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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第7章 幻影への鎮魂歌
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第百五十六話 ジンの勝利 そしてグラウ・メートヒェンの秘密…!

 

 海底油田の居住エリア。

 そこで待っていたのは、かつての西のアルガスタの支配者ジョーの部下として活動をしていた男。

 かつて『浜裂きジャック』の異名を持っていた殺人鬼…

 シーテッヤ・ラレッターだった。


「ヤツはかつて女子二十四人、男四人を惨殺した男だ」


「やべぇなシリアルキラーじゃん…」


「かつて西の支配者ジョーの元で暗殺者としても働いていた」


 ジンの話を聞き、ラレッターに対し凄まじい嫌悪感と忌避感を感じるウェーダー。

 かつて西アルガスタでそのような事件があった、と言うことは風のうわさで聞いたことがある。

 しかしその元凶となる人物と実際に対峙することになるとは露ほどにも思っていなかっただろう。


「通りで…攻撃が速いわけだ…」


 先ほどのククリナイフの一撃を受けてしまったウェーダー。

 肩から下腹部に渡る傷を手で押さえながらそう言った。

 銃弾を避けてなおあんな攻撃ができるとは思いもよらなかった。

 ジンが反撃をしたおかげでさらに攻撃を受けることは無かったが…


「アイツ…どこ行きやがった…?


