第百二十三話 開幕、討伐祭!
ゾッ帝の原作の再開が先か、この二次小説の完結が先か…
どっこいどっこいですね、どっこいとどっこい。
開会式前夜の舞踏会が終わり、その翌日となった。
日は昇り、ゾット帝国の中央都市であるこの王都ガランが朝の日に包まれる。
その朝日が告げるのは新たな時の始まり。
そして…
「いよいよ討伐大会の本戦じゃな」
「そうだな」
部屋に差し込む朝日を見ながら、メノウとカツミが呟いた。
この時のために、メノウは仲間と共にゾット帝国中を駆け抜けてきた。
魔王教団の脅威から大会を守るために。
「カツミ、準備はできているかのぅ?」
「アタシはいつでも大丈夫だ」
そう言いながら私服の上から濃い灰色のジャケットを羽織るカツミ。
彼女にしては随分ラフな服装だが、最近はいつもこのような格好らしい。
袋に着替えなどを詰め、準備は万端のようだ。
「そうか」
手短に身支度を済ませた二人。
宿泊している王城を出て、本戦が行われる会場へと向かう。
会場は王城から少し離れた位置にある闘技場を使用する。
外装などは現代風に改装されているが、実際に戦いの舞台となる試合場は昔のまま。
固められた土の敷かれたシンプルなフィールド。
そしてその外周に造られた深い水のたまった堀。
「あの堀に落ちるとリングアウトで負けなんだよ」
「ほう、予選とはルールが少し変わるのか」
「そうみたいだぜ」
「もう観客も入っておるのか」
「らしいな」
既に会場は多くの客で溢れかえっていた。
広大な敷地に巨石を用いて造られた、古代から残る闘技場。
東アルガスタ予選で使われていたスポーツ競技用のスタジアムの数倍の規模はあるだろう。
「ショーナ達は先に来ているみたいじゃ」
「わかるのか?」
「まぁの。あっちじゃな」
「運営の方か」
メノウが指差したのは大会運営の本部、兼選手の待合場だった。
人ごみをかき分けそこへと向かう。
試合場が一望できるような、少し小高い場所に造られた待合場。
参加者がすぐに試合会場に行けるよう、試合場に直結した通路も造られている。
裏から入り、ショーナの気配のする部屋に入った。
「ふう、やはり人が多いのぅ」
そう言いながら待合場へと入るメノウとカツミ。
メノウの言った通り、そこにはすでにショーナとレオナがいた。
二人は共に南アルガスタ予選を勝ち抜き、本戦への参加資格を得ている。
昨日、同室で泊まったので、二人でそのまま来たのだろう。
「おいーす、来たぞショーナ」
「おっす、メノウ」
「どうじゃ、調子は」
「最高のコンディション、これならいけそうだぜ」
軽く挨拶を交わす二人。
参加者の待合室というだけあり、他にも数名の参加者がいた。
本戦に出場できるのは十六人。
他にも待合室は何個かあるので、そちらにも何名かいるのだろう。
一方、カツミはレオナと話していた。
「アンタも結構やるみたいだな」
「いやぁ、それほどでもないですよ」
と、その時、扉を開けこの本戦に出場する選手が入ってきた。
それは…
「よッ!メノウ、ショーナ!」
「おお、ミーナか!」
「アタシも南アルガスタの予選勝ち抜いたからな」
南アルガスタ予選を勝ち抜いたのはショーナとレオナ、そしてミーナ。
しかし突破したのは四人ときいている。
あとの一人は…?
「なんや、南アルガスタ予選勝ち抜いたんはお前らやったんか!」
ミーナの後ろから現れたのは、かつて『紅の一派』とよばれる組織を率いていた男、サイトウだった。
紅い桜柄の半被を羽織り、腹に桃色の腹巻を巻いている。
下は大工が穿くような黒いズボンで黒い足袋に草履、数年前に会った時と似たような服装だった。
「お、確か紅の一派のサイトウ…と言ったか」
「サイトウ、てめーあのときは逃げて決着つけられなかったな。ここで戦うか?」
レオナと談笑していたカツミがそう言って彼の前に立ちはだかる。
その気迫に押されながらもサイトウが口を開いた。
「あんときの緑色のガキに朱色の…!お前らも出るんか?」
以前メノウとカツミは彼の組織のアジトに殴り込みをかけたことがあった。
サイトウは剣技の他に一通りの格闘技にも精通している。
しかしその腕はメノウたちには劣る。
「あ!?アタシは出ねーよ!」
「ワシもじゃ。単なる付添いで来たのじゃ。この大会には出んぞ」
「なんや、そうやったか。それならまだチャンスはあるな」
そう言って不敵な笑みを浮かべるサイトウ。
しかし、それに対しミーナが反論する。
「ちょっとおっさん!アタシも一応参加者なんだけど?」
「なんや、単なる応援団かと思ったわ」
「ここにいるヤツはメノウとカツミ以外、みんな予選突破してるんだよ」
「ほぅ、こりゃ驚いた!全員ガキやんけ!」
「ガキだと思って舐めると後悔するよ」
「後悔させてみろや、ハハハ!」
そう行ってサイトウは部屋から出て行った。
『他の参加者の顔も一通り見ておく』、そう言いのこして。
「あの男も出場するのか…」
「メノウ、アイツは魔王教団と関係あるのかな?」
「魔力は感じなかったから関係は無いじゃろうな…」
小声で訪ねてきたショーナに対し、同じく小声で返すメノウ。
ふと、待合場の窓から外を見ると既に開会式が始まっているようだった。
大会参加者は出る必要のないため、窓から軽く眺める程度にしておいた。
