第百五十二話 決戦!海底油田の戦い
その夜は瞬く間に過ぎていった。
日が昇るその直前にメノウは目覚めた。
締め切ったカーテンから僅かに見える太陽の光。
「…もう朝か」
部屋のベッドから起き上がるメノウ。
昨日はショーナと共にねたことを覚えている。
横では彼が静かな寝息を立てながら寝ている。
疲れもあるのだろう。
ちょっとゆすった程度では起きない。
「ショーナ、行ってくるぞぃ」
彼は大会の準決勝以降が残っている。
これからの魔王教団の拠点の強襲に連れて行く訳には行かない。
また、ミサキやその他の眷属が暴れ出した場合に対する抑止力としても、彼には残ってもらわねばならない。
「スカーフ、借りるぞ」
彼が私服にアクセサリーとして付けていたスカーフを借り、戦いへと向かう。
直接的ではないにしろ、彼を身近で感じていたかった。
軽くシャワーを浴び、下着といつものローブ、ベールを身に纏う。
スカーフを右腕に巻く。
静かに部屋のドアを開けその場を後にした。
「城の裏手じゃったな」
城の裏でカイトとジンたちが待っている。
彼らと合流し、グラウの情報にあった本拠地へと向かうのだ。
方法は分からないが、何らかの移動手段があるのだろう。
通路を通りそこへと向かうメノウ。
「…行くのか?」
「カツミ!」
たまたま…なのかどうかは分からないが、そこにいたカツミと出会った。
まだ日が昇る前の早朝であるが、彼女は起きたばかりという訳ではなさそうだ。
「お前さんには何も話していなかったはずじゃが…」
「勘だよ、なんとなくわかるんだ」
「そうか」
「戦いに行くんだろ?強大な敵と…?」
「そうじゃ」
「ついて行った方がいいか、あたしも」
「…いや、ここに残ってもらいたい」
「ふふふ、そうか」
「…意外じゃな。お前さんなら無理にでもついてくるかと思ったが」
「他に行きたいってヤツが居たんでな。そいつらに譲るよ」
「他に…?」
「ああ」
そういってカツミが階段の方を指さす。
下へと降りる階段だ。
「こっちのことはあたし達にまかせろ。そっちは頼むぜ」
「おう…あ、そうじゃ」
メノウは何点かあることをカツミに頼み込んだ。
小声の耳打ちで伝える。
それを聞き黙ってカツミがうなずく。
「ああ、ちゃんとしておくよ。ヤマカワさんたちにもいっておくさ」
「…わかった。ありがとうな。カツミ!」
「いいさこれくらい」
「本当に、ありがとうな。カツミ…!」
「ああ。死ぬなよ、メノウ…」
以前も聞いたような言葉。
それをその身に受け進む。
城の階段を下り、裏口のドアを開けようとドアノブに手をかける。
と、その時…
「なにしてんだ?」
「アナタ達だけで行く気?」
そういってメノウに声をかけた二人。
タクミ・ウェーダーとアズサだった。
「あのガキ…カイトが話してるのを聞いてな」
「戦力は多い方がいいじゃない、私たちもついていくわ」
「じゃがこれから行くのは…」
「教団の拠点…でしょ?」
「それくらいわかってるさ。覚悟もできてる」
カツミが言っていたのはこの二人のことだったのだろう。
二人の目は本気だった。
連れて行かない、という訳にもいかない。
メノウは黙ってうなずいた。
そして二人を連れ、カイトたちの待つ場所へと向かった。
「来たか、メノウ」
「遅いぞ」
ジンとカイトの二人はすでに待っていたようだった。
しかしそれよりも驚いたことがある。
それは…
「これは…ドラゴンか!?」
二人と共にいたのは、全長三メートルほどのドラゴンだった。
それも一匹では無い。
三匹だ。
いずれのドラゴンも立派な竜具を装備している。
人に慣れているのか、こちらを警戒する様子は無かった。
「ど、ドラゴン…?」
「本当にいるんだ…おとぎ話にしか出てこないものかと…」
「あ、お前ら何してんだよ!」
ドラゴンに驚嘆の声を上げるアズサとウェーダー。
その二人に対しカイトが詰め寄る。
事情を説明し、同行の許可を彼から得た。
「足引っ張るなよな!」
「お前もな」
「なんだと酔っ払いヤロー!」
「半年以上前のこと引きずってんじゃねーよガキが!」
「ああッ!?」
早速口論になる二人を尻目にドラゴンを眺めるメノウとアズサ。
まさか現代の世にドラゴンがいるとは思いもしなかった。
ドラゴンは昔はいたとされているが、もう絶滅したものと言われていたのだ。
「す、すごい…」
「今の世でこのようなドラゴンを見れるなど思わなかったぞぃ…」
「うん…」
呆気にとられたようにドラゴンを眺める二人。
古来よりドラゴンは権力や武力…
つまり力の象徴とされてきた。
メノウもその力の一部を持っているが、やはり『本物』は違う。
と、そこに…
「当り前よ。ドラゴンは王家が密かに保護しているんだから!」
そう言う二人の前に、一人の少女が現れた。
頭は胸辺りのミディアム金髪で黒いリボンカチューシャ。
服は白いブラウスにフレアスカート。
脚は黒のハイソックスにスニーカー。太腿にベルトを巻いている。
黒いマントを羽織り右手に魔法杖を持っている。
魔法杖に嵌められた蒼の宝玉には王都ガランの王家の紋章が刻まれていた。
「ルビナか…いや違う…!」
「お、王女様!」
そういってその場に跪くアズサ。
