第百十四話 鏡へ、霧からの来訪者
ファンタジー物だと思ったらいきなり魔法瓶が出てきて驚きました。(原作ゾッ帝)
魔法瓶って結構古い言葉だと思うんですが、原作者さんは今でも実家で使っているんでしょうか?
あれから日は落ち、あたりはすっかり暗くなってしまっていた。
濃霧のせいで昼でも暗かったが、やはり夜になるとさらに暗くなる。
とはいえ、メノウとショーナの二人は霧が開けるまでの数日はこの鏡の屋敷に留まることとなる。
「フィーリアには感謝せんとな」
ベッドに寝転がりながらそう言うメノウ。
この部屋にはベッドは一つしかない。
しかしその分ベッドと枕が非常に大きかった。
これならば十分、二人で使用できる。
おなじくベッドに座っていたショーナがそれに答える。
「ああ。屋敷に泊めてくれて、食事まで出してくれて…」
彼女の話によると、今行っている魔術の研究などは国からの支援などもあって成り立っているらしい。
研究結果や国からの依頼と引き換えに金や食料などを貰っているという。
しかし屋敷の立地ゆえにあまり外出はしない。
そのため、彼女の手元にはどうしても金が有り余ってしまうとか…
「確か食事は広間で七時からじゃったな」
「もうすぐだな。そろそろいくか!」
そう言ってベッドから降りる二人。
昼間に茶を飲んだ広間には、フィーリアが腕を振るったであろう料理が並べられていた。
ポトフやフライ、サラダやパンなどだ。
その他小料理が数点並んでいる。
「ふふ、ちょっと張りきっちゃったわ」
「おお~!」
「フィーリアさんって料理うまいんですね」
「こんなところに住んでると嫌でもうまくなるものよ」
「んふふふふ」
そう言いつつ、食器をとるメノウ。
三人が食事をとろうとしたその時だった。
「…ん?」
屋敷の中に乾いた木を叩く音が響いた。数回ほど。
それは屋敷のドアを誰かが叩いたということだ。
しかしこんな地に一体誰が…?
「お客さんかしら…?」
「待って、フィーリアさん。俺が出ます」
「え、ええ」
メノウとショーナ達の様に迷い人か、あるいはもっと別の何かなのか。
盗賊、或いは考えたくはないが、魔王教団の追手か…?
ともかくフィーリアに出迎えをさせるわけにはいかない。
「一体誰が…」
そう言いながら屋敷の扉を開けるショーナ。
そこにいたのは、全身を傷だらけにし壁に寄りかかっている一人の青年。
服は血と泥で汚れ、息も上がった状態だった。
ボサボサになった金色の髪と被っていたニット帽も血で染まり赤くなっていた。
「よかった…人がいた…」
「お、おい!大丈夫かよ!?」
ショーナを見て安心したのか、その青年は突然気絶してしまった。
これでは食事どころではない。
彼を屋敷に運び治療を施すことにした。
「一体この人は何者なのかしら?」
とりあえず空いた部屋のベッドに青年を寝かすことに。
服はボロボロだったので一旦脱がせ、傷の手当てをし応急処置として包帯を巻く。
汚れていた身体をタオルで拭き、薬と塗り薬を塗る。
あとはメノウの魔法で治療すれば大丈夫だろう。
「身なりからして旅の遭難者という訳ではなさそうですが…」
旅人にしては荷物が少なすぎる。
持っていたのは小さな水筒と小型の錆びたナイフのみだった。
そして…
「この傷、銃で撃たれた痕じゃな」
「銃…!」
「頭の傷は打撲。自分でぶつけた訳ではなさそうじゃ。誰かに殴られたか…?」
青年の治療をしていたメノウが、彼の脚の銃弾によってつけられた傷を見つけた。
弾丸自体は恐らく貫通したのだろう、見つけることはできなかった。
銃で撃たれ、何かで殴られながらもこの青年はここにやってきた。
一体何者なのか…?
