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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第5.5章 鏡の屋敷の透明少女
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第百十七話 鏡の屋敷からの旅立ち


「何かが動いている気配は無いのぅ…」


「ということは…?」


「『影』はどこかでワシらを待っておる」


 フィーリアの封印していた『影』を探すメノウたち。

メノウが気配を探ったところ、屋敷内で何かが動く気配は無かった。

つまり、『影』はどこかに留まりフィーリアを『待っている』のだ。

動き出す気配も無い。


「どこか分かるかしら?」


「…広間じゃな」


 いつも食事をしていた広間、そこで『影』は待っているという。

ベルガーは先ほど受け取った鏡の剣を強く握りしめ、メノウはその手に魔力を溜め始める。

いつでも攻撃ができるように。

 と、ここでメノウはあることにふと気になった。

フィーリアは先ほど『影』を再度封印すると言ったが、具体的にはどうするつもりなのか。

その方法を彼女に尋ねることにした。


「再度封印ってどうやるのじゃ?ワシも、ベルガーもそれを知らんではないか」


「そういやそうだ。いくらこの俺だってそれを知らないと戦いようがない」


「すっかりいつも通り倒す気でいたのぅ…」


「この俺もだ」


「そうね、それじゃあ封印の方法について説明するわ」


 フィーリアはそう言って軽く髪をなで上げ、説明を始めた。

封印自体はある程度、抵抗できないほどに『影』を弱らせ、その隙に鏡に閉じ込めると言うものらしい。

ただし、この方法では『影』が再び回復した場合に簡単に出てきてしまう。

そのため、すぐに封印していた部屋にその封印した鏡を安置するのだ。


「なるほど、わかったぞぃ」


「弱らせるだけでいいんだな?」


「そう。殺してはいけない…絶対に…」


 そう念押しを入れるフィーリア。


「封印していたとはいえ、『影』は私自身。もし殺してしまったら…」


「アンタも死ぬってことか?」


「…ええ。そのとおりよ。ベルガーさん」


 フィーリアの『影』を殺せばフィーリアも死ぬ。

互いの生死が連動しているというわけだ。

一応、傷や痛みなどの『感覚』までは共有しているわけではないらしい。


「そりゃ大変だな」


「ごめんなさい。戦ってもらうのに面倒な条件まで押し付けてしまって…」


「気にするなって。要するに弱らせればいいわけだ」


「ありがとうございます」


「よし、それでは行くか?」


「ああ」


「お願します…!」


「おお!」


 勇ましき声と共に広間へと飛び込む三人。

鏡張りの広間、そこには形を持たぬ『影』が確かに存在していた。

メノウたちに気付くと同時に、影の一部分が鋭い鉤爪の形になり三人に斬りかかった。

躊躇は一切しない、ということらしい。


「ヌッ!」


「うおッ!?」


「避けなきゃ」


 三人がバラバラの方向へ飛びその攻撃を避ける。

虚しく空を切り裂く影の鉤爪。

しかしそれで攻撃が終わったわけでは無い。

不定形である影はその姿を自在に変えることが出来る。

鉤爪をこんどは鋭い棘にかえ、追撃を放った。


「あまり調子に乗るなよ!」


 それを避け、ベルガーが反撃に出た。

鏡の剣でその棘を切断した。


「ちっ!」


 切り落とされた棘はまだ動いていた。

それに剣を突き刺し、動きを封じる。

それにより切り落とされた棘が消滅した。

しかし『影』がダメージを追った様子は無い。


「これだけ切っても意味ねぇのか…」


「ベルガーさん、危ない!」


 フィーリアの叫び。

刃の形にした『影』がベルガーに斬りかかる。

それを回避し、彼は一旦後方へと下がった。

しかしさらなる攻撃が彼を襲った。

巨大な鞭上の姿をした『影』の攻撃がベルガーに叩き付けられた。


「うッ…ガァ!」


「ベルガー!」


 受け止めようとするメノウだが、衝撃を殺しきれず共に鏡の壁に叩きつけられてしまった。

壁の鏡が砕け散り、床に散乱した。

なんとか立ち上がる二人。


「影にダメージは通らない…だが…」


 ベルガーにある考えが浮かんだ。

ダメージを与えるにしても、『影』は攻撃には一切怯まない。

恐らく『痛覚』が無いのだろう。

これでは攻撃し辛く、どれほどのダメージが蓄積されているのかもわからない。

しかし、攻撃が一切通用しないわけでは無い…


「動きを封じ一気に叩く…!」


「少しずつ削るよりはそちらの方が確実ですね」


「そうじゃな」


 三人の考えは同じだった。

あの『影』の動きを止め、一転攻勢。

そして鏡に封印する。


「ワシが出る!援護を頼む!」


「わかりました」


「おう!」


「いくぞぃ!」


 その叫びと共にメノウが走り出す。

長期戦にするのは得策では無い。

三人の考え、それは『この攻撃パターンで勝負をつける』というもの!