その少女こそルビナ姫の妹であるもう一人のアルガスタ王女、『ルエラ』だった。
以前、何度かその姿を遠くから見たことはあった。
声も何度かは聞いた。
だが、こうして直接会うのは初めてだ。
「あたしもついていくわ」
「え、王女様が!?」
ルエラの言葉に驚きを隠せぬアズサ。
王族の、しかも王女がついてくるというのだ。
驚かぬ方がおかしいだろう。
しかし、彼女と普段近い位置にあるであろうカイトとジンは特に驚いたような表情は見せない。
「言ったら聞かないからなー、ルエラのヤツ」
「ちょっとカイト、あなた止めなさいよ!ジンさんも!」
さすがに王女であるルエラを戦いに繰り出すわけにはいかない。
なんとか止めようとアズサが叫ぶ。
だがカイトはそれを軽く笑い飛ばした。
「止める必要はねえよ」
「なんでよ」
「ルエラは数年前の『禁断の森事件』を解決したんだぜ。まぁほとんど俺がやったんだけど」
数年前、南アルガスタで起きた『禁断の森事件』をカイトと共に解決した少女。
それがルエラだった。
遺跡を探索していた敵の本陣へ乗り込み、捕縛されていた当時のカイトの仲間を救出。
その勢いのまま事件をカイト一行と共に解決したのだ。
一般には知られていない事件だが、カイトの言い方からするとかなりの活躍をしたのだろう。
「それに王家の人間の言葉以外、ドラゴンは言うことを聞かないの。あたしを連れて行かないと彼らは言うことを聞かないわ」
「けど王女様に何かあったら…」
「大丈夫。手間は取らせないわ。それに…」
バッと足のベルトに刺した銀の棒を抜き、一瞬でカイトの鼻先につきつける
あまりの速さにアズサも目で追えぬほどだった。
「カイトよりは役に立つと思うけど?」
「お、おろせよそれ!」
慌てながら言うカイト。
鼻で笑いながら銀の棒を下げる。
しかし話は決まった。
ルエラの指揮の元でなければドラゴンは動かない。
そして純粋な戦力としても期待ができる。
ルエラ、ジン、カイト、メノウ、ウェーダー、アズサ。
この六人で魔王教団の拠点の強襲を行う。
「さあみんな、行きましょう!」
三匹のドラゴンに二人ずつ乗る。
魔法で風防のバリアを張れば、その速度は飛行機をも超える。
レーダーなどでも探知されない。
こういった作戦にはドラゴンはまさに最高の役者といえる。
ルエラの指揮の元、三匹のドラゴンは飛び立った。
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ドラゴンの背に揺られながら飛行を続けること数時間。
一行は目的地へとたどり着いた。
かつての大戦時に造られた海上石油プラント。
ディオンハルコス鉱石に変わる代替エネルギーとして採掘されていた石油。
その採掘場である油田だ。
「ここ…?!」
「すごい大きい…」
それはまるで海上に浮かぶ都市。
海が一面に広がる中、そのたった一点にある人工物。
潮風に長年晒され続けたため、油田の鉄塔の錆が目立つ。
「敵はこちらに気付いていない。ゆっくり侵入しよう」
「そうじゃな」
ジンの指示に従い、ドラゴンを油田の上部にある開けた場所に着地させる。
恐らく航空機の発着場として使われていたのだろう。
結構な広さがあった。
だがその時…
「侵入者だ!」
「襲え襲え!」
床の鉄板が内部から剥がれ、その中から数人の兵士が飛び出す。
壁の鉄板、積まれたコンテナ、残骸の中…
様々なところに隠れていた魔王教団の兵士たち。
その数、約五十と言ったところか。
「き、気づいていないんじゃねぇのかよ!」
「たくさんいるじゃねェかよジンさん!」
兵士たちは気配を完全に殺し隠れていたのだ。
これではさすがのジンでも見つけることはできないだろう。
全員がオートマチック銃と軍用ナイフで武装している。
一人一人の戦闘能力は大したことは無さそうだが、さすがに数が多すぎる。
「ここはあたしとドラゴンたちが引き受けるわ!みんなは先に!」
ルエラが叫ぶ。
ドラゴンは三匹。
小型種とはいえそれぞれがかなりの戦闘能力を持っている。
「カイト…みんなを頼むわよ…!」
「ああ!俺を…みんなを信じろ!」
いまさら立ち止まるわけにはいかない。
ここはルエラとドラゴンたちに任せ、先へと進む。
「急げ!ルエラの思いを無駄にするな!」
「ええ!」
「行くぞ!」
油田内部に侵入する一行。
扉を開き油田の下を目指していく。
この油田は海底調査や居住区確保のために、下まで階層が続いている。
深さ五十メートル地点まではフロアが存在しているのだ。
その先に待つ者は…?
名前:ルエラ 性別:女 歳:14 一人称:あたし
恰好:頭は胸辺りのミディアム金髪で黒いリボンカチューシャ。
服は白いブラウスにフレアスカート。
脚は黒のハイソックスにスニーカー、黒いベルトを腿に巻いており銀色の棒を何本か指している。
キャラ説明:アルガスタ王女、ルビナ姫の妹。
男勝りで勝気な性格。カイトに助けられた時から、カイトに想いを寄せている。
腿の銀色の棒は状況に応じて様々な武器に姿を変えることができる魔法具である。
元々は姉であるルビナの武器だが、今回の強襲に使うため借り受けた。
自身も戦闘能力が高く、王家の飼うドラゴンを操ることができる。




