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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第6章 王都決戦
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第百二十六話 幻影破りの戦巫女セイバー


 ヒィークとの戦いを終えたショーナ。

ボロボロの身体もメノウの治癒魔法のおかげで回復することが出来た。

…傷のみは。


「いくらワシでも身体の奥までは治せん」


 メノウの話によると、この傷はすぐに影響はない。

ヒィーク戦の傷自体も大したものでは無い。

しかし、このまま傷を受け続ける戦いをしていくと、いつか大変なことになるかもしれない。

彼女はそう言った。


「もう少し戦い方を変えた方がいいぞぃ」


 彼の身体に薬と塗り薬、包帯で手当てをしながら魔力による処理もしていくメノウ。

自己治癒能力を高める魔法だという。


「おっと、ドッグタグを巻き込むところじゃった」


 ショーナが首からかけているドッグタグを包帯で巻き込みそうになり、慌てて元に戻す。


「…そうだな。戦い方は考えておくよ」


「身を削る戦いは見ていられん」


 今、この待機室にはメノウとショーナの二人しかいない。

ミーナとレオナは試合前の準備に行ったらしい。

カツミは濡れた服の着替えを取りに。

薬を片付けるためメノウも部屋を出ようとするが…


「なぁ、メノウ…」


「ん?どうした?」


 ショーナに呼ばれたメノウが彼の方に振り向く。

二人の視線が合い、思わず心臓の鼓動が一瞬高まる。


「いや、やっぱりなんでもない」


「ふふ、変わっておるのぅお主は」


 そう言いながら軽く笑い、薬箱を持って部屋のドアを開け出ていくメノウ。 

それを見届け、長椅子に腕枕をして寝転がるショーナ。

治療してもらったとはいえ、身体がまだ痛むらしくあまり動けないらしい。


「ふぅ^~…」


 前回優勝者のヒィークとの戦いを終えたことを改めて実感し、身体中から力が抜ける。

張りつめていた緊張の糸が一気に緩んだのだろう。

一日に行われる試合は四試合までと決まっている。

なので、次のショーナの試合である準々決勝のある日までは試合に出なくてもよい。


「次の試合は二日後…だな」


 本当ならば他の参加者の試合も見ておきたいのだが、どうもその気が起きない。

緊張が緩んだせいか、強烈な睡魔が彼を襲った。


「少し…寝るか…」


 机においてあった水を手に取り、それをコップに注ぎ喉に流し込む。

そして再び長椅子に寝転がる。

じょじょに眠りに落ちていった。




-------------------



 ショーナが次に目覚めたのは、それから数時間後のことだった。

眼を開けると、そこにはレオナの顔があった。


「あ!起きた、ショーナくん」


「レオナ…」


「メノウちゃんに聞いたんだけど、試合の後に眠っちゃったんだって」


 そういえば疲労から来た睡魔に襲われたことを思い出した。

あの時寝てしまったのかと気付くショーナ。


「うーん…今何時?」


「18時。もう今日の分の試合は全部終わったよ」


「あ、そっかぁ…」


「うん」


「そういえばレオナ、その格好は…?」


 改めてレオナの姿を見るショーナ。

上は薄いシャツ一枚、下は拳法用のもの。

その長い金色の髪を黒い布で纏め、右の二の腕には包帯を巻いていた。

すこし傷を負っているように見える。


「ああ、試合の時ちょっと…」


 レオナによると、本日分の四試合は既に終わったという。

ショーナとヒィークの試合、そしてその他三つの試合。

そのうち二つにはレオナの試合もあった。

ミーナの試合もだ。

包帯はその時の怪我らしい。


「試合、見れなかったな…」


「疲かれていたしね、しょうが無いよ」


 二人のそれぞれの試合を見ておけなかったのは残念だが、それもしょうがない。

試合表を見ると二人とも勝ち残っているらしい。

この表によると、二回戦で二人が戦うことになる。


「二回戦ではレオナとミーナが試合することになるのか」


「うん。ミーナさん強そうだけど頑張ってみる」


「負けるなよ」


 そう言ってハイタッチをする二人。

とその時、ふと猛烈な空腹感を感じるショーナ。

朝食以降、彼は食事をしていなかった。

本当ならば、ヒィーク戦の後に食事をとろうと思っていたのだ。

しかし寝てしまったため結局昼食は取れなかった。


「ハラ減ったなぁ…」


「じゃあ一緒に食事に行かない?この近くにおいしいお店知ってるの」


「いいね、行こうぜ!」


「うん!」


「そういえばメノウは?」


「あの灰色の子と一緒にどこかに行っちゃったみたい。ミーナさんはカツミさんと一緒に食事だって」


「ふーん」


 軽く着替え、街中の料理店へと向かうショーナとレオナ。

彼女に案内された店は、街の大通りから少し入った場所にある食堂のような場所だった。

上品すぎず、気軽に入れる場所。

ショーナの好みに合わせた店を選んだのだ。


「おお、いい感じの店だ」


「じゃあ、入ろうか」


「そうだな…ん?」


「どうしたの?」


「何か変な音が…!」


 大通りの裏の道にある小さなビルが立ち並ぶ地区。

そこから妙な轟音が響いているのを彼は聞き逃さなかった。

その音の正体、それは…


