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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第5.5章 鏡の屋敷の透明少女
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第百十六話 鏡と影 決闘の鏡面館!

フィーリアの屋敷はゾット帝国の政府から送られたものです。

スートと同じく、彼女は高等魔術師なのでいろいろと優遇されています。


 その部屋にあったもの、それは形を持たぬ黒い影のような化け物だった。

扉が壊されたのと同時に化け物は解き放たれ、部屋の外へ放出されていった。


「ひ、ひぃぃ!」


 それに驚き、その場に倒れる盗賊のリーダー。

ショーナがそれを組み伏せ、押さえつけた。


「封印が解けてしまった…」


 フィーリアが危惧していたのはこの化け物だった。

彼女がこの部屋に封印していた物が、扉の破壊によって解き放たれてしまったのだ。

化け物は標的をフィーリアに向け、霧状のその身体を鋭い爪のような形に変え襲い掛かった。


「危ねぇフィーリア!」


 死神の鎌の様に鋭いその爪、当たれば確実にその身体は引き裂かれる。

咄嗟にベルガーが飛び出しフィーリアと共にその一撃をかわした。

さらに攻撃が来るか、そう思いベルガーが構えをとる。

しかし壁の鏡を伝い、化け物はどこかへと消えていった。


「あ、ああ…」


 その場にうなだれるフィーリア。

あの化け物の正体は何者なのか。

何故封印されていたのか。

それを彼女に聞く必要がメノウたちにはあった。


「フィーリア、あの黒いのは一体何なのじゃ…?」


「…外で話しましょう。『少しの間』でしたら平気だから」


「少しの間…?」


「ええ」


 盗賊のリーダーを縄で拘束し、外へと連れ出す。

他のメンバーたちと並べて拘束し、絶対にほどけぬように固く縛る。


「くそ…ベルガーの野郎ふざけやがって!」


「ふざけてるのはお前らだろ!滅茶苦茶しやがって!」


「黙れ!」


「霧が晴れたら警察にすぐ引き渡してやるからな」


「チッ…!覚えてろよ」


 盗賊たちを見張りつつ、フィーリアの話を聞くメノウたち。

一応、話を盗賊たちに聞かれぬように少し離れた場所で話すことに。

庭園の隅のベンチにフィーリアが座り、それを囲むように三人が座る。


「まずは私の出自から話さないといけないわね…」


「お前さんの…?」


 なぜ今になってそのようなことを話さなければならないのか。

しかし全く意味の無い話をフィーリアがするとは思えない。

三人は黙って話を聞くことにした。


「私は元々、親もわからない捨て子だったの」


「捨て子…俺と同じか…」


「幼いころに捨てられた私はある人に拾われ、育てられた」


「そうか…」


 ショーナが言った。

幼いころ親に捨てられたショーナは辺境の村でギリギリの生活を続けていた。

彼にとって旅に出てメノウと出会い、人生が変わったのは幸運ともいえる。 

しかしフィーリアが出会ったのは、メノウも知る『ある人物』だった…


「その人の名は『ピアロプ・トロシード』、このゾット帝国でも有数の腕を持つ魔術師…」


「ピアロプ…!ディオンハルコス教団のか!?」


 その名を聞き驚くメノウ。

数年前、西アルガスタの港町キリカで戦ったディオンハルコス教団キリカ支部の支部長だった男だ。

薬物に軍の武器の横流し、人身売買、違法薬物の密売などの悪事を重ね、さらに教団の信者たちからも金を巻き上げてきた詐欺師。

何故か『希少生物の売買』に『古代遺跡の盗掘』など妙なことも行っていたが…?


