第百十五話 鏡に隠された二律背反
原作ゾッ帝のアニメ化あくしろよ
ベルガーが屋敷にやってきた翌々日。
フィーリアが心配した盗賊の襲来などは無く、ただただ静かな時間が過ぎていった…
「いい朝じゃなぁ~」
「霧は濃いけど空気はうまいな」
「アゲートにメシの草をあげてくる」
「俺もやるよ」
屋敷の裏にある馬止めのある小さな小屋に草を持っていく二人。
アゲートにたくさんの草をあげ、今後に備える。
フィーリアの話では今日の昼ごろから、徐々に霧が晴れていくらしい。
現在の時刻は朝の五時、あと七時間もすれば出発はできるだろう。
「フィーリアさんに礼を言わないとな。いきなり押しかけていろいろ迷惑かけちまったし」
「そういえばフィーリアはまだあの男の看病をしておるのか?」
「そうみたいだな。ずっとベルガーに付きっきりだぜ」
「少し様子を見に行くか」
「ああ、そうだな」
そう言って二人はフィーリアの元へと向かった。
数日前からずっと、彼女はベルガーに付きっりだった。
二人のいる部屋の前に立ち、軽くドアを叩く。
ドアまで鏡張りであるため、数日過ごしたとはいえやはり妙な感じがする。
「…返事が無いのぅ。寝ておるのか?」
「入りますよー」
小声でそう言うと、ゆっくりとドアを開け中にはいる二人。
ベッドで寝ているベルガーと、その横の椅子でうたた寝をしているフィーリア。
メノウの予想通りやはり寝ていたようだ。
「…うぅん。あら、二人とも」
「すいません、起こしてしまって…」
「今何時かしら」
「朝の五時です」
「そろそろ食事の用意をしないと…」
そう言って立ち上がろうとするフィーリアをショーナが制止した。
ここ連日の看病で彼女は精神的にも、体力的にも疲労が溜まっている。
人に尽くすのはいいことだが、どこか自己犠牲的な姿勢が見えた。
「フィーリアさん、少し休んだ方がいいですよ」
「いえ、でも…」
「看病はワシがやろう。お前さんはすこし寝た方がいい」
数日前まではメノウとショーナが交代で見ていたのだが、途中からフィーリアが全てすると言った。
家事等もしつつ看病もこなす。
二人が代わろうとしてもフィーリアはそれを拒んでいた。
しかしさすがに、今の疲れ切った彼女を見ると代わらざるを得ない。
「けど…」
「人のことを気にかけるのはいいが、それで自分のことをおろそかにするのはどうかと思うぞ」
「メノウさん…」
「食事の用意は俺がしておきますよ、フィーリアさん」
二人の言うとおり、フィーリアは自室でいったん休憩をとることにした。
軽く仮眠をとりショーナが食事を用意するまで待つ。
もともと一人暮らしをしていたショーナは料理も一通りはできる。
三十分ほどで簡単な朝食を作り、広間に並べた。
「残り物を軽く調理したスープとパン、あと豆とチーズの煮物!」
「ショーナさん料理もお上手なのね」
「へへへ…メノウのヤツよんできます」
ショーナがメノウを呼びに行った。
ちょうどベルガーも目が覚めたらしくメノウと共に連れてきた。
看病のかいもあり既に十分に体は回復していたようだった。
「いきなり転がり込んで、治療までしてもらって、それに食事も…」
「いいのよ、気にしないで」
「フィーリアさんって言ったっけ?随分迷惑かけてしまってすまないな…」
「それは後あと、食事にしようぜ」
「そうじゃな」
「病み上がりでも食いやすいようにしてあるからなー」
一旦、面倒な会話は止め食事をとる五人。
看病のため、最近はゆっくりと食事をとることが出来なかったフィーリアだった。
だがここで少し落ち着いて食事をとることが出来たようだ。
ベルガーも久しぶりのまともな食事にどこか嬉しそうだ。
口調は荒いが、根は悪い人物では無いのだろう。
「やっぱりショーナの作る料理はうまいな」
「なんだよメノウ、いきなり」
「味がさっぱりとしていて、それでいてべたつかない。すっきりした味じゃ」
「どこかで聞いたようなセリフだなぁ…」
「ふへへ」
ショーナの作った料理は確かに美味い。
特に豆を使った料理が得意なようだ。
フィーリアの屋敷に材料が豊富にあった、というのもあるが元来こういったことが彼は得意なのだろう。
と、その時…
「ん!?」
メノウが外から何か不穏な気配を感じ取った。
この鏡の屋敷の周辺には人も住んでおらず、野生動物もほとんどいない。
しかし、外からは間違い無く何らかの気配がしていた。
そしてその直後、何発もの銃声が辺りに響き渡った。
間違いない、外に『敵』がいる。
今の銃声でそれを確信した。
「今の銃声はまさか…!?」
「しっておるのか、ベルガー?」
「俺が戦おうとして返り討ちにあった盗賊が使っていた物と同じものだ」
「…少し見てくるぜ」
外から見えないよう、カーテンに身を隠し窓から外を覗くショーナ。
外にいたのは十人ほどの盗賊。
軍用の車が二台ほど、メンバーの何人かは銃を所持している。
恐らく軍からの脱走者や元軍人などが集まってできた盗賊団なのだろう。
「軍人くずれが十人ほどいるみたいだ」
「やはり奴らか…」
「けど、何でこの場所が分かったんだ?」
「あいつら、軍用犬を何匹か連れているんだ」
霧で方角が分からなくとも、犬を使えば進むべき道は分かる。
