第百二十四話 ショーナvs英雄と呼ばれた男
今年(2018年)こそ裕P先生は復活するのでしょうか?
そしてこの小説は完結するのか?
エキシビジョンマッチが終わり、一旦試合開始までの待機時間が設けられる。
一時間後にさっそく第一試合が始まるという。
最初の試合はショーナが戦うことになった。
待機室でそのことを係員から聞かされたメノウたち。
「ショーナ、最初の試合はお主らしいぞ」
「あ、ああ…」
しかしその表情はどこか暗い。
初戦ということもあり、緊張もあるのだろう。
しかし理由はそれだけでは無い。
「暗い!お主暗いんじゃよ~!」
「い、いやぁ…」
「しょうがないよメノウちゃん。だってショーナくんの相手って…」
ショーナの相手、それは前大会の優勝者であり東アルガスタ予選を突破したあの人物…
英雄『ヒィーク・アークィン』だった。
今大会でも優勝候補の一人であり、その実力は参加者の中でも間違い無く最高クラスと言われている。
レオナが言うとおり、こうなってしまうのも無理は無いと言える。
「ちょっといいですか?」
「ええ、いいですよ」
メノウ達の会話の途中、誰かが待機室のドアを叩いた。
レオナが返事をし、その人物が入ってきた。
「おお、灰色の!」
「どうも、メノウさん」
部屋に入ってきたのは灰色の少女、グラウ・メートヒェンだった。
彼女は北アルガスタ予選を勝ち抜いている。
相変わらず灰色のローブを身に纏ってお顔を隠していた。
そのため、彼女の素顔をみることはできなかった。
「グラウ!そういえばお前も参加者だったっけ」
「ええ…」
「ショーナくん、この子は…?」
レオナがショーナにたずねた。
グラウのことを知っている者はあまりいないのだ。
「メノウの知り合いだって」
「よろしくね、グラウちゃん」
「え、えぇ。よろしく…」
そう言われ、レオナに軽く挨拶をするグラウ。
グラウにとって彼女のようなタイプは少し苦手らしい。
レオナも参加者であるため、もしかしたらグラウと対戦することになるかもしれない。
「メノウさん、今回の大会は例年より高レベルなものになりそうですね」
「そうじゃな」
「…いろいろな意味で、ですが」
「灰色の、お前さんは勝ち残る自信はあるのか?」
「ええ。一応は」
「ふふふ、そうか」
グラウの言葉を聞き、軽く笑みを浮かべるメノウ。
この部屋にいるのはメノウを除いた三人ともが大会の参加者。
誰にも負けてほしくは無いが、優勝者は一人。
ここにいる者が勝つのか、それとも他の者が勝つのか…?
と、その時…
「クッソ!あの野郎!」
「大丈夫かい?ケガとかある?」
ドアを勢いよく開け、部屋に騒々しく入ってくる二人の少女。
先ほどのエキシビジョンマッチでジードに敗れたカツミとそれを迎えに行ったミーナ。
その二人が戻ってきたのだ。
試合場の周囲にある堀に叩き落とされたせいで、カツミは全身ずぶ濡れになっている。
身体を痛めたのか、ミーナの肩を借りるように歩いていた。
「いや、ケガとかは無い…」
「そう、よかった」
「ありがとうな。ただ少し痛みが…」
ケガはないが少し痛みが残っているらしい。
待合室の椅子にゆっくりと座るカツミ。
「大丈夫じゃったか?カツミ」
「ああ、まぁな。少し体を打った程度だからすぐに治るよ」
「そうか…」
「ちょっとまった!」
カツミと話すメノウの間に割って入るミーナ。
その手には包帯などが入った薬箱があった。
「カツミのそのケガ、包帯でとめておいた方がいいよ」
「そこまでしなくてもいいって。勝手に治るさ」
「一応しておくに越したことはないって」
「…まぁそうだけど」
「それに濡れた服脱いだ方がいいよ。風邪引いちゃうから」
「そうだな、濡れてびしょびしょだし…」
さすがにこの場に居るのは少し気が引ける、そう考えたショーナはこっそりこの場を抜け出した。
それについて行くように、何故かグラウも部屋から出て行った。
