第百三十五話 斧隷然屠 致憂鮮のキィー・カック
代理人にショック
カツドンとデスマッチして欲しい
次なる戦いの舞台は第四階層。
四人目の戦士と戦うこととなる。
つまり五階層の空中要塞に残る相手は二人だ。
第三階層から第四階層へと昇降用ホバーボードで移動する一行。
そんな中…
「貴女達、少しやりすぎです」
先ほどのアリスとアスカの二人の戦い。
確かにそれは攻撃的な戦いだった。
それを咎めるべくスートが彼女たちに言った。
「えぇ、そうかな?」
「人質がいるんだ、しょうがないだろう」
彼女たちは全く気にも留める様子も無い。
対戦相手をほぼ死亡寸前にまで追いやったにも関わらず。
魔王教団所属である彼女たちにとってはどうでもいいことなのだろう。
「逆に、逆にだ」
「なんですか」
「もし相手を殺さなければいけない状況になった時、キミはどうするんだい」
「そんな状況には絶対しないようにします」
「何十、何百と命を懸けて戦ってもかい?」
「…戦うという状況そのものを無くすと言っているんだ」
アスカの言葉に対し思わず声を荒げるスート。
しかしそれを見たアリスが軽い笑みを浮かべる。
スートの言葉を嘲笑うように。
「そんなの、単なるきれいごと」
「クッ…言っても分からないならそれでいい!」
怒りの声を上げるスート。
それ以上、彼はしゃべらなかった。
「あらら、怒っちゃった。ただちょっと戦っただけなのにこんなに怒られるなんて」
「まったく…アルアが捕まって無かったら来なかったよ。こんなところ」
「そうだよねぇ」
「アルアは僕たちとは『違う』からね…」
「ふふふ…」
怒るスートとは対照的に、楽しそうに笑うアリス。
そんな一連の様子を見ていたレオナがメノウに尋ねた。
あまり他の者に聞かれぬよう小声で。
「…メノウちゃんはどう思う?」
「あまり言いたくはないが、ワシはあの二人と同じ考えじゃ」
先ほどアスカの問いに対してもメノウはそう答えた。
今回のレオナの問いに対しても当然同じように答えた。
「じゃがのぅ…」
「なに?」
「できる限り殺しはしたくない。じゃから、がんばるのじゃ」
殺すということは嫌なモノだ。
例え相手がどのような者であったとしても、どんな大悪党だったとしても。
殺した後には特有の嫌な後味が残る。
「魔法を使って拘束したり、気を失わせたり…じゃ」
「なるほどね」
そう話しているうちに第四階層へとたどり着いた。
対戦相手のいる試合場へと足を運ぶ。
そこで待っていたのは、黒いローブに身を包んだ人物だった。
一般的な成人男性程度の身長、体系も普通。
だが、フードのせいで顔がよく見えない。
試合場となる甲板の真ん中で座り、微動だにしない。
「せっかく来てあげたんだから、何か言ったらどう?」
アリスのその言葉を受け、すっと立ち上がるその人物。
足元に置かれていた細い指揮棒のような物を手に取る。
「次の試合は私が出ます」
そう言って足を進めたのはスート。
持っていた魔法杖を掲げ、対戦相手である黒ローブの前に出る。
「…わかっていますよ。貴方が何者か」
「ふふふ、ならば話が早い…!」
そう言ってローブを脱ぐその男。
彼の名は『ショーク・ヒン』。
四人目の戦士であり『死欲斌』の称号を持つ。
どうやらスートと知り合いのような雰囲気だ。
それについてメノウがたずねた。
「スート、知り合いか?」
「ええ、昔ちょっと…」
そう言ってスートは彼との関係を話し始めた。
ショークはかつてスートと共に絶滅魔法についての研究を行っていた。
しかし途中で道を踏み外し、邪法の研究に没頭していったという。
「この魔力の波動、まさかとは思いましたが…」
危険な魔法の研究ばかりをしていたため、魔法学会を追放された男。
それがまさかこんなところで出会うとは…
そう思うスート。
「かつての魔法学会のエースも今は子供のお守りか?」
スートに対しそう挑発するショーク。
杖を構え、互いに距離を取る。
その距離約十メートル。
準備はできた、どちらも勝負にすぐ移ることが出来る…
「…ずあッ!」
先に仕掛けたのはスートだった。
若干不意打ち気味に爆破魔法を使いショークを攻撃。
高威力の爆破魔法により甲板が抉れ、大穴が開く。
「きゃあッ!」
「うおっおっおっ!?」
突然の爆発に驚くレオナとメノウ。
気を抜けば吹き飛ばされてしまうほど。
ある程度距離を取っている彼女たちでもこれほどの被害がでている。
自身への爆風をスートはウォーターボールのジャンボシャボン玉で防いでいる。
しかしこれを受けたショークは…
「…ッ!」
爆風が晴れるも、そこにショークの姿は無かった。
爆破で吹き飛んだわけでは無い、完全に姿を消していた。
「当たらなかった…!?」
「おい、上だ!」
「上!」
アスカの言葉を受け上空へと目をやるスート。
そこにはウォーターボールのジャンボシャボン玉を使い浮くショークの姿があった。
彼は攻撃にうつる瞬間だったが、気付かれたことで一旦その手を止めた。
「あの女、余計なことを…」
「魔法発動の瞬間、上空に飛んでいたのか」