「『我が呼びかけに答えよ。蒼穹星を映す銀の欠片…』」


 先ほどメノウとベルガーが叩きつけられ、割れた鏡の破片。

それに魔力を込め宙へ浮遊させる。


「『美しく煌めきしその光で影を撃て!』」


 詠唱とともに浮いた鏡が『影』へと向かっていく。

それらが銃の弾丸のように『影』を打ち抜く。

攻撃をするための武器に変化させていた『影』の身体の一部がその攻撃により、一時的に剥がれ落ちた。


「これで動きを…止める!」


 あらかじめ、破壊された家具から尖った木片を数本拾い上げていたベルガー。

それを『影』の身体に突き刺し、床に磔の状態にする。

逃れようと『影』がもがくも、それは叶わなかった。

フィーリアとベルガーが攻撃への道を作った。

そして…


「ここが鏡の館だからこそ使える技がある。それがこの幻影制光移(ファントムせいこうい)じゃ!」


 メノウの使用したのは『幻影制光移(ファントムせいこうい)』の技。

以前、青龍型ハンターとの戦いでも使用したものだ。

その効力は光を自身の魔力に変換し、スピードを加速させていくというもの。

今戦っているフィールドは鏡の館。

窓から入る太陽光を鏡面反射により集めていたのだ。

爆発的加速を得たメノウは全身に魔力を込め『影』に拳の一撃を与えた。


「よし、今の弱った隙に…!」


「封印じゃ、フィーリア」


「『我が呼びかけに従え、もう一つの心…!』」


 鏡に弱った『影』を封印するフィーリア。

そしてそれを再び二階の部屋に安置。

逃げ出した影を再び封印することに成功した。




-------------------



 フィーリアの鏡の屋敷での短い戦いが終わった。

霧が晴れているのは今日の間だけ、これ以上長居するとまた濃霧の中から出られなくなってしまう。

アゲートに乗り、出発の準備をするメノウとショーナ。

フィーリアから食料も少し分けてもらうことが出来た。

彼女には感謝してもしきれないくらいだ。


「それじゃあの、フィーリア」


「フィーリアさん、またいつか遊びに来てもいいですか?」


「いいわよ、またいつでも…」


 館の門の前に立ち、皆に別れの挨拶をするフィーリア。

ベルガーは先ほど襲撃してきた盗賊たちをトラックに乗せていた。

トラックは盗賊たちが乗ってきたものだ。

縄で縛られている盗賊たちを乗せていく。


「さっさと乗れ!」


「うるせー!」


 ベルガーにも挨拶をし、食料を手渡した。

それを申し訳なさそうに受け取るベルガー。

怪我の治療と看護に加え、食料まで貰ってはさすがに申し訳ないと思ったのだろう。


「…いろいろと世話をかけてちまったな。すまない」


「いえいえ」


「せめて何か礼をしたいんだが…」


「いいのよ別に」


 しかしフィーリアはそれを拒否した。

彼女にとってはあくまで『当たり前』のことをしただけであり、礼をされるようなことはしていないということらしい。

捕まえた盗賊の懸賞金もベルガーが全て持って行っていいという。


「それにお前ら二人にも…」


 メノウとショーナに対しても感謝しきれないほどだ。

もしこの二人がいなかったことを考えると…

二人も懸賞金の受け取りは断った。


「俺たちはそんな大したことしてないですよ」


「礼は全部フィーリアに言ってくれ」


「…そうか」


 残念そうな顔をしながら トラックの運転席に乗り込むベルガー。

エンジンをかけると、窓から顔を出しメノウ達に言った。


「じゃあ次に会ったときはメシでも奢らせてくれよ。土産話も持ってくからさ」


「じゃあ、とびっきりおいしいものを頼むぞぃ」


「ああ」


 そう言い残し、ベルガーはトラックを走らせその場を去っていった。

メノウたちも長居は無用。

アゲートを駆り、本戦会場である王都ガランを目指す。


「また会おうな、フィーリア」


「ええ。これらかの活躍を期待しているわ。それでは、お元気で」


「じゃあな!」


 霧が晴れ、閉ざされていた視界に地平線が写る。

その向こうに王都ガランはある。

メノウとショーナはそこへと向かうため、アゲートと共に走り出した。

 フィーリア、そしてベルガー。

二人との出会いを胸に残し、大会優勝を、そして魔王教団討伐を目標にして…


・幻影制光移

【使用者:メノウ】

破壊力:- タイプ:強化

自身のスピードを徐々に加速させていく魔法。

ただし、この魔法を使うにはなんらかの強い『光』が必要。

残像となる幻影を生み出すため、そして自身のエネルギーに変換しているからである。

そのため建物の中などでは中々使う機会が少ない技だ。

残像となる幻影を使用せず、全てを加速力に足すことも可能。

全身に魔力を纏い、攻撃技に替えることもできる。


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