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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第6.5章 シャム奪還編!
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第百三十八話 最後の刺客!?

幽忠武編も残りわずかです。

 ロープの反動を利用しキィーカックの頭部に蹴りを叩きこんだレオナ。

 よろめきながらその場に倒れるキィーカック。

 上手く攻撃が当たったためか、立ち上がるってくる気配はない。


「お願い、これ以上は…」


 もしここで彼が立ち上がってきたらレオナに勝ち目はない。

 彼女の体力は限界を超えていた。

 気力だけでなんとか持っているような状態だ。


「もう立ち上がれんよ、あの男は」


 メノウが言った。

 キィーカックは完全に気を失っている。

 立ち上がってくることは無い。


「じゃあこの勝負は…」


「レオナ、お前さんの勝ちじゃよ」


「勝った…やった…」


 幽忠武との五回戦、その最後の戦いを制したのはレオナだった。

 この飛行要塞にのりこんでから、時間にしてみればまだ一時間も経っていない。

 しかし、体感時間的にはとても長く感じられた。


「はーッ…!はーッ…!」


 一気に力が抜け、その場に膝をつくレオナ。

 身体中に込めていた力が一気に抜けたのだ。

 それと共に押し殺していた『痛み』や『疲労』がどっと沸いて出てくる。


「痛ッ…!」


 なんとかつかんだ勝利とはいえ、試合には勝ったが身体はボロボロ。

 序盤は相手が油断していた、というのもあるだろう。

 メノウの手を借りリングから降りるレオナ。

 倒れたキィーカックも担架で運ばれていった。


「大丈夫か、レオナ?」


「うん。平気よ」


 そういうレオナだがやはり辛そうだ。


「無理はしない方がいいぞぃ。すぐに治療魔法を…」


「私は大丈夫。それより捕まった人達を…」


「じゃが…」


「こう見えても私、けっこう頑丈だから…」


 そう言ってリングを下りその場に座り込むレオナ。

 確かに勝利したのもは事実。

 残るは…


「さて、あとは人質を返してくれるかだが…」


「ふふふ…」


 戦いに勝ったとはいえ、約束がそのまま守られるかはまだわから無い。

 戦意を悟られぬよう周囲を警戒するアスカとアリス。

 いつでも戦闘態勢に移れるように。

 ここは敵地。

 しかも観客席にいるとはいえ周りを敵の兵士が囲んでいる。

 だが、その心配は無用のようだった。


「おめでとうございます。ゾット帝国の皆さん」


 その声と共に現れたのは、紅葉色の和服を着た鋭い目つきの妙齢の女性。

 整えられたその仕草、絹の様に美しく、長い髪。

 ここまでの戦いを勝ち抜いてきた五人を目の前にしても一切動じぬその胆力。

 ただゆっくりと歩いているだけなのだが、何故か途轍もない気迫を感じる。


「貴女は…?」


 スートがその女性に尋ねた。

 軽く会釈をし、その問いに淡々と答えていく。


「私は『蓮族(れんぞく)』の『毎日(まいび) トウコ』でございます。一応、この幽忠武のを預らせていただいている者です」


「貴女がこの組織のリーダー…?」


「厳密には違いますが、まぁそう考えていただいて構いません」


 そう言うと、人質のいる小屋の方へと目をやるトウコ。

 それを察知した兵士が人質を解放した。

 とはいえ、大半の者は小屋から出てこなかった。

 怯える者、疲れて寝てしまった者…


「人質は解放しました。地上へ送るための乗り物も今すぐ用意させます」


「…そうですか」


 そう言うと同時に、スートがメノウにアイコンタクトを送る。

 トウコが虚偽の内容を言っていないか。

 また、怪しい行動を取っていないか見てほしい、というものだ。

 彼女はこれまでの幽忠武メンバーと違ってある程度は話が通じそうな人物ではある。

 しかしだからと言って完全に信用できるかは未知数。

 やはり警戒は必要だ。


「少なくとも嘘は言っていないようじゃな」


「もちろんです。それと…」


 メノウとスートが問うこと話している間に、アリスたちは人質たちの方へと向かっていった。

 しかし大半はまだ小屋の中で怯えている。

 唯一出てきたのは、魔王教団に所属する少女アルアのみだった。

何故か一緒にいたはずのシャムはいなかった。

 用足しにでも言ったのだろうか…?

