第百四十四話 迫る黒い闇 勝利か敗北か、それとも…?
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本家ゾッ帝や別の外伝も含めてゾッ帝専用ブックマークを作ってみると面白いかもしれません。
昨日メノウたちが急襲を受けていたその時。
幽忠武との戦いで傷を受けた者たちは市街の病院で手当てを受けていた。
とはいえ、自然治癒力の高いメノウと自力で治せるスートはここには来ていない。
いるのはキィーカックとの戦いで傷を負ったレオナたちだ。
食堂での出来事の後、身支度を整えたメノウとショーナ。
二人は見舞いのためにこの病院を訪れていた。
「さすがにさっきの格好では出歩けんからのぅ」
「あれはヤベーよ」
さすがにメノウは朝のシャツとショートパンツの格好では無く、ちゃんとした服装をしていた。
私服の白いワンピースと帽子、ストールと金のバングル。
いつものローブとベールでは無いのは少し新鮮な感じがした。
「広い病院じゃなぁ」
「この国でも有数の病院らしいからな」
清潔感のある近代的な施設に充実した設備。
広々とした院内に多数の医師。
このゾット帝国でも一番…とまではいかないが、トップクラスの病院である事に間違いはない。
「レオナになんかフルーツでも買って行こうぜ」
「フルーツ…水菓子か!」
「せっかく見舞いに来たんだ、それくらいはしないとな」
病院に併設された売店で見舞いの差し入れ品を買うことに。
店頭に並べられたフルーツをいくつか見ていく。
「もも?りんご?何にする?」
「今日の夜か明日の朝に退院らしいから、あまり大きなものだと逆に迷惑だろうし…」
「そうか、じゃあこれはどうじゃ?」
メノウが指差したのは南アルガスタ特産のフルーツであるリップルだった。
ももとりんごの子どものような、小さなみずみずしい桃色の実。
「なんだこの果物?」
「そうか、お主は見たことないのか」
「小さなりんご?桃か?」
「これはリップルという果物じゃ」
「聞いたことないな…」
「フルーティで甘味と少し酸味があって美味い。栄養もあるからいいんじゃないか?」
「なるほど。じゃあ小さいから何個か纏めて買っていこうぜ」
「そうじゃな」
リップルの実を十個ほど購入しそれを見舞いの品として持っていくことにした二人。
それらを籠にいれ病室へと向かう。
「よっす!」
「見舞いに来たぞぃ」
「あ、ショーナくんにメノウちゃん」
病室にいたレオナが二人を迎えた。
身体に包帯を巻いてはいるものの元気そうだ。
肉体的には健康なのだが、精神的な疲労があった。
そのため、周りの勧めで一応病院で体を休めていたらしい。
万が一のことも考えて精密検査なども受けたらしいが、特に異常は無かったという。
「ほれ、これ見舞いの果物じゃ」
「わざわざそんな…ありがとう!」
「本当は花とかも持ってきたかったのじゃが…」
今日明日退院するならば邪魔になるだけ。
そう思い花は持ってこなかったのだ。
レオナも事情は察したらしく気にはしていないようだ。
「いいのよ、来てくれるだけでも嬉しいわ」
ふたりを奥に招くレオナ。
わたされた籠に入っている果物に改めて目をやる。
小さな桃かと思ったが、よく見たら違うものであることに気が付いた。
見たことも無い小さなみずみずしい桃色の実。
「なにこれ?桃かな?」
「リップルという南アルガスタのフルーツじゃ」
「へぇ、そうなんだ…」
「おう」
リップルを一つとり、皮をむいて口に入れるレオナ。
フルーティで甘味と少し酸味があって美味い。
癖になりそうな味だ。
さっぱりとしていていくらでも食べることが出来そうだった。
「えん、おいしい」
「なぁ、レオナ。明日の試合出るのか?」
「うん、一応ね。体もなんともないし」
「無理はするなよ」
「心配しなくても大丈夫よショーナくん。大丈夫だって!」
笑いながらそう言うレオナ。
ベッドの上に座り、横の第二貰ったリップルの残りを乗せる。
「そうか…?ならいいんだけど」
「心配し過ぎじゃショーナ」
「だってさ…」」
「まぁ、そこがお主らしいがな」
「ははは」
その後軽く雑談を続ける三人。
他愛のない会話や身の回りのこと。
以前の幽忠武との戦いのこと。
その他ちょっとした昔話に花を咲かせる。
「そうじゃなぁ~最初にショーナと会っときはのぉ~湖で溺れててのぉ~」
「湖で!?大丈夫だったのそれ」
「め、メノウ!そのことは…」
「それでワシが助けて…おっ、時間が…」
話に力が入り過ぎ、ついつい時間を忘れてしまっていた。
昼を過ぎ、時刻は既に二時。
昼食をとっていなかったということもあり、少し腹も減ってきた。
「メシでも食いにいこーぜ」
「そうじゃな」
「レオナも一緒に来るか?」
ショーナからの誘い。
レオナの本心は誘いに乗り一緒に行きたい。
しかし…
「う、ううん。私はいい…かな」
「どうしてじゃ?」
「ちょっと気分じゃなくて…」
「あんまり無理はするなよレオナ。じゃあ俺達で行ってくるよ」
「じゃあなレオナ、また明日な!」
「うん。バイバイ」
そう言って部屋を去るショーナとレオナ。
明日はショーナにも試合がある。
彼は彼で準備もあるのだろう。
もらったリップルを再び口に運びながら部屋のベッドに寝転がった。
「仲いいなぁ、あの二人…」
