第百四十話 蒼穹に輝け、戦巫女セイバー!
奪還編も終わりです。
ちょっとやるつもりが、思ったよりも長かった…
トウコの使用した火炎攻撃。
それは第一階層でレービュが使用したものと同系統の魔法。
そしてその次に使った鞭術はテミータのものと同じ。
彼女はこれまでの五人の技をそのまま使用できるというのだ。
「これまでに戦った五人の戦士たちの技全部を使えるということか…!」
多彩な技が使える相手、というのは非常に戦いにくいものだ。
単純に考えてもそれぞれの技の対応に追われ、攻撃が後手にまわることとなってしまう。
とはいえ、メノウ側にも対抗策が無いわけでは無い。
「技のコピーならワシもできるが?」
メノウの能力の一つには、一度見た技の『コピー能力』がある。
一度見た者の技をそのまま会得する技だ。
「そら、これはレービュの技じゃ」
「あいつ私の飛行技を…!」
レービュの使用していた飛行魔法を写し取り、それをみせるメノウ。
数メートルほど浮き上がり、アクロバティックな動きを披露する。
単なるジャンプなどでは無い、空を舞う飛行魔法。
王族や高等魔術師など一部の者のみが使える珍しい技だ。
「おーいレービュ、この魔法に名前はあるのかのぅ?」
「名前?そんなものは無い」
「そうなのか?」
「ああ。私はただ単に『飛び』とか『飛行魔法』みたいによんでるが…」
「なんじゃ、つまらん」
そう言いながらゆっくりと着地するメノウ。
僅かに見ただけの技をコピーできる。
彼女の能力は確かに凄い物のように思える。
しかしトウコはそれを鋭い視線で睨み据える。
「使えるのはレービュの技だけではないぞぃ」
メノウの言うとおり、使用できる技は他にも多数ある。
写し取った技はカツミの斬撃波やミーナの棒術、ピアロプやスートの電脳融解など…
これらはコピーした後もその汎用性の高さから頻繁に使用している。
だが…
「ならば私に使ってみてください」
「なぬ?」
「レービュ、テミータ、カイ、ショーク、キィーカック、誰の技でも構いません。私にその写し取った技の攻撃を放ってください」
そうメノウに言い放つトウコ。
彼女は五人の技をすべて使える。
その技比べをしようというのか。
構えを取りメノウを挑発するトウコ。
「攻撃か…」
メノウも同じく構えを取る。
数秒の静寂と沈黙。
技を放つのか…?
張りつめた意図のような緊張感。
永劫の時の様にも思える数秒。
しかし…
「いや、使わん」
その言葉と共に構えを解くメノウ。
解くのは一瞬。
張りつめられた糸は切れた。
時の流れが正常に戻る。
「あら、どうして?」
同じく構えを解き、オーバーリアクション気味に言うトウコ。
だが彼女は何故メノウが技を放たなかったのか、その理由に気づいていた。
察していながらもあえてメノウに対してその答えを問う。
「…さすがに気付いているじゃろう」
「ふふふ…」
「しょせん借り物の攻撃技じゃからな…」
メノウのコピー能力により写し取られた技は本物の技の『劣化版』でしかない。
あくまで技そのものを真似るだけだ。
格闘技ならばその技の最適な使用方法や極め方、魔法ならば魔力倹約術やそこからの派生魔法など。
コピーした後も、その技を研究し続けメノウ自身が使用しやすいように『最適化』する必要があるのだ。
「ワシがあの五人の技を使って攻撃しても、お前さんには通用せんじゃろう」
「やってみなければ分からないわよ?」
あの五人の技を使わないのには他にも理由がある。
恐らくトウコは『殺気』を感じ取る力が非常に高いのだ。
「(メノウさん…!)」
「(なるほど…)」
スートの視線を読み、メノウはある程度理解した。
最初の炎の鞭による攻撃も、思い返してみると不自然な当たり方だった。
メノウの移動した先に、鞭があらかじめ移動していた要にも見えた。
恐らく殺気を感じ取って当てに来たのだろう。
「ワシもそこまでアホじゃないわ」
再び辺りを静寂が包み込む。
先ほどとは違う、息すらできぬほどの極限の緊張感。
たった一度の呼吸ですら『隙』となる二人の戦い。
トウコとメノウ、二人の勝負は恐らくこれ以上長引くことは無い。
決着は一瞬となるだろう。
だが、その『一瞬』が永い。
高度三千メートルに吹き荒れる疾風。
それすらも二人にはそよ風のようにしか感じない。
「ッ…」
「(どちらが先に動く…?)」
レービュとスート、二人の視線が勝負を見守る。
大勢の幽忠武兵士たちも、息を飲み見守る。
一切の物音すら立たない。
耳に入るのは風の音のみ。
「…」
「…」
一切その身を動かさず、対峙し続けるメノウとトウコ。
先に動くのが吉なのか。
沈黙こそ吉なのか。
いや、違う。
「てあッ!」
先に動いたのはメノウだった。
地を蹴り一気に距離を詰める。
いつもの彼女の戦術だった。
一瞬にしてトウコの懐へともぐりこむ。
ここからの腹部への攻撃、または後ろへ距離を取った相手への追撃。
これがメノウの攻撃の必勝戦法。
だが、トウコはそのパターンが通じる相手では無い。
「そう来たのね!」