 真っ先にアリスとアスカの元へと駆け寄って行く。


「二人とも来てくれたんだ!」


「当然だろう?」


「何があってもアルアちゃん『だけ』は助けるって決めてたからねぇ」


 そう言う三人の元へと歩いていくレオナ。

 人質の中に一人だけ小さな子供がいると聞き、心配していたのだ。

 無事そうでほっと胸をなでおろす。


「よかった、無事みたいで」


「あなたは…?」


 一応、アルアはレオナのことを知って入る。

 しかしそれは『討伐祭の参加者』として知っているだけ。

 まさか一参加者に過ぎないレオナがここに来ているとは思いもしなかったのだろう。


「下のお祭り大会に参加してたレオナちゃん。助けるために協力してくれたんだよ」


「そうなんだ、ありがとう」


 そう言ってレオナに頭を下げるアルア。

 魔王教団がこのような態度をとるのはかなり珍しいことだ。

 とはいえ、レオナはそう言った事情は知らないのだが。


「ううん、当然のこと…」


 疲労からか、レオナはその言葉を言い切る前にその場に倒れこんでしまった。

 意識はハッキリとしている。

 だが、身体を動かすことが出来ない。


「大丈夫?」


「うん、ちょっと疲れてるのかな…」


 喋ることはできるが体に力が入らない。

 疲労と痛みのせいで身体が不調を起こしているのだろう。


「仕方が無いな、ほら」


「ごめんね」


「別に」


 そう言ってレオナに肩を貸すアスカ。



「もう用事は終わったし、このまま帰らせてもらうよ」


「メノウちゃんたちはどうするの~?」


 人質は幽忠武側の乗り物で地上に下ろされることになっているらしい。

 兵員輸送用の大型ヘリだ。

 アスカやアリスたちもそれに乗って地上に降りるようだ。

 一方メノウとスートは…


「それがちょっと、用事が出来てしまってのう」


「ええ…」


 そう言ってトウコと対峙する二人。

 なにやら訳ありのようらしい。

 アリスがそれに対しメノウに尋ねる。


「用事ってなに?」


「すまんが、ワシは後から戻ることにするよ」


「ふーん」


「来た時の飛行機で帰ることにするから」


「じゃあ先に帰ってていい?」


「いいぞぃ。それとレオナのことも頼む。下で治療を…」


「はーい!病院に連れていくね」


「ありがとうな」


「それくらい別にいいよ」


 そう言ってアリスたちは他の人質だった者達とともに地上へと戻って行った。

 ボロボロになったレオナも。

 不本意だが彼女のことはアリスたちに任せることにした。

 アリスたちは仲間であるアルアさえ救えれば良かった。

 ここに長居する意味も無いのだろう。


「さて、話の続きじゃが…」


 メノウとスートが残った理由。

 それはトウコが出したある『賭け』が理由だった。

 彼女はメノウたちにある物を提示した。

 それは…


「これは…!」


「スート、お前さんはこれが何かわかるのか?」


 トウコが提示した物、それは古びたトロフィーと槍だった。

 時間が経ち錆びたトロフィー。

 実戦用では無く観賞用として造られたであろう装飾過多気味な槍。

 ある程度の価値はありそうだが、メノウにはその真価が分からなかった。

 しかし、スートにはこれらが何を意味するものかが理解できた。


「数十年前の討伐祭の優勝者に贈呈されたという品々です…」


「そう。大戦前のアルガスタ公国で開かれた討伐祭の優勝者へ送られた賞品です」


「アルガスタ公国時代の…」


「まぁその翌年に大戦は悪化、アルガスタ公国は分離して無くなったわけですが…」


 アルガスタ公国は今のゾット帝国の前身となった国だ。

 数十年前の大戦で一時期、国が解散状態となった。

 その後、大戦が終了し十数年に今のゾット帝国が新たに誕生した。

 つまり、トウコが提示した賞品は『アルガスタ公国最後の優勝賞品』となるのだ。


「何故貴女がそれを…?」


「優勝者から奪い取った、と言ったら?」


「…ッ!」


「我らに奪い取られた賞品を奪い返せば名誉挽回になるということです」


「なるほど、そういうことか…」


「この品を賭けて、我々と最後の勝負をしていただきたい…!」


 

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