第十三話 ここがシェルマウンド 業人の巣食う街
浜川先生の小説が更新されなくて寂しいです。
南アルガスタ軍の猛攻に次ぐ猛攻。
メノウたちは陸戦部隊を次々退け、最後の切り札である列車砲の砲撃をも避けることに成功。
あの猛攻撃から数日が経った…
ヤクモの言った通り追手なども現れなかった。
メノウたちは列車砲直撃により『死亡』扱いとなったため、その時点で手配自体が解除されたらしい。
そのおかげもあり、メノウたち三人は意外と早くシェルマウンドに到着することができた。
「意外と早く着いたのぉ~」
「へへ、想定外だったな!」
ショーナが言った。
道中で出会ったB基地司令官のヤクモとも戦わずに済み、わずか数日でたどり着いたのだった。
シェルマウンドは南アルガスタ最大の街。
またゾット帝国内では『東アルガスタの港町』に次いで二番目に大きい港町でもある。
そのため、東アルガスタほどでは無いが他の国からの移民も比較的多い。
「おー、まるで別の国みたいじゃ!」
「本当だ、こんな大きな街見たことないぜ…」
シェルマウンドの街並みを見てはしゃぐメノウとは反対に、思わず圧倒されるショーナ。
多くの人が行きかう大通りや、レンガ造りの中世的な建物など今まで見たことも無い物ばかり。
一方でミーナは、司令官時代に何度かシェルマウンドに召喚されている。
そのためそれほど驚くものも無かった。
だがそんな彼女が、唯一気になる物が街の一角にあった。
それは…
「シェルマウンドの東洋街、何度見てもここは飽きないねぇ」
「おり…えん?」
聞き慣れない単語に戸惑うメノウ。
東洋街はこのシェルマウンドの街に作られた移民の街。
東の国から移り住んできた者達が暮らしているらしい。
木や紙で作られた建物が多く立ち並んでおり、ひときわ異彩を放っている。
「オリエント、つまり東方大陸からの移民が多いのさ」
「東かぁ~、いつか行ってみたいのぉ…」
「東ねぇ…」
そう言いながら、東洋街へと入っていく三人。
店が多く並び、喧騒と活気づいている。
道を行く人々は着物を着ている者が多く、それ以外を着ている者は少ない。
少し疎外感を覚えるショーナ。
だが、それとは反対にメノウは初めて見る東洋の文化に興味津々のようだ。
「この店は何じゃ?」
「オイオイ!それは!?」
メノウがとある店を指さす。
そこは少し妖しい雰囲気のある大人の店。
俗に言う『遊郭』というヤツだった。
「なぁ、ミーナ!この店…」
「知らなくていいよ!」
ミーナが叫ぶ。
ショーナも最初はその店が何かわからなかったが、その様子を見てなんとなくではあるが店の正体を察した。
…だがここで一つ気になることがあった。
周囲を改めて見回してみると、似たような店が多いことに気付く。
街を歩く者達も、よく見ると派手な格好の女とその連れの男といった組み合わせが多い。
遊女とその客、といったところだろう。
「なぁ、ミーナ。この辺りって…」
ショーナがそう言いかけたその時、道の曲がり角から何者かの叫び声が聞こえた。
空を切るような金切り声が辺りに響き渡る。
「なんだ!?」
一旦会話を後回しにし、その現場に向かう三人。
あの叫び声はただ事ではない。
事故か、事件か…?