ベルガーの血の匂いを追ってここまでたどり着いたのだろう。
「チッ…!めんどくせぇ、霧も晴れて絶好の出発日和だったのに…!」
そう言うショーナ。
ふと振り返ると、先ほどまでいたフィーリアとメノウが室内にいないことに気が付いた。
改めて外に目をやると、二人は屋敷の玄関の前に立っていた。
「貴方たちは?」
「探している男がいるんでな」
盗賊のリーダーらしき大男がフィーリアの前に立つ。
二メートルはゆうに超えているだろう。
「俺たちはこの男を探しているんだ。知らないか?」
リーダーの男がフィーリアに一枚の紙を渡した。
古い雑誌の切れ端らしく、数名の男の写真が掲載されていた。
その中にペンで印がつけられた写真が一つだけあった。
それはあのベルガーの写真だった。
「この辺りにいることは分かってるんだよ。教えれば命だけは助けてやる」
仮にベルガーを差し出しても金品や食料などは奪う気らしい。
もっとも、しょせん盗賊なのだから仕方が無いが。
「…ええ。この方は屋敷の中にいます」
「ききわけいいじゃねぇか」
「ですが、身柄を渡すわけにはいきません」
「なんだと?」
「お前さんらは盗賊なのじゃろう?まとめて捕まえてやるわ!」
その声と共にメノウがリーダーを蹴り飛ばした。
勢いよく吹き飛ばされ、仲間の盗賊が乗ってきたトラックに叩きつけられるリーダー。
「あのガキ何者だ!?」
「知るか、撃て!」
「お、おう!」
銃を持っていた三人の盗賊がメノウとフィーリアに向かって銃を放つ。
軍用の自動小銃にオートマチック銃、リボルバー式拳銃を撃つ三人。
しかしその攻撃がメノウに届くことは無かった。
「防魔障壁 …!」
フィーリアの防御魔法『防魔障壁(アンチ・スルー・ブロック ) 』の前に攻撃は無力と化した。
物理的な攻撃を無力化できる、魔力による障壁だ。
「フィーリア…」
「私は攻撃魔法は使えません。攻撃の方はまかせてもよろしいですか?」
「いいぞぃ」
防御はフィーリア、攻撃はメノウ。
役割を分担して戦うというわけだ。
「俺も戦わせてもらうぜ、メノウ!」
「ショーナ!」
「一応これでも、南アルガスタ四重臣で討伐大会予選突破者なんだぜ。俺も混ぜろ!」
「俺も戦わせてもらう。治療してもらった恩があるしな…」
ショーナとベルガーも前に出る。
ベルガーは長めの角材を持っていた。
屋敷の修繕用にフィーリアが用意していた物をベルガーが見つけたのだ。
相手が十人と犬が数匹に対し、フィーリアたちは四人。
数では負けているが…
「あまり動物は傷つけたくないからのぅ…!」
メノウが軍用犬数匹に軽い衝撃波を放ち気絶させた。
それを合図にショーナとベルガーが盗賊に攻撃を仕掛けた。
まずは銃を持っている三人に狙いを定める。
乱戦になった場合、銃を所持している者がいると厄介だ。
「疾風の裂脚!後はまかせたベルガー!」
「ああ!」
ショーナが脚からの斬撃波で 銃器を破壊。
その後、ベルガーが木製の角材で三人を殴り飛ばした。
「久しぶりの乱闘じゃ、腕が鳴るわ!」
ナイフやサーベルを持って襲い掛かる盗賊たちの攻撃を受け流し、顎を蹴り飛ばすメノウ。
反撃のため、殴りかかろうとする盗賊をベルガーが止めショーナが倒す。
さらに返す刀で衝撃波を放ち、残りのふたりを弾き飛ばし気絶させる。
「意外と早く片付いたのぅ…」
気絶した犬を寝かせ、盗賊たちを縛って行くベルガー。
しかしその時、あることに気が付いた。
…盗賊のリーダーの男がいないのだ。
「おい、リーダーがいないぞ!」
「まさか、屋敷の方に!?」
血相を変えたフィーリアが屋敷に向かって走り出す。
戦いに夢中でリーダーの男が屋敷に侵入していたことに気が付いていなかったのだ。
「やっぱり屋敷の中に…!」
「どこかに隠れやがったか!?」
「『アレ』を見つけられたら…!」
屋敷には盗賊の男が付けたと思われる足跡が遺されていた。
それを追うフィーリア、そしてメノウたち。
二階へ上る階段を駆け上がり、置かれている実験作の鏡をどかし奥へと進む。
メノウたちの宿泊している部屋のさらに奥、記憶の鏡の部屋のさらに奥にある古い扉の部屋の前。
そこにリーダーの男はいた。
「く、来るんじゃねぇ!」
「袋のネズミだ、諦めろ!」
よほど焦っていたのか、逃げ場のない場所へと自分から追い詰められていくリーダー。
屋敷に逃げるのではなく、車で逃走していればまだ逃げ切れたかもしれない。
それすら思い浮かばないほど焦っていたのだろう。
「く、くそぅ…!」
リーダーの男が後ろの古い扉に手をかける。
しかし、何故か扉は開かなかった。
古い扉故、きつくなっているのか…?
もはや逃げ場など無い。
単なる悪あがきか…
「待って、その扉は開けちゃだめ!みんな、あの人を止めて!」
「お、おう!」
フィーリアの叫びを聞き、リーダーの男に飛び掛かる三人。
しかしリーダーの男は部屋の中に逃げ込むべく無理矢理体当たりで扉を破壊し始めた。
「やめて!」
メノウたちがリーダーの男を押さえたのとほぼ同時だった。
扉が壊され、部屋の中に入っていたものが露わになる。
それは形を持たぬ黒い影のような『化け物』だった…




