第百五十四話 復讐の浜裂きジャック! ジン危うし
勃宿の浜部屋だけにトルネード直撃してほしい
カイトとアズサたちを大倉庫へ残し、さらに下層へと降りる一行。
ジンを先頭にメノウ、ウェーダーが続く。
階段を下り次の階層を目指す。
しかしそう楽に進めるというわけでも無いようだ。
「次から次へと…!」
「いっぱい出てくるぞぃ!」
ゾット帝国各地から集められたならず者たち。
それが兵士として襲いかかって来る。
侵入を拒むように。
「撃て撃て撃て!」
「これ以上奴らを進ませるな!」
下層から銃撃を繰り返す兵士たち。
物陰に隠れ何とかやり過ごすも攻撃の手は休まることは無い。
この狭い地形ゆえに兵士の数も少ないのが救いか。
見たところ五人程度のようだ。
「どけ!俺がやる!」
ゾット帝国から支給されたオートマチック銃を取り出し、それを構えるウェーダー。
単なるオートマチック銃では無く、彼専用に改造された特性仕様だ。
命中精度、威力、その他諸々の性能も全体的に底上げされている。
「チッ!そら!」
物陰から僅かに顔を出し狙いを定める。
相手の銃撃がわずかに止んだ瞬間を狙い、狙いを定め撃つ。
「うわッ!」
「ヌッ…!」
何人かが倒れたその隙を狙い、ジンとメノウが一気に本陣へ強襲をかける。
あっという間に銃撃をしていた兵士たちを沈黙させてしまった。
「こいつらいい銃使ってるな。一個貰ってくぜ」
倒れた兵士から銃と弾薬を抜き取るウェーダー。
この調子で同じような兵士のチームを何組か倒していった。
そして次の階層へとたどり着いた。
「ここか」
「居住エリアみたいだな」
「不気味じゃな」
居住用の部屋が並ぶエリアだ。
一見すると大きな病院のフロアにも見える。
と言うよりも、恐らくそのような作りを参考にしたのだろう。
このフロアも一応電気は通っているようだ。
「気を付けろ、二人とも」
「わかったぜジンさん」
「静かに行くぞぃ」
そういって居住エリアを進む三人。
このフロアには兵士は居ないようだ。
気配が感じられない。
一抹の違和感を感じつつも先へと進んでいく。
「あの先が下への階段だな」
「そうじゃな」
居住エリアの先に見えた階段。
それが下層へと向かう階段だ。
「メノウ…」
「…ウェーダー」
「先に行け!」
「うおッ!?」
その言葉と共にメノウを投げ飛ばすウェーダー。
それと共に居住区の部屋の一室の扉を破り、一行に攻撃を仕掛けてきた。
完全なる不意打ち。
ウェーダーのとっさの行動が無ければメノウも危なかったかもしれない。
「あの男は…!」
「知ってるのかジンさん?」
ジンはその襲いかかってきた男を知っていた。
骨が浮き出るほどに痩せ細った長身長髪のその男。
数年前、西アルガスタの港町キリカを震撼させた猟奇殺人鬼…
「浜裂きジャック…いや、『シーテッヤ・ラレッター』ッ!」
「ジン…!あの時のガキィ!」
「ヤツはかつて西のアルガスタの支配者ジョーの元で懐刀として仕えていた男だ」
数年前、西アルガスタでジンは圧政を強いていた支配者ジョーと戦い、それに勝利した。
その後にジンはジョーの組織の残党たちとも戦った。
それが連続殺人鬼『浜裂きジャック』こと『シーテッヤ・ラレッター』だった。
「ジョーの元で誘拐や拷問、暗殺を担当していたお前と、こんなところで会うとはな」
「お前のせいで俺の…そしてジョーの人生は滅茶苦茶になった!ここで死んでもらう!」
「不正を正しただけで滅茶苦茶になる人生とはいかがなものか…」
「黙れ!」
ククリナイフを取り出しジンに斬りかかるラレッター。
ウェーダーの銃撃を超人的反射速度で避け、距離を詰める。
「ジン!ウェーダー!」
「メノウ、お前は先に行け!」
「じゃが…」
「いいから行け!後で必ず追いつく!」
「う、うう…!」
「こんなやつ、すぐに片づける!」
「わ、わかった!」
そういってメノウは一人、下層へと降りて行った。
すぐに片づける、そう言った二人の言葉を信じて…
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丁度その頃、王都ガランにて。
時刻は昼前。
城下町は連日の復活祭でさらににぎわいが強まっていた。
