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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第1章 邪剣『夜』と孤独の黒騎士
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第十二話 気まぐれの雲よ その瞳には何が写る?

もうすぐでアルファポリスの結果発表ですね。

浜川先生の『ゾット帝国』シリーズは果たして何位になるのでしょうか?

 マーク将軍の下した退避命令は即座に全軍に伝わった。

 その内容は通信機でそれを聞いた者たちに衝撃を与えた。

 ある者はバイクで、ある者はバギー、そしてまたある者は川をボートで下って行った。

 そして、マーク将軍の通信はメノウ達にも届いていた。

 奪ったホバーボードにも通信機能が備え付けてあったため、その通信を傍受することができたのだ。


「列車砲だと!?」


「ミーナ、『れっしゃほう』とは何じゃ?」


 メノウが訪ねる。

 ホバーボードのスピードを上げながら、ミーナがそれに答えた。


「この南アルガスタが誇る最強の兵器だ!射程はゆうに100km以上はある!アイツらこの辺り一帯を吹っ飛ばす気かよ!」


 アイツら、とミーナは言った。

 たが実際には、ミーナはこの滅茶苦茶な命令を下した者が軍閥長であることに薄々気づいていた。

 マーク将軍はこのような命令を下すはずもない。

 陸海空の軍の者達も同じだ。

 となれば残りはヤクモか『A基地の司令官のアイツ』、そして軍閥長ということになる。

 だがヤクモと『A基地の司令官のアイツ』に、列車砲を独断で動かす地位は無い。


「(業人が…)」


 心の中で呟きながら、さらにホバーボードのスピードを上げる。

 だが、ジェネラル・ミュラー砲は街一つを完全に吹き飛ばすほどの威力を持つ。

 かつて大戦時に開発された兄弟機『グスタフ』、『ドーラ』の二つの列車砲よりもはるかに高い威力だ。

 もちろん、これは現代の科学により改修された結果。


「クソ!このままじゃ間違い無く列車砲の攻撃でアタシ達は全滅だよ!」


「う、嘘だろミーナ!?」


 ショーナが叫ぶ。

 列車砲の攻撃によりまず間違いなくこの周囲一帯は消し飛ぶ。

 複数回の砲撃や、攻撃の際に発生する衝撃波などを考慮するとこのホバーボードでは射程圏外への退避はまず不可能。

 残された道は…全滅しかない。

 マーク将軍のあの様子では攻撃までそれほど時間も無いだろう。


「アタシも嘘だと思いたいよ!」


「シェルマウンドを目の前に死にたくねぇ!」


「アタシだって!けど…」


 少なくとも、このままでは確実に全滅。

 何か策は無いか?

 そう思い思考を張り巡らせる二人。

 と、その時メノウがホバーボードを止め河原に上がった。

 その表情はいつもと変わらず、とても穏やかだった。


「どうしたんだよ?メノウ?」


「どうせこのまま川を逃げても無駄なんじゃろう?」


「ああ…」


「なら、少しワシに賭けてみんか?」


 そう言うとメノウは地面にしゃがみ込んだ。

 そして地面に手をかざし、何かを探る。

 二人には、彼女が何をしているのかは分からない。


「(魔法の類か…?)」


 だが、この状況ではメノウの持つ不思議な力に賭けるしか無い。


「(メノウはラウル古代遺跡と何らかの関係がある。魔法の一つや二つ使えても不思議じゃない…)」


 ラウル古代遺跡には数多くの伝説が残っている。

 その地に住む者達は皆、当たり前のように魔法を使っていたという。

 また、オーヴにより現れる『守護竜』は大地の気を操る力を持つという。

 ならば、ラウル古代遺跡で出会ったメノウも何らかの魔法が使えてもおかしくは無い。

 そうショーナは思う。


「こっちじゃ!」


 そう言ってメノウが指差した先へとホバーボードで向かう。

 もう時間は無い。

 こうなれば、メノウに賭けるしかない!

