


「邪剣-夜-の呪いか…」


邪剣-夜-は持つ者に強大な精神的負担をかける。

今まで彼は、それを妹への思いで無理矢理抑えてきた。

完全に制御してきたわけでは無いのだ。

エレクションの欺きを知ったことにより、これまで抑えてきた邪剣-夜-の呪いが一気に押し寄せてきたのだ。


「あ、ああ…」


「ワシが妹のこと…伝えない方がよかったか…?」


「いや…あんな奴に利用され続けるくらいなら…死んだ方がマシだ…」


そう言うと、ガイヤは抜き身だった邪剣-夜-を鞘に納めた。

良く見ると鞘には呪印のようなものが刻まれている。

鞘に収まっている間は安全ということか。

既に彼の眼からは光が無くなっている。

もうまともに眼も見えなくなっているのだろう。


「頼む…誰か…これを…」


「え、あ…ああ」


それを聞き、ショーナが邪剣-夜-を慎重に受け取る。

鞘から抜け無いよう慎重に。


「この剣を…封印…してくれ」


この剣は決して、二度と人の手に渡らせてはいけない。

もし何者かの手に渡れば大きな災いを引き起こす。

ガイヤはそう言った。


「こんな面倒なことを押し付けてすまないな…」


「いいよ!もう喋るな!」


「うぅ…」


ショーナの手を握り締めたまま、ガイヤの命は尽きた。


「…行こう」


ミーナのその言葉を聞き、彼の遺体を残し皆は部屋を後にした。

遺体を運んで外に脱出するのはもはや不可能。

この城が彼の墓標となった…


名前:ガイヤ 性別:男 歳:19歳

南アルガスタ四重臣最後の一人。

A基地(シェルマウンド城)の司令官。

邪剣-夜-を持つ、南アルガスタ最強の男。

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