第百十九話 不思議の少女と舞踏会
東西南北全ての予選が終わり、ついに王都ガランでの決勝大会が目前に迫った。
予選を勝ち抜いた戦士たちも次々と各地からこの地へと集結している。
メノウ達も既にこの王都ガランの地にやってきていた…
「なに、ワシらに舞踏会に参加しろと!?」
メノウ達の宿泊する宿に届けられた手紙、それには書かれていた内容。
『開会式前夜に開催される舞踏会に参加して欲しい』
堅苦しい挨拶や小難しい言い回しなどを抜きにして、簡潔に記すとこういった内容だ。
「そういうお堅いものはきらいじゃなぁ…」
頭を軽く掻きながらベッドの上に座り言うメノウ。
同じくショーナも座りながら、手紙を目で読んでいる。
「あ~でもメノウの思ってるようなものじゃないみたいだぜ」
手紙書かれた内容によると、舞踏会に参加とはいってもあくまで警備を兼ねた物であるらしい。
そのため、他の舞踏会の参加者に紛れて雰囲気を壊さない程度に警備して欲しいということだ。
この舞踏会は祭典である『魔王封印祭』と武闘大会である『魔王討伐祭』の関係者を招いて行われる。
もし魔王教団の手の者が紛れ込んでいた場合、大変なこととなる。
「警備課、それならまぁ…
「それに会自体もそこまで堅い形式でやるものじゃ無いみたいだ。立食形式のパーティも兼ねた軽い感じらしい」
「そうなのか?」
「ゾッ帝の国風もあるんだろうけどな。どんな時も『おふざけ』の心が大切なんだと」
「ふ~ん…」
「行こうぜメノウ」
「…まぁ、お主がそこまで言うのなら。せっかくだから参加するか」
「とりあえず顔見せのために今日来てほしいみたいだぜ」
「今日とはまた急じゃな」
「ああ。とにかく急ごうぜ」
アゲートにのり城へと向かう二人。
メノウを後ろに乗せ、ショーナがアゲートを駆る。
城に入る際に、送られてきた手紙に同梱されていた招待状を見せ中に入る。
そして一旦応接間に通され、待つこと数十分…
「悪い、待たせてしまったな」
「お前さんは…」
「ジンさん!」
応接間に現れたのは、ゾット帝国騎士団所属の騎士、ジンだった。
彼とは以前、西アルガスタの予選の警備を任せて以降、顔を会わせていなかった。
そのため会うのは数か月ぶりとなる。
「本当ならば使いの者が応対するのだが、魔王教団の眷属が紛れているかもしれないからな…」
「あまり知られたくないというわけですか」
「ああ。表向きは『ルビナ姫の友人』という形で招待状を出したと説明しているが…」
「なるほど」
「それと今回の舞踏会、そして明日から行われる討伐大会にあたって警備の手を増やすことにした」
「と、言うと?」
「別室で待ってもらっている」
「?」
ジンに案内されるまま、別室に案内されるメノウとショーナ。
大きめの広間の扉の前に案内された。
そこの扉を開けると…
「おっす」
「久しぶり、二人とも!」
「ウェーダーにアズサか!数か月ぶりじゃなぁ!」
部屋にいたのはウェーダーとアズサ。
壁にもたれかけ、新調した銃をしまうウェーダー。
そしてイスに腰掛けながら同じく新調したであろう忍者刀を鞘に納めるアズサ。
この二人だけでは無い、他にも見知った顔が何人もいた。
「意外と遅かったな、二人とも」
「ヤマカワさん!」
開陽拳と玉衝拳の使い手、ヤマカワもいた。
彼は東アルガスタの予選会場で会っている。
その時はミサキに負けていたため、彼女に対し雪辱を晴らそうとしているのだろう。
自身の使う混の手入れをしていた。
そして…
「お前とは『人斬り狐』事件以来だな」
「南アルガスタの憲兵隊のイトウに陸軍中佐のテリー!」
「おっと、今は大佐だ。黒騎士との戦いぶり久々だな」
ルビナ姫とその妹であるルエラ姫が、メノウと関わりのある人物を集めたのだ。
イトウの部下である憲兵隊の構成員、そしてテリーの率いる南アルガスタ軍の精鋭も数名ずつ待機している。
「みんな今回の大会、成功させたいんだよ」
「ミーナ!」