そんな中で、メノウたちが居なくなったことに気が付いたショーナ。
「あ、カツミさん」
「よう、どうした」
メノウを探している中、城の近くでカツミと出会った。
彼女にメノウがどこへ行ったかを知らないか尋ねるショーナ。
「メノウか?あいつなら買い物に行くとか言ってたな」
「買い物ですか…?」
「ああ。どうしても欲しい物があるとかで朝早くに出て行ったんだ」
「そうですか。わかりました、ありがとうございます」
「ははは」
カツミは嘘をついた。
彼に心配はかけたくない、そう言ったメノウからの頼みだった。
もし本当のことを言えばショーナはメノウの元に駆けつけるだろう。
しかしあの激しい戦いに巻き込みたくはない。
メノウはそう考えていた。
その考えを尊重したから嘘をついた。
「ショーナ、お前明日の試合に出るんだろ?準決に」
「ええ」
「だったら今日はゆっくり休んでなよ。勝てばメノウも喜ぶぜ」
「そうですね。でもその前に軽く街を回ってきます。何かあるといけないので…」
「マジメだなぁ…」
「ハハァ…」
そういって街の方へ向かうショーナ。
一方のカツミはある場所へと向かった。
メノウに頼まれたある事を確かめるために。
彼女の向かった場所、それは…
「灰色のヤツがいる病院は…ここか」
ミサキとの戦いで不自然な傷を負ったグラウ。
彼女が運び込まれた病院だ。
以前レオナとの戦いで大怪我を負ったミーナが運び込まれた病院でもある。
「ミィのいる病院と同じだけど、別の病棟にいるのか」
大会での負傷者はこの病院で治療を受けることになっているらしい。
この王都ガランでもトップクラスの病院であり、その規模も大きい。
最新の設備が揃えられ、権力者や金持ちの多くも利用するという。
ミーナの見舞いに来た時とは別の入り口から中へと入る。
「やっぱりこういうところ苦手なんだよな…」
そう言いつつも中へと入るカツミ。
広く清潔な院内。
地方の小さな病院では見られぬような大勢の人々が待つ光景。
カツミが受けたのは『グラウが何者かを調べてほしい』と言うもの。
これがメノウの依頼だった。
昨日の怪我で入院しているため、なんとか調べられないかと言うのだ。
「とりあえず受付で聞いてみるか」
受付でグラウのことについて尋ねる。
だがまだ面会謝絶らしく合うことはでき無いという。
部屋の場所は一応聞くことができたが、医療関係者以外は立ち入れない区域だった。
「患者さんの怪我が大きいらしくて…しばらくは会えないと思います」
「あー…そうですかー…」
「ごめんなさいね」
そう言われ一旦引き下がるカツミ。
しかしこのまま帰る彼女では無い。
何とかして潜り込めないか、案を模索する。
しかしそのまま入ったら単なる不審者だ。
「う~ん…無理に入っても追い出されるだけだし…」」
病院内の休憩所に立ち寄り、どうにかならないかを考える。
グラウと共に何度か戦ったメノウ。
その様子から、グラウが『何者』かをメノウは察していた。
それを確かめてほしい、と言うのだ。
グラウが無理をしない内に、できる限り早く、と。
とその時…
「よっ!カッちゃん!」
「おわッ!ミィか!びっくりさせるなよ!」
「んふふふ」
カツミに声をかけたのは入院していたミーナだった。
たまたま休憩所を訪れたらカツミが居たので声をかけた、という訳だ。
「もう足は大丈夫なのか?」
「まだ駄目だけど杖を使えば少しくらいなら動けるよ」
「そうか…」
ミーナに対しカツミはメノウの依頼について話した。
グラウの正体を突き止めて欲しい、しかし彼女は面会謝絶中。
なんとかできないか…と。
「無理に会わなくてもいいんじゃない?」
「顔を見るだけでいいんだ。それでわかる」
「そうなの?」
「アイツの正体がメノウの言った通りなら…」
何やら意味深な発言をするカツミ。
グラウに関する情報を彼女はメノウから聞いていたのだ。
そしてそれを脳内でグラウ、そして記憶の中にある、とある人物に当てはめてみると…
「はい、バッチリ!って具合に」
「いや、何が?」
「…そうだ!いいこと思いついた!」
「なに?」
「グラウに会う方法だよ」
「え」
「ミィ、ちょっと協力してくれないか?」




