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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第7章 幻影への鎮魂歌
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第百四十八話 黒い奴ら

ゾッ帝原作者の裕P先生にアメリカのスラム街でブラックコーヒー飲んでほしい。

 メノウとファントムの会話。

 ミサキとグラウの試合。

 正午が過ぎ、夕方にもならぬ微妙な時間。

 それらが行われていた。


 …突然だが、話はまったく別の場所に移る。

 二人が接戦を繰り広げているその時だった。

 会場から少し離れた街外れの古い廃ビル。

 その一室で密会をしている者たちがいた。


「これが姫の招集した方々の資料になります」


「礼を言うよ、『ジン』くん」


「いえ、当然の仕事をしたまでです。『ウェスカー』閣下」


 密会をしていたのは帝国騎士団のジン。

 そして摂政のフィゼリス・ウェスカーだった。

 ジンから手渡された資料には、ルビナが今回の大会のために招集した者達のデータが事細かに書かれていた。

 参加者、大会運営側の人間。

 そしてカイトやメノウといった大会防衛の人材のデータなども…


「それと頼んでおいたものを…」


「ええ、こちらになります」


 ジンが取り出したのは、ある音声を記録したテープ。

 そこには、ルビナとルエラの二人の姫姉妹の会話が記録されていた。

 密偵を使い調べ上げた魔王教団に協力する者の動向。

 それを読み上げる密偵の話を聞く二人。

 その内容の一部が。


「ジン、キミは賢い男だ。単なる姫のお守り係かと思っていたが、世渡りの方法は知っているようだ」


「…強い方につくのがこの世の常ですから」


「いい答えだ。私と共に魔王教団側につけば、全てが終わった後にそれ相応の地位を約束しよう」


 ウェスカーは魔王教団と繋がりのある人物。

 以前のミサキの脱獄や教団メンバーの国内での行動の黙認など。

 これらも全て彼が手をまわしていたからだ。

 わざわざウェスカーが街外れの廃ビルでの密会を指定したのも、他の者には聞かれてはいけないという理由からだった。


「ありがとうございます」


「こちらも教団の資料を渡しておくよ。時間があれば読むといい」


 懐から小さな封筒を取り出し、それをジンに渡すウェスカー。


「おっと、そろそろ討伐際の会場に出向かねば。私はこれで失礼させてもらうよ」


「…では私は三十分ほど後に」


「ふふふ、同時にビルから出たら目撃者に怪しまれるからな」


 そうとだけ言い残すとウェスカーは廃ビルの一室を後にした。

 周囲に怪しまれぬよう、街の喧騒に紛れ込める服装に身を包んで。

 そしてそのビルの一室で待機するジン。

 と、そこに…


「話は終わった?」


「ええ、貴女がいることにも一切気づいてはいないようでした」


「そうですか…」


 そういって物陰から出てきたのは、先ほどのウェスカーとジンの会話にも出てきたあの人物。

 …ルビナ姫だった。

 普段の煌びやかなドレス姿では無く、黒い修道女の姿で。


「いくら彼でも魔法の使用までは見抜けませんでしたか…」


「姫の『後襖』(バックフスマ)の魔法、お見事でした」


 当然、ウェスカーも盗聴などには気を付けてはいた。

 だが、彼女は魔法の扱いにも長けている。

 魔法で気配を殺し、ウェスカーとジンの話を聞いていたのだった。

 『後襖』(バックフスマ)の魔法を使い慣れた高等魔術師でもない限り、この気配を殺したルビナ姫を見つけるのは難しいだろう。


「やはりウェスカーが魔王教団と繋がっていたのですね」


「ええ」


「できれば彼を疑いたくは無かったのですが…」


「魔王教団ほどの勢力を裏で動かせる地位の人間は限られてきます」


「王族やその血縁者を含めて三十余名ほど。それを除けば…」


「怪しむべきは二十名に絞られる」


「二十分の一の確立ね」


「そこまで絞ることが出来れば、総当たり調査でもそう時間はかかりませんでした」


 その二十名を独自に調査し、特に怪しかったのがウェスカーだった。

 そのウェスカーの動向を探るため、ジンは彼の懐へともぐりこんでいた。

 もちろんそのままでは信用はされない。

 ルビナとルエラと密偵の会話を録音したテープ。

 そして大会参加者の資料を土産に。


「密偵のテープは捏造した品…」


「参加者の資料も一部改竄をしておいたもの…」


 今回の二人の目的はウェスカーが敵と繋がりを持っているかを知る事。

 そのために重要な資料を渡すわけにはいかない。

 ジンが渡したのはどちらも捏造された品だった。

 …とはいえ、テープはともかく、参加者の資料が完全な捏造品ではすぐにばれてしまう。

 本物をベースに改竄した物を彼に渡したのだった。


「国の内部に魔王教団のメンバーが紛れていたのは分かっていましたが、まさかウェスカーがそうだったなんて…」


「教団の牙は我々の想像よりも深くに刺さっているのでしょう」


「ええ…」


 ビルの窓につけられた古びたカーテン。

 破れたその隙間から去って行くウェスカーを眺めるジン。

 裏通りの一本道を抜けた彼は、大通りの人混みの中へと消えていった。



 ----------------




 ところ変わって試合会場。