「確か数日前に食事のさいにディオンハルコス教団との戦いの話をしていたわね…」


「あ、ああ。じゃがピアロプがお前さんの育ての親だったとは」


「ピアロプ・トロシード、俺も聞いたことがあるな。確か数年前に西アルガスタで逮捕されたっていう…」


 ベルガーもその名前は知っていたらしい。

ピアロプ逮捕のニュースは数年前、ゾット帝国中で報道されていた。

メノウの名前こそ出ていなかったものの、その大々的な報道から覚えている者も多い。


「彼は私に魔術の基礎を教えてくれた師でもあり、育ての親でもあったわ」


「…そうじゃったか」


 意気揚々とピアロプを倒し、警察に引き渡したことをメノウは話していた。

悪いことを話してしまった、そう思うメノウ。

しかし…


「別にそのことに関しては何とも思っていないわ。むしろ彼の悪行を止めてくれたことも感謝したいくらいよ」


 フィーリアが拾われたのは今から約十三年前。

しかし既にその頃からピアロプは悪事を重ねていた。

父として接してくれたこと、魔術を教えてくれたことには感謝はしている。

しかしそれ以上に、彼の悪事には嫌悪感を持っていた。


「悪いことをやめてほしかったけど、彼は聞く耳を持っていなかったわ」


 父としての一面と共に、悪人としての一面を持ち合わせていたピアロプ。

彼の行動は幼いフィーリアに多大な影響を与えていった。


「あの男の性格だと聞きはせんじゃろうな…」


「私自身、悪行を嫌っていた。そしてする気など絶対にない。そう思っていた」


 当時のピアロプに感化されてしまったのか、徐々にフィーリア自身の心にも悪の心が芽生え始めた。

最初は抑え込んでいたものの、その悪の衝動は次第に大きくなっていった。

そのまま放っておけば、いつかそれに突き動かされるまま悪事を働いてしまう。

当時のフィーリアはそう考えた。


「彼に影響され、いつか悪行を犯してしまうかもしれない。それだけは避けたかった…」


「すると、さっきの影というのはまさか…!?」


「察しがいいわね。あの影は『昔の(フィーリア)の悪の心』そのもの…」


 先ほどの影の正体。

それはかつてフィーリアが封印した悪の心。

数年前、メノウによりピアロプが失脚し逮捕されたのをきっかけにフィーリアは自身の心の一部を封印。

それが解き放たれぬよう辺境の地に封印した。

そしてそれを監視しながら生活を送っていたのだ。


「心を分離するなんてことができるのか」


「一応、こう見えても高等魔術師。心の一部を切り離すくらいはできるわ」


「魔法使いなんてほとんど見たことないからな…いまいち想像がつかん」


 ベルガーが半分感心したような、半分惚けながら言った。

今の時代、魔法を使える物は少ない。

彼がそう思っても仕方が無いだろう。


「あれは私の影、もうひとつの私。始末は自分で付け…」


 フィーリアがそう言ってベンチから立ち上がる。

あの影と戦うつもりなのだろう、一人で…


「ちょっと待て」


「はい?」


「ワシも手伝う」


「…本気なの?」


「当たり前じゃ」


 そう言って、フィーリアと同じく立ち上がるメノウ。

さらに、ベルガーもそれに同調するように言い放つ。


「じゃあ俺もやらせてもらおう」


「ベルガーさんも…」


「俺もてつだ…」


「ショーナ、お前さんはダメじゃ」


「えーなんでだよー」


 ショーナも手伝おうとしたが、それをメノウが止めた。

王都ガランでの本戦が控えている今、あまり彼を危険な目には会わせられない。

また室内での激しい戦いに発展した場合、人数が多いと逆に不利になることもあり得る。


「さっき捕まえた奴らの見張りをしていてくれんか?逃げたら困る」


「よーし、わかったよ」


 ショーナには捕えた盗賊の見張りを任せることにした。

逃げ出してまた厄介なことに手を出されては大変だ。

この場は彼に任せ、再び屋敷の中へと入るフィーリアたち。


「本当に一緒に戦ってくれるの?」


「そうじゃ」


「当然だ」


 メノウとベルガーが頷く。

それくらいの覚悟が無ければフィーリアに加勢などしない。

二人の覚悟を改めて確認すると、フィーリアは『影』に対抗する方法を説明し始めた。


「影は実態を持たないため、物理的な攻撃は不可能よ」


「じゃろうな」


「ならどうする?」


「これを…」


 壁に張り付けられていた鏡を一枚、丁寧に剥がしていく。

この屋敷の鏡は比較的小さなパネル状のものを大量に貼り付けている。

大きさにして30cm四方ほどの鏡。

それを二人に差し出す。


「鏡?」


「壁中に張ってある鏡だよな、それ」


「私が『鏡の屋敷』に住んでいるのにはもう一つ理由があるの」


「ん?」


「『我が呼びかけに答えよ。従順なる銀の僕よ…』」


 鏡にフィーリアが魔力を注ぎ込みその形を替えていく。

徐々に鏡は、細長い剣の形になっていく。

僅か数秒で、鏡は一振りの剣へと姿を変えた。

そしてそれをベルガーに渡す。


「鏡は私が最も得意とする『フィールド』、そして『影』に対抗する唯一の力」


「おお、すげー剣!」


「私の魔力が込められた武器ならば、影を弱らせることが出来るわ」


「これで戦えばいいんだな」


「ええ」


 ベルガーに託された鏡の剣。

剣としての実用性は無いが、フィーリアの魔力が込められているため『影』を弱らせることが出来る。

そしてメノウだが…


「メノウさんは魔法が使えるわね?」


「ああ」


「それなら大丈夫。影には魔法が効くわ」


「なんじゃ、そういうものなのか」


「ええ。ベルガーさんとメノウさんの二人で影を追い詰め、私がそれを再度封印してみせる」


「わかった」


「屋敷内には暴れた形式は無いみたい。どこかで私たちが来るのを待っているのかも…」


「よし、ここは三人で固まって探そう」


「そうじゃな…」


 フィーリア、ベルガー、メノウの三人は屋敷内に逃げた『影』を探し始めた。

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