第百二十二話 カツミとメノウ 二人の再会
カツミは数年前よりも当然強くなっています
舞踏会を襲撃したヤクモ。
それを撃退したのはかつてメノウと共に旅をした少女、カツミだった。
踊り子に紛れ、会場にいたらしい。
人ごみをかき分け、メノウが前に出る。
「カツミ!」
「メノウか!何年ぶりだなぁ!」
「会えてうれしいぞ~」
そう言ってカツミに抱きつくメノウ。
数年前までは少ししかなかった二人の身長差。
しかし今ではそれがはっきりと表れてしまっている。
頭一つ分かそれ以上は身長差がある。
成長したカツミに対し、メノウは以前とほとんど変わりない。
「ははは、お前は相変わらずだなぁ!」
「まぁの」
しかし再会を喜んでいる暇もない。
いまのヤクモの襲撃に対し不安を覚えた舞踏会の参加者たちから不安の声が上がる。
「今のあの男は何なんだ!?」
「警備は完璧だと聞いたのに…!」
「どういうことだ!責任者を出せ!」
彼らのいうことももっともだ。
侵入者に対し万全の対策をしていたはずが、それを許してしまったのだから。
結果的に被害は最小限に抑えられたものの、敵を侵入させ参加者たちを危険にさらしてしまったのだ。
場合によっては主催である王族の名に傷が付きかねない。
そんな中、彼らに対しシャムが言った。
「みなさん、いかが…大丈夫でしたか?ケガはありませんでしたか?」
「ん!?」
「いや~実はですね…」
今の戦いは主催者側が用意した『余興』であり、これも演舞の一種。
戦っていた二人もあくまで役者に過ぎない。
シャムは咄嗟にそう言ったのだ。
当然、即興で言い放ったでまかせ。
ハッタリだ。
しかし、あまりにも堂々と言ったこと。
そして彼が北アルガスタの高官であることを知っている者が客の中にいたことが幸いした。
「あれが余興…ですか」
「ちょっと過激すぎるような…」
「でもけが人は出なかったわ」
「それはそうだが若干やり過ぎな気もするがね」
一応は『余興』というごまかしは通じたらしい。
とはいえ、納得のいく者、そうでない者がいる。
しばらくスタッフと参加者間での小競り合いが続きそうだ。
それを見越したシャムはこの場を自分にまかせ、メノウ達に一旦下がるように言った。
「また後で…あいましょう」
「お、おう!」
この場は一旦シャムに任せ、メノウ達はその場を離れることに。
以前通された警備用の別室に足を運ぶ。
メノウとショーナはこの部屋を知っているが、レオナはそうでは無い。
カツミもそうだ。
「メノウさん!敵の襲撃があったと聞きましたが大丈夫でしたか!?」
この部屋は警備要員の待機部屋として使用していた。
しかし、今は敵の襲撃もありほとんどの人員が出払っていた。
数十名は入れる広間にいるのは数名の警備員と魔術師のスートのみ。
「舞踏会場に侵入してきたヤツは追い払った。参加者に被害も無い」
「そうでしたか…」
それを知り、胸をなでおろすスート。
とはいえ侵入されたのは事実。
安心はできないが、最悪の事態だけは避けれたことは素直に喜ぶべきだろう。
「他のところに被害はありませんか?スートさん」
「他にも数名の侵入者がいたらしく、いま他の人たちが追っています」
ショーナの問いに対しスートがそう答えた。
侵入してきたのはヤクモだけではないらしい。
会場で起こった出来事をメノウがスートに話し、彼がそれを紙に纏めていく。
「なるほど…」
「奴の持っていた札も回収してある。一応調べた方がいいかもしれんな」
「ええ、そうしましょう」
ヤクモがばら撒いた札の一部を受け取るスート。
調べれば何か出てくるかもしれない。
しかしスートには、別に気になることがあった。
「そういえば、そこのお二人は?」
スートがレオナとカツミに視線を移す。
それを受け、一旦あらためて自己紹介をすることにした。
バラバラに集まってきた者もいるため、互いに相手を知らない者もいる。
ここで紹介しておいた方が何かと便利だろう。
「とりあえず紹介しておくよ。アタシの名はカツミ。王女サマから依頼されてあの中に紛れてたんだ」
所在がなかなかつかめず、このような形で防衛に参加することとなったカツミ。
ゾット帝国が彼女の所在を知ったのはほんの一週間ほど前だったという。
そんなカツミにレオナやスート、ショーナが挨拶を兼ねた自己紹介をしていった。
「以前メノウから話は聞いていました。よろしくお願いします」
「アタシもあんたのことは聞いてるよ。頼りにしてるぜ」
そう言い互いに握手を交わすショーナとカツミの二人。
二人ともメノウを通して話くらいは聞いていたものの、実際に会って話したことは無かった。