「お前の魔法のパターンなぞ大体お見通しだ!」
「くッ…」
「受けてみろスート!シルバーレイン!」
剣状に形成した魔力の刃を降らせる魔法、『シルバーレイン』を発動し攻撃を仕掛けるショーク。
しかしこれはあくまで目晦まし程度の技に過ぎない。
ウォーターボールのジャンボシャボン玉で浮遊したままではいずれ攻撃の的になりかねないからだ。
スートが攻撃を防いでいる間にジャンボシャボン玉を解除し降下。
反撃を仕掛ける。
「今のシルバーレインでお前の防護壁も消えたぞスート!」
距離を取り再びシルバーレインの魔法を使用。
激しい攻撃を続ける。
十本ほどの魔力剣が詠唱と共に空を裂きスートへと襲い掛かった。
「防げない…なら!」
あれだけの攻撃を自力で全て防ぎきるのは不可能。
回避も現実的では無い。
そこで先ほどの爆発の際にできた甲板の残骸の破片の一部を魔力で動かす。
の残骸を一か所に集め盾代わりにし攻撃を受け流した。
「防ぎ切ったか、まぁこの程度は効く訳ないか」
「けど意外と魔力を消費してしまった。それが狙いだとするなら、私は見事にあなたの手のひらで踊らされていたことになる…」
この魔法は意外と魔力を消費する。
大量の残骸を高速で動かし壁とするのだ。
長時間は使用できないため、急いで解除するスート。
「一発くらいは当たってほしかったが…」
「たとえ一発でも致命傷になりかねないですからね」
「だが守ってばかりでは勝てないぞ?こちらにはまだまだ攻撃手段はあるからな」
そう言いながらショークは何やら小声で詠唱を始める。
どこの言語化も分からぬ意味不明な言葉だ。
それと共に黒い魔力の弾を数発、指揮棒の先から打ち出した。
「…速い!」
その弾速は先ほどのシルバーレインとは比べ物にならぬほどの速さ。
急いで先ほどと同じく防護壁で防御するスート。
だが…
「何ッ!?」
先ほどシルバーレインを防いだ残骸の防護壁。
しかしこの黒い魔力弾はそれを打ち抜いた。
残骸とはいえ、シルバーレインを防ぐ程度には強固な壁。
だがそれをあっさりと破ったのだ。
「くッ…!」
咄嗟に回避行動をとるも、数発の内の一発が彼の肩を掠めた。
僅かに肉が抉れ、傷口が焼けたように変色した。
いや、それだけでは無い。
まるで毒か何かの様に、スートの傷口を侵食し始めたのだ。
「これは…マズい!」
咄嗟にその部分を杖の仕込み刀で切断するスート。
それと共に斬られた肉片がドロドロに溶けてしまった。
もし判断が遅ければスートはどうなっていたか。
「アリス…!」
「言いたいことわかるよ」
その技を見た魔王教団の二人、アスカとアリスが何やら意味深な反応を見せた。
彼女たちはその魔法に見覚えがあったのだ。
「あの魔法が『魔王教団』の技ってことでしょ?」
そう小声で言うアリス。
先ほどのショークの使用した魔法、それは約百年前のアルガスタと魔王教団の戦いで使用された物。
魔王教団側が使用した魔法の一つだったのだ。
「約百年前にあの『魔王教団』が使用した魔法!どうだその威力は!」
当時の僅かな資料を基にショークが復活させたという魔王教団の魔法攻撃。
たしかに通常の魔法とは比べ物にならないほど強力な技だ。
防戦一方なスート。
さらに魔法を連発するショーク。
「そんな技ばかり研究するから追放されるんだ!」
「黙れ!研究し対策を立てることの何が悪い!」
さらに魔法弾を連発するショーク。
スートの言葉に怒りを覚えたのか、その勢いはさらに激しくなっていく。
しかし、スートはそこに活路を見出していた。
「アナタはその資料を独占し、さらに危険で実用性の無い無駄な研究を繰り返した!」
「無駄では無い!リターンが極端に少ないだけだ!」
「そのために…何人の犠牲者が出たと思っている!」
ショークの攻撃が荒くなったと共に、攻撃のパターンが若干単調な物へと変化した。
自分自身は気付いていないのかもしれないが、スートにはハッキリと理解できた。
ショークの前へと攻撃の真正面から突っ込み正面突破。
「あの攻撃を掻い潜って…!」
「貴方の弱点は魔法に頼りすぎていること。『近接戦闘』に持ち込めば敵では無い!」
仕込み杖の刃でショークを切り裂くスート。
深々と彼の身体に刻まれる切り傷。
飛ぶ鮮血。
彼の体内の魔力も傷口から飛散していく。
それと共に沈むショーク。
「ま、まだ…」
「ずあッ!」
手放した指揮棒を取ろうとするショークの腕に仕込み杖の刃を突き立てるスート。
こうなってしまえばもう戦えない。
この勝負、スートが勝利した。
だが…
「この程度でつ、次の相手に勝てると…思わないこと…だ…」
「…ッ!」
「最後の…五人目の…『キィー・カック』は…ずっと…強…い…」
名前:ショーク・ヒン 性別:男 歳:二十代
使用武器:魔法の指揮棒
はぐれ戦士集団『幽忠武』に所属する魔術師。
約百年前に魔王教団が使用した魔法を自力で再現。
それを主力技として使用している。
かつて魔法の研究の際に多大な被害を出し、危険な研究をしているとの理由で追放された。
研究資料は没収されたが、それが無ければ自分一人で独占する気だった。