その現場では、ガラの悪いならず者とそれに絡まれている少女がいた。
そしてその傍らにはならず者の男のツレらしき人物が倒れている。
「よくも俺のダチを!」
「はじめに絡んできたのはそっちでしょ!」
建材と思われる木の棒を片手に少女が言った。
恐らく先ほどの叫び声はあの倒れているならず者の男の声だろう。
どうやらこのならず者の二人組は、町で遊女の卵を探していたらしい。
この少女に声をかけたところ、それを断られ襲うも返り討ちにあった…といったところか。
「こ、このアマぁ! やりやがったな…!」
先ほどまで倒れていた男が起き上がり、鞘から刀を抜く。
さすがに少女は腰が抜けたのか、尻餅をついてしまう。
このままでは少々まずいことになる、そう思ったショーナは二人の前に少女を守るように立ちはだかった。
「おいおい、女の子一人相手にそうムキになるなよ」
「おい、ガキ。いいとこで邪魔するな! お前も斬られたいか!」
ならず者の男が苛立って刀をこちらに向け威嚇する。
だが…
「止めなきゃ撃つぞコラ」
以前、C基地で奪ったSMGを取り出し反対に脅しをかける。
この状況ならまず間違いなく、ならず者が切りかかる前にショーナがSMGを放つことができる。
勝算が無いことを理解したのか、ならず者たちは刀をゆっくりと納めその場を去って行った。
ショーナはその場で尻餅をついている少女の方に目をやり、手を伸ばす。
「もう大丈夫みたいだ。立てるか?」
「ありがと…いてて…」
足首を押さえ、唸る少女。
どうやら、尻餅をつく時に捻挫したらしい。
「しょうがねぇなぁ、おぶってやるよ」
ショーナは顔を少女に振り向け、背中を少女に向けた。
この少女の家がどこかは知らないが、格好からして東洋街の住人には違いない。
そう遠くでもないだろう。
「家どこだ?」
「あっちの方」
そう言いながら、少女の指さす方へ歩いて行くショーナ。
「アイツ、結構やるじゃん」
「さすが、ワシか見込んだヤツじゃのぉ^~おほぉ^~」
ミーナとメノウも二人の後を追った。
どうやら少女の家はそう遠くではないらしい。
道を少し進み、曲がり角を二つ三つ曲がるとすぐについた。
だがそこは…
「ここだよ」
少女が指差した場所、そこは遊郭だった。
さきほどメノウが見た遊郭ほど大きなものではないが。
思わずショーナが声を上げる。
「お前、遊女か…?」
「ちっが~う。あたいはただの手伝い!裏方のね!」
「あ、そっかぁ」
さすがに正面から子供が入っていくのはいろいろとマズイ。
少女に言われ裏口に回り、そこから店内に入っていった。
店内といっても、裏方の作業所兼寮のような場所だが。
住み込みで働いている者達のための部屋が何個かあり、そのうちの一室に案内される。
靴を脱ぐように言われ、言われるままに上がるメノウ達三人。
「さっきはありがとう、おかげで助かったよ」
そう言いながら、少女は茶と菓子をメノウ達三人に出した。
狭い部屋なので、座った姿勢でも少し動けば置いてある者に手が届く。
菓子はよくわからない東洋の物、茶は以前の飲み残しを温め直したものだ。
「そう言えば自己紹介まだだったね、あたいの名はアズサだよ」
「え~っと、俺たちは…」
「知ってるよ、ショーナくんにメノウちゃん、ミーナ元司令官でしょ?」
アズサがニヤリと不気味に笑いながら言う。
新手の追っ手、あるいは賞金稼ぎか?
手配が消えたとはいえ、まだそれを知らない者もいる。
武器を構えるミーナと、辺りを見回すショーナ。
だが…
「な~んて、ごめんね。別にあなた達をどうかしようってわけじゃないから安心して」
アズサは以前、この店に訪れたゾット帝国兵士からメノウたちの手配書を見せてもらったことがあるらしい。
もちろん、普通の手配書なら記憶にも残らない。
だが、自分と同じくらいの少年や少女が手配されている。
それも合計で300万キッボ近くの賞金を懸けられているということが特に印象深く記憶していたようだ。
「この街の住人は統治者の軍閥長に対してあんまり良く思ってないから、あなた達を売るようなことはしないよ」
「…この遊郭を建てたのも軍閥長の指示。違うか?」
メノウが言った。
この街シェルマウンドは元々は商業が盛んな移民の多い港町として有名だった。
軍港でもあるため、軍人や船乗り、漁師等も多く店を訪れ街は活気に溢れていた。
しかし、先代から今の軍閥長に変わってその状況は一変した。
「ヤツは、この街を自分の好きなように作り変えていったの…」