ルビナ姫とルエラ姫の挨拶に始まり、多数の来賓が高台にのぼり挨拶などをしていく。
「あ、マーク将軍だ」
その中には南アルガスタの将軍であるマークの姿もあった。
メノウも何度かあったことはある人物だ。
しかしメノウは、別の『ある人物』が気になっていた。
「あの男は…?」
それはマーク将軍の後に挨拶と話をした男だった。
どこか他の人物とは違う、浮いたような雰囲気をしたその男…
「ああ、アイツは摂政の『フィゼリス・ウェスカー』だよ」
ブロンドの髪、そして政治家とは思えぬほどに鍛え上げられ洗練された肉体。
その眼光はまさに戦士のそれだった。
スーツの上からでも、その身体の動きだけでそれを認識することが出来た。
「せっしょう…?なんじゃそれは、ショーナ?」
「かんたんに言えば、国のトップが仕事をできないときに代わりに政治の仕事をする人のことさ」
「ほう…」
「まぁ、摂政っていっても今のゾッ帝には仕事は無いけどな」
姫たちの父親に当たる国王はとくに不調なども無く健在だ。
摂政であるウェスカーの出番は無い。
もっとも、摂政という仕事以外にもゾット帝国軍の高官及び、ゾット帝国親衛隊の隊長という地位もある。
現在はそちらの仕事を主としており、摂政というのは万が一の時のための役職に過ぎない。
「マーク将軍よりもさらに上のくらいの人だよ」
「ほう」
ウェスカーの話も終わり、これで一通りの来賓の話が終わった。
それと共に第二幕が上がる。
討伐大会の本戦を記念して行われるエキシビジョンマッチが行われるのだ。
「前座の試合じゃな」
このエキシビジョンマッチについては事前にメノウ達の耳にも届いていた。
メノウたちの中から誰か一人を代表として選び、エキシビジョンマッチで戦って欲しい。
…という要望がルビナ姫からあったからだ。
元々予定していた人物が数日前に身体を痛め、出られなくなってしまったらしい。
そこで、カツミが代わりに出ることとなったのだ。
「じゃあいってくるよ」
「がんばれーカツミー」
「おう」
そう言って試合場にでるカツミ。
この開幕式で行われるエキシビジョンマッチ。
国が招いた二人の戦士が余興として勝負をするのだ。
大勢の観客に見守られながら。
「アンタがアタシの相手かい?」
「…そうだ」
カツミの前に現れたのはスキンヘッドの長身の男。
今時珍しい辮髪、そして黒い装束を身に纏っている。
銀色のピアスに、金の腕輪。
足にも金のバングルが嵌められている。
野生の獣のように鋭く、それでいて確かなる視線。
カツミが思わず気圧されそうになるほどだ。
「一応聞いておこう、名は?」
「ジードだ」
「…アタシはカツミ。それじゃ、手合せ願おうか!」
試合開始の合図とともに、カツミが対戦相手であるジードと名乗る男に対し攻撃を仕掛ける。
この流れは彼女の得意とする戦術パターンだ。
一気に距離を詰め、速攻を仕掛ける。
並みの相手であればこの一撃だけで勝負が決まるほど。
しかし…
「ふん…!」
カツミの放った掌底の一撃を難なく受け止めるジード。
だがここまでは彼女もある程度想定していたこと。
この攻撃パターンはある程度の実力を持つ相手には通用しない。
ジードに対しても最初から通用するとは思っていなかった。
「ッ!」
突然、その身を大きく捻り身体のバランスをわざと崩すカツミ。
掌底を掴んでいたジードも完全に想定外の行動に、一瞬の隙が生まれた。
そこを突き、手を地につけながらの蹴りをジードの顔めがけて放った。
「うぐッ…!」
この攻撃自体は大したダメージでは無い。
しかしカツミは今、序盤の戦闘の主導権を握っている。
勝負はその『流れ』を掴んだものが勝利する。
その流れを先に掴んだのはカツミ、そう思われたが…
「甘い!」
顔面に放たれた蹴りをさらに腰を後ろに捻ることで避けるジード。
反撃の蹴りをカツミの腹に叩き込んだ。
「グッ…!」
距離を取り、体勢を立て直す二人。
勝負は一見互角にも見える。
しかし、実際はそうでは無い。
「こいつ、滅茶苦茶強い…!」
全てのダメージを最小限に抑えているジードに対し、カツミはことごとくその攻撃を受けてしまっている。
大きなダメージこそないものの、これは悪手だと言える。
「あの技を使うか…?」
この戦いはエキシビジョンマッチ、見世物的要素の強い前座の戦いだ。
できれば見栄えの悪い技は使いたくない、というのがカツミの本心だ。
しかしそんなことを言っている場合では無い。
このジードという男は強い。
出し惜しみをしていたらまず間違い無く勝てない。
「これの技で沈め!」
そう言ってカツミがジードに向けて突進する。
見栄えは悪いが、一撃必殺の威力を秘めたこの技を放つために。
しかし…
「開陽の…ッ!」
「悪いがそれを受けるわけにはいかないッ!」
超高速でカツミの背後を取り、その彼女を勢いよく投げ飛ばした。
地に勢いよく叩きつけられ悶絶してしまう。
立ち上がり、反撃を試みようとするも時既に遅し。
今、彼女が立っていたのは…
「試合場の端…!」
「そうだ!」
放った衝撃波に吹き飛ばされ、堀の壁に叩きつけられるカツミ。
そのまま彼女は堀の水の中に落ちていった。
エキシビジョンマッチの勝者、それはジードだった。