この攻撃パターンに対するトウコの取った戦法。
それは『前』に出ることだった。
ただ前に出るわけでは無い、メノウの逆を行く。
つまりメノウの『後ろ』を取るのだ。
メノウの攻撃してくる右手とは逆に、彼女の左肩に手をのせるトウコ。
そこを支点とし一瞬で後ろへと移動する。
「あ、後ろ…ッ!?」
とはいえメノウ自身もこの攻撃が最初からうまくいくとは思ってもいない。
トウコがそんなに甘い人物では無いというのは、対峙した瞬間から理解していた。
何らかの対抗戦術を編み出し、反撃してくる。
そこまでは予想していた。
そしてどう反撃してくるかが重要だ。
「はッ!」
以前ショウ・カイが使用した剣術、それを手刀で再現して見せるトウコ。
単なる手刀では無く、魔力で形成したブレードを纏わせながら。
「ワシの戦巫女セイバー!?」
「珍しい技。おもしろい感覚ね」
「ぬぅっ…」
「ちょっと使わせてもらうわ」
レービュとの戦いで使用した戦巫女セイバー。
それをそのままコピーされてしまった。
単なるコピーでは無い。
ショウ・カイの剣技と合わせることにより、トウコのオリジナル技と化しているのだ。
「(戦巫女セイバーは魔力の消費が激しい技じゃ…)」
「(見た目通り、魔力効率の悪い技ね…)」
戦巫女セイバーは魔力を大量に消費する。
破壊力は絶大だが、その代償も大きいのだ。
つまりこの技を使ったが最後、短期決戦が望ましい。
「狙いは当然!」
トウコが一撃必殺の攻撃を放つべくコピーセイバーで斬りかかる。
当然メノウはそれを読んでいる。
メノウに魔法が通用しないとはいえ、コピーセイバーが纏う斬撃波はそのまま受けてしまう。
回避行動をとるしかない。
「ならばこっちもお返しじゃッ…!」
戦巫女セイバーを展開しようと右腕で構えを取るメノウ。
だが…
「ぬおッ!?」
「斬りかかるだけだと思って?」
斬りかかったら避けられる。
当然トウコ自身もそれは想像の範囲内。
そしてその後に来る反撃も。
メノウの殺気を読み、彼女の戦巫女セイバーの展開を予測。
それが絶対に当たらぬ死角へと移動する。
「しま…ッ!?」
慌てて戦巫女セイバーの展開を止めるメノウ。
このまま攻撃を続けても隙を生むだけ。
「拡散!」
コピーセイバーを魔力そのものに再変換。
目晦ましとして使用したのだ。
「これで…!」
だが、それが間違いだった。
ほんの少しトウコの心に『焦り』が生まれた。
いや、生まれてしまった。
それが彼女にほんの少しの隙を与えてしまったのだ。
「つッ…!」
限界まで研ぎ澄ました掌底の一撃。
それをトウコの頭部に放つメノウ。
破壊力では無い。
脳を揺らし気絶させるための技だ。
「殺気は読まれるからのぅ。こういう方法でしか攻撃できんかった…」
幽忠武最後の刺客『マイビ・トウコ』、それを倒したのは不思議の少女メノウだった。
約束通りアルガスタ公国時代に奪われたという賞品の数々を受け取ると、メノウとスートは地上へと戻って行った。
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数時間後…
幽忠武の飛行船団は、本拠地である北東の島へと戻るため移動を始めていた。
怪我人は全員治療室へと運ばれた。
そんな中、トウコとレービュは二人である話をしていた。
遥か地平の彼方を見つめながら。
「トウコさん、本当にこれでよかったのか」
「ええ、『あの人』の言ったことが真実ならば…」
「…真実なのかい?」
懐疑的な表情を見せるレービュ。
トウコの言う『あの人』の言葉と言うものが信頼に足りるものなのか。
レービュもそれを聞いてはいた。
しかし、それが俄かには信じがたいものだったのだ。
レービュ達が聞いたのはそれほど突拍子も無い、驚愕の話だった。
「こう見えても幽忠武の頭領、人の言葉の真贋くらい判断はできるのよ…」
「あの賞品、本当はアンタがジャリの頃に手に入れたものだろう?」
「まぁね」
「それを賭けてまで戦いを挑むなんてな」
「ふふふ…」
数十年前、まだトウコが少女だった頃…
あの賞品はその時に彼女が優勝して手に入れた物。
奪い取ったものなどではない。
その顔に刻まれた皺の一つ一つがそれを裏付ける。
自身の数倍の時を生きているトウコの言葉のその重さに圧倒されるレービュ。
「異世界『ユニフォン』は伝説上の存在では無かったのね…!」
「そしてそこから攻めてくるという『魔王教団』…」
「それにしても『あの人』にはおどろかせられたわ」
「まさか我らを『陽動作戦』に使うとは…」
・コピーセイバー
【使用者:マイビ・トウコ】
破壊力:B タイプ:切断
メノウの『戦巫女セイバー』のコピー技。
単なるコピーでは無く、ショウ・カイの剣術の動きを取り入れることで技としての完成度を数段あげている。
しかしその分攻撃性能は下がっている。
もしメノウの戦巫女セイバーと正面から斬り合った場合、力負けしてしまう可能性が高い。
トウコもそれに気づいていたのか、セイバー技同士の対決は避けていた。




