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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第7章 幻影への鎮魂歌
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第百五十五話 カイト勝利 逆転の『意味ある鎖≪エミアル・チェーン≫』

 第一階層でカイトが遭遇した男…

 それはかつて彼が、『十三人目の海賊』事件で討伐した男、『キャプテン・シザー』だった。

 二メートルを超える傷だらけのその身体、錆びた金属のような赤茶けた長い髪。

 そしてボロボロの身体とは対照的に、精巧に造られ綺麗な銀色に輝くその左腕の義手。


「まったく、お行儀悪いぜ?」


 カイトは捨て台詞を吐き、速攻でオートマチック銃を撃つ。

 まともに相手をする気など更々ない、とでもいうかのように。

 一瞬で定めた狙いとはいえその弾丸は正確にシザーへと放たれていた。

 その銃弾は左腕の義手へと命中。

 しかし効果は無かった。


「効かんなぁ!」


「あーやべ、変なところに当たっちまったぜ」


 頭をポリポリと掻きながら言うカイト。

 シザーがそれを煽るも全く気に留めていない。

 だがそんな中、アズサはまた別のことを考えていた。


「あの紋様…!」


 シザーの義手に刻まれた紋様を見てアズサはかつての自分に掛けられた術のことを思い出した。

 その紋様を刻まれた者は暴走するほどの力を得る。

 しかしその精神は欲望のままに動くようになる。

 以前アズサは同様の術を掛けられ、精神が不安定になったところをつけこまれ敵の操り人形となってしまったことがあった。


「なんだよ、あのラクガキみたいなのがどうかしたのか?」


「気を付けて!あれは…」


「戦いの途中に喋ってんじゃねぇよ!」


 二人の会話を叩き斬るようなシザーの怒号。

 それと共に彼が己の持つ武器を取り攻撃を仕掛けてきた。

 彼が持つ武器、それは…


「あの巨大ハサミ!?それをあんなに軽々と!」


 驚きの声を上げつつ、何とか避けるアズサ。

 大量に積まれたコンテナの上へと跳び攻撃を避ける。


「あんなものを軽々と動かすなんて…!」


 二メートル以上はある拷問用の巨大ハサミ。

 彼がキャプテン・シザーと呼ばれる理由ともなっている必殺の武器。

 あちこち錆が来ているものの、その刃のみは新品のように輝きを放っている。

 切れ味は健在のようだ。


「またそれかよ、こりねぇな」


「うるせぇ!」


 シザーの追撃がカイトを襲う。

 しかし彼にとってこの攻撃は数年前に既に一度体験したもの。

 その攻撃パターンもある程度は把握している。


「簡単に避けられるぜ」


 攻撃を避け、距離をとる。

 そしてオートマチック銃でけん制しつつ剣で攻撃。

 これが数年前、シザーを倒した時の必勝パターンだった。


「これでさっさと終わらせられるな」


 …だがカイトがそう思ったその瞬間だった。

 予想もできない攻撃をシザーは放ってきた。


「死ねッ!」


「なッ!?義手が!」


「仕込み刃!?」


 大きなハサミにのみ気を取られ、義手の仕込み刃に気付くことができなかったのだ。

 以前シザーを倒した時と同じように上手くいく、そういう考えがカイトの中にはあったのかもしれない。

 しかし、それは間違いであった。


「うわ!」


 左肩を斬られるカイト。

 何とかギリギリで致命傷を避けることはできた。

 だがもしあと少し遅れていたら…


「昔の俺とは違うんだぜェ…!」


 シザーの言葉は偽りでは無い。

 そう感じるカイト。

 なんとか彼と一旦距離を取り、コンテナによりかかる。


「凄い迫力だぜ」


「カイトォ…!」


 恨みに満ちた形相でゆっくりとその足を進めるシザー。

 彼の眼光はカイトを確実にとらえている。

 その時…


「てや!」


「ぬおッ!これは…!?」


 それはアズサがまいた煙玉だった。

 この大倉庫には大量の遮蔽物となるコンテナがある。

 カイトを連れ租底に隠れ、いったん体勢を立て直そうというのだ。