 スピードを上げ向かったその先にあったのは、かつて大戦時にディオンハルコス鉱を採掘するために使われていた鉱山だった。

 重機や掘り出された石や砂利などが放置され、不気味な雰囲気を醸し出している。

 岩山を切り開いたその土地には無数の大穴があいていた。

 だが、大戦時の状況を考えるとこれだけ掘ってもディオンハルコス鉱はほとんど発見できなかっただろう。


「鉱山…」


「あの穴じゃ!」


「どの穴だよ?」


「はやくいけ!」


 そう言って、メノウたちは地下に続く坑道へと入って行った。

 ホバーボードに乗っても余裕で入れるほど大きな穴だ。

 恐らく、昔は大型の運搬装置などがあったのだろう。

 最下層を目指し、一気にスピードを上げる。


「地下に潜って列車砲の攻撃をやり過ごそうってのか?メノウ?」


 ミーナが言った。

 だか、その作戦はナンセンス。

 鉱山の坑道はそれほど丈夫ではない。

 確かに列車砲の攻撃自体は防げるが、その際の衝撃によりほぼ確実に坑道は崩落。

 生き埋めか、そうでなくとも閉じ込められて永遠に出られなくなってしまう。


「いや、違う!」


 地下へ地下へと潜っていく三人。

 地下深くのさらに奥。

 そしてたどり着いたのは…


「これって…地下水路か!」


 メノウが目指していたもの、それは地下水路だった。

 先ほど地面に手をかざした際、メノウは大地の龍脈に妙な変調を感じた。

 その原因が、この人工的に作られた地下水路というわけだ。


「けどメノウ、何でこれを…」


「大地の気の流れじゃよ」


「大地の…」


「これくらい、できて当然じゃ」


 いばるようなポーズを取るメノウ。

 だが確かに、地下深くの水路ならば列車砲の砲撃を受けることも無い。

 さらに、比較的頑丈な作りであるため崩落の心配もない。

 ほぼ直線距離で進めるため、素早く逃亡できるというわけだ。


「幸いこの地下水路はシェルマウンドの近くまで続いておるみたいじゃ」


 メノウがそう言ったその時、大きな揺れが三人を襲った。

 列車砲の砲撃の一発目が着弾したのだろうか…?

