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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第7章 幻影への鎮魂歌
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第百五十七話 灰色の少女が語る真実 リトル・グレイ・ガールの正体

 

 魔王教団の紋様と同じパターンの呪詛が刻まれたグラウの身体。

 ローブを決して脱がなかったのは、これを隠していたからだったのだ。

 それを見たスートは、かつて自分に刻まれたあの紋様を思い出した。


「この紋様は…!」


「何かご存じで?」


「え、ええ」


 医師たちにはあまり深いことを話すわけにはいかない。

 後は自分でやっておく、終わったらもう一度呼ぶ。

 スートはそう言って医師たちを一旦解散させた。

 …病室のカーテンの陰に隠れたカツミを残して。


「これは間違いなく魔王教団の紋様と同じパターン…!」


 黄色い魔王教団のものとは異なり、グラウに刻まれている物は灰色。

 色こそ違うがパターンは同じ。


「ここで消してしまったほうが…」


 この紋様が危険なものであるということは、以前の経験から知っている。

 グラウの肌に手をかざし解呪の魔法の詠唱を始める。

 と、その時…


「なにッ!?」


「俺が、俺らが旅行…わたくし…我が家…!」


 スートがかざした手を突如掴むグラウ。

 どうやら既に気づいていたらしい。

 まだ意識が混濁しているのか、意味不明な言葉を呟きながら。

 一人称も安定していない。

 思わず後ずさりするスート。

 一瞬その眼がさざ波のように揺れた。


「まだ…消されるわけには…」


「やはり魔王教団の…!」


「ま、待ってくれ!スートさん」


 二人の間に、変装し隠れていたカツミが割って入った。

 突然の乱入者に驚く両者。 


「しかしこの紋様は魔王教団の!」


「だって…だってこいつはッ!」


 グラウ・メートヒェンの素顔。

 カツミにとって、とてもよく知った顔だったのだ。

 それは…


「あたしと…メノウの大切な友達なんだよ!」


「えっ…」


 いつもは灰色のローブで隠されていたその素顔。

 それを脱いだ今、それをはっきりと見ることができる。

 薄い灰色の髪…


「なぁ、そうだろ!『ツッツ』!」


 メノウは薄々その正体に気付いていた節があった。

 だがもしかしたら、という確証しかなかった。

 しかし今、それが確実となった。


「…知られたくは無かったんですよね」


 灰色の少女グラウ・メートヒェンの正体。

 それは数年前メノウやカツミと共に西谷東のアルガスタを旅した少女。

 ツッツツ・ツッツだった。

 かつての彼女とは違い、傷だらけになったその身体。

 この数年の間、行方知れずとなっていたと聞いていたが…


「大丈夫か、ツッツ?」


「身体がまだあまり動かないけど、意識は一応…」


 何があったかは分からないが、今の彼女が敵とは思えない。

 少なくとも影からメノウを支援していたという話は聞いている。

 敵であるならばそんなことはしないし、ミサキと戦い大怪我を追うことも無いだろう。


「それよりカツミさん、その恰好は?」


「これ?ははは、ちょっとな。ナース猟除駆系…」


「え?」


 潜り込む際に借りた女性看護師の服について尋ねられるカツミ。

 短い間ではあるものの、かつての様に談笑できたことに嬉しく思う二人。

 三ツ矢サイバービルで彼女を取り戻し、開陽の寺院で離脱するまでの僅かの時間ではあった。

 しかし、その時間の間は確かに二人は仲間だった。


「…スートさんでしたっけ?」


 そう言うと共に、ツッツが視線をスートに移す。

 まだ警戒の糸を緩めぬ彼に対し話しかけた。


「全て話します。僕に…いや、『僕たち』に何があったのかを…」


「…『僕たち』…?」


「はい…」


 そういってツッツは語り始めた。

 なぜ数年の間行方をくらませていたのか。

 その間、自分の身に何があったのかを…


「あの嶺塔活島での戦いの後、僕は半年ほど病院にいました」


 数年前、カツミはメノウと共に東アルガスタ四聖獣士、そして大羽と戦った。

 その戦いで負傷し、一行は東アルガスタの辺境の村の病院で療養していた。

 メノウは先に退院し北アルガスタへと旅に出た。

 後に残されたカツミとツッツはそのまま療養をしていた。


「ああ、あたしは覚えているよ、おまえがあたしにずっと謝ってきたこともな」


 先の戦いのことではいくら謝っても足りなかった。

 カツミにはずっと謝り続けていたツッツ。


「ヤマカワさんに拳法を教えてもらったこともですか?」


 ヤマカワはツッツに頼まれ開陽拳と玉衝拳の基礎的な技を教えた。

 戦う力が欲しい、とのことだった。

 しかしあまり上達はしなかった。


「そのあとツッツだけ先に退院したんだよな」


「はい。話したいのはその先からです…」


 退院した後、ツッツはメノウを追おうとした。