「要人が集まる舞踏会だからね」
そう言って現れたのは猫夜叉のミーナだった。
彼女も、いやここにいる全員が明日の前夜祭である舞踏会を成功させるために呼ばれたらしい。
少数精鋭の魔王教団に対抗するため、ゾット帝国側も腕の立つメンツを集めたとのことだ。
「明日の舞踏会は絶対成功させたいから、みんなには頑張ってもらわないと」
「そうです。それに敵は魔王教団だけではありませんし…」
扉を開け、高等魔術師のスートも現れた。
もちろん魔王教団は脅威ではあるが、その他のテロリストや過激派などにも対応できなければならない。
例えば以前、メノウ達が壊滅させた『ディオンハルコス教団キリカ支部』や『紅の一派』の残党など…
「明日は王女であるルビナ姫とルエラ姫も参加されます。警備には特に力を入れていただきたい」
「よし、ワシらに任せろ!」
「皆さんの配置などはこの私、スートとジンさんで決めてあります。外を守るのは誰か、舞踏会に紛れるのは誰かなど…」
「わかった、よろしく頼むぜ!」
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前夜祭となる舞踏会当日。
肝心の舞踏会は夜に行われるため、メノウ達は朝からルビナ姫のいる王城で準備をしていた。
どこを誰が守るか、誰が戦うのか、もしけが人が出た場合はどうするか、など…
もちろん一般の兵士や警備隊たちもいるが、彼らではどうしてもカバーできない部分はある。
それを防ぐのが、今回集められた者たちだ。
「メノウ、着替え終わったか?」
「終わったぞ」
そう言って着替えの別室から出てきたメノウ。
メノウとショーナは舞踏会に紛れ、内部から警備をする。
普段の姿では浮いてしまうため、服装をかえてほしいとのことだ。
透き通るような白く美しいドレスに、見事に整えられたその緑色の長髪。
ルビナからの貸しものの夜会服とはいえ、いつものメノウとはまた違った雰囲気に思わず息を飲むショーナ。
「おお~結構いい感じだなぁ」
「お主は普通のスーツか」
「まあな。さっさと行こうぜ」
「そうじゃな。もう参加者も集まりはじめているころじゃろう」
衣装の準備を手伝ってくれた係の者に礼をし、舞踏会が行われる会場へと移動する二人。
会場には既に招待された人々が立食を楽しみつつ、他の参加者たちとの交流を楽しんでいた。
ショーナが言ったように、上品な『社交会』というよりは単なる『夜会』と呼ぶ方があっている方だろう。
「明日の祭典が楽しみですなぁ」
「ええ」
ある者は明日の封印祭と討伐祭については無し、またある者はこの会を利用し人脈を広げようとする。
交流という名の、財界を勝ち抜くための勝負がひろげられているのだ。
もっとも、そんなことはメノウたちには関係ない。
この会を敵の手から守る、それが重要なのだ。
「いまのところ魔力の気配は感じんな。この辺りに魔王教団はいない」
「テロ対策も兼ねてるからな。まぁ何か変なことが起きないようにすればいいのさ」
会場はそこまで広くは無い。
参加者は数十人。
会場に入ってから、メノウは魔力探知を試した。
しかし魔王教団との関係性は見つからなかった。
「ショーナ」
「なんだメノウ」
「メシ食べてきていいか?」
「ああ、いいぜ。喰ってる間は俺が見てるからさ」
「じゃあちょっといってくるぞぃ」
「食べ過ぎるなよ」
「わかっておる」
そう言って一旦ショーナの元を離れるメノウ。
普段は着なれぬドレスを身に纏っているためか、後ろから彼女を見ると少し動き辛そうに見えた。
できる限り変な動きにならぬよう、ゆっくりと歩いてその場を去っていった。
改めて会場内を見回すショーナ。
今回は特になにも起こら無さそうだ。
そう思ったその時、彼は見知った人物に声をかけられた。
「どうも、お久しぶりでございまぁす」
「シャムさん!」
以前、北アルガスタで出会ったシャムだ。
