第百三十四話 賜与苦瀕 死欲斌のショーク・ヒン
三月に復活するって言ったのにしないのはおかしいよなぁ!?
浜川センセ!
…まぁ、早くても三月って言っていたしまぁま、ええわ。
第二階層での戦いを制したのはアリスだった。
その勢いで次なる戦いへと望む。
第三階層で待つのは『獅要快』の称号を持つという男、『ショウ・カイ』だ。
「レービュ、テミータ、二人とも負けたか…」
試合場となる第三階層の甲板にて待つショウ・カイ。
先ほどの二人とは違い落ち着いた様子で待つ。
決闘場となる舞台の中央で座りながら、戦いの経過を小型のモニターで確認する。
「…来たか」
姿は見えたが、何者かの雰囲気を感じたショウ・カイ。
それは試合場の近くに置かれた大きなコンテナからした。
第一と第二階層とは違い、この第三階層には多数のコンテナが並べられていた。
とはいえ、特に深い意味などは無く、単に片付けていないだけだろう。
特に仕掛けなども無い。
そのコンテナの影から飛び出す小さな影。
一瞬の内にショウ・カイの元へと飛び掛かり、速攻を仕掛けた。
「いきなりか!」
その影の攻撃を受け流すショウ・カイ。
刀を引き抜くことなく、鞘のみでその影の蹴りを受け流した。
攻撃を受け流され、距離を取りつつ着地する影。
その正体は…
「一撃で始末してやろうと思ったが、なかなかやるようじゃな…」
物陰から飛び出したのは『メノウ』だった。
不意打ち気味にショウ・カイの頭を蹴りで狙うも失敗。
そのまま構えを取り、彼を睨み据える。
「キミがレービュを倒した少女か」
「レービュ…」
「忘れたのか?一番最初にキミが戦った炎の闘士を…」
「あ、ああ、一番下の階のか。忘れるわけないだろぅ…じじ、じゃろう」
何故か震え声で答えるメノウに対し、失望の眼を向けるショウ・カイ。
仲間であるレービュが、戦った相手のことも覚えていられないような者に負けたのかということ。
そして対戦相手のことすら覚えていられない、この少女に対して。
「あの戦い方から、もう少し良い戦い方をするかと思ったが」
勝負開始の宣言をしていないにもかかわらず、不意打ちをして勝利を得ようとしたこの少女の行為。
それは決してほめられることでは無い。
「は!何を言っている。戦いに良いも悪いも無いだろぅ…じ、じゃろう!」
「…どうした、口が上手く回っていないようだが」
「…うるさいのじゃ!」
ショウ・カイに再び蹴りを放つメノウ。
何故か半ギレ気味に攻撃を繰り出す。
しかしその攻撃は虚しく空を斬る。
攻撃を受けるはずのショウ・カイが避けたわけでは無い。
リーチが足りず、蹴りが当たらなかったのだ。
「うっ…脚が短いから…」
そう言いながらメノウがその場でよろける。
ショウ・カイは相手が少女だからと言って手を抜く男では無い。
刀を鞘から抜き、一瞬の内に間合いを詰め斬りかかる。
それを避けるメノウ。
しかし何故か足をもつれさせ、うまい具合に距離を取ることが出来ない。
「おっとっと…」
「妙な戦い方をする少女だ」
レービュと戦った時とは打って変わって、奇妙な戦い方をするメノウ。
いや、どことなくその『態度』や『立ち振る舞い』もおかしい。
普段のメノウとは何かが違う。
まるで『別人』の様に…
「当たり前じゃ、そいつは『偽物』じゃからな」
割って入るように、何者かの声が辺りに響いた。
戦っていた二人か同時にその声の主に視線を移す。
つまれたコンテナの山の上に腰掛けていたその声の主。
それは『メノウ』だった。
コンテナの上にいる『メノウ』、そしてショウ・カイと戦っている『メノウ』、どちらかが本物。
どちらかが偽物というわけだ。
「人の姿で何をしているんじゃ」
「…この戦いはボクがやると言っただろう?」
先ほどまでの甲高い『メノウ』の声とは打って変わり、少し低めの声で話すもう一人のメノウ。
ショウ・カイと戦っている方の『メノウ』、それが偽物だ。
偽物とはいえ、その姿、声までも本物と瓜二つだった。
行動に目をやらなければ本物と間違えてしまうだろう。
「だからと言ってワシの姿で…!」
「ははは、怒らないでよ。今戻すからさ」
その声と共に偽メノウの変身が解除され元の姿へと戻っていく。
偽メノウの正体、それは魔王教団の少女アスカだった。
彼女は返信の魔法を使用することが出来る。
自身の姿を別人のものに変えることが出来るのだ。
「成程、レービュを倒した少女に姿を変えていたのか」
ショウ・カイは彼女たちの姿を映像でしか確認していなかった。
そのため彼女の変装に気付くことが出来なかったのだ。
「そうだよ、さっきのは変装さ」
アスカのその灰色の髪が風に靡く。
さきほどの行動が変だったのは、体系の違うメノウに姿を変えたからだ。
メノウとアスカでは頭一つ分ほど身長に差がある。
全体的にメノウの方が一回りほど小柄だ。
