第百六十話 偽りの決着 海を貫く戦巫女セイバー
原作ゾッ帝滅亡で草も枯れ果てた。
新しい小説は絶対見せてください、祐P先生。
一方その頃、海底油田にて。
激化するメノウとアスカの戦い。
そしてそれを一人、高台から眺めるアリス。
「彼らも来ればよかったのに。残念です」
戦いを眺めながら小声でつぶやくアリス。
この場に来なかった別の仲間たちのことを脳裏に浮かべながら。
もっとも、彼らの言い分としては、
『数年後の『紅月』の夜が本番』
『それまでは自分の力を磨きたい』
『裏方の工作活動に時間を掛けたいので最低限しか力を貸せない』
というのがある。
今回のアリスたちが計画した眷属集めは、魔王教団全体からすれば最優先事項ではないのだ。
逆に言えば眷属集め程度ならばアリス、アスカ、アルアの三人だけでも完遂できる、という見通しのうえでの作戦なのだが。
「せい!」
「ふっ」
メノウの手刀での突きを後ろに下がり避けるアスカ。
作業用の足場という不安定な場所ではあまり大ぶりな動きはできない。
そんな中でもこれほどの動きでの回避をして見せるとは、かなりの達人である証だろう。
「お返しだよ!」
回避と同時に懐からオートマチック銃を取り出し引き金を引く。
一度では無く、二度だ。
一発はメノウの肩へ狙いをつけ、もう一発は胸へ。
「そら!」
「ぬッ!?」
この足場では複雑な回避は難しい。
下手を打てば下のバラスト水の貯蔵エリアへと落下してしまう。
高低差もかなりあるが、単純に落ちれば上がるのはかなり難しいだろう。
「てあッ!」
回避は困難、だが受けるわけにはいかない。
硬質化を使い、そのまま受ける手もあるがここは違う手を使うことにした。
オートマチック銃から放たれた銃弾二発をそのままつかみとった。
「へえー、結構やるね」
「これくらいはできて当然じゃよ」
掴んだ銃弾を握り潰し、その場に投げ捨てる。
さらにここから一転攻勢。
出来る限り距離を詰め、攻撃を加え続けるメノウ。
距離を取られれば先ほどの様にオートマチック銃での攻撃や魔法での攻撃をされかねない。
その隙を出来る限り与えず、速攻勝負を仕掛ける。
いつものメノウの必勝パターンの戦法だ。
「さあ、一気にいくぞ!」
足場を蹴り飛ばし、さらに速攻攻撃を仕掛ける。
それを避け続けるアスカだが、徐々にその動きが追いつかなくなってきている。
このまま攻め続ければ、攻撃が当たるのも時間の問題だろう。
「なかなか…速い攻撃じゃないかッ!」
「ふふふ」
「だけどねッ!」
一瞬の隙を突きオートマチック銃でメノウの首筋を狙うアスカ。
だがその動きは決して速いとは言えなかった。
数発の弾丸が放たれるも、それを軽く避けるメノウ。
しかしアスカの真の狙いは首筋では無い。
「下ががら空きさ!」
「おうぅッ!?」
メノウの立つ金属製の足場を蹴り、弾き飛ばすアスカ。
不安定な足場故に多少の揺らぎでも戦いの中では致命的。
「お、お前さんこれをねら…」
「ハハハ!落ちな落ちな!」
「うおっっっっ…なあぁぁぁッ!」
抵抗虚しく足場から落下するメノウ。
下は落ちれば上がることはほぼ不可能なバラスト水の貯蔵タンク。
まず、落ちれば集中攻撃を受け間違いなくやられる。
絶対に落ちるわけにはいかない。
「あまり使いたくはないが仕方がないのぅ…」
ここで落ちれば敗北は確定する。
そこでメノウはある魔法を使った。
それは以前のトウコとの戦いで使用した『飛行』の魔法だった。
「そうだった、キミは『飛行』の魔法が使えるんだったな。すっかり忘れてたよ」
「アスカちゃん忘れっぽいんだから」
「ハハハ…」
外野のアリスと談笑するアスカ。
そして『飛行』の魔法で復帰するメノウ。
だがこの『飛行』の魔法は魔力の効率が非常に悪い。
彼女がこの魔法を使いたくなかったのはそれが理由だ。
「どうじゃ戻ってきたぞぃ」
「そのまま落ちたほうが楽だったのに…」
そういって再びオートマチック銃を向けるアスカ。
弾丸は再装填されている。
先ほどメノウが落下した瞬間に弾を充填したのだろう。
「バカだなキミは!」
再びオートマチック銃を放つ。
今度は絶対はずさない、その絶対的な意思を込めて。
メノウも避けることはしなかった。
彼女がしたのは…
「それはどうかな!」
手すり代わりの鉄柱を引きちぎり、それでオートマチック銃の弾丸を受け止めた。
もし銃撃を無力化するならば『掴む』、『回避』そのどちらか。
そう考えていたアスカは少々驚きの表情を見せた。
だが…
「おぉ!そうやって防ぐとはね。でもさ…」
「なんじゃこれは!?」
着弾地点から魔力が広がり、鉄柱を侵食し始めた。
その様子は徐々に鉄柱が帯電していく様。
これはいけない、そう考えたメノウは咄嗟に鉄柱をアリスに投げつけた。
「ふッ」
攻撃をそらすアスカ。
