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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第6章 王都決戦
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第百二十話 疾風呼ぶ舞踏会


 

 魔法で疑似的に成長したメノウと踊ったショーナ。

踊り終えレオナの元に戻ることに。

メノウも連れて行こうとしたのだが、人ごみの中ではぐれてしまった。


「さっきの女の人、踊り上手だったね。プロの人かな?」


 そう言うレオナ。

先ほどの女性の正体はメノウなのだが、魔法で変化していたためレオナには分からなかったのだろう。

話すと長くなるので詳しくは話さないでおくことに。


「ちょっと無理矢理だったからあせったよ」


「ふふふっ…」


「はははッ!」


 軽く笑うレオナと、それにつられて笑うショーナ。

と、そこでショーナはあることに気が付いた。

先ほどまで彼女と一緒にいたであろうシャムがいなくなっていたのだ。


「あれ?シャムさんは?」


「食事をとりにいくってさっき言ってたけど…おそいわね」


「ふーん」


 どうやら少し前に食べ物を取りに行ったきりらしい。

軽く会話をし合ううちに、会場の前の方で別の踊りが始まった。

主催者側が用意した踊り子による演舞だ。


「なんか雰囲気違う気がするなぁ…」


「この舞踏会自体、あまり格式高いものじゃないからね。喜んでる人も多いし、私はいいと思う」


露出の高い衣装を身に纏った踊り子たちの舞。

若干雰囲気に合わぬが、レオナの言うとおりこの舞踏会自体格式高いものではない。

いわゆる『成金』なども参加する社交界のような物。

エンターテイメント性が多少求められるのも仕方は無い。


「これが終わったら次は東洋風の踊りが披露されるみたい」


「ふーん…あ、シャムさんたち戻ってきた」


 両手に料理の入った皿を何枚も持ち、こちらに歩いてくるシャム。

その後ろには何故かメノウもいた。

彼女も皿に盛られた料理を何枚か持っていた。

様々な料理が滅茶苦茶に盛られた、サラダボウル状態の皿がたくさん。

立食形式のパーティーではあまりマナーの良い光景ではない。


「いやーちょっとね、とり過ぎましたね。はい」


「だからと言ってワシに持たせんでもいいじゃろうに…」


「あ、シャムさん!メノウも一緒か!」


 メノウは先ほどの大人の身体から元の身体に戻っていた。

服装も先ほどまでの物とは違う、緑色を基調とした動きやすそうなドレスに着替えていた。


「そこで会ったのじゃが、この通りじゃ」


「今日はシャドもいませんからね、ええ。ちょうど良かったですよ」


「じゃが、こんなに喰いきれるのか?」


「…あ、そこまで考えて無かった」


 美味しそうな料理ばかりを取ってくることばかりを考えていたシャム。

そのため、実際に食べるという所までは気が回らなかったらしい。

メノウに持たせている分も合わせると、とってきた料理はかなりの量がある。


「もしよければ、みんなで食べてもらえればなぁと…」


「しょうがねぇなぁ…」


 このまま残すわけにもいかないので、シャムがとってきた料理を皆で食べることに。

しかしほとんどが麺やパンなどの炭水化物系や肉類など。

よりによって油や香料を多く使った、味のくどく重いものばかり。

すべて食べるのの人数がいてもきつそうだった。


「はい、これ」


「これは…クッキーにアイスクリームが乗っておる…」


「バニラクッキーです」


「バニラクッキー…」


 メノウが小声で呟く。

それと共に、会場の前方で行われていた演舞が終わり東洋風の演舞に切り替わる。

先ほどの演舞の際よりも、勢いのある音楽が流れ始め演舞が開始された。

会場は盛り上がっているのだろうが、それとは逆にメノウのテンションは妙に暗かった。

それには理由がある。


「メノウちゃん、メノウちゃん」


「なんじゃレオナ?」


「シャムさんの爪に…」


「あっ…」


 レオナの言葉を聞き、メノウの顔がまるでこれから処刑される囚人のような、絶望感に包まれた顔になっていく。

しかし一度受け取ってしまった物は仕方が無い。

そのまま口に運ぶ。


