第百三十一話 炎鳥燐恢 霊火羽のレービュ
幽忠武側の提示した勝負。
それは五回の勝負の『勝ち抜き』によるものだった。
敵は五人の戦士。
それぞれが五機の飛行船から成る五階層の空中要塞を守っている。
「一人を倒すごとに先の階層に進める、というわけだ」
「勝ち抜き戦、というわけですね?」
「そうだ」
スートの問いに対して答えるレービュ。
その後も一人目の戦士である彼女が一通りの説明を提示した。
兎にも角にも、まずは彼女を倒さなければ道は開けない。
「基本のルールは討伐祭に合わせてやる。場外、降参で負けだ」
自身の立っている甲板を足で軽くたたくレービュ。
よく見ると甲板には、討伐祭の試合場と同じくらいの広さのラインが引かれていた。
それを試合場に見立てて試合を行うのだろう。
「魔法攻撃、武器の使用も認める」
「武器も…!?」
「それと『死亡』も敗北扱いだ。まぁ、死にたくなければさっさと降参するんだな」
「なるほど、一通りのルールは分かったよ」
「ならさっさと試合を始めるぞ」
試合という体は存在するものの、実質的なデスマッチとなる。
幽忠武の先鋒はレービュ。
ゾット帝国側の奪還組はまずは誰から出るか…
「ワシが出る」
そう言って出たのはメノウ。
レービュの用意した試合場のラインへと入って行く。
「…単なるガキではなさそうだな。名は?」
「メノウ。ただのガキかそうでないかは、やってみればわかるぞぃ」
「そうだ、それが当然…」
「…」
「それが必然!」
一瞬の内に構えを取り、それと共に地を蹴る二人。
レービュとメノウ、二人の攻撃が同時に衝突した。
二人がそれぞれ立っていた場所のちょうど中間地点で。
メノウの拳を受け止めながら、その力に驚嘆の声を上げるレービュ。
「この小さな体からこれほどの力をだせるとは…!」
「ふへへ…」
小柄な身体を生かし、受け止められた拳を支点としてレービュの頭上へと跳び、足を上げる。
そのまま踵落としを放つメノウ。
しかしレービュもそれを黙って喰らう女では無い。
掴んでいたメノウの拳を突き離し、ほんの少し距離を取る。
間一髪で避けるレービュ。
空を斬るメノウの脚。
「咄嗟の判断、身体の利点を最大限に生かした攻撃…」
「なんじゃいきなり…?」
「今のお前の一連の攻撃、それには全く隙が無かった」
戦闘開始とほぼ同時に距離を詰め拳による攻撃。
それを防がれても、それを次の攻撃への布石とする。
たった数秒の攻防であるが、レービュはメノウの腕を相当の物であると評価していた。
「それはどーも…」
「そしてそれらの動作を行っても、息は全く上がっていない。高度3000m、それを全くハンデにしていないとはな…」
地上3000mの高空域。
地上とは全く違う環境での戦い。
吹き荒れる風は身を裂くほどの鋭さ。
息も常人ではすぐにあがってしまう。
「高空には慣れているんじゃよ。『ある理由』でのぅ…」
「なんだそれは?」
「別に言う必要も無いじゃろうに」
見た目は華奢な人間の少女、しかしその中身は半竜半人。
それが不思議の少女メノウ。
その呼吸は竜の息吹と同意。
高空での戦いなどなんの苦にもならない。
「ふふふ、それもそうだな…!」
そう言うとレービュは右腕を軽く振り下ろす。
それが『合図』だった。
彼女の右腕が炎に包まれ、その炎がやがて試合場の周囲を覆っていく。
厚い灼熱の炎の壁が一瞬の内に出来上がった。
「炎の壁じゃと…!?」
勢いよく燃え盛る炎の壁。
仮に逃げようとしても、その退路を断つ。
また、試合場は何も置かれていない甲板にラインが引かれただけの簡易的な物。
周囲に可燃物が一切存在しないため、何かに燃え移るということは無い。
「私の持つ称号は『霊火羽』、それは最初にいったよな」
「言っておったわ」
「それはこの炎を操る力に由来するのさ」
恐らくレービュは火炎操作系の魔法を使用できるのだろう。
それも詠唱を必要とせず、魔力を直接燃焼させるタイプのモノだ。
このタイプは魔力消費が激しい代わりに、その他の性能全てがとても高い水準を持つ。
短期決戦に最適な魔法と言える。
「燃える炎、それが空を舞う霊鳥の羽根の様に見えることからな!」
「な、なるほどのぅ…」
ここに来てメノウは、自身の息が上がり初めていることに気が付いた。
いくら高空に強いとはいえ『酸素』そのものが無くなって行けば当然呼吸ができなくなってしまう。