 地下水路の水が大きく揺れ、荒い波になる。


「ヤバい!メノウ、ショーナ!行くぞ!」


「よし」


「あ、ああ!」


 列車砲は再装填と発射にまで時間がかかる。

 その隙にできる限り遠くへ離れなければならない。

 三人は急いで地下水路をホバーボードで下った…




 ---------------





 一方その頃シェルマウンドの軍閥長の城では、軍閥長であるエレクションが歓喜の舞を踊っていた。

 列車砲の砲撃により勝利を確信。

 お気に入りの曲に合わせ、即興で作った振付を披露する。


「チッチッチッチッチ!」


 そしてそれを呆れたような顔で見つめるマーク将軍。


「ホォリィジャケェそやってそぉゆぅた~やろ そゆたや~ろがあ なんでぇえのぉ~」


「あの…」


「チョトねぇ~おふざけしてみた~」


「あの!」


「なんだで?」


 マーク将軍はすぐに列車砲を格納庫に戻すように進言した。

 これ以上、部下の命を奪ったであろう列車砲を見ていられなかった。

 エレクションも邪魔な列車砲はすぐに片付け、戦勝パーティへと繰り出したかった。

 すぐに列車砲の片付けを親衛隊たちに任せ、エレクションとマーク将軍とヤクモの三人は再び軍閥長の部屋へと戻った。


「オラはこれから街の遊郭に行ってくるだで」


 あまりの傍若無人さに声も出ないマーク将軍。

 もしこの男に何の権力も、富も無ければこのような事態は防げたのかもしれない。

 そう思うと何とも言えない、やるせない気持ちになる。


「二人とも付いてくるか?」


「いえ…」


「ヤクモ、お前はどうするだで?」


「失礼、私はまだ仕事が残ってるので…」


 そう言うと、ヤクモは一人部屋を後にした。

 彼は確信していた。

 列車砲などであの三人が仕留められるはずなど無い、と。


「(恐らくあの三人は…)」


 ふとした気まぐれから、彼はそれを確かめたくなった。

 城を出る際に、部下に内密に馬と少しの食糧を用意させる。


「数日で戻る、軍閥長には資料集めだとでも言っておいてくれ」


「わかりました!」


 このシェルマウンドから縮地法を何度も重ねて使い、列車砲の着弾地点を目指す。

 元々彼は縮地法、つまりは一種の瞬間移動の魔法を戦闘に織り交ぜた闘いを得意としている。

 それを馬での移動に応用しているのだ。


「あのメノウという少女がもし、私の思う人物であるなら…」


 ヤクモがそう思いながら馬を走らせる。

 と、その時…


「どうするんだい?」


「…ほう!」


 ヤクモの後ろでよく聞き慣れた声がした。

 振り返る必要もない、その声の主を彼は一瞬で理解できた。

 そして、その声の主が何をしようとしているのかも。

 瞬間移動により声の主から間合いを取りその正面に立つ。


「やはり、生きていましたか…」


「当たり前だ!」


 声の主、それはかつての仲間ミーナ。

 もちろん、メノウとショーナも共にいる。

 あの列車砲の一撃を三人は掻い潜ったのだ。


「ああ、あんなものまで用意してるとは正直思わなかったけどね」


「ふふ、そうですか…」


 ヤクモが静かに笑う。

 ミーナは知っているが、このヤクモという男は戦闘の気配を一切相手に悟らせない。

 逆に言えば、素の状態から一瞬で攻めに移ることができるのだ。

 メノウもこの男が中々の力を持つ男だとは感じている。


「お前さんの目的はなんじゃ?ワシらと戦いたいのか?」


 率直に聞くメノウ。

 これ以上無駄な駆け引きは必要ない。

 そう感じたヤクモは軽く両手を上げ降参のポーズをとる。

 そして静かに語り始めた。


「先ほどの攻撃は全て軍閥長の指令です」


「やっぱりな」


「先ほどの列車砲の砲撃であなた達を仕留めた、そう軍閥長は確信しています。シェルマウンドに行くのなら油断している今がチャンスですね…」


 敵であるはずのヤクモ。

 だが、彼は軍閥長の手の内を晒した。

 さらに彼は、軍閥長が街に待機させていた海軍を撤退させたこと。

 軍全体の士気が下がっていることなどもメノウたちに伝えた。


「…と、何か質問ありますか?」


「一つ聞いていいか?」


「…そこまで話すアンタのメリットは何だ?」


 確かに、軍閥長の手の内を晒してヤクモに得など何もない。

 味方を裏切ることになるのだから。

 だが、その理由についてミーナはある程度は理解していたし、共感もできた。

 それは…


「ふふ、まぁ『好きだけど、嫌いだから』とでも言っておきましょうか…」


「なんだそれ…?」


「まぁ、今はこれだけしか言えません。では…」


 そう言うと、ヤクモは馬と共に姿を消した。

 先ほどまで使っていた瞬間縮地法を使ったのだ。


「何だったんだ、あいつ…」


 南アルガスタ側でありながら、妙な態度と様子だったヤクモ。

 彼もマーク将軍と同じく今の軍閥長には何か思うところがあるのだろう。


「ミーナ、さっきの変なのは誰じゃ?」


「あいつはヤクモ、B基地の司令官さ」


「ということは、この先にB基地があるのかのぅ?」


 メノウがミーナに尋ねる。

 ミーナはヤクモとは既知の仲だが、メノウとショーナはそうではない。

 二人にわかりやすいようにミーナがヤクモとB基地について説明を始めた。


「いや、B基地はヤクモと数人の伝達兵しか所属してない。だから基地もシェルマウンドの城の一室にあるだけさ」


 B基地は軍閥長の参謀や諜報をする役職の者が所属している。

 しかしだからと言ってヤクモの実力が低いわけではない。

 その実力はミーナ以上は確実だという。


「まぁ、アタシは直接戦ったことは無いけど」


「ふーん、じゃあ、あいつより上のA基地司令官ってどんな奴なんだ?」


 ショーナがふと気になりミーナに尋ねた。

 しかし、それを聞き突如彼女の顔色が変わった。

 あのミーナがこうなるとは、A基地の司令官はよほど凄い者なのか…?

 やがて彼女はゆっくりと口を開き始めた。


「A基地か…」


「あ、ああ…」


「A基地に所属しているのはたった一人の騎士…」


「一人だって?」


 それを聞き、驚くショーナ。

 シヴァの率いるD基地はそこそこの兵力があった。

 ミーナのC基地は最大の兵力を持つ基地だったという。

 ヤクモのB基地は元々戦闘が任務の基地ではないため人数が少なくても仕方がない。

 そして最後のA基地は、軍閥長の命令に忠実動く『たった一人の騎士』が所属しているという。

 なぜA基地はたった一人しか所属していないのか?


「なんで一人だけしかいないんだよ?」


「簡単さ、ヤツは強すぎるんだよ」


「ヤツ…」


「強すぎるんだ、南アルガスタ最強の男『黒騎士ガイヤ』は…」



名前:ドン・カッツ 性別:男

恰好:ゾット帝国の軍服

南アルガスタ軍の海軍大佐。

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