大会数日前のあの雨の日、ショーナと再会したあの日から…
いや、正確にはそのずっと前から。
王都ガランの学校で再会したその時から。
レオナはショーナに恋心を抱いていた。
なかなか言うことが出来なかったが、再会したあの時にその事を伝えようとした。
しかし…
「今のショーナくんはメノウちゃんのことが好き…」
二人を見た瞬間に一目でわかった。
あの二人がそういう関係にある事を。
はっきりと言っているわけではないが、あの態度や言葉遣いは間違いない。
相思相愛の仲。
「もっと早く、はっきりと言えていれば…」
今のあの二人に割って入ることなどできない。
できるわけが無い。
そう思うレオナ。
と、その時…
「レオナちゃーん!」
勢いよく病室の扉を開け叫ぶ少女。
魔王教団の少女、アリスだ。
彼女の仲間のアルアが入院しているため、見舞いに来ていたのだろう。
「アリスちゃん…」
「あれれ、どうしたの?悲しそうな顔して」
「ううん、なんでもない」
「そうなの…?」
明らかに嘘とわかる返事をされ、戸惑うアリス。
とその時…
「アリス、ここにいたの?」
「アルアちゃん。ほら、レオナちゃんなのです」
黒い寝間着と帽子をかぶった少女、アルア。
魔王教団の一員であるが、幽忠武に誘拐され投獄。
そのまま囚われていたのだ。
アリスとアスカによって他の人質と共に助け出されたが、幽忠武に対し何もできなかったのも事実。
一応彼女も入院していた。
大会には参加していないのでしばらくはいるつもりらしい。
「あ、あの時の…!」
「本当にありがとうございます」
「いえいえそんな…」
「少しお礼をしたいのですが…」
不気味な笑みを浮かべるアルア。
それを笑顔で見守るアリス。
「お礼…?」
「えぇ…少し…」
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一方、王都から少し離れた森林。
その中で明日の討伐祭の試合に向けて腕を磨く者がいた。
明日、レオナと当たる少女ミーナだ。
「うわッ!おっとっと…」
森林の中の開けた場所で複数の木人相手に多節混を当てていく。
攻撃により次々と吹き飛ぶ木人。
とはいえ多節混を展開はせず単なる棒として使用している。
試合では制限上、多節混は使用できない。
「いい感じだぜミィ!」
「ありがとカッちゃん!猫がんばるよ!」
「まぁでも、少し休憩しよーぜ。やり過ぎもよくないって」
「そうだね、カッちゃん。食事もしたいし…」
カツミも一緒だった。
ミーナの頼みで特訓の手伝いをしているらしい。
飛んで行った木人を拾い集め、再び地面に立てる。
それを横目に、カツミの言った通りに休憩するミーナ。
「カッちゃんはメノウ達の方いかないの?」
「アタシはショーナと話したことないし。それにミィと一緒にいた方がおもしろいしな」
ミーナに視線を向けながら言うカツミ。
自作の竹筒水筒を投げ渡す。
「それにあいつらは二人一緒にしておいた方がいいだろ?雰囲気的にさ」
「ふふふ、確かにね!」
「見ててもどかしいんだよ、なんかさ~」
「はははッ!」
「ははははは!」
ツボに入ったのか、互いに笑いあう二人。
さすがにあの二人の態度を見れば、周囲の者は大体察することが出来てしまう。
あの二人が互いに好意を抱いている、ということに。
「カッちゃんは何で大会に出なかったの?」
「え、あたしか?」
「強いんだからさ、出ればよかったのに」
「こういうの好きじゃないんだよ」
「そうなの?」
「ああ」
そう言ってもう一本の竹筒水筒を取り出し、水を飲むカツミ。
持ってきた団子と饅頭を昼食がわりに平らげる。
ミーナも同じく持ってきた団子と饅頭で食事をとる。
「それに義兄のヤマカワさんが出てたしな。負けてたけど」
「あの人ってカッちゃんのお兄さんだったんだ」
「血は繋がって無いけどね」
「そういえば、カッちゃんの家族って…?」
「実の家族は十年以上前に死んだよ。父さんと母さんがさ」
「…ごめん。変なこと聞いて」
謝るミーナ。
彼女が頭に巻いたリボンと腰の帯がしょんぼりと垂れ下がる。
しかしカツミは特に気にしていないようだ。
「いいよ別に。昔のことだし」
そう言って最後の饅頭を口に運ぶカツミ。
とはいえ、少しひっかかるところもあるようだ。
「でもさ、死んだっていうのは確認したわけじゃないんだ」
もしかしたら生きているかもしれない。
どんなに低い確率であろうとも。
絶対に死んだとは言いきれない。
「昔は親のことなんて考えなかったんだけどな…」
「おや…家族かぁ…」
「会えるなら会いてーけど、まぁ無理だろうなー」
最近になり、カツミは実の親のことを考えるようになった。
義父であるガウド・ミゴーや義兄のヤマカワでは無く、実の家族のことを。
「師父にも最近会ってねぇなぁ。ヤマカワさんと一緒に今度会いに行こう。土産でも持って」
「いろいろあったんだね…」
「ミィの家族は?」
「故郷に残してきた。たまにお金は送ってるけど、もう何年も帰ってないなぁ」
「大会終わったら会いに行けよ。親孝行はしとくもんだぜ」
「うん、そうするよ」
「そうした方かいいぜ」
「…優勝っていう土産でも持って行こうかな!」
いつの間にか別のゾッ帝二次創作の『鎖で世界を繋ぐ』が消滅していた…