「ファントム、貴様ぁ!」


「はははは!」


 ビルの屋上で戦うファントムとメノウ。

二人の攻撃がぶつかりあう音だった。

被害を広げぬよう、屋上から別の屋上へと移って戦うメノウ。

そしてそれを援護する灰色の少女グラウ。


「私はサポートに徹します、メノウさんは攻撃を!」


「おう!」


「その拳で、また俺を殺すつもりか!?」


「ッ…!?」


「惑わされないで!」


 ファントムの言葉の前に一瞬、メノウの攻撃が鈍る。

それを見逃すファントムでは無い。

攻撃をかわすとともに、メノウの腹に強烈な蹴りを叩きこんだ。


「うぐぅ!」


 勢いよくとばされ、ビルの壁に叩きつけられるメノウ。

壁がそのまま崩れ、一旦そのビルの中にメノウが身を隠す。

それを追うファントム。

しかし…


「そうはさせない!」


「灰色の!」


 ファントムの前に灰色の少女グラウが立ちはだかった。

業物、天生牙を鞘から抜き、彼の首に突きつける。


「動くとその首、飛ぶよ」


「ガキが!邪魔をするな!」


「いや、邪魔させてもらう」


 少しでも動けば首が飛ぶ、その状況ならば動けない。

そうグラウは考えた。 

しかし、それは思いがけない方法で突破されてしまった。


「ぬッ…!」


「なに!?」


 二人が立っていたビルの屋上の一部にひびが入り、ファントムの片足がそのひび割れに入りった。

当然、彼は身体のバランスを崩しその場に倒れる。

しかしそれが彼の狙い。

グラウに刀を突きつけられた時から、地面となっている屋上に異常な力を加え続けていたのだ。

身体のバランスを崩し、隙をあえて作るために。


「ちッ…」


 刀を再び喉に突きつけようとするグラウだが、さすがに二回目は通用しない。

ファントムの反撃の蹴りを受け、刀が弾かれてしまった。

手刀を突きつけようとするも、青年であるファントムの方が攻撃のリーチは大きい。

逆にファントムの手刀がグラウの肩に突き刺さった。


「グッ…」


「このまま腕を落してやろうかぁ~?」


 ファントムの手刀はグラウの左肩に深々と突き刺さっている。

少し力を込めて動かせば腕を引き千切れてしまうほどに。

しかしそこに、ビルから抜け出したメノウが現れた。


幻影(ファントム)光龍壊!」


 得意技である幻影(ファントム)光龍壊をファントムに放つメノウ。

しかし、ファントムは刺さった手刀を引き抜き、それを回避。

さらにメノウへとカウンターを放った。


幻影(ファントム)光龍壊か…相変わらず変な技名だよなぁ」


「ワシの好みなんじゃ、別によかろう」


「そんな子供だましの技が俺に通じると思っているのか!」


「…ッ!」


 瑪瑙がファントムに飛び掛かり、追撃を仕掛ける。

手刀による突きの連打、しかしそれは単なる目晦まし。

メノウの真の狙い、それは…


幻影(ファントム)光龍壊 弐壊冥!」


 かつてシェンや大羽を撃破した大技、『幻影(ファントム)光龍壊 弐壊冥』だ。

直撃すれば光龍壊の数倍の威力を誇る貫通破壊技。

被技者の傷に魔力を送り込み、その肉体を破壊するのだ。

だが、その攻撃も無意味だった。


「無駄だって言ってるんだよ!」


 その攻撃もファントムに軽々と避けられてしまう。

魔力を纏った右腕は虚しく空を切る。


「お前の幻影(ファントム)技は全て俺が教えた技だ!今さらそんなものが俺に通じるわけねぇんだよ!」


 メノウの攻撃技のほとんどはかつての旅の中でファントムが教えた物。

当然、彼はその技の仕組みや攻撃パターンなども熟知している。

もちろん、メノウがアレンジした攻撃もある。

だが彼女の戦闘パターンそのものがファントムのコピーのようなもの。

これでは圧倒的に不利…


「メノウさん、どうしますか…」


 肩を負傷したグラウが言った。

フードのせいで顔はよく見えぬが、声からして少し苦しそうだ。

傷が響いているのだろう。

その傷を手で止血し、壁にもたれ座り込むグラウ。


「ファントム、確かにお主の言うとおりじゃ…」


「ふん」


「ワシの技はお主のコピー技がほとんど、それは否定しない」


 メノウが右手の手刀を振り抜く。

それと共に、彼女の右手に魔力が溜まって行く。

先ほど無駄うちに終わった弐壊冥の魔力だ。

右手の手刀に魔力で形成したブレードを纏わせていく。


戦巫女(メノウ)セイバー…!まだ未完成の技じゃが、これは読めまい!」


 二メートルほどの魔力の刃。

それを右手に纏わせる。

少女であるメノウにとって非常に大きな武器に見えた。


「おもしろい、それがお前の新たな力か!」


「ファントム、お主はワシがここで倒す!」


「やれるものならやってみろ!」


 二人が距離を取り、ビルの屋上で対峙する。

張りつめた空気、ギリギリの戦い。

しかしそれに水を差す者が現れた。

…ビルを囲む野次馬だ。

二人の戦いを聞きつけ、何人もの野次馬が集まってきたのだ。

その中には警備兵の姿も確認できる。


「チッ、面倒だな…」


 そう言って構えを解くファントム。

今の彼からは戦意が完全になくなっていた。


「まて、逃げるのか!」


「目立つことはするなって、上から言われてるんでね…」


 その言葉を残し、ファントムは去って行った。

ビルの屋上を飛び移りながら。

夜の闇へと消えて行ったのだ…



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