「足の怪我と頭が問題じゃな。しばらく安静にせんといかん」
魔法で怪我は治せるが、それにもある程度限界はある。
とりあえずしばらくは様子を見ることにした。
「ショーナ、悪いがお湯をとってきてくれんか?あとタオル」
「ああ、いいぜ」
「調理場の魔法瓶にお茶に使おうと思って沸かしたお湯があるわ。それを使って。タオルも給仕用のものがそこにあるわ」
「魔法瓶…?わかった」
そう言って部屋から飛び出すショーナ。
清潔なタオルとお湯はいくらあってもよい。
薬などは幸いこの部屋に置いてあった。
と、その時…
「う、うぅ…」
「お、目が覚めたか」
「ここは…屋敷の…なかか…鏡の壁…?」
青年が目を覚ました。
鏡の屋敷にやはり違和感を感じる青年だが、いまはそんなことを言っている場合ではない。
足を伸ばそうとするが銃弾により受けた傷のせいでうまく動かせないようだった。
痛みに顔を歪めながら、メノウたちに目を移す。
「さっきの少年は…?」
「ショーナか、ヤツがここまで運んだのじゃ」
「そうだったのか…うッ!」
「もう少し寝てた方がいいわ」
フィーリアの言葉を受け再び身体を寝かせる青年。
メノウが治療魔法を使っているとはいえ、まだ身体を起こせるほどに回復はしていないらしい。
と、そこにショーナがタオルとお湯、それと金属製の器を持って戻ってきた。
「あ、目ぇ覚めたのか」
「タオルとってきてくれたかショーナ」
「ああ、それとお湯」
「ありがとうな」
ショーナに軽く礼を言うと、メノウが器にお湯を張りタオルを浸す。
そしてそれを青年に渡した。
改めて、青年に話を聞くことに。
「ところで、あなたは一体何者なの?」
「オレは『アース・べルガー』、賞金稼ぎだ」
「賞金稼ぎ…」
「なんでそんな奴がボロボロの姿で…?」
「それは…」
ベルガーはこれまでに何があったかを語り始めた。
彼は数日前、とある賞金首の盗賊を狙ってそのアジトに強襲をかけた。
以前に別の場所でその盗賊の仲間を捕まえていたため、さらに捕まえれば報酬が少し上乗せされる。
それを狙っての行動だった。
しかし…
「気をつけて行動したつもりだったが、メンバーたちに見つかって交戦になってな…」
ただの数人のチームの盗賊だと思い、多少油断していたのかもしれない。
しかし仲間を捕まえられ怒りに燃えていた盗賊たちに反撃を喰らい、ベルガーは逃走したのだった。
銃撃と打撲もその時受けた傷だったのだ。
「乗ってたホバーボードも壊され、荷物もばら撒き追い詰められたとき、この濃霧の中に逃げ込んだんだ」
この濃霧の中に逃げ込んだのは彼にとっても賭けだった。
そのままでは迷った挙句に死亡ということも十分にあり得た。
フィーリアの屋敷にたどり着けたのは幸運と言ってもよいだろう。
「しかしよくここにたどり着けたわね…霧の中では明かりもほとんど通さないのに…」
「馬の鳴き声が聞こえたから…」
「アゲートか!」
馬の声はよく響く。
それが聞こえた方角を頼りに、迷わぬように最後の力を振り絞りここまでやってきたという。
この地域に馬がいるとするならばそれは行商人か旅人。
つまり人がいるということに他ならない。
「慣れてるはずの賞金稼ぎでまさかこんなヘマしちまうとは思わなかった…」
「そうじゃったのか。そんなことが…」
「アンタたちには命を救われたよ。ありがとうな…」
そう言ってベルガーは眼を閉じて眠りに入った。
よほど疲労が溜まっていたのだろう。
「一応、横の机に食事と水を置いておくわ」
「目が覚めたら食べるじゃろう」
ひとまずベルガーを寝かせ、三人は再び広間で食事をとることに。
メノウたちの旅の話を聞きながら食事をするつもりのフィーリアだったが、そうもいかなくなってしまった。
「フィーリア、この付近で盗賊はでるのか?」
「ええ。確か霧の外の荒野にいると聞いたことがあるわ」
「ここまで来る可能性はあるか?」
「無いと思うわ。でも霧が晴れたら…」
あと二日ほどすれば、この霧は晴れるという。
もしもその時、ベルガーを追って盗賊たちがやってくるかもしれない。
とはいえ、盗賊たちはベルガーが生きているということも知らないはずだ。
普通ならあれほどの傷を受けた人間は死ぬと考えるだろう。
「さすがに追ってはこないじゃろう」
「そうだな」
そう言いながら食事をすすめる三人。
深く考えても仕方が無い。
人の命を救えただけでもよしと考えるべきだろう。
「それより、また旅の話を聞かせてもらえないかしら?」
「よし、いいぞぃ。前回はどこまで話したか…?」
「イオンシティの話あたりだぜ、メノウ」
「よし、じゃあその次は港町キリカで…」
再びこれまでの旅の話を始めるメノウ。
その話は珍しく、夜遅くまで続いた。
名前:アース・ベルガー性別:男 歳:19
恰好:濃い緑色のニット帽にオレンジ色の上着、その他は軍からの流出品を着ている。
低額の盗賊や脱獄者などを狙うケチな賞金稼ぎ。
大金を得るためにそこそこ実力のある盗賊を狙ったが失敗。
半殺しにされるも逃走し、フィーリアの屋敷にたどり着いた。