そのため先ほどの一連の動きの際は上手くバランスが取れなかったらしい。
「何のために?」
「別に意味なんてないさ。遊びだよ」
「神聖な決闘に遊びを求めるとは…」
「神聖?単なる殺し合いだろう?」
「そういった捉え方もできるか…」
話を続けつつも、すり足で間合いをとるショウ・カイ。
彼の先鋒は一撃必殺の刀撃。
相手の攻撃を受け流しつつ、刀による攻撃で相手の命を絶つ。
互いに相手の距離を測り、様子を見る二人。
数秒間の膠着。
そして…
「そらっ!」
先に動いたのはアスカだった。
間合いを一気に詰めショウ・カイへ手刀を放つ。
しかしそれは、攻撃を受ける彼からすればあまりにも単純な動き。
軽く避け、体勢を立て直す。
「あれ、避けられ…」
その言葉をアスカが言い切るまでに、刀を鞘から引き抜き大きく振り上げる。
同時に彼女の後ろへと回り込み、首筋を狙う。
一閃で首を落すために。
「ッ…!」
そしてそれで斬り付ける。
達人でも数秒は必要なこの一連の動作。
しかしこの男、ショウ・カイはそれをたった一秒弱で行うことが出来る。
彼が一撃必殺にこだわるのは、この決闘戦術に絶対的な自信を持っているからだ。
「終わりだ…!」
刃がアスカの首を捕える。
その瞬間、彼は勝利を確信した。
もう何回、この方法で勝利してきたか。
ワンパターンな戦法。
だがそれゆえに研ぎ澄まされ、回数を重ねるごとに死角は無くなっていった。
相手は対策を取れない。
ショウ・カイ、彼のこの一連の攻撃を喰らい、生き残った者はいないのだから…
「終わり?なんのことだい?」
しかし、それは覆された。
この少女、アスカによって。
刀が当たるその直前、突然ショウ・カイの身体が後方へと吹き飛ばされた。
その身は試合場である甲板へと叩きつけられる。
「むッ…がくッ…!」
「飛び武器は使ってもオッケーだったよね?」
サムズアップをしながら笑みを浮かべるアスカ。
懐に忍ばせたオートマチック銃を服越しに放ち、ショウ・カイを吹き飛ばしたのだ。
魔力を込め弾丸を放つ技『チャージショット』によって。
「チャージショット、オートマチック銃の威力を数倍上げる技だよ」
「むぅ…の、のぅ…」
左腹を弾丸によって抉られ、膝をつくショウ・カイ。
たった一撃で勝負はついた。
その着物が鮮血で染まる。
しかし、刀を握る手に力を込め、アスカに再び攻撃をしようとするショウ・カイ。
まだ彼の眼からその闘志は消えていない。
だが…
「くだらない余興はここまでにしよう。キミはここで死んでもらうよ」
そう言ってショウ・カイへ銃を突きつけるアスカ。
もう勝負はついているのだ。
彼の抉れた腹部からは大量の血が流れ、立っているのもやっとな状態。
それでもなお、銃を突きつける意味は…
「…撃っちゃダメ!」
オートマチック銃の引き金に手をかけるアスカ。
しかしその瞬間レオナが、その手を押さえつけた。
「もう決着はついたんだよ!殺す必要なんてないよ!」
「いや、弱っているフリをしているかもしれない」
「もうやめて!」
「…手を離せよ」
確かに、既に勝負はついている。
殺す理由も無い。
しかし逆に言えば『殺さない理由』も無いのだ。
「なぁアリス、この男、殺した方がいいだろ?」
「いいよ。生かしておいてもあとで面倒になりそうだしぃ」
笑いながらそう言い放つアリス。
「メノウ、キミはどう思う?」
「わ、ワシか?」
「敵は殺すな、なんていう甘い考えをキミも持っているのかい」
「ワシは…」
メノウは、可能な限り人の命を奪うということはしなかった。
対話で解決できるのなら、それでよし。
無理ならば拳を交え、理解し合う。
しかし、時にはそれが通じぬものもいた。
敵の命を奪わなければならぬ決断をしたこともあった。
「…できる限り殺さぬ方がいいと思う」
「甘いんだよ、キミたちは…」
アスカは引き金を引かなかった。
すでにショウ・カイはもうまともに動くこともできない。
殺す意味も無い、そう判断したのだろうか。
放っておいてもいずれ死ぬ。
「勝ちは勝ちだ。問題は無いだろう?」
次なる戦いの舞台は四階層。
残る相手は二人。
第四層の相手は…
「スート…ヤツは必ず…!」
魔術師スートに憎しみを燃やす。
死欲斌の称号を持つ『ショーク・ヒン』が相手だ。
名前:ショウ・カイ 性別:男 歳:55 一人称:私
使用武器:刀
はぐれ戦士集団『幽忠武』に所属する、東洋の刀を操る戦士。
出身はゾット帝国の旧アルガスタ公国領であり、かつては戦士として名を馳せていた。
しかし己の力を高めるため、『幽忠武』に所属するようになった。
一撃必殺の戦術に絶対的な自信を持つが、正々堂々とした『決闘』にこだわりすぎるところがある。
第二階層のヤツ・テミータとは仲が悪いが、彼の実力は評価している。
第一階層のレービュとは趣味仲間。和装もその影響の一つだ。




