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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第6章 王都決戦
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第百二十八話 それぞれの夜

 

 レオナの案内で向かった料理屋で食事をすることになったショーナ。

 一通りの料理を注文し、それらを一時間ほどで食べ終えた。

 肉料理とパン、少しのサラダとスープを二人で平らげ軽く息を吐く。


「ふぅ、結構食ったなぁ…」


「昼間がんばったからね」


 皿に残された肉料理のソースをパンにつけ、それを口に運ぶレオナ。

 肉の風味が溶け込んだソースの味が、ばっと口の中に広がる。

 料理の後に出された蒸留酒を飲みながらショーナが言う。


「俺もレオナもよくがんばったよ、本当にさ」


 レオナとショーナ、二人は共に次の試合へと駒を進めている。

 両者ともに傷だらけになっての勝利であった。


「正直さ、ここまで来れるとは思わなかったよ」


「ここまでって?」


「だってさ、ガキの頃の俺たちを思い出してみろよ」


 二人は幼いころを同じ地区で過ごした。

 雨になると山肌の剥き出しになった山が崩れることなど日常茶飯事。

 それと共に昔の兵器工場や鉱山の汚染物質などが流れ出してくる。

 貧しい者と病人しか住んでいない、まさに掃き溜めのような村。


「あんまり思い出したくないよ…」


 二人は共に孤児だった。

 他の孤児の仲間たちと集まって生きていた。

 楽しいことも確かにあったが、その殆どは苦しく辛い記憶ばかり。

 子供には辛すぎる現実に直面することも何度かあった。

 レオナにとってあまり思い出したいものでは無かった。


「その俺らがさ、今は王都でこうしていられる。それってすごくないか?」


 ショーナは学校にも通い、今は南アルガスタ四重臣の一人として働いている。

 レオナは別の地区の夫婦の元へ養子へ行き、幸せに暮らしている。

 二人が村を出たのは共に六年前、十歳の頃だった。

 特に意識したわけでは無かった。

 ただ、あの村にいると間違い無く停滞したまま腐っていく。

 そんな感じがしたからだ。


「ふふふ、確かにね」


 現在、二人は十六歳。

 あのころとは比べ物にならぬほどの幸せに今は包まれている。


「だろ?」


 そう言いながら、テーブルに置かれていた蒸留酒の入ったコップを一気に飲み干すショーナ。

 酒がなくなったので店員に代わりを注文。

 そしてそれをまた口に運ぶ。


「なぁレオナ」


「なに?」


「今度さ、みんなでまた来ようぜ…」


 再び酒を口に運び、一気に飲み干すショーナ。

 先ほどから飲んでいるだけあり、少し顔が赤くなっていた。


「みんな?」


「メノウにミーナ、グラウ…とにかくみんなだよ」


 酔いが回ってきたのか、若干呂律が回らなくなってきているショーナ。


「ふふふ…そうね、また今度ね。その方がきっと楽しいから」


「レオナも飲もうぜ、酒!」


「私、あんまり飲めないから…」


「そっかー。じゃあ全部俺が飲む!」


「…き、気をつけてのんでね」




 ----------



 グラウを病院へと連れていったメノウ。

 夜だったためなんとか交渉をし、医師に治療を受けた。

 グラウは右腕を怪我している。

 さすがにそのままでは治療ができないため、上半身裸になる。

 一方メノウは…


「…んんっー」


 治療室とは別室の、待合室で椅子に座り背伸びをするメノウ。

 結構時間がかかるらしく、既に一時間ほど待っている。


「そういえば食事してなかったのぅ…」


 空腹と眠気を我慢しながら、暗い待合室で待つメノウ。

 ここに来る途中ショーナとレオナに会ったことを、ふと思い出した。


「なんか幸せそうじゃったな。腹減ったのぅ…」


 戻ったら何か食べよう、そう考えながら腕枕をし長椅子に寝転がる。

 夜も深くなってきた、若干の眠気がメノウを襲い始めたが…


「終わりました」


「お、おぉ…」


「お待たせして申し訳ないです」


 そう言って治療室から出てくるグラウ。

 やはりというべきか、いつも通りフードで顔を隠していた。

 服はボロボロになっているが。


「じゃあ、行くか」


「ええ」


「傷は平気か?」


「ええ、大丈夫です。治療もしましたし先ほどのメノウさんの魔法もまだ効いていますから…」


 それを聞いて安心した表情を見せるメノウ。

 痛みを我慢しているというわけでも無さそうだ。

 しかし、身体が本調子では無いためすぐに宿で休みたいという。

 医師に治療代を払い、病院を後にする二人。


「…メノウさん」


「なんじゃ?どうかしたか?」


「貴女は気にならないのですか?私の素顔を…」


 グラウはいつも顔を隠している。

 どうしても晒せない理由があるのだろう。

 顔に大きな傷でもあるのか…?

 それとも…?