話に聞く相手に会うというのは、どこか感慨深いものがる気がした。
「いろいろと話したいことがあるが、それは後だ。まずは魔お…」
カツミがそこまで言いかけた時、ショーナが彼女の手を掴んだ。
「すいません、ちょっと…」
「な、なんだよ!?」
そしてそのまま彼女に小声で話しかけた。
「…魔王教団のことは、この場では黙っておいてもらえないですか?」
「どうしてだ?」
「あいつには…レオナには黙っておいてほしいんです」
レオナは今回の敵が魔王教団とその眷属であるということを知らない。
先ほどのヤクモの襲撃も、別の過激派組織や犯罪組織の物と認識しているはずだ。
彼女に心配はかけたくない、そう考えてのことだった。
「…ああ、わかったよ」
「…二人ともどうしたの?」
「あ、ああ。今後のことについてちょっとな…」
「情報は共有しておいた方がいい、だろ?」
「ふーん」
問い掛けるレオナに対し、二人は無難な返事を返した。
それに納得したのか、レオナもそれ以上の詮索はしなかった。
と、その時部屋の扉が勢いよく開いた。
ヤクモや彼の仲間を追っていた者たちが戻ってきたのだ。
「スートさんすまねぇ!逃がしちまった!」
「あいつら速すぎる…私たちじゃ追いつけなかったよ」
そう言って入ってきたのは、ウェーダーとアズサ。
ヤクモたちを追跡していたが、途中で振り切られ彼らを見失ってしまったという。
「ヤツは縮地の達人じゃったな…」
ヤクモは縮地が使える。
それを追うのは至難の業だ。
「いや、今は被害が無かっただけでも良しとしましょう」
「本当にすまねぇ…」
「いえいえ…」
侵入こそされたものの、被害は最小限に抑えることが出来た。
怪我人も出ず、舞踏会場が少し壊れた程度だ。
とりあえず警備は成功と言えるだろう。
しかし、メノウの心には何か引っかかるものがあった…
「(何かがおかしいのぅ…?)」
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舞踏会が終わり数時間が過ぎた。
その後も警備は続けたが特に問題は起こらなかった。
敵の襲撃は、先ほどのヤクモだけだった。
「夜は警備しなくてもいいのか?」
「交代制じゃぞ」
「ふーん」
城にある客の宿泊用の小部屋に泊まることになったメノウとカツミ。
豪華な家具が置かれた小奇麗な部屋だ。
少し落ち着かないが気になるほどでもない。
二人ともベッドに腰掛けつつ数年ぶり、久々の談笑をしていた。
「いやー、旅してたら王女サマの使いから『来てくれ』って言われてさー」
「みんなそうじゃよ。にしても、来るの遅かったのぅ」
「いろんなところ行ってたからなぁ。王女サマもアタシの足取り掴むの大変だったんだろうぜ」
「ほぅ」
「数年前の戦いの後、いろんなところ行ったんだ」
この数年でカツミはゾット帝国内を旅して回ったらしい。
東西南北、様々な場所を見て回った。
メノウと出会うまでは盗賊をして生計を立てていたが、今は足を洗ったという。
「さっきのレオナって子は誰だ?ショーナと一緒にいた…」
「ショーナの幼馴染じゃよ。討伐大会の予選を勝ち抜いたのじゃ」
「おおー、すげー」
「カツミは大会に出んのか?」
「アタシはそう言うのに興味ないからな」
「ふふ、ヤマカワが言った通りのこと言いおるわ」
そう言って笑う二人。
こんな風に話し合うのはとても久しぶりだ。
と、そこでカツミがある話を切り出した。
「そういえば…さ」
「なんじゃ、カツミ?」
「メノウ、お前さ、ツッツのヤツとは会ったか」
数年前、メノウと共に旅をした少女ツッツ。
敵にさらわれ、カツミと入れ替わるような形で一旦離脱。
その後いろいろあり、大羽との戦いの後に東アルガスタの病院にカツミとメノウと共に入院していた。
メノウの退院後もしばらくは意識を取り戻さなかったらしいが…
「いや、会っていないのぅ」
「そうか…」
「じゃが、どうして…?」
「ああ、お前には詳しく話していなかったな…」
カツミによると、メノウが東アルガスタの病院を退院して数週間後にツッツも意識を取り戻したらしい。
その後、彼女はしばらくの間開陽拳の修練上である寺院で療養をしていた。
カツミ、くヤマカワと共に。
「で、その間ツッツのヤツにリハビリがてらに開陽拳の修行をしていたんだ」
そして修行を初めて数か月後、ツッツは姿を消した。
「メノウ、お前に会いに行くって手紙を残してな」
「ワシに…?」
「今から二年ほど前の話だ…」
そのような話など聞いたことが無かった。
そしてツッツのことも。
「会ってないってなると、今頃アイツ何してんだろうなって思ったんだよ」
「…ツッツ」