「ショーナのやつ、出ていきおったわ」
「別にあたしは気にしねーんだけどなーそういうの」
そう言うメノウとカツミ。
ミーナとレオナは一緒に薬箱を準備している。
「そういえばさっきの灰色の小さいヤツって誰だよ?」
「そうか、カツミは知らんのじゃな」
カツミは灰色の少女グラウを知らない。
奇妙な風貌ながら他の者たちとも打ち解けている感じがする辺り、悪人でないことは分かった。
メノウに彼女のことを一通り聞き、カツミが頷く。
「はぁ~なるほどな」
「何故かいつも顔を隠しておる。妙なヤツじゃな」
「ふーん…あ痛ッ!」
「あ、ごめんなさい!」
「ははは、いいよいいよ。大丈夫」
カツミの手に包帯を巻いていたレオナだったが、うっかり患部にさわってしまった。
「あの灰色の…グラウって言ったか」
「そうじゃ。どうかしたか?」
「いや、別に…あ、包帯ありがとうな!」
「いえ、このくらい…」
レオナに軽く礼をいい、椅子にもたれるカツミ。
彼女はグラウに対し、ある妙な感覚を抱いていた。
「(アイツ…どこかで会ったような…?)」
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ショーナと共に部屋を抜け出したグラウ。
二人は少し離れた場所にある、参加者の休憩所にいた。
給水器から水を取り、それをグラウに手渡すショーナ。
「はい、水」
「ありがとう」
「別にグラウまで部屋を出なくてもよかったんじゃないか?」
「人が多いのは苦手なんだ」
「そうなのか」
そう言いながら、先ほどとった水を飲むショーナ。
その態度はどこか落ち着きのない感じだ。
初戦で彼が当たる相手があのヒィークであることがやはりプレッシャーになっているのだろう。
「不安なのか?」
「えッ…?」
「勝てるかどうか」
「そりゃそうだよ。だっていきなり以前の大会の優勝者が相手なんて…」
大会参加前は優勝すると言って見せたショーナだが、やはりいざとなると不安が先行してしまう。
例えば、もしヒィークとの大戦が初戦では無く決勝ならばまだ覚悟が決まったかもしれない。
しかし、初戦で当たるというのが大きなプレッシャーとなっているのだろう。
「あまり深く考えず戦った方かいい。相手だって同じ人間なんだ、勝てない相手ではないはず」
「そうだけど…」
ショーナには負けられない理由がある。
この大会を勝ち残り、メノウに想いを伝えたい。
しかし…
「いきなりヒィークさんが相手なんて…」
そう言い、頭を抱えるショーナ。
「…あの人ならそんな風には考えないと思う」
「…あの人!」
グラウの言葉を聞き、先ほどまでの悩みが嘘のように吹き飛ぶ。
濃い霧が晴れていくかのように。
と、そこに…
「ショーナ!」
メノウが叫んだ。
はっきりとした瞳でショーナを見据える。
それに答えるようにショーナも言った。
「メノウ…!」
「お主の考えていることなど手に取るようにわかる。やはりまだ悩んでいたようじゃな」
「まあな。けど…」
彼のその表情と声でメノウは確信した。
励ましの言葉でもかけてやろう、そう思っていたがそれは不要らしい。
「…勝てよ!」
「ああッ…!」
そう言ってショーナは試合場へと向かった。
対戦相手であるヒィークの待つ場所へと。
試合場に降り立ち、既に待っていたヒィークと対峙する。
「来たね、ショーナくん」
「ええ」
会場は既に大勢の観客による熱気に包まれていた。
ヒィークに声援を送る彼のファンたち。
前大会優勝者に挑む少年ショーナをあえて応援する者。
勝敗自体に興味は無いのか、ただ勝負を静観する者…
「知り合いだからと言って容赦はしないよ」
「こちらこそ」
そう言って同時に構える二人。
ヒィークは予選でも使用していた棒術用の棒を持っている。
リーチではあちらに分がありそうだ。
「試合開始!」
審判の声が高らかに響き渡った。
魔王討伐祭の本戦、その第一試合が始まった…!




