第百二十七話 ファントム交流会
夜の街でファントムと交戦したメノウ。
グラウと共にそれを迎撃するも、倒しきれず逃亡を許してしまった。
建物の屋上から隣の建物に飛び移るファントム。
そのまま別の建物に向け飛ぼうとするが…
「待て、ファントム!」
メノウが追跡すべく後を追う。
そして戦巫女セイバーをファントムにむけて放つ。
単に剣型に形成した魔力というわけでは無く、伸ばして遠距離攻撃にも使えるのだ。
「チッ…」
伸ばした戦巫女セイバーがファントムの左肩を貫通した。
「ほらよ!」
「うわっ!?」
ファントムが投げつけた煙玉。
それによりメノウの視界が奪われた。
その隙に攻撃をしてくるのか?そう思い辺りを警戒するメノウ。
しかしその煙玉はあくまで逃亡のためだったようだ。
ファントムの逃亡を許してしまった。
「メノウさん、追いますか…?」
肩の傷を押さえながらグラウが言った。
平静を装っている彼女だが、息遣いからそうとう傷が深いことがわかる。
先ほどファントムが突き刺した左肩の傷が貫通していた…
「いや、深追いはしない」
「私のことは無視しても構いません。もし気遣っているのなら…」
「それより人も集まってきた。早くこの場を離れよう」
グラウに簡易的な治癒魔法と痛み止めの魔法を施し、その場を離れる二人。
野次馬と警備員に見つからぬようビルを降り、人ごみに紛れる。
と、そこに…
「グラウとメノウ!」
「レオナにショーナか!どうした?」
ファントムとの交戦の音を聞き駆け付けたショーナとレオナ。
その二人とちょうど鉢合わせすることとなった。
「今何があったんだ?さっきの音は…」
「グラウちゃん、その傷は!?」
先ほどメノウが使用したのはあくまで緊急治療の魔法。
完全に治っているわけでは無い。
出血と痛みこそ押さえられているが傷跡はまだ目立ってしまう。
「大丈夫、気にせず…」
「何があったの一体!?」
ファントムのことや魔王教団のことをレオナは知らない。
あまり彼女を危険に巻き込ませたくないとのショーナの思いを以前聞いていたメノウは適当な言い訳でごまかした。
「転んでレンガの角に肩をぶつけてしまって…のぅ、灰色の?」
「え、ええ。ついうっかりよそ見をしていたら…」
「はやく治療しないと!」
傷の治療をしてくれる病院の場所を知っていたレオナは、グラウにそれを教えた。
ついて行き案内しようかとも思ったが、グラウはそれを拒否した。
「私のことで時間をとらせるわけにはいきませんから…」
メノウも彼女に同行することに。
明日はグラウの試合もある。
完治とまではいかないが、明日までに戦えるくらいの治療はしておきたい。
「ありがとうな、レオナ」
「いいえ、このくらい」
「そういえば、お前さんらは何してたのじゃ?」
「一緒にメシ食おうと思って街に出たんだよ」
「ほう、わしらはさっき喰ったぞ」
「ははは」
「じゃ、わしらは病院に行ってくるからな」
そう言いながら、メノウとグラウの二人は病院へ歩いて行った。
ショーナはなんとなく、先ほどの音が魔王教団との戦いの者であることを理解していた。
しかしレオナは気付いていないようだ。
いや、気付く必要も無い。
彼女はあくまで『一般人』、争いに巻き込まれる必要も無い。
「さ、さぁ!気を取り直してメシ食いに行こうぜ」
「え、ええ…」
二人は先ほどの店に行き、食事をすることに…
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それとほぼ同時刻、王都ガラン某所。
邪魔の入らなぬであろう、高級ホテルの一室と思われる場所。
そこではある男が魔王教団の使者と密会をしていた。
黒いスーツを着た謎の男、そしてそれと対話するのは…
「まったく、したたかなヤツだよ。キミは」
テーブルの向かいにいる人物にそう言い放つ一人の少女。
それは魔王教団の少女、アスカだった。
横には同じく魔王教団の少女アリス。
奥のベッドではアルアが丸まって寝ていた。
「あの子には悪かったかな?こんな夜遅くを指定してしまって」
「アルアちゃんはいつも夜が早いからね~」
寝ているアルアを見ながらアリスが言った。
アルアはいつも遅くとも二十一時には就寝してしまうという。
今日はがんばって起きていたらしいが、限界が来てねてしまったのだ。
しかしそんなことは今は関係ない。
そうとでもいう様に、男が話を切り出した。
「それより例の件、わかっているだろうね?」
「ああわかってるさ。ボクたち魔王教団がこの国を制圧した暁には…」
「アナタに相応の地位を約束するのです」
アスカとアリスが声を合わせて言った。
その男の正体は…
「これでいいだろう?『ウェスカー』…?」
アスカが契約書を差し出す。
魔王教団との取引、その相手はゾット帝国の大物。
先の討伐大会開会式でも演説をし、王女であるルビナ姫とルエラ姫にとても近い人物。
摂政『フィゼリス・ウェスカー』だった。
「ふふふ…」
「ボクたち魔王教団としても、人間の協力者が必要だからね」
魔王教団がこのゾット帝国内で活動するためには、当然資金などのバックアップが必要だ。
情報操作や権力による一部の事件の黙認なども。
それらを行っているのがウェスカーとその部下、というわけだ。
「使えそうな罪人の身柄は一通り渡した。情報操作は可能な限り行う。他に行うことはあるか?」
「今のところはそれでいいよ。現状維持だ」
「ああ、わかった」
「邪魔者の排除はボクたち魔王教団のほうでさせてもらうよ」
あくまでウェスカーは表向きはゾット帝国陣営の人間。
魔王教団に敵対するカイト、ジン、メノウといった者たちに大々的に干渉することはできない。
もしそんなことをすれば、それこそ身の破滅だ。
「厄介なメノウちゃん対策も万全だからね」
「あのファントムとかいう男か、ヤツは何者だ?」
ウェスカーが提示した罪人の中には当然、ファントムはいなかった。
彼は魔王教団側が用意した戦士。
その出自は、協力者であるウェスカーにも一切知らされていなかった。
「現在ゾット帝国が統治するこの大陸には、かつて多くの小国があったそうじゃないか」
「…ああ。数百年前まではな」
「ファントムは遥か昔、その戦乱の時代に命を散らせた戦士さ」
「アルアちゃんの魔法に死者そせい?みたいな魔法があってそれで操っているのです」
アリスの話によると、アルアが多数の実験の末に完成させたものだという。
ファントムがかつて戦死したという地で、その残留思念を呼び出し復活させたのだ。
「死者蘇生…!?そんなことまでできるのか!」
「たぶん、キミが想像しているような完璧な物ではないけどね」
アルアの蘇生魔法にはきつい制限が複数ある。
さらに大量の魔力を消費し、時間もかかることから多用はできない。
そのためよほどのことが無ければ使用はしない。
そのことをウェスカーに説明するアスカ。
「そうだ、忘れるところだった」
説明の後、何かを思い出したアスカが言った。
「実は調べてほしいことがヤツがいるんだ」
「誰だ?」
「討伐大会に参加している『グラウ・メートヒェン』、コイツの素性を知りたいんだ…」
・戦巫女セイバー 未完成版
【使用者:メノウ】
破壊力:B タイプ:斬撃
手刀に魔力を溜め不定形のブレードを形成する技。
まだ未完成であるらしく、威力などが不安定。