だがそのせいでメノウが投げた鉄柱がアリスの方へと暴発。
しまった、と言わんばかりのメノウ。
だがアリスは直撃の直前で身体を軽く揺らしそれを回避した。
「もう~!もうすこしであたるところだったよ!」
「だってさ、気を付けろよメノウ」
「何でワシが気を付けなあかんのじゃ」
「さぁね」
そういって再び近接格闘の応酬にうつる二人。
徐々に押されていくメノウ。
出来る限り回避する彼女と、多少の攻撃を受けることに躊躇の無いアスカ。
その違いだ。
だが、メノウは妙に違和感を感じていた。
攻撃を受けるのに躊躇をしない、ということに。
「まさか…!」
「どうしたんだい?もう降参する?」
攻撃の最中、メノウは回避を辞めた。
避けるのでは無く、一歩踏み出した。
そして…
「決めるぞぃ! 戦巫女セイバー!」
「う、しまっ…がッ…ふッ…!」
メノウの鋭く素早い攻撃、戦巫女セイバーがアスカの心臓を貫いた。
胸を…その身体を完全に貫いたその一撃。
勝負は完全についた。
手刀が突き刺さったまま、手すりによりかかるように倒れるアスカ。
「あ~あ。アスカちゃんやられちゃった」
そういって高台から飛び降りるアリス。
仲間であるはずのアスカが目の前でやられた。
だが彼女は笑顔でメノウに歩み寄る。
「…」
「どーしたのメノウちゃん?嬉しくないのですか?」
「…」
アスカの身体に突き刺さった手刀を引き抜き、その勢いのままアリスを切り裂く。
それを受けた彼女は声を上げる間もなくその場に崩れ落ちた。
「なんじゃこれは…」
メノウはある違和感を感じていた。
戦いの最中で感じたそれは先ほどの一撃で確信へと変わった。
この戦いそのものが『偽り』ではないか、ということに。
「意外と気づくのが遅かったね」
手刀で息絶えたかのように思われたアスカ。
その口から聞こえた言葉。
「写し身か」
「まぁね。とは言っても可能な限り最高の力で戦ったんだけど」
「うぅ…」
「今回は君たちの勝ちにしておくよ。数年後、また会おうか。ハハハハ!」
そう言い残し、アスカの写し身は消滅した。
本物の彼女は
そしてアリスも…
「今回はちょっとうまくいかなかったのです…」
同じように消え始めるアリスの身体。
どうやら彼女も最初から写し身だったらしい。
消える直前のアリスの身体を捕まえメノウが問いかける。
「ま、待て!まだ消えるな!」
「本番は数年後だしぃ、今失敗しても別に…」
そういって今回の計画をペラペラと話すアリス。
もうこんな計画どうでもいい、そう言うかのように、あまりにもあっさりと。
「せめて聞かせてくれ!なぜファントムを蘇らせた!?」
「さぁ?アルアちゃんがやったから…」
「なに!アイツか!?」
「もういいでしょ。じゃーねー!」
そういってアリスの写し身も消えた。
今の喋り方からして、写し身を本体が遠隔操作で操っていたと考えるのが自然だろう。
煮え切らぬ不完全燃焼のまま、メノウはこの場を後にした。
この場で起きたことを上のカイトやジン達に伝えるために。
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油田の内部から出る一行。
もう内部には戦える敵は残っていない。
内部では意外と時間が経過していたらしく、既に日が落ちかけていた。
沈み行く夕陽を見ながら、怪我を負ったウェーダーとアズサを魔法で治療を施すメノウ。
そしてそれを眺めるカイト。
「便利だよな、魔法って」
「まぁの。…ほれ、とりあえずはこんなものでいいじゃろ」
「…すまないな、助かったよ」
「ありがとねメノウちゃん」
そう言うウェーダーとアズサ。
そしてそれぞれジンとカイトに軽く礼をする。
「カイトくん、あなたのことちょっと見直したわ」
「は?いままでどういう目で見てたんだよ」
「ふふふ。どうでもいいでしょ。ありがとうね」
「あ、ああ…」
一方、ルエラとジンは捕まえた敵兵たちを東アルガスタ軍へと引き渡していた。
ある程度敵を倒し終わったころに連絡を入れていたらしい。
ここは東アルガスタの海域、敵兵をしかるべき場所へと連れて行くのは彼らの仕事だ。
恐らくはゾット刑務所へ送られるのだろう。
「みなさん、お願いしますわ」
姫という立場で話しているだけあり、ルエラがいつもよりも威厳のある姿に見える。
遠くからそれを眺めながら、軽くカイトが鼻で笑っていた。
「姫からの直々の勅命、確かに受けました」
東アルガスタ軍の兵たちが敵兵たちを船に乗せていく。
それを眺めながら東アルガスタ海軍の中佐がルエラに言った。
「別の船を用意いたしました。これで陸地までお送りいたします」
「いえ、私達にはまだやることがあります。まだ行くわけにはいきません」
まだやるべきことは残っている。
王都へと戻り、やるべきことが…




