第十一話 残酷なる業人 非情の命令
~前回のあらすじ~
南アルガスタ軍の攻撃を凌ぐメノウ達。
だが攻撃の激しさは次第にエスカレートしていく。
そして…
数km離れた地点に陸軍の簡易前線基地が作られていた。
物資輸送用トラックやテントなどで構成されている。
そこで指揮を執るのは陸軍の若き勇者、テリー中佐。
僅か24歳という若さで中佐という地位まで上り詰めた男だ。
「奴らを逃しただと!?」
「は、はい…」
部下からの報告を聞き、顔をゆがめるテリー中佐。
先ほどの三つの部隊は陸戦部隊の中でも特に実力のある部隊。
そして腕の立つ傭兵部隊として名高い壊し屋。
それをこうも簡単に退けるとは…
「森にはまだ幾つかの部隊が残っているな?」
「はい、破壊工作部隊に爆破部隊、その他にも何個かの部隊が待機しています」
「壊し屋以外にも傭兵部隊を雇ってある、そいつらも向かわせろ!」
それらの部隊でもメノウたち三人に勝算があるかどうかは分からない。
三人の進行したルートから、次に向かわせる部隊を選ぶ。
逃げられないような場所にメノウたちをうまく誘導し、そこで複数の部隊を一気にぶつける作戦だ。
メノウたちが逃げた先にあるのは古い廃工場地帯と湿地帯。
となれば…
「…よし、次は特殊追跡部隊を向かわせろ!」
「は!」
「さらに援護として後方支援隊を…」
部下に指示を出すテリー中佐。
森の中にいる部隊に指令を飛ばし、メノウたちのいる地点に向かわせる。
だがそこに新たなる報告が別の部下から舞い込んだ。
「テリー中佐!」
「どうした?」
「く、空軍が勝手に攻撃を開始!爆撃で森を火の海に変えています!」
「なんだと!?」
テリー中佐が叫ぶ。
確かに空軍はこの作戦で爆撃機を発進させるとは言っていた。
だが、陸軍の出撃の時間と噛み合わないように空軍側に要請したはずだった。
それが何故…?
「おい、どういうことだブーグー!」
通信機を部下から奪い取り、空軍のブーグー中佐に連絡を入れる。
だが、当のブーグー中佐は何故彼がそこまで怒っているのかが理解できていないようだった。
「どういうこととは?」
「ふざけるな!森にはまだ俺の部隊がいるんだぞ!軍閥長経由で伝えたはずだ!」
「バカな!そんなことは軍閥長から聞いていない…!」
それを聞き、二人の中佐は全てを理解した。
全ての原因はこの作戦を行う前に開かれた作戦会議にあった
作戦会議中、それぞれの軍があらかじめそれぞれの作戦内容を確認し合った。
だがその時、予定を確認し合う際に軍閥長であるエレクションのミスにより陸軍と空軍の作戦結構時間にズレが生じてしまった。
「クソッ!あの無能軍閥長が!」
通常ならばこんなミスは起こらない。
だが、今の軍は陸海空の三つの軍を即席で集めた急造の軍。
そこに民間の傭兵なども投入しているため、全軍の動きを把握することが困難になってしまっている。
各軍での統制は取れているが、別の軍との統制が全く取れていなかったのだ。
「今すぐ空軍には攻撃を中止させる!」
「ああ、頼む。ブーグー中佐…」
お互いに作戦の変更を確認し合う二人。
だが時すでに遅し。
陸軍には既に多大な被害が出た後だった。
さらに森林火災により逃げ場を失った陸軍兵士たちの救助などもしなければならない。
テリー中佐は頭を抱えながら椅子に座りこんだ…
「せめてこれで奴らがくたばっててくれればいいが…」
テリー中佐が小声でつぶやいた。
だが、彼の思いとは裏腹に、メノウたちは無事だった。
急な空軍の爆撃から逃れるため森の中の洞窟へと避難していたのだった。
比較的大きな洞窟であったため崩落の心配はなさそうだ。
皮肉なことに、この爆撃により敵の追っ手を撒くこともできた。
「まさか空軍の爆撃機まで出てくるとは思わなかったな…」
ミーナが言った。
陸軍だけならばまだしも、空軍まで動いているとは思いもしなかった。
この分だと恐らく海軍も動いているだろう。
海に面した港町であるシェルマウンドを海軍が守り、陸軍と空軍が攻撃する。
そう言う作戦だと彼女は推測した。