「カイトくん、一旦下がって体勢を…」


「あ、ああ…」


「逃がすかあ!」


 煙幕の中、義手に仕込んだ銃を乱射するシザー。

 しかしその弾丸はカイトに命中することは無かった。

 煙幕が晴れるころには、カイトとアズサの姿は消えていた。


「チィッ!」


 舌打ちをするシザー。

 だがその後すぐに不気味な笑みを浮かべ、巨大ハサミを一旦おさめる。

 そして用意していた機関銃を構える。


「コイツでゆっくり狩りっていうのも悪くはねぇな…!」


 そう小声でつぶやくと、シザーは二人を探し始めた。

 そう遠くへは逃れられない。

 この大倉庫のどこかにいるのは確実なのだから。

 一方その頃二人は…


「助かったぜ」


「よ、よかった…ハァ…」


 乱雑に積まれたコンテナの山、そのうちの一つの中に隠れた二人。

 荒れた息を整え、改めて状況を確認する。


「ハァ…ハァ…しばらくは安全ね…」


「そうだな」


「…あいつ、魔王教団の紋様を…持っているみたいね」


「紋様?」


「は…話して…無かった…っけ?」


「ああ。聞いたことも無いぜ」


「じ、じゃあ説明するわね…」


 アズサはカイトに紋様のことを一通り説明した。

 特殊な強化能力があること。

 人間の凶暴性を上げることなど…


「クソッ!誰か何とかしやがれ!」


「まだ…そんなこと言ってるのッ!?」


 アズサがカイトの首元を掴む。

 だがその手はすぐに緩んだ。


「うっ…」


「お前、その腕…」


「うッ…さっきアイツの弾を受けちゃってね…」


 先ほどのシザーが放った銃の弾丸を数発、アズサはその左腕に受けていた。

 手拭いで止血をするも単なる応急処置でしかない。


「ね、ねぇカイトくん、治療魔法とか…使えないの?」


「つ、使えねぇよ…」


「そう…」


 何とか息を殺す二人。

 大倉庫内にはシザーの足音のみが響いている。

 そのまま数分の時が流れた。


「…ねぇカイトくん」


「痛むのか?傷」


「まぁね…でもそれより…」


 このまま待っても不利になるだけ。

 持久戦になればこちらが不利になる。

 シザーに対し短期決戦を仕掛けたい。

 …アズサはそういった。


「けど傷はどうなんだよ!すごい痛そうじゃねぇか」


「それくらい我慢できるわよ…こう見えても忍者の一員なんだから…」


「…わかった!」


 余り時間をかけることはできない。

 このまま待っていてもチャンスなど訪れない。

 そう考えながらアズサはシザーに攻撃を仕掛けた。


「てや!」


 シザーが通りかかったその瞬間、分銅鎖でシザーの義手の自由を奪うアズサ。

 長い鎖で撒かれるその義手。

 それと同時にその手に持っていた機関銃を叩き落すことに成功した。


「貴様ァッ!」


「全然忍んでないけど…ねッ!」


 コンテナの上から飛び降り、刀を構えるアズサ。

 その忍者刀の一閃がシザーの身体にぶち込まれる。

 切り裂かれる皮膚、あふれ出る血。

 だが…


「邪魔だ!」


 分銅鎖を引きちぎり、そのままアズサをコンテナへと叩きつけるシザー。

 彼女の忍者等の一撃など物ともしていない。

 不意打ちは失敗したのだ。

 隠れて追撃を加えようとしたカイト。

 だが思わずその足がすくんでしまう。

 だが…


「これは…アズサの…!」


 カイトの手に触れた物、それは先ほどアズサが使用した分銅鎖だった。

 長い鎖の先に重りとなる分銅がついた武器。

 シザーに向かってアズサが使用したものの、全く通用せず吹き飛ばされていたのだ。


「鎖…チェーン…!」


 カイトとアズサの力。

 全てを使っても今のシザーには通じなかった。

 だが二人に残された最後の攻撃、それは…


「お前のこれ、借りるぜ」


 アズサの分銅鎖に魔力を込めるカイト。

 ゆっくりと立ち上がり、シザーに気付かれぬように彼の元へと近づく。

 コンテナを遮蔽物として。


「ハハハハハ!このまま首の骨を折るかぁ!?それとも…ケケケケ!」


「がッ…あぁ…」


 シザーの義手で首を絞められ、宙吊りになるアズサ。

