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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第6章 王都決戦
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第百二十五話 勝利への賭け!倒せ、ヒィーク・アークィン

 魔王討伐祭の第一試合が始まった。

開始と同時にヒィークが距離を詰め、ショーナに攻撃を仕掛ける。

棍での鋭い突きを数発まともにうけてしまった。

一瞬の速攻に反応が追いつかなかったのだ。


「速い…!」


 思わずそう呟くショーナ。

試合開始とほぼ同時にこの攻撃を喰らってしまったのだ。

眼にもとまらぬ速攻。

前大会優勝者というのは伊達では無い。


「はッ!」


 さらにヒィークが攻撃を続ける。

根と素手ではそもそもリーチに違いがあり過ぎる。

もっと相手の懐に潜り込まねば、ショーナに勝機は無い。


「どうしたー!前回のアンタはもっと速く戦ってただろ!」


「前大会決勝の動きはどうしたの!?」


「一回戦だからって遊び過ぎだー」


 観客からヒィークに対してヤジが飛ぶ。

まだこれでも本気ではないのか、そう考えると若干気が遠くなってくる。

しかしそんな感情を押し殺し、戦いを続けるショーナ。


「メノウ、見えた?さっきの攻撃」


「四回の突きを四肢に、というところじゃな」


「あたしもギリギリでしか見えなかったよ」


 その試合を待機室で観戦するメノウたち。

先ほどのヒィークの攻撃はミーナでも辛うじて認識できるほどのものだったようだ。

ミーナも一応は棒術使い。

しかしあくまでメインの戦術は多節混と素早さで相手を翻弄するというトリッキーなもの。

棒術だけに限るとヒィークには勝てないだろう。


「相手が棒使いってなると近づくのは難しいな」


「ショーナくんは素手だから…」


 素手と混ではどうしてもリーチに差が出る。

それを埋めるための技も無くは無い。

例えば…


「衝撃波で遠距離から攻撃するっていう手もある。だけどこれじゃあな…」


「完全に相手のペースになってるから、それも難しいかも」


 カツミとレオナの言った通り、衝撃波で遠距離から攻撃する方法もできなくはない。

しかし当然ヒィークはその対策も取ってある。

ショーナと一定の距離を常に保ち、戦闘をしているのだ。

これでは遠距離からの攻撃はできない。


「棒が厄介なんだッ!」


 このまま攻撃を受け続けていても、単なるサンドバッグになるだけだ。

しかし反撃をしようにも、ヒィークとの距離は僅か二メートルほど。

衝撃波を打つにも、格闘戦を仕掛けるにも中途半端な距離だ。


「それなら…」


「なにを…!?」


 ヒィークの混を手で掴み、そのまま手元にひきこむショーナ。

とはいえ、そんな安直な策で混を奪われるヒィークでは無い。

多少よろけはしたが、その手から混は離さなかった。

…しかし狙いは混を奪うことなどでは無かった。


「今だ!」


 ヒィークがよろけた瞬間を狙い、一気に距離を詰める。

掴んでいた混を勢いよく手放し、身体のバランスを崩してしまったヒィーク。

その僅かな瞬間を狙ったのだ。

しかし反撃とばかりに、彼はショーナの脇腹に混を叩きつけた。


「エッハァッ!」


 腹から激痛が昇ってくる。

余りの痛さに視界が多色に移ろいでいく。

青、黄、緑、赤、黒…

まるで思考に霞がかかったような妙な感覚。

しかしそんなものでとまるわけにはいかない。


「ラァッ!」


 勢いよくヒィークを殴り飛ばすショーナ。

ここに来て初めて攻撃のチャンスが訪れた。

ショーナ自身も多少ダメージを受けてしまっているが、それを気にしている暇は無い。

一転攻勢、猛攻を仕掛ける。


「ショーナくん、前大会の優勝者相手に善戦してる…?」


 待機室のレオナが思わず呟いた。

先ほどまでとは打って変わっての猛攻。

ヒィークも防戦一方となっている。

一見ショーナが有利のようにも見える。

しかし…


「いや、あの戦い方はマズイのぅ…」


「えっ?」


「確かに攻撃は通っている。じゃが、反撃も受けすぎておる。あれでは後半までもたんぞ…」


 メノウの指摘通り、ショーナはこれまでに攻撃を受けすぎている。

速効で勝負をつけることが出来れば問題は無いが、相手はヒィーク。

それは難しいかもしれない。


「ハァッ!ハァッ…」


 攻撃を続けるショーナだったが、消耗が既に激しくなっている。

息切れが激しくなりスタミナも切れかかっている。

ダメージも確実に蓄積され動きも鈍くなっていた。

 ヒィークは逆に軽やかに攻撃を受け流した。

ある時はあえて受け、ある時は避けている。


「やはりマズいぞぃ」


 メノウの予感は当たっていた。

受けたダメージ、そして疲労によりショーナの体力は限界に近づいていた。

一方のヒィークは攻撃を受けつつも、的確な防御とカウンターにより消耗はそこまで無い。


「うっ」


 今度は逆に攻撃を受け続けることになるショーナ。

既に反撃できる体力は残されていない。


「もう諦めた方がいい。さすがにこれ以上は…」