 ミーナとの試合が終わったレオナ。

 彼女は一人、待機室でうなだれていた。


「やりすぎって言われたけど…」


 先ほどの試合を振り返り、一人ぼそぼそと言葉を呟くレオナ。

 なにか身体の調子がおかしい。

 ここ数日の記憶も飛び飛びになっており、普通の状態では無いのは確実だった。

 しかしそんな状態でも『何故か』病院に行く、他の者に相談する、という選択肢は彼女には思い浮かばなかった。


「あの子たちにすすめられて入れたこのすぐに消えるヘナタトゥーだけど…」


 レオナの腕のバンテージの下に刻まれたタトゥー。

 数日前に刻んだ、すぐ消えるまじない用のヘナタトゥーだ。

 しかし描いてもらった時の記憶が曖昧になっていた。


「あの辺りから…記憶が…何か間違いを…?」


「そんなことないよ、貴女はまちがって無い」


 そんなレオナのもとに現れたのは、黒いとんがり帽子と黒ローブの少女。

 魔王教団所属の少女、アルアだった。

 以前の幽忠武との戦いの際に出会い親しくなったのだ。


「貴女は本気を出しただけ。やりすぎなんてことは無い」


「…そうね。そうそう。間違ってない」


「うん…」


 レオナの後ろからゆっくりと抱きつくアルア。

 アルアの方が背が低いのでつま先立ちで背伸びをした体勢になっていた。

 その状態でレオナの耳もとで小声で、ゆっくりとアルアが囁く。


「あのショーナって人が好きなんでしょ?」


「うん…」


「次の試合であの子と戦うんだよね?」


「うん…」


「私もあの人と『友達』になりたいなぁ…」


 羨望の眼差しでレオナを見つめるアルア。


「もう外で試合が始まってる…見に行こうよ」


「う、うん…でもちょっと気分が…」


「そこの窓からでもいいから。一緒に見ようよ」


 窓を覗く二人。

 そこでは既に二人の試合が始まっていた。

 灰色の少女グラウ・メートヒェン。

 そして人斬り狐、潮之ミサキの。

 

「にははははははは!」


「ッ…!」

 

 意外と均衡した勝負を続けるグラウとミサキ。

 先ほどのレオナとミーナの試合とは違い、一進一退の攻防が続く。

 互いに身軽さと素早い動きを戦術に組み込んだ戦いを得意としている。

 それを高台の屋根の上から眺めるファントム。

 そしてメノウ。

 

「おうメノウ、応援はしなくていいのか?大声でよ」

 

「…ああ」

 

「そうかいそうかい。冷たいヤツだ」

 

 そういって二人の試合に視線を戻すファントム。

 噛みタバコを口に放り込み、強く噛みしめる。


「ンッ…ンンッ!!」


「きたない」


「今の香葉は味が落ちた気がするな。苦みが強すぎる」


「そのへんに吐くんじゃな…吐くなといったじゃろ!」


「いいだろ別に」


 あっけらかんとした顔で言うファントム。

 改めてその様子を見ると、今の彼には殺気がまるでない。

 なるほど、ここで戦う気は全く無いらしい。


「ところでメノウ」


「なんじゃけ」


「この勝負、どっちが勝つと思うよ?」


 二人に差があるところと言えば、武器の有無だろう。

 ミサキは混を使うがグラウは素手。

 混を使いグラウの攻撃範囲外から突きを連続で放つミサキ。

 普通に考えればミサキの方が有利だが…


「灰色の…グラウじゃな」


「ほう、そう考えるか」


 メノウの言葉に軽くうなずくファントム。

 一方、戦っている当人たちは…

 

「はあッ!」


「え、ちょっ…うわ!」

 

 高速で動く混を掴みミサキごと投げ飛ばすグラウ。

 少女とは思えぬ怪力に観戦していた会場内の観客たちも驚きを隠せない。

 しかし一方でさらに会場内のボルテージは上がっていく。

 

「いいぞ二人ともー!」

 

「さっきの二人とは違っていい感じー!」

 

「がんばれー!」

 

 意外なことにミサキは掠め手などを使うことは無く、正々堂々とした戦いを続けていた。

 もちろんそれに対するグラウもそうだ。

 先ほどのレオナとミーナの凄惨な戦いとは打って変わってのクリーンな試合。

 それに観客は熱狂を取り戻していた。

 

「ほら見てみなよ!お客さんみんな喜んでるよー!」

 

「…そうか」

 

「さっきのレオナちゃんの試合酷かったからねー!あんな下品な戦い見てらんないしさー!」

 

 かつて予選にてヤマカワ相手に似たような戦いを仕掛けておきながら、そう言い放つミサキ。

 挑発の意味を込め、屋根の上から眺めるメノウに視線を移す。

 

「メノウちゃん、ファントムと一緒みたいだね」

 

「それがどうした」

 

「あの子から乗り換えたのかなぁ?」

 

「…ッ!」

 

 そのミサキの言葉に怒りを覚えたのか、地を蹴り一気にミサキとの距離を詰めるグラウ。

 懐への一撃…に見せかけさらに彼女の後ろをとる。

 余りの素早い動きにミサキも対応が半歩遅れた。


「はや…ッ?」

 

「ここからはお前の言う『下品な戦い』になるかもしれんぞ…!」

 

「へ…?」

 

 ミサキの首を掴み、一気に地面に組み伏せるグラウ。

 首の骨こそ折れてはいないが、突然の変調にミサキは目を見開く。

 

「ごへッ…」


「ここからは本気でいく!」



ファントムは噛みタバコ派です。

水タバコはよくわからないので嫌いらしいです。

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