「気にならない、といえば嘘になるのぅ」


「そうですか」


「じゃが、お前さんは『理由』があって顔を隠しているのじゃろう?」


「ええ」


「ならば無理に詮索するようなことはせん」


 メノウが本気になればグラウの素顔を晒すことくらいはできる。

 しかしそんな愚かなことをするわけが無い。

 する必要も無い。


「それに…」


「それに?」


「お前さんは悪いヤツでは無い。それくらいはわかる」


「…」


 初めてグラウと会ったとき、彼女はメノウを助けた。

 その後も神出鬼没に表れサポートをしてきた。

 普段の言動からにじみ出る感情。

 それらが、グラウを悪人ではないと証明していた。


「メノウさん」


「なんじゃ」


「貴女なら私の正体について、大体の「あたり」はついているのでしょう?」


「…まぁの」


 グラウの指摘は当たっていた。

 そもそも『グラウ・メートヒェン』という名前自体が偽名なのだ。

 顔を隠し偽名を使う。

 それに言動がメノウの知るとある人物のそれに似ていた。


「最初は分からなかったが…」


「恐らく貴女の予想は合っているでしょう」


「つまりお前さんは…」


「…50%、つまり半分は」


「半分…?」


 記憶の彼方にあるその人物の名を上げようとしたメノウ。

 だがグラウによると、それは正解でもあり間違いでもあるという。


「それはどういう意味なのじゃ?」


「…真実は知らない方がいいかもしれません」


「お前さんはいったい…?」


「…すいません、そろそろ」


 話しているうちにグラウの宿に着いてしまった。

 深々と礼をすると彼女はそのまま宿へ戻って行った。


「半分…グラウは『あやつ』ではないのか…?」



 ----------



「あーヤバいウマい!やっぱり外のごはんはウマいねー!」


「全くだ!塀の中はずっと残飯みたいな物ばかりだったからな」


「いつ食べてもおいしー」


 大通りの屋台で食事をしていたのは、魔王教団の眷属となった二人。

 人斬り狐の少女ミサキと元列車強盗団の団長ヤーツァ・バッタリーだった。

 ミサキはこの大会に参加しており、明日試合がある。

 その勝利の前祝として食事をしていたようだ。


「いやーいいよいいよーふぅー!」


「あんまり飲みすぎるなよ、酒!」


 大量の屋台が並ぶ大通り、その隅にあるテーブルで食事をする二人。

 屋台で買った大量の料理と飲み物を並べ、それを勢いよく口に運んでいく。


「おっと、明日試合だったね」


「言い出したのお前だろ、試合の前祝で食いに行こうって!」


「そーだった、もう飲むのやめよっと」


 そう言われ、酒から水に持ち替えるミサキ。

 しかし相変わらず食事の手は止めない。

 屋台で提供される油ギトギトの料理やジャンクフードを貪り食っていた。


「ごはんモノが殆ど無いのはつらいなー」


 しょうが無くミサキは屋台で売られていた炒飯を食べていた。

 何故かキムチがそのまま乗せられた、よくわからない炒飯だった。

 米には違いないので、まぁ本人的には問題ない…らしい。


「そういやファントムってやつは緑のガキ襲いに行くって言ってたが、どうなった?」


 カレーパスタを食べながらミサキに尋ねるヤーツァ。


「さぁ、失敗したのか成功したのか…戻ってきたら聞いてみようよ」


「で、教団の奴らは?」


「なんか上と話があるって」


「他の奴らもノリ悪い奴らばかりでつまんねぇな」


「二人で楽しめばいいじゃん」


「ガキと一緒でも楽しくねぇよ」


 少女と元軍人、二人の宴会は朝近くまで続いた…




 ----------



 少女は夢を見ていた。

 遠い記憶の中の景色を。

 今はもう思い出せぬ母親の顔。

 父親のぬくもり。


 多くの人の愛に守られ、その少女は育ってきた。


 しかしそれは長くは続かなかった。

 悪いもの達の手により、それらは全て灰塵と化した。


 夢の中で再び少女はその光景を目の当たりにする。

 炎の中に消えていく母親。

 悪いもの達の凶弾に倒れる父親。


『逃げろ…』


 かすれる声で父親が言う。

 夢の中の少女にそれを救うことはできない。

 無力感と悲しみ、絶望が夢の世界を侵食していった…





「…はッ!」




 そこで夢は終わった。

 全身に酷い寝汗をかいていた。

 心臓の鼓動が異常に速く、息も荒い。


「思い出したくないのに…」


 悪夢の主、それは疾風の少女カツミだった。

 安宿の固い寝床と大きい割に固い枕。

 悪夢を見るには十分な環境だった。


「くッ…はぁ…はぁ…」


 夢の中の光景、それは今から十五年ほど昔になる。

 育ての親となる今の義父、『ガウド・ミゴー』に拾われる前のカツミの家族。

 その記憶だった。


「はぁ…はぁ…」


 かつては復讐のために盗賊家業を続けながら旅を続けていたカツミ。

 しかし今は足を洗い、復讐も止めた。

 メノウたちと出会い、それが無意味なことであると知った。

 そして、既にその相手は全く別のところで失脚したと聞いた。

 する意味が無くなってしまったからだ。


「もういい、もういいんだよ…」


 しかし、あの時の彼女にとって、その出来事はあまりにも過酷すぎた。

 絶対に思い出さぬよう記憶の奥に封印していたそれ。

 そして実の両親の顔を…


「父さん…母さん…」



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