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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第5.5章 鏡の屋敷の透明少女
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第百十二話 鏡のフィーリア



 王都ガランへ向かうため東アルガスタの都市『ナンバ』を出発したメノウとショーナ。

愛馬アゲートを駆り、意気揚々と目的地をめざし疾風のごとく走った。

しかし、出発から数日後…


「まずいのぅ…」


「迷ったな…」


 アゲートの背の上で困惑の表情を見せる二人。

荒野の一本道をずっと進んでいた二人だったが、途中小さな山を乗り越えショートカットをしようと目論んだ。

しかしそれが間違いの下だった。

道を見失い、迷ってしまったのだ。

しかも厄介なことに、この辺りは特殊な磁場が発生しているらしくコンパスも役に立たない。


「下手に動くと余計に迷うだけだぜ、どうするメノウ」


「元の一本道からも結構離れてしまったみたいじゃ…」


「数日前は荒野だったのに、今は朽ちた林か…」


 今、二人がいるのは枯れ木ばかりの林だった。

あるのは葉のついていない細い木と雑草ばかりの不気味な場所。

歩けど歩けどもその光景を抜けることが出来ない。

完全に迷ってしまったようだ。


「クソッ…霧まで出てきやがったぜ」


「結構濃いのぅ」


「メノウ、魔法で霧を飛ばせないか?」


「これだけ濃いと難しいな」


「そうか」


 歩いているうちに辺りは白い霧に包まれていた。

ただでさえ方向感覚が狂いやすいこの場所でこれは致命的だ。

動かないで待つか、それでも進むか…

一番良いのは動かずに、霧が晴れるのを待つことだろう。

しかし、二人は進んだ。

心のどこかに焦りの気持ちがあったからかもしれない。

そして…


「ん…?」


 ショーナは霧の中にある物を見つけた。

それは枯れ木と雑草ばかりの林の中に立つ、古い屋敷だった。

建築されてからかなりの年月が経っているであろうその屋敷。

しかし壁面は純白に塗られ、屋敷を囲む鉄柵も錆など見当たらない綺麗な銀色をしていた。

よほど手入れが行き届いているのだろう。


「随分と綺麗な屋敷だなぁ。こんな場所に…」


「中の者に道を聞いてみるのはどうじゃ?」


「そうだな。たぶん誰かはいるだろうしな」


 門をくぐりショーナとメノウが屋敷の敷地中へ入る。

アゲートは外の柵に結んでおいた。

屋敷の庭園には不思議なことに、一切植物が植えられていなかった。

しかしよく考えてみれば、こんな僻地では手入れの手間もかかるというもの。

下手に植えるよりは何も植えない方がいいかもしれない。

植物の代わりに石畳が敷き詰められていた。


「こんばんわー!だれかいますかー!」


「まだ昼じゃぞ」


「霧のせいでわかんねーよ」


 日が出ているのか沈んでいるのか、それすらも分からないほどにこの霧は濃い。

体内時計までも狂いそうなほどに。

まるでこの世界とは違う、異世界にでも迷い込んだような感覚だ。


「お、開いたぞ扉」


「あ、ほんとだ」


 誰かが反応したのか、扉がゆっくりと開いた。

屋敷の中には灯りがついていた。

一般的な灯りなどでは無く、壁などがおぼろに輝きを放っている。

それが灯りの代わりとなっているのだ。

しかし驚くべきはそこでは無い。


「はぇ^~壁一面が『鏡』になっておる」


「天井も鏡だぜ。床と窓以外全部か」


 二人の言うとおり、壁と天井が全て『鏡』になっているのだ。

壁の鏡が灯りの役割を同時に果たしている。

すこし不気味に思いつつも、二人は屋敷の奥へと進んでいく。


「今さらだけど勝手に入っていいのかな?許可とってないし」


「扉も開いたしいいじゃろう。入ってほしくなかったら扉なぞ開けん」


 ため息が出るほど広い屋敷。

しかしその壁は全て鏡でできている。

だが人の気配は無い。

鏡に映る自分の鏡像までもが少し不気味に思えた。


「変わった屋敷じゃな…」


「人の気配が全然しないぜ…」


「私の屋敷に、何か用でしょうか?」


「ひゃあ!」


 メノウとショーナ達の後ろにいきなり現れた声の主。

それはショーナ達より少し年上の、16~18歳くらいの長身の少女だった。

