第百十一話 友と共に次のステージへ…
東西南北の四地区で行われていた予選は終了した。
メノウたちが次に目指す地、それは本戦の行われるゾット帝国の首都である王都ガラン。
以前、女王ルエラとの謁見のために訪れたことはあったが、すぐに大会予選のために各地を回ることになってしまった。
そのため、本格的に足を運ぶのはこれが実質初となるだろう。
「メノウさん、私は一人で王都へ向かいます」
「また会おうな、灰色の」
「ええ、では…!」
そう言ってその場から去っていくグラウ。
東アルガスタで軽く休息をとったメノウ達はこれから王都ガランへと向かう。
しかし全員が行動を共にする訳では無い。
灰色の少女グラウ、ヤマカワはそれぞれ一人で向かうらしい。
メノウとショーナは馬に乗って王都を目指す。
「俺のバイクは一人乗りだからな」
「ワシらは馬のアゲートがいるから、どちらにせよ乗れんよ」
「ははは、違いない。じゃあな」
予選参加者用の宿舎前にてグラウ、ヤマカワと一旦別れるメノウとショーナ。
実は、予選敗退したヤマカワは別に王都へ向かう必要は無い。
しかし、魔王教団との戦いに力を貸すため独断で王都を目指すという。
「二人とも行っちまったな」
「ワシらも行くか」
「ああ」
「アゲート、いくぞぃ」
二人の愛馬であるアゲートが軽く鼻息をふかせる。
どうやら彼も準備は万端らしい。
食料などを積んだカバンを持ちアゲートに二人が乗る。
ショーナが手綱を持ち、メノウが後ろに腰を掛ける。
本来ならば二人乗りはきついのだが、ショーナとメノウのふたりが比較的小柄な体格が幸いした。
元々は軍馬であるアゲートは余裕綽々の表情を見せている。
「よし、行くぜ!」
「おぉー!行けー!」
二人の声と共に、アゲートが大地を力強く蹴る。
とはいえ、ここはまだ市街地。
街を出るまでスピードを出すわけにはいかない。
あまり人のいない場所を選びながら、今いる都市『ナンバ』の外へと向かう。
「街の外は荒野なんだな」
街の外は草のほとんど生えていない、一面の荒野が広がっている
東アルガスタは水の出る場所を中心に都市ができている場合が多い。
このナンバの都市もその一つだった。
そのため、街を出てしまうと外にあるのは一面の荒野となってしまう。
唯一ある人工物は、地面に張りついた舗装された道路のみ。
「荒野に一本道の道路があるっていうのも変わった光景だよなぁ…」
「そうじゃなー」
ナンバの街を背に、地平線の先まで続く一本道の先を見つめる二人。
アゲートの背に乗り、その先にある王都ガランをめざし進んでいく。
急いでいるのならば走って行くが、今回は特に急いでいるというわけでも無い。
ある程度の余裕もあるのでゆっくり行くことにした。
「なぁメノウ、気になることがあるんだけど…」
「なんじゃ、ファントムのことか?」
「いやそうじゃない。魔王教団のことだよ」
「魔王教団の…?」
「ああ。あいつらは一体どこから来たんだ?」
以前のルエラ姫の話によると、魔王教団はアルガスタの人間に紛れて過ごしていたという。
魔王教団は約百年前から存続しているという組織。
近年、活発に活動を開始するまではその存在が表に出ることは無かった。
しかし、だからと言って百年近くもその存在を完全に隠すことが出来るとは到底思えない。
ショーナには、魔王教団の全員がアルガスタの民に紛れていたとは思えなかったのだ。
「ヤツらが少数精鋭の組織っていうのは知っている。だけど…」
「どこかに魔王教団の活動を支援する者がいるか、あるいは…」
「あるいは…?」
「全く異なる『異世界』からやってきた…?」
「異世界…?」
「そうじゃ。『ユニフォン』の話は知っているな?ショーナよ」
このゾット帝国には一つの伝説がある。
それは『異世界ユニフォン』と呼ばれる伝説だ。
アルガスタとは別のもう一つの世界があるという、昔話のようなものだ。
ショーナもその話は知っているが、所詮はおとぎ話のようなものだと思っていた。
しかし…
「以前、ワシはユニフォンのことを知る男とこの東アルガスタで戦ったことがある」
数年前、彼女は東アルガスタで龍の生き残りである、軍閥長の大羽と戦った。
彼は最果ての地にある時空の塔と呼ばれる遺跡でユニフォンの科学力と魔王の力の一部を手に入れたと言っていた。
「だけどユニフォンなんて、単なる伝説だぜ」
「そうじゃ。しかし、ユニフォンは実在する」
大羽との最終決戦の果てにメノウは大羽の力の一部を受け継いだ。
その際、力だけでは無く彼の記憶の一部もメノウは読み取っていた。
そこにあったのは、紛れもないユニフォンの記憶だった。
「…つまり魔王教団はユニフォンから来たってことか?」
「一つの仮説としてはおもしろいかもしれん。まぁ、さすがにありえんじゃろうがな」
「うーん…」
「ワシにも気になることが一つあるのじゃ」
「なんだ?」
「灰色の…グラウ・メートヒェンのことじゃ」
どこからともなくやってきた謎の小さな灰色の少女グラウ・メートヒェン。
常に灰色のマントとフードを纏っているため、未だに彼女の素顔を見た者はいない。
なぜ彼女はメノウ達に手を貸すのか、その目的はなんなのか…?
「何故かメノウにだけ敬語で話すんだよなー」
「あの気配…どこかで感じたことがある気がするが…」
「知り合いなのか?」
「…わからん。会ったことあるような、無いような」
メノウの記憶の中にある誰かの気配に似ている。
しかし、それが誰かは分からない。かた
遠い昔ではない、最近感じた気配のようでもあり、違うようでもある。
「灰色の…あやつは一体…?」
「ヤツは味方だ、敵では無いぜ」
「そうじゃ…そうじゃな!」
彼女の正体が分からずとも、敵では無い。
共に戦ってくれる、頼もしい味方なのだ。
それに代わりはない。
戦力が少ない今、その存在はとてもありがたい。
「まぁ、今そんなこと考えてもしょうがないじゃろう!」
「そうだな。とりあえず、今は王都ガランを目指そうぜ」
「おーう!」
そう言って二人は王都ガランへと歩みを始めた。
それはこれから始まる更なる戦いの始まりに過ぎない。