「…だいたい味は想像できるけどね」


「そうじゃな。想像通りの味じゃ…」


 メノウ達に料理を渡したシャム。

自身も持っている別の料理に口をつけようと、銀のフォークを右手に持つ。

とってきた焼肉を食べるのだろう。

しかし上手く力が入らなかったのか、フォークを食器の上に落としてしまった。


『キィンッ……!』


 金属と陶器のぶつかった、嫌な音が辺りに響き渡った。

当たり所が悪かったのかその音は無駄に響いてしまったらしい。

周囲の人々が何事かとメノウ達に視線を向ける。


「ははは、申し訳ありません。ちょっとフォークを落してしまって…」


 頭を掻きながら周囲の人々に言うシャム。

演舞を見ていた人にも聞こえていたらしく意外と多くの人々に聞こえていたようだ。


「ははは…」


 乾いた声で軽く笑うシャム。

と、その時…


「うわッ!?」


「な、なんだ!?」


「いったいこれはどういうことなんだ!」


「だれか灯りを…」


 突然、会場の照明が落ち辺りが暗闇に包まれた。

困惑する参加者たち。

演舞の演出なのかと思いきや、前方の踊り子たちからも戸惑いの言葉が聞こえる。

どうやら演出などでは無いようだ。


「メノウ、灯りつけられるか?」


「すまん、光系の魔法は照明弾くらいしか使えんのじゃ」


 以前、遺跡の調査をした際もメノウはわざわざ松明を作っていた。

以外にも光を長時間発生させるだけの魔法というのは使えないらしい。


「ふふふ…」


 その時、前方の演舞台から何者かの声がした。

演舞台に立つ『何者か』が辺りを照らす照明魔法を使い、その周囲一帯のみが光に照らされた。

そこに立っていたのは…


「奴は…ヤクモ!」


「元南アルガスタB基地隊長のか!?生きていたのか!」


「そうじゃ、今は魔王教団にいるみたいじゃ」


「魔王教団…」


 照明に照らされたヤクモに視線を移しつつシャムが呟いた。

辺りか背何事かと騒ぐ中、ヤクモがゆっくりと口を開き始めた。


「みなさん、本日はご集まりいただきありがとうございます」


 意味深な笑みを浮かべながら、懐から数十枚の札の束をとりだすヤクモ。

そしてそのうちの一枚を会場の壁に投げつけた。

何の変哲もないただのカード…というわけではない。


「あのカードは…!」


 メノウは以前、あのカードを見たことがあった。

あれは単なるカードでは無い。

何かにぶつかると小爆発を起こすカード型の爆弾のようなものだ。


「ヤクモ!」


「メノウ…!俺も行くよ!」


 人ごみをかき分け前に出るメノウとショーナ。

しかし思ったよりも人が多く前に出ることが出来ない。

それをあざ笑うかのように、ヤクモは爆裂札の投擲により会場を恐怖に陥れていく。

一枚一枚は爆竹ほどの爆発しか起こさない。

だが、複数枚が合わさればコンクリートの壁くらいなら軽く割ることが出来る。


「次は大きな花火を上げましょうか…」


 ヤクモの視線は演舞台の横にあるガラス製の竜の像へと向けられた。

それに狙いを定め、数枚の爆裂札が放たれた。


「んッ…!?」


しかしそれが像を破壊することは無かった。

像に直撃する寸前で、『何か』によって札が切り裂かれたのだ。


「メノウ、何かしたか!?


「いや、ワシは何もしておらん」


「じゃあ一体…」


「この気配は…まさか…?」


 先ほど札が爆発する寸前、メノウは変な気配を感じた。

魔王教団の魔力などでは無い。

とても久しぶりに感じる気がする。

その気配を…


「なんだよ危ねぇなぁ~」


「…貴女は」


「久しぶりだなヤクモさんよー」


 そう言って演舞台の隅から前に出てきたのは、一人の踊り子の少女だった。

ヤクモは彼女を知っているようだった。

それも当然のこと。

何故なら…


「やっぱりアタシにはこっちが向いてるみたいだな」


 そう言ってヤクモの前に立ちはだかった一人の踊り子の少女。

メノウも彼女を知っていた。

それは数年前、共に旅をした開陽拳を使う疾風の少女…


「お前さんは…!」


「久しぶりだな、メノウ!」


「カツミ!」


 朱色の髪を疾風に靡かせ、その少女カツミは戻ってきた。

再び戦いの中へ…


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