青みがかかった銀色の長い髪、少し地味な色合いのルームドレス。

どこか上品な風格を漂わせていた。


「実は道に迷ってしまって…」


「さきほど扉の前で叫んでいた方ですね」 


「ははは。そうです…」


「こちらの修道女さんは妹さんですか?」


「妹ではない、友だちじゃ」


 いきなり屋敷に入ってきたメノウとショーナに対してもフレンドリーな態度で接するこの少女。

おっとりとしたその表情の奥にある鋭い眼光。

メノウたちが悪人ではないと見抜いているのだろうか。


「こいつはメノウ、俺はショーナっていいます」


「私は『アスト・P・フィーリア』、この『鏡の館』の主です」


 フィーリアの話によると、この館には今は彼女しか住んでいないらしい。

数週間に一度、行商人が訪れその際に食料などを買うという。

掃除などは魔法で済ませているらしい。


「お前さん、魔法が使えるのじゃな」


「ええ。先ほどあなた達が入った扉も魔法で動かしてたのよ」


「ほぇ^~…」

 

「久しぶりのお客さんだし、少し張りきっちゃうわ。もしよければ一緒にお茶でもどう?」


「いえ、そこまで気を使ってもらわなくても…」


「うふふ。いいからいいから」


 フィーリアに案内され、奥の広間へと通される二人。

一面鏡張りの広間に置かれた長いテーブル。

それを囲むように配置されたイス。

ゆうに数十人は座ることが出来るだろう。


「鏡張りじゃとやはり落ち着かんのぅ…」


「変わっているでしょ」


 テーブルと椅子まで鏡張り。

観葉植物の植えられた鉢も鏡でできていた。

部屋の壁にかけられたモザイク絵も、よく見ると鏡の破片でできている。

額も色つきの鏡。

まさに全てが鏡の『鏡屋敷』だ。


「フィーリアさん、なんでこの屋敷の内装は全部が鏡張りなんですか?」


「それはお茶を飲みながら話しましょう。紅茶でいいかしら?」


「はい」


「ワシも!」


「お茶菓子も出すわね」


 ここ最近メノウとショーナはずっと荒野を旅してきた。

そのため、パサパサのパンと水、濃い味付けの保存食しか食べていなかった。

同じような食事の連続に飽き飽きしていたところだったのだ。


「どうぞ」


 カップに淹れられた熱い紅茶。

そしてドライフルーツのパウンドケーキ。

さすがにカップとケーキの皿は鏡張りでは無かった。

強度的な問題だろうか。


「ありがとうございます」


「おぉ^~おいしそうなケーキじゃあ」


「手作りよ」


 パウンドケーキを食べながら先ほどの話の続きをするフィーリア。

保存食と同じくパサパサではあるが、あまりの美味さに思わず驚きそうになる。

ケーキを食べつつ、ショーナは先ほどの話の続きをした。

何故この屋敷が鏡張りなのか…?


「なんで鏡張りなんですか?」


「魔法の実験をしているのよ」


「魔法ですか」


「ええ。鏡を使ってね」


 その後の話によると、フィーリアはいわゆる『高等魔術師』の一人であるという。

高等魔術師は国にほんの僅かしかいない、特別な魔術師だ。

メノウの仲間である『スート』やかつてディオンハルコス教団のキリカ支部を率いていた『ピアロプ・トロシード』とと同じく、国に認められた実力を持っている。

フィーリアは国からの依頼で特別な鏡を作ったり、特殊な魔法の研究をしている。

このような辺境の地に住んでいるのも過激な実験をすることがあるからだ。

万が一の時に周囲に被害が出ないようにしているのだ。


「それに鏡は古来より神聖な物と言われているの。実験を抜きにしても、私個人が好きというのもあるわね」


「つまりお前さんの完全な趣味というわけか」


「ふふふ、そうね」


 軽く笑いながら頷くフィーリア。

口に紅茶を含みをそれを飲み干す。


「ねぇ、あなた達はなこんな辺境の地へきたの?」


 この辺りは人などめったに通らない。

行商人が時々通る程度だ。

そんな辺境の地へ来たショーナ達が彼女にとってはとても珍しく思えたのだろう。


「いろいろと理由がありまして…」


「旅じゃな」


「何故あなたたちは旅をしているの?もしよければ旅の話を聞きたいわ」


「ワシらの今までの旅の話か…」


 今のメノウ達には別に話さない理由など無い。

フィーリアに対しメノウは今までの旅の話を始めた。

それは長く、長く続いた。


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