「しかし森の中にまだ仲間がおったというのに攻撃するとは恐ろしいのぅ…」
「あいつら、仲間を何だと思ってるんだよ」
怒りを露わにするメノウとショーナ。
これだからゾット帝国の人間は…
とでも言いたげな顔だ。
だが、ミーナがそれを訂正した。
「いや、軍が味方を攻撃するなんてありえない…」
「どういうことだよ?」
南アルガスタ四重臣の率いる各基地は軍閥長の兵士たち。
一応所属はゾット帝国の兵士だが、その実態は訓練もされていない単なるチンピラが殆ど。
隊長や司令官などがそれらを統括しているに過ぎない。
だが、南アルガスタ軍は違う。
「南アルガスタ軍はこのゾット帝国が配備した兵士、四重臣の率いる兵とは根本的に違うんだ」
南アルガスタ軍に所属する兵士はゾット帝国に選ばれた者達。
国と国民に対する忠誠を持つ兵士たちだ。
正規軍としての教育と訓練を受け、誇りを持って任務を全うする。
四重臣の率いるチンピラ兵士とは格が違う。
「督戦隊などの例外を除いて見方を攻撃するなんて…?」
不可解な作戦に疑問を覚える。
そもそもよく考えてみれば、たった三人のために軍が動いたこと自体が『不可解』。
確かにメノウたちを倒すためには大きな戦力がいる。
だが全軍を動かすほどの事態でもない。
思いが交錯する中、ミーナはあることを確信した。
「まさか全て軍閥長の…」
「どうした、ミーナ?」
「いや、なんでもない。ショーナ…」
「おーい二人とも!ヒコーキが逃げてったぞ!」
メノウが洞窟の入り口から二人を呼ぶ。
ショーナとミーナが入り口に向かい上空に目をやると、確かに飛行機は爆撃を止め帰還していったのが確認できた。
「ミーナ、あいつら一体何がしたかったんだ?」
「わかんないよ。でもまだ森が燃えてるし、しばらくこの洞窟で足止め…」
そう言ったその瞬間、彼女はあることを思いついた。
確かに今、森は燃えている。
ならば、燃えていない場所を走ればいい。
「ショーナ、ホバーボードは基本的にどこでも走れるんだよな?」
「あ、ああ。地面から離れすぎさえしなければな…」
「よし、それなら…」
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一方その頃シェルマウンドの軍閥長の城では、軍閥長であるエレクションがマーク将軍から喜々として戦果を聞いていた。
陸軍第一陣の侵攻は失敗。
しかし空軍の攻撃により森は焦土と化した。
空軍から送られてきた燃え盛る大地の画像を確認する限りでは、いくらあの三人と言えども生きているわけがない。
彼はそう確信した。
だがその一方で、マーク将軍の顔は暗い。
「やったで!」
「しかし陸軍側の被害が甚大です。これでは…」
「勝利は勝利だで、さっそく遊郭にでも……」
そう言いかけたその時、軍閥長の部屋にB基地の司令官ヤクモがある伝えを持って現れた。
彼の持ってきた伝え、それは『メノウたちの生存』だった。
この事実は空軍の偵察隊からの連絡により発覚。
部隊から奪ったホバーボードを使い、川の上を飛行しながらシェルマウンドの方角へと向かっているらしい。
「陸軍は使い物にならず、空軍の再出撃にも時間がかかります。残った人員で何とかするしか…」
ヤクモが言った。
しかし、残った人員を再び集めるにも時間を要する。
一刻も早くメノウ達を倒したいエレクションにそんな時間を待つ余裕などなかった。
追い詰められた彼は使ってはいけない、禁断の兵器を使用することを決めた。
「こうなったら『エレクション・浜ちゃん砲』を出撃させるだで…!」
「そんな!?あれは…」
「とても実戦投入できるようなものでは…!?」
マーク将軍とヤクモが驚嘆の声を上げる。
だがそれも無理はない。
軍閥長の言う『エレクション・浜ちゃん砲』、それはかつての大戦時に製造された幻の列車砲『ジェネラル・ミュラー砲』を改修したものだ。
某国の将軍『知将ミュラー』が戦況を変える切り札として製造を命じた、当時としては最強の列車砲。