その原因は周囲の炎の壁だ。
それはただでさえ少ない高空の酸素を一気に消費させていく。
十数メートル四方の試合場の周りを包む業炎の壁。
それが空気中の酸素を一気に消費しているのだ。
「一気に終わらせるぞぃ!幻影光龍壊!」
「単純な突進攻撃、簡単に避けられ…」
「それッ!」
幻影光龍壊の構えを途中で解除。
脚部からの斬撃波でレービュへの攻撃を行うメノウ。
「本命を捨ててこんなチンケな技をで攻撃してくるとは…」
あくまで様子見の攻撃であるため、それの攻撃はレービュに軽々と避けられてしまった。
だがその攻撃は囮。
瞬時にメノウは、彼女の背後へと回り込む。
自身の放った斬撃波よりも『速く』動き、後ろを取ったのだ。
「…後ろをとったか!」
「お前さんも隙が無かったからのぅ。無理矢理にでも隙を生み出させてもらった」
「見た目の割に老獪な戦術をとるじゃないか…!」
後ろを取られたレービュ。
反撃に移る、その選択肢を取ろうにも彼女は動くことが出来ない。
下手に動けばメノウの攻撃を受けてしまう。
「無理矢理にでも距離を取るしかない!」
傷を負うこと覚悟でメノウから距離を取るレービュ。
当然それをそのまま通すメノウでは無い。
攻撃を仕掛けるべく、右腕をレービュへ向けて勢いよく伸ばす。
斬撃を纏った突きで攻撃を仕掛けるつもりだ。
しかし…
「その『腕』を待っていた!」
「なんじゃ…ッ!?ぬっ…!」
その瞬間、メノウは右腕に反撃の手刀を受けてしまった。
骨こそ折れてはいない。
だが、その右腕全体に激痛が走った。
先ほどの手刀、それは身体に傷を負わせることが目的の攻撃では無い。
激痛を発生させ、その痛みで戦意を失わせるタイプの攻撃だったのだ。
「う、腕が…」
回復の魔法を使おうにも、今は戦いの真っ最中。
そんなことをしていられるほどの時間は無い。
だが腕をむしばむ痛みと痺れ。
それも並みのものでは無い。
腕の筋肉がほんの少し伸縮するだけで、肉が裂けるような痛みが走る。
まるで今にも腕が縦に裂けていくかのように。
「痛覚を正確につくこの一撃、並の人間ならのた打ち回るほどだ」
「ッ…!はッ…!」
「よく立っていられるものだ」
右腕を押さえながら、手の指が動くかどうかを確認するメノウ。
指は動いた、痛み以外のダメージはやはり大したことは無い。
だが、その痛みが問題だ。
なんとか立って入られるものの、とても戦いに集中できるような物では無い。
「痛…ッ…!」
「だが、痛みと息苦しさでもうまともには戦えんだろうな」
メノウの様子を見てレービュは戦法を変える事を考えた。
あの小さな身体では大したスタミナは無いはず。
持久戦に持ち込めば勝てるのではないか、と。
しかし…
「この程度…ッ!」
「ほう、まだ喋れるほど余裕があったか」
「どうということでは…無いわ」
メノウの態度を見てその考えを捨てるレービュ。
「数年前、南アルガスタで戦った男はワシのこの右腕をズタズタに切り裂いてきた…」
メノウが右腕をまっすぐに伸ばす。
痛みを堪え、硬質化の魔法と共に魔力を纏わせていく。
「南アルガスタの人斬り狐はもっと効率的な炎の使い方をしてきた…」
纏わせた魔力が剣の形に形成されていく。
その長さ、二m以上。
「戦巫女セイバー!」
ファントムとの戦いで使用した戦巫女セイバー。
右腕に魔力で形成した剣を纏わせる大技。
それを使いレービュの放った業炎を真っ二つに切り裂いた。
「痛みで腕は動かせないはず…」
「じゃが、腕の付け根なら動かせるぞぃ…」
動かせなくなった右腕を魔力で固め、痛みを最小限に抑える。
そしてその固めた右腕にさらに魔力を纏わせたのだ。
「そんな技が…あったとは…」
先ほどの戦巫女セイバーはレービュの身体をも切り裂いていた。
彼女の左肩から右足にかけて斜め一文字に入る深い切り傷。
レービュは自身の鮮血と共に倒れた。
「最後の最後で…ミスったか…」
「この勝負、ワシの勝ちじゃな…!」
幽忠武との戦い。
その初戦第一試合は先鋒のメノウが勝利した。
名前:レー・ビュ 性別:女 歳:18 一人称:私
使用魔法:火炎操作魔法
はぐれ戦士集団『幽忠武』に所属する、炎の魔法を操る女性戦士。
似たような能力を持つミサキとは違い、膨大な魔力を体内に貯蔵することが可能。
 