 嶺塔活島での戦いの際、敵の手に堕ち彼女の体と心を大きく傷つけてしまったこと。

 そのことを償いたくて。


「僕はすぐにメノウさんが向かった北アルガスタへ行きました」


 北に向かったというメノウを追ったツッツ。

 しかし漠然と『北』というだけではどこにいるかも分からない。

 当ても無く北アルガスタを数か月ほど彷徨った。


「その旅の間に様々な情報が入ってきました。その中には魔王教団に関するものも…」


「そこで知ったのか」


「ええ。怪しい集団が刑務所や盗賊団、反社会勢力から有力な者を引き抜いているって。風のうわさで…」


 メノウを探しつつ、その謎を追うことにしたツッツ。

 もしこの話を聞いたのがメノウやカツミなら絶対に止めるはず、そう思って。

 そしてそれ帆追う内に、ついにツッツはあるものを見つけた。

 それはかつての古戦場跡だった。

 古代の戦争があったと言われる場所だ。


「その時、古戦場の遺跡で僕は見たんです」


「何を?」


「魔王教団を…!」


「ッ!」


 古戦場跡に残る残留思念や魂、戦士の亡骸を使い兵士として使役する。

 そこにいたのはあの三人…


「銃を使うアスカ、人形遣いのアリス、魔導師のアルア…この三人の女の子が…」


「三人!?」


 アルアの魔法で紋様を刻み、アスカがそれを中継。

 それを受け取ったアリスの魔法で使役する。

 そう言った方法で次々とゾンビ兵を作り出していった。


「難しい魔法の話ばかりでわかり辛かったんですけど、これだけははっきりと理解できました。あの三人が『悪事を働こうとしている』ということが」


 その時のツッツには少し自信があった。

 あまり上達はしなかったとはいえ、ヤマカワから習った開陽と玉衝の技。

 そしてあまり好ましい物ではないが、ハーザットの改造によって底上げされた身体能力。

 並の人間よりは遥かに高い戦闘能力を有していたからだ。


「魔王教団の三人を止めるため、僕は戦いを挑みました。しかし…」


「…負けたのか」


「はい」


 予想よりも遥かにその三人は強かった。

 ツッツ一人ではとても太刀打ちできないほどに。

 あっという間にボロボロになり、ツッツはその場に打ち捨てられてしまった。

 銃弾を何発も受け、肉は引きちぎられ、その身を魔法炎で焼かれた。

 あとは死を待つだけ、というほどの怪我を受けていた。


「…この紋様はその時刻まれたものです」


 どうせ放っておいても死ぬくらいなら利用したほうがいい。

 紋様担当のアルアはそう考えたのだろう。

 死にかけのツッツに紋様を刻んだのだ。


「この紋様は二つの効果があります…」


 一つはただ単に人を操る、と言うもの。

 正確には人では無く、ある程度コントロールを受け付ける無機物や動物にも使える。

 以前スートやウェーダーが受けたものがこれだ。


「そしてもう一つ…」


 もう一つの効果。

 それは人の悪の心を増大させる、というもの。

 ミサキやラレッターが更なる悪事を働くようになったのもこれが原因だ。

 復讐心や欲望など、増大させ魔王教団の眷属として使役させる。


「僕が受けたのは前者ですね…」


 さらに両者に共通する効果として、刻まれた者の力を限界まで引き出す、という効果もある。

 ツッツが『グラウ・メートヒェン』として活動していた時のパワーの源はこの紋様によるものだ。

 ヤマカワの教えてもらった技とハーザットの改造、紋様による限界突破。

 これだけの強化を受ければ弱いわけが無い。


「ちょっと待ってください」


 その話にスートが割って入った。

 たしかに今の話でツッツが紋様を刻まれた、ということまでは分かった。

 だが肝心なことはまだ説明されていない。


「紋様を刻まれたのに何故あなたは操られていないのですか?」


「この紋様はどうやら人の心の弱みに付け込んで初めて発動するもののようです」


 逆に言えば弱みを持たないものであればその効果をはねのけることができる。

 強い心を持つ者であれば潜在能力を引き出す効果のみを使える。

 だがその時のツッツがそれほど強い心を持っていたわけではない。

 戦闘により精神が崩壊しかけていたのだ、普通に考えればそのまま操られしまう。

 しかし…


「その時、死にかけていた僕にあることが起こったんです」


 ツッツはその時自身に起こったことを全て話した。

 それは驚くべき内容だった。

 そしてそれは今すぐにでもメノウに伝えなければいけない内容だった。







名前:グラウ・メートヒェン 本名:ツッツツ・ツッツ

性別:女 歳:十四 一人称:私、僕

恰好:普段から灰色のローブを纏っているためよく分からない

武器:撃剣


小さな灰色の少女(リトル・グレイ・ガール)、グラウ・メートヒェン。

その正体はかつてメノウたちと共に旅をした少女ツッツだった。

メノウを捜し旅を続ける途中、魔王教団との戦いに身を投じる。

影から支援すべく、正体を隠して戦っていた。

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