軍閥長が最初に作ったのは、自分に逆らった者を公開処刑するための『処刑場』だった。
数人が見せしめで殺され、恐怖政治が始まった。
逆らうものや文句を言うもの、自分を敬わなかったものを捕え、処刑していった。
その後、処刑された者達が持っていた財産や土地を没収しその場所に自分の好みの店や建物を建てた。
「軍閥長の恐ろしいのは、自分が『悪』であると自覚していないところさ」
その後、軍閥長はならず者をゾット帝国軍人として独断で雇い遊郭等の施設を作るために利用した。
人攫いなどに彼らを使ったのだ。
また、南アルガスタの各地方でもならず者を雇い各基地を設立させた。
そのせいで街にならず者が増え、シェルマウンドからは以前の活気は無くなってしまったというのだ。
思わず、着物をぎゅっと握りしめるアズサ。
「あたいは遊郭なんかで男の相手はしたく無い。裏方で働いてはいるけど…」
そう言い、しばらく沈黙が続く。
シェルマウンドの街の裏の顔を知り何とも言えない気分になるショーナ。
この活気に溢れた街にそのような秘密があるとは思いもしなかった。
「…でも、それさえ除けば嫌な街ってわけでもないよ」
先ほどはああいったが、シェルマウンド自体は決して悪い街ではない。
名所だってたくさんある。
できれば客人であるメノウに悪い印象は持たれたくはなかった。
そこでメノウの提案により、街を観光することになった。
幸い足の痛みも引いてきたため、アズサが案内をすることに。
手配は現時点で解除されているため、捕まる心配も無い。
「おーい、ショーナ達はどうする?」
「俺はいい、少し疲れたよ」
「アタシは何回か来たことあるし、パスだ」
二人は街の観光を断った。
ならばと、メノウとアズサは二人を残し出かけていった。
部屋に残された二人には土産を買ってくる、そう言い残して。
「遅くなる前に帰って来いよー」
「おう!」
暇つぶしに本でもないかとショーナは部屋を見回す。
だが、読めない言語の本しかなかった。
そこで、ふと彼は以前気になった『あること』をミーナに尋ねた。
「なぁ、ミーナ。以前のことで聞きたいことがあるんだけど…」
「なんだい?」
「…黒騎士ガイヤのことだよ」
以前、ミーナが話していたA基地隊長『黒騎士ガイヤ』。
ヤクモが来た後、いろいろとタイミングを逃してしまい結局詳しくは聞けなかった。
もしかしたらこれから出会うことになるかもしれないその男を、ショーナは知っておきたかった。
「ガイヤは軍閥長を守る南アルガスタ最強の男。命令を確実に遂行し、立ちはだかる敵を全て殲滅する…」
ミーナが部屋の窓から外を覗く。
この方向からなら、街の中心にある軍閥長の城が見えるのだ。
「アタシは以前、ガイヤと練習試合で戦ったことがある、あの城でね…」
彼女が城を指さす。
それはかつて、南アルガスタ四重臣が結成された当初のことだった。
それぞれの強さにおけるランク付けのため、四重臣の四人での練習試合が城で行われたことがあった。
軍閥長であるエレクションの見守る中、黒騎士ガイヤとミーナの戦いがはじめられようとしたのだが…
「アイツは他の三人を同時に相手するって言い出したんだ…」
「他の三人って言うとシヴァ、ミーナ、そしてヤクモか」
「ああ…」
黒騎士ガイヤ一人と対シヴァ、ミーナ、ヤクモの三人の戦いで練習試合は始められた。
彼は普段は黒い甲冑を纏い、その姿には似合わない東洋の刀を一振り下げている
だが、この時は練習試合。
甲冑を脱ぎ、木刀を刀代わりに握る。
ミーナもこの時はいつもの多節混ではなく、単なる訓練用の棒を使っていた。
彼女は多節混以外にも、一応棒術も使えるのだ。
「結果はどうだったんだよ?」
「…惨敗だよ」
練習試合が始まると同時に、ガイヤは一瞬でシヴァの胸元にまで間合いを取り彼を地面に叩きつけた。
そして、その勢いのままミーナに木刀を振りかざし、壁に叩きつける。
二人が再起不能となったところで、ヤクモは勝機が無いことを確信。
そのまま降参した。
「黒騎士ガイヤはゾット帝国騎士団に若くして所属していた…」
「あのゾット帝国騎士団に!?」
黒騎士ガイヤ、A基地司令官であり南アルガスタ最強の男。
その力はどれほどの物なのか…?
名前:アズサ 性別:女 歳:14
恰好:少し地味な色の着物を好んで着ている
シェルマウンドに住む少女。
剣の腕はなかなかだが、実戦経験は無い。
遊郭の裏方で住み込みで働いている。