「恐らくこのエリアのどこかに隠れているはず」


「ここは居住エリア。隠れるには最適ってか…」


 居住用の部屋が連なるこの階層。

 気配を殺し隠れてしまえば探すのは至難の業となる。

 ラレッターにとっては最高のバトルフィールドとなっているのだ。


「傷は大丈夫…ではなさそうか」


「いや、少し斬られただけだ。見た目ほどひどくは無いさ」


 持っていた布で血をふき取り、一部を包帯で巻く。

 攻撃時にギリギリで後ろに下がったため致命傷にはならずに済んだ。

 そのことだけは幸運と言えるだろう。


「どうするジンさんよ、二人で探すかい?」


「いや、奴の狙いはわたしのはず。放っておいてもそのうち現れるだろう」


「ならその時をねらって反撃を…うぐッ!」


 先ほどの傷を抑えるウェーダー。

 致命傷ではないとはいえ大怪我には変わりがない。

 出来る限り動かさない方がいいかもしれない。


「包帯だけじゃ…だめか…」


「休んでいた方が…」


「でもアイツがいるんだろ?」


「休むこともできんな」


「まさか俺が足手まといになっちまうなんてな…迷惑かけてすまない…」


「そんなことより今はヤツをどうにかする方が先決だ」


 とはいえ、ウェーダーをこのままにしておくわけにもいかない。

 幸いにもここは居住エリア。

 休める場所はいくらでもある。

 だが、最大の問題がヤツ…ラレッターだ。


「うぅッ…」


 包帯からさらに血が染み出してくる。

 先ほどのラレッターの攻撃は単に傷が浅いのではなかった。

 出血が多量になりかつ、苦しみが最大限になるように意図的に行われた攻撃だったのだ。

 後退してずらしたとはいえその傷は予想外の物だった。


「俺はどうでもいいからジンさん、先に…」


「いや、それはできないな」


 ウェーダーの肩をもち、彼を近くの部屋へと運ぶ。


「この国の人々を守るのが我らの役目。何があろうと見捨てることなどできん」


「け、けどよ…」


 ウェーダーが地面に垂れた自身の血を指さす。

 仮に隠れたとしてもこれでは自分たちの場所を教えているようなもの。


「これじゃあな…」


「いや、これは…!」


 その地面に流れた血を見てジンはあることを思いついたようだ。

 どうせ長期戦はできない。

 ウェーダーの傷もあるし、なによりカイトやメノウたちと合流して先に進まなければいけない。


「私たちはここにいる!早く来い、ラレッター!」


「お、おいジンさん!」


「先ほどの場所から少し動いただけだ。お前も時間はかけたくないだろう!?」


 ジンが大声で叫ぶ。

 相手であるラレッターは復讐のため、ジンの前に現れた。

 それならばこのまま自分たちを放置していく、と言うことは無いはずだ。

 呼び出せば現れる。

 …数年前もそうだった。


「もうすぐヤツはくる」


「あ、ああ…そりゃ来るだろうな」


「速攻で決着をつけたい。協力してくれ」


「ああ。わかった」


 二人がそう話して数分後。

 ジンの呼び声に答え、ラレッターはこちらにやってきた。


「どこだぁ…?隠れていないで出てこいよ」」


 ククリナイフを振り回しながら、ラレッターが辺りを見回す。

 とその時、彼は地面にできた血だまりを見つけた。

 先ほどのウェーダーの血痕だ。


「血かぁ」


 その血痕はとある部屋まで続いていた。

 なるほど、その部屋にいるのか。

 そうとでも言いたげにその部屋の前に立つ。

 そしてドアノブに手を伸ばす。


「ふッ!」


 それと同時に、ジンが対面の部屋のドアから飛び出しラレッターに斬りかかった。

 ウェーダーの血痕はおとり。

 そちらの部屋に気を向けるための。

 だが…


「やっばりな」


「なッ!?」


「これはおとりだろ?オミトオシなんだよ!」


 ククリナイフを叩きつけ、ジンの剣を弾き飛ばす。

 このままジンを始末し、奥にいるウェーダーを倒す。

 そう考えながらじわじわとその足を進めるラレッター。

 しかし…


「ふふ…」


「なにわら…ッ!うがああ!!」


 ラレッターの背中に突如激痛が走った。

 それは後ろから放たれた銃弾。

 ウェーダーの持つショットガンの弾丸だった。


「ジンさんが居たのがそっちの部屋、俺が居たのがこっちの部屋だったんだよ」


 ウェーダーのみをそのまま部屋に残し、対面の部屋にジンを配置。

 血痕をおとりに見せかけジンの部屋へと誘導。

 そしてラレッターがジンに攻撃を仕掛けるその瞬間に狙撃。

 これが二人の作戦だった。


「普通の方法では銃弾など当てられんからな」


「怪我人でも結構役立つだろ」


「ぐぅ…だがこの程度で…!」


 そう言いながら銃弾でボロボロになった服を脱ぎ棄てるラレッター。

 その肌にはあの魔王教団の紋様が刻まれていた。

 黄色の幾何学的なパターンが不気味なあの紋様。


「あの紋様!?」


「ハハハ!通常の数倍丈夫になったこの身体!これがある限り俺は負けな…」


「話はそこまでだ」


「うッ…」


「殺しはしない。話が聞きたいからな」


 先ほど飛ばされた剣を拾い上げたジンが、ラレッターにみねうちを放った。

 聞きたいことは山ほどある。

 ここで死なれる訳には行かない…




 --------------------


 一方その頃、王都ガランでは…

 メノウからの依頼を受け、病院でグラウについての調査をすることになったカツミ。

 丁度入院していたミーナの力を借り、うまく内部へ侵入することができた。


「なるほど、考えたねカッちゃん」


「まぁな」


 グラウの正体を確かめてほしい、とのメノウからの依頼。

 それを受け、病院内をグラウに会うため進むミーナとカツミの二人。

 そしてミサキとの戦いで身体、精神的に大きな傷を負ったグラウ。

 彼女とはまだ面会謝絶中であり会うことはできなかった。


「この格好なら病院内うろついていても目立たないからな」


 更衣室で拝借した女性看護師の制服。

 それを着てうまく誤魔化そうというのだ。

 怪我人であるミーナと一緒にいれば、付添いの看護師と見られ特別視はされない。


「髪を纏めて帽子かぶればもうわかんねーだろ」


「うん、バッチリ!」


「またそれ?一体何なの?」


「部屋はあっちの病棟の最上階の角…」


「あれ、無視された?」


 グラウの病室は病棟の最上階の角。

 先ほど受付で聞くことができた数少ない情報だった。

 と、その時…


「ん、アレは…」


「確か魔術師の…スートって言ったっけ?」


「ああ」


 物陰に隠れる二人。

 その視線の先にいたのはスートだった。

 周りにはこの病院の医師たちと看護師が十数名。

 ミーナが聞き耳を立て彼らの話を聞く。


「聞こえるのか?この距離で」


「まぁね。耳の良さには自信あるから」


 物陰から彼らの話を聞きとるミーナ。

 どうやらスートはグラウのことで医師に呼ばれたらしい。

 代表の医師がスートと会話をしている。


「患者に謎の魔術痕が?」


「はい。かなり複雑なものらしくこの病院ではどうしていいか…」


「それで私に見てほしいと…?」


「はい、高等魔術師のスートさんだけが頼りです」


 急ぎ気味でグラウの病室へと入っていくスート。

 それを追うように医師たちも病室へ入っていく。


「今なら紛れ込める…!」


「あ、ちょっとカッちゃん!」


 入っていく医師たちに紛れ、看護師の服を着たカツミも入っていく。

 元々気配を殺すことが得意なカツミ。

 そして大きな病院故に、別の担当の医師同士が顔をあまり把握していない。

 そこに救われた。

 後ろからカツミが紛れてもそれに気づく者は一人もいなかった

 この場の医師で一番偉いであろう代表の医師ですら。


「この患者です」


 医師がベッドに寝ているグラウの前に立つ。

 普段は黒いローブを纏っているグラウ。

 しかしさすがに今回だけは治療のためか脱いでいるようだった。


「よく見えないな…」


 カツミのいる場所からはグラウの様子がよくは見えない。

 しかしとりあえず、今は寝ていること。

 そして上半身と左腕、右足の一部に包帯を巻いているということは分かった。

 何とか彼女の様子を見るため、カツミは横へとまわる。


「スートさん、患者のこの部位に…」


 そういって医師が、グラウの左腕の包帯を外していく。

 包帯で隠されていたのは怪我の跡などでは無かった。

 そこにあったのは…


「こ、これは…!」


 包帯の下に合ったもの、それは右上半身に大きく刻まれたモノ…

 あの魔王教団の紋様と同じパターンの紋様だった。

 いままで黒いローブを決して脱がなかったのは、これを隠していたからだったのだ。

 そしてその素顔は…


「(…アイツの言った通り!お前はッ!)」


 グラウ・メートヒェンの素顔。

 カツミにとって、とてもよく知った顔だった。

 それは……



 それは…




シーテッヤ・ラレッター 性別:男 年齢:二十代

格好:黒シャツ黒髪の、骨が浮き出るほどに痩せ細った長身長髪の男

武器:ククリナイフ

数年前ジンと戦い敗北した殺人鬼。

ジョーの事件を解決したジンは、その後にその残党と交戦した。

港町キリカの浜辺で殺人を行う殺人鬼、『浜裂きジャック』との戦い。

これが俗にいう『トワイライト・キラー』事件である。


事件後はゾット刑務所に収監されていたが魔王教団の手引きにより脱獄。

ジンへの復讐のために彼の前に立ちはだかった。

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