あまりこういう場所に慣れていないのか、彼は新調したてのスーツを着ていた。
新品のスーツ特有の独特の雰囲気があり、言い方は悪いが少し不恰好にも思えた。
「いやぁ、招待状が来たから来てみたんですけどぉ…知り合いがいてよかったですね。はい」
「こちらこそ、会えて光栄です」
「この前、一緒にいたメノウちゃんは?」
「いま食事に言ってます」
「へえ」
「そう言えば以前、東アルガスタで…」
この場で知り合いにあえて嬉しかったのだろうか。
思わず話が進むショーナ。
と、そこにさらに…
「あ、ショーナくん!」
「レオナ!お前も来てたのか」
ショーナと同じく南アルガスタの予選突破者であり、彼の幼馴染でもある少女レオナ・ミーオン。
彼女もこの舞踏会に呼ばれていたのだ。
義父が政界に顔が利くため、その娘である彼女にも招待状は届いていた。
「うん。お父さんと一緒に来てたの。なにか久しぶりって感じ」
「ここ最近、ずっと国中を回ってたからな」
「お仕事大変なのね」
「まぁな。それとさ…」
すっかり会話に花が咲いた二人。
ここ最近の近況から思い出話などに話がうつって行く。
「そういえばメノウちゃんは?」
「あの子は食事に行ってるみたいですよ」
シャムの言葉を聞き、辺りを見回すレオナ。
メノウがいないことを確認したのか、ショーナにある提案を口にした。
「あの、ショーナくん…」
「どうした?」
「私と一緒に…おど…」
「え…」
「踊ってく…!」
『自分と踊ってほしい』レオナはそう言いたかったのだろう。
しかし、その言葉はある意外な者の登場によって遮られることになってしまった。
ショーナとレオナの間に長身の女性が割って入ってきた。
「私と共に踊ってくれないか?」
ショーナの前に跪くその女性。
深緑の長い髪に白銀に輝くドレス。
どこか妖艶な笑みを浮かべた、雪のように白いその顔。
低くも透き通ったその声。
その女性に手を引かれ、流されるままに踊ることになってしまった。
「あ、ちょっ…ちょっと…!」
「ふふふ…」
長い深緑の髪を靡かせながら舞う彼女。
ショーナはそれについて行くだけで精一杯だった。
なんとか不恰好に見えぬよう、テンポを合わせていく。
「おっとと…」
「ふふ…」
他の招待客たちも一目置くほどに、この謎の女性の踊りは上手い。
しかし一体この女性は誰なのか…?
だが、ショーナには彼女と初めて会った気がしなかった。
「貴女は…いや、まさか…?」
「ふふふ…気付いたか?」
「まさか…!?」
「そうじゃよ、お前さんの考え通り」
「め、メノッ…!?」
「静かにせい…!踊りの途中じゃ!」
それまでの低い声からは打って変わり、キンキンとした声に変わる彼女。
その正体は魔法で姿を変えたメノウだった。
まわりに会話を聞かれぬよう、踊りを続けながら小声で話す二人。
「お前そんな魔法使えたのか…!?」
「まぁの」
姿は先ほどの女性のまま、いつもの声で話されると少し違和感がある。
体内の魔力の流れを変えることで年齢を少し上乗せする、メノウが使用したのはそういった方法らしい。
声までは短時間では変えられなかったので、わざと低い声を出していたという。
「こんな機会、滅多にないからのぅ」
「踊るくらいいつでもできるだろ?」
「ふふふ…そう言う雰囲気が大事なのじゃよ…」
今回過去のキャラクターがたくさん登場しました。
覚えているキャラ、忘れているキャラなどいると思います。
第1章 邪剣『夜』と孤独の黒騎士
・ミーナ
初登場話 第三話
・テリー
初登場話 第九話
・アズサ
初登場話 第十三話
第2章 西の支配者と東の皇
・タクミ・ウェーダー
初登場話 第二十話
・スート
初登場話 第二十三話
第2.5章 過去からの挑戦 決戦の南アルガスタ、再び!
・イトウ
初登場話 第三十七話
第3章 攫われの少女を追って…
・ヤマカワ
初登場話 第五十二話
第4章 交錯する3人の主人公たち
・レオナ・ミーオン
初登場話 第八十四話