 ボロボロのショーナに対し、まだ十分戦えるだけの力を残しているヒィーク。

その差は歴然だった。


「まだ勝負は…途中ですよ。止めるわけには…」


 拳を握り、ヒィークに攻撃をするも軽く受け止められてしまう。

混で足を払われ、その場に膝をつくショーナ。


「もう限界に近いはずだ。それ以上やっても無駄に怪我をするだけ…」


「負けちゃいけないんですよ。絶対に…」


「それは僕も同じだよ。応援してくれるみんなを裏切るわけにはいかないからね」


「勝ってアイツに言いたいことがある。だから…!」


「ッ…!」


 体内に残った最後の力を絞りだし、ショーナが最後の攻撃を放った。

衝撃波で攻撃速度を瞬間的に加速させた拳の一撃。

原理はメノウの幻影光龍壊に近い。

当然威力も…


「しまッ…!?」


 ヒィークにとってこれは完全に予想外な攻撃だった。 

まさかこれだけの力がまだ残されているとは思いもしなかった。

とっさに混で防ごうとするが、その一撃の前に砕け散ってしまった。


「な…うわッ!」


 結果、威力を殺すことが出来ぬままヒィークは場外の壁に叩きつけられた。

そしてそのまま堀の水に落下していった。


「じ、場外…!」


 一時間近くにわたる戦いの結果、試合を制したのはショーナだった。

堀の水の中からヒィークがずぶ濡れになって上がってきた。

ケガなどは無いが、場外となれば勝負は敗北となる。


「すいません、ちょっと借りてもいいですか?」


「マイクですか?ええ、いいですけど…」


審判の持っていたマイクを借り受け、ヒィークが観客に語りかけた。


『応援してくれたみんな!僕は負けた!』


 ヒィークが負けたという事実。

それを改めて実感させられる観客たち。

特に彼のファンにとってはより強烈に痛感させられているだろう。


『確かに悔しい、しかしそれと同時に嬉しくもある!』


 そう言ってショーナに手を向ける。

勝者である彼に。


『今は新たな勝者の誕生を、皆で称えよう!』


 それを聞き、ショーナに対し否定的だった者たちも少しずつではあるがその勝利を認めはじめた。

まだ認めぬものもいるが、ある程度は仕方のないことかもしれない。


「最後の一撃、結構効いたよ」


「あ、ありがとうございます…」


「もっと堂々としなよ、勝者なんだからさ」


 そうってショーナの肩をかるく叩くヒィーク。

しかしそれと共にショーナの肩に激痛が走った。


「痛たたたた!」


「だ、大丈夫?」


「すいません、さっきヒィークさんに攻撃した時肩を痛めたらしくて…」


「しょうがない、肩を貸すよ」


「ごめんなさい」


「ハハハ…」


 そう言ってヒィークの肩を借りて、ショーナは試合場を去っていった。

勝者が敗者の肩を借りるという奇妙な光景だった。

この大番狂わせな結果に、会場の観客のボルテージは初戦から大いに沸き立っていった…



--------------------


 退場後、医務室で軽く治療を受けたショーナ。

試合には勝ったが身体はボロボロだった。

その後、大会役員の魔術師から治癒魔法をかけてもらった。

さらにメノウからも同様の魔法を受けた。


「…ありがとう。痛みも引いたよ」


「じゃが、回復できたのは傷だけじゃ。無理はするなよ」


「ああ」


 勝ったというのに、ショーナの顔はどこかすぐれなかった。

どうやらヒィークに勝利したということがいまだに信じられぬようだ。

事実、彼の動きは前大会の決勝戦と比べると若干キレが悪かったと観客からの指摘があった。


「ヒィークは手を抜いていたわけじゃないよ」


 そう言ったのはミーナだった。

客観的にこの試合を見ていた彼女は、ヒィークの戦い方に隠された真の意味を理解していた。


「次の試合…いや、これから戦うであろう全ての試合を見据えた戦い方だったんだよ」


「それってどういう意味なんだ?」


「一つの試合に全力を出し過ぎるのも考え物だってことさ」


 仮に一回戦を勝ち抜いたとしても、次の戦いで負けては意味が無い。

今回の試合、ヒィークは『優勝』のための戦法をとっていた。

一回戦から手の内の全てを出すと、後々戦う際に対戦相手に対策を取られてしまう。

また、力を出し過ぎると次の試合でその反動が来るかもしれない。


「一回戦で全力を出すと後で不利になる。だからあえて加減していたんだ」


 ヒィークの戦い方をミーナはそう分析した。

先の戦いを見据えた堅実な戦い方をしたヒィーク。

一方、それとは逆の戦い方をショーナはしていたのだ。


「逆にショーナの方はダメージ覚悟で試合を進めていた。ヒィークもそんな戦いを仕掛けてくるとは思わなかったんだろうね」


 完全に予想外の戦法で戦いを挑んできたショーナ。

それに対し虚を突かれた形となったヒィーク。

家庭はどうであれ、勝利したのはショーナだった。

これで二回戦にコマを進めることが出来た。

・クイック光龍壊

【使用者:ショーナ】

破壊力:C タイプ:衝撃

ショーナがとっさに使用した『幻影光龍壊』の簡易技。

貫通力は低いが威力は高い。

人体程度なら軽く吹き飛ばすほど。

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