 先ほどの手に受けた銃撃により既に瀕死状態だった彼女だが、もう限界に近い。

 眼をきつく閉じ歯を食いしばり、何とかその意識を繋ぎとめようとする。

 一瞬でも気を抜けば間違いなく取り返しがつかないこととなる。

 彼女に対し死はすぐそこまで迫っていた。


「ペットとして飼ってやってもいいんだが、まぁここで死んでおくか!ハハハ!」


「うぅ…ッ!」


 ゆっくり、一歩ずつ、確実に。

 カイトがゆっくりとシザーの元へとその足を進める。

 すぐにでも飛び掛かり攻撃を仕掛けたい、その気持ちを殺しながら。

 もしこの攻撃が失敗すれば、確実にシザーは二人を殺す。

 そして下層に行き他の者達にも襲い掛かるだろう。


「(それだけはさせない!)」


 絶対的な強い意志を持ちながら、確実に倒せる距離を得るために足を進める。

 アズサの方に気が向いているのかシザーは全く気付くことも無い。

 そのまま分銅鎖に魔力を込めていく。


『パチッ…』


 込めきれなかった魔力の一部が火花となって飛び散った。

 ほんの少しのスパーク。

 しかしシザーはそれを聞き逃さなかった。


「なんだァ今のは?」


「気づかれた…!」


 アズサが小声でつぶやいた。

 シザーが近づいてきたカイトに気付いたのだ。

 攻撃対象をカイトへと変更、アズサを投げ捨て彼へと突進していく。


「そこにいたかァ!」


 ハサミを構え、カイトへと突進するシザー。

 その迫力の前にカイトは一歩も怯まなかった。

 今必要なのは怯むことでは無く、シザーを倒す攻撃を放つこと。

 自身の身体に残った魔力を最大限に込め放つ最上攻撃。

 それは…


「これで倒す、絶対に!」


「カイトォッ!!!」


「進め!『意味ある鎖(エミアル・チェーン)』!」


 自身の最高の魔力を込めて放った最後の攻撃。

 それがこの『意味ある鎖(エミアル・チェーン)』だった。

 単なる鎖では意味が無い。

 アズサの分銅鎖だからこそ意味がある。

 だから『意味ある鎖』という名前。


「ぐぅッ!だがこれくらい…」


「単なる鎖じゃないんだぜ…!」


 分銅鎖が深々とシザーの傷口にめり込む。

 先ほどのアズサが斬りつけた傷跡に。

 それと共に分銅に仕掛けられた仕掛けが作動する。


「なッ…グアァ!!」


 分銅に仕掛けられた仕掛け、それはカイトが仕掛けた策。

 自身の魔力をその中に封入。

 合図と共にそれが全て放出される、というものだった。

 シザーの身体に全く性質の違う魔力が無理矢理体内に流し込まれる。

 それは苦痛以外の何物でもない。


「ガッ…カキィィィィィ!!」


 身体の中のあらゆる場所を同時に引き裂かれるような激痛。

 それがシザーを貫いた。

 獣のような声を上げるシザー。

 だが…


「せめてお前だけでも…!」


 カイトを道連れにしようとするシザー。

 だがそれが成功することは無かった。

 彼の背中に鋭い刃物が突き刺さった。


「おせぇんだよ、ったく」


「はぁ…ハァ…」


 それはアズサが放ったクナイだった。

 その攻撃を受けたシザーは声にならないうめき声をあげ、その場に倒れた。


「とりあえず、危機は免れたな…」


「え、ええ…」


 その言葉と共にアズサもその場に崩れ落ちる。

 緊張の糸が一気に緩んだのだろう。


「少し…休ませてくれない?」


「ああ、いいぜ」


「そう。ありがとう…」





キャプテン・シザー 性別:男 年齢:四十代

格好: 錆びた金属のような赤茶けた長い髪

黒い古びたコートにボロボロの黒ずんだ赤いマント

武器:巨大な拷問用ハサミ


数年前カイトと戦い敗北した海賊の首領。

禁断の森での事件を解決したその後、カイトは友人と共に南の島に出かけたことがあった。

その時彼らはとある事件に巻き込まれた。

彼の乗っていた客船がシザーの率いる海賊に襲われた。

これが俗にいう『十三人目の海賊』事件である。


事件後はゾット刑務所に収監されていたが魔王教団の手引きにより脱獄。

カイトへの復讐のために彼の前に立ちはだかった。


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