しかし、大戦末期に配備され物資が不足するにつれて戦況は悪化。
やがて大戦も世界の滅亡という形で終結し、『ジェネラル・ミュラー砲』は一度も出撃することが無かったと言われている。
それをゾット帝国が密かに入手し、南アルガスタに保管しておいたのだ。
「あの列車砲は旧式の兵器。実戦への投入は…」
「けど、整備はしているんだで?」
「確かに、もしもの時のため整備自体は行っていますが…」
今の世では列車砲など無用の長物。
軍事パレードや祭典などで使用するだけで基本的に実戦配備などは想定されていない。
だが、一応最低限の整備自体はしてある。
砲弾も常に数発は発射可能なものを用意してある。
「なら出撃させるだで。列車砲ならいくらあいつらでもまとめて消し飛ばせるで」
「し、しかしまだ陸軍と空軍の撤退が…」
「子供三人も倒せない奴らなんていらないで。兵隊さんは大変ですね、軍服着て」
小ばかにする態度で吐き捨てるように言うエレクション。
それを聞き、マーク将軍が思わず彼に詰め寄った。
戦場で戦う兵を、なにも理解せずに見下すこの業人を見過ごすわけにはいかなかった。
「私の部下をこれ以上無駄に殺すとでも…!」
「いくらなんでもやり過ぎです、私もはんた…」
「オラに逆らうやつは処刑だで」
エレクションがそう言うと、マーク将軍とヤクモの二人を十人の兵が取り囲んだ。
軍閥長を守る親衛部隊たちだ。
槍を構えながら、二人を威嚇する。
「早くエレクション・浜ちゃん砲の発射準備をしてくるんだで。オラも後で行く」
「くうぅ…」
「逆らえばお前たちだけじゃなく、その一族も皆殺しだで」
そう言われ、マーク将軍とヤクモは静かに部屋を後にした。
向かったのはエレクション・浜ちゃん砲の格納庫。
整備等以外の理由でこの場に入る者はほぼいない。
だが、今日は違う。
この列車砲が初めて実戦投入されるのだ。
「これがかつて『ジェネラル・ミュラー』と呼ばれた幻の列車砲か…」
「グスタフ、ドーラに次ぐ第三の幻の列車砲『ミュラー』…」
式典用の装飾を取り払い、かつての姿を取り戻した列車砲。
城の格納庫から姿を現した巨大列車砲『ジェネラル・ミュラー』改め『エレクション・浜ちゃん砲』を見て驚嘆の声を上げる二人。
空に向かってそびえたつその砲身はとても数十年前に作られたものだとは思えないほど立派なものだ。
かつては発射に百人単位の人員が必要とされたが今は違う。
コンピューター制御によりある程度自動化され、十人前後での発射を可能としている。
エレクションの親衛隊達がその操作を担当する。
「ここまで近代改修がされているとは…」
「ミサイルの技術が現存しない今、この列車砲は間違いなく最強の遠距離攻撃兵器…」
メノウたちのいるのは、このシェルマウンドからおよその距離にして約100kmの地点。
この列車砲の射程範囲内だ。
コンピューター制御にて弾道を計算、着弾地点をある程度設定できる。
当然、着弾地点はメノウたちのいる場所だ。
「(だが、まだ部下達の避難が完了していない…)」
まだ着弾地点には陸軍や傭兵部隊が多く残留している。
それをこのまま殺すわけにはいかない。
何とかして一人でも多くの部下を救いたい。
そう思ったマーク将軍はある行動に移った。
小声でヤクモに話しかけ、あることを依頼した。
「ヤクモ、少し時間を稼げるか?」
「はい?」
「…頼む」
彼の真意を見抜いたヤクモ。
列車砲の操作をしている親衛隊の一人に話しかけ、注意を自分に集中させる。
その隙にマーク将軍は一時その場を抜け出し、城にある連絡室へと急ぎ向かう。
連絡室のドアを蹴破り、陸軍と傭兵部隊全員に緊急通信を飛ばす。
『全軍、その場から直ちに退避せよ!その地は列車砲の攻撃目標になっている!』
急いでいるためこれだけがやっとだった。
これで少しでも部下たちが助かれば…
今の彼にはそれしか頭になかった。
名前:マック・ブーグー 性別:男
恰好:ゾット帝国の軍服
南アルガスタ軍の空軍中佐。
大佐が現在不在なため、その代わりに南アルガスタの軍閥長に召喚された。