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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第5章 東アルガスタ最終予選 史上最大の『前哨戦』…!
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第百八話 幻影の牙 『ファントム』

2014/08/11…


 一通り会場内をメノウは周った。

みつけた眷属は片っ端から元に戻したが、それでも全員を戻せたわけでは無い。

既にこの会場から離れている者や偽装している者など、どうしても漏れがある。

 一旦ショーナ達の下へと戻ることにしたメノウ。

そろそろヒィークの最終試合が行われる時間だからだ。


「戻ってきたぞぃ、ショーナ」


「おお、どうだった?」


「一応見つけた眷属は全部元に戻したが…」


 これまでの経過を話すメノウ。

戻した者たちの人数、先ほどのカット・アサノとの戦い。

魔王教団の足取りなどは掴めなかったことなど…


「すまんな、あまり力になれなくて…」


「そんなことないぜ!何人も眷属を元に戻せたんだから」


 俯くメノウに対しそう言うショーナ。

メノウは少しがんばりすぎるところがあることを彼は知っている。

今回の仕事も決して『力になれなかった』訳では無い。

むしろかなりの成果を上げた方だろう。


「そ、そうか…」


「それよりヒィークさんの試合がそろそろ始まるぜ」


「この試合に勝てば本戦進出かのぅ?」


「ああ」


 予選を突破できるのは各地区から四名(北アルガスタは二名、敗者復活戦二名)となっている。

東アルガスタ予選からはヒィークの他にあと三名が予選を突破することになっているが…


「そういえばさっき予選突破者が二人決まったみたいなんだけどさ」


「ほう」


「そのうちの一人はアイツだよ。ミサキだ」


「ミサキか…!」


「もう一人は一般の参加者みたいだったぜ」


 一番最初に予選突破を果たしたのは、あの人斬りミサキだった。

魔王教団の眷属であり、ヤマカワを下した少女だ。


「悔しいけどアイツ強いからなぁ…」


「ヒィークには勝ってもらいたいのぅ」


「ああ。勝ってくれヒィークさん!」


 その声を受け、ショーナに軽い笑みで返すヒィーク。

彼が試合場で対峙するのは特に有名でも無い名も無き参加者。

しかしこの試合は予選の最終試合。

なぜそのような者が残っているのか…?


「ヒィークの相手も眷属じゃな」


「なに!?」


『試合開始!』


 試合開始の声が会場内に響き渡った。

眷族の紋様の力で強化された名も無き参加者。

それが最終予選にまで残っていたのだ。

既に試合は始まっている、止めることはできない。


「ヒィーク!お前を倒して名を上げてやるぜぇ!」


 眷属の男が距離を一気に詰めヒィークに襲い掛かった。

拳を握りしめ、彼の顔面にそれを叩きつける。


「勝った!!」


「いや、そうはいかないよ」


「え…!?」


 その攻撃を混で受け流し、カウンターを眷属の腹に叩き込むヒィーク。

超高速の突きを複数回、それを受けた眷属は声を上げる間もなくその場に倒れた。

勝者はヒィーク。

試合開始から終了まで、僅か数秒の出来事だった。


「さすがはゾット帝国『最強の男』じゃな」


「ほとんど一瞬で…」


 ヒィークの勝利、それはすなわち彼の本戦突破が決定したことを意味する。

会場内がヒィークコールで包まれた。

彼の勝利が会場に熱狂の渦を巻き起こす。


「みなさん、ありがとうございます!」


「ヒィーク!ヒィーク!ヒィーク!」


「応援ありがとう!」


 若干照れくさそうにしながらも、応援してくれた観客たちに礼を言い試合場からおりるヒィーク。

長くこの場に留まると観客が押し寄せかねないため、すぐにその場から離れ個室に戻ることにした。

もちろん、メノウとショーナと共にだ。


「すごい人気じゃな」


「まぁ一応、大会優勝者だからね」


 この戦いが終わり、東西南北のアルガスタで行われていた予選は全て終了した。

本戦に出場するのはショーナやヒィークを含む十六人だ。

この十六人のうち数名は魔王教団の息がかかった者だろう。

ミサキの様に。



 個室に戻り、ヒィークの本戦出場決定の記念に祝杯を上げる三人。

とはいえ酒の類は置いていなかったため、会場内の露天で購入した料理などをならべ茶を飲む程度だ。

ヒィークの個室に並べられた露天商の料理の数々、飲み物。

それをつまみながら話す三人。


「ヒィークさん、俺もガランでの本戦に出場が決定してるんですよ」


「もしかしたら僕と戦うことになるかもしれないね」


「そのときはよろしくお願いします」


「お手柔らかにたのむよ」


 そう言うショーナとヒィークを尻目にメノウは食事を楽しんでいた。

露天で購入したケバブをパンで挟み口に運ぶ。


「おぉ^~うまいのぅ~」


「メノウって本当に食べ物好きだよなぁ。食べるのも作るのも両方な」


「ははは…」


 そういったやり取りをかわしつつ時間が過ぎていく。

ふと気が付くと日は沈み、夜になっていた。

明るいうちは多くの人々で賑わっていた会場も、今はもぬけの殻だ。

数日後の設備撤去まではほとんど来ないだろう。

人の気配も全くしない。

魔王教団たちも今回は撤退したのだろうか…


「メノウ、結局今回は魔王教団と俺たち、どっちが勝ったんだろ?」


「…ヤマカワや一部の参加者は負傷してしまった。ワシらの勝ちではないじゃろう」


「そうだよな…」


 テーブルを囲みながらメノウとショーナが言った。

若干重い空気が辺りを包む。

同席するヒィークはどう話していいかわからなかった。

強者とはいえ、護られているという立場である以上口を挟むべきでは無い。

そう考えているのだろうか。

と、そのとき…


「んッ!?」


 メノウが何らかの強い魔力を感知した。

それと同時に無人の試合会場の方角から謎の轟音が辺りに響き渡った。

何かが崩れ落ち、破壊されるような轟音。

三人は個室からとび出した。


「なんじゃ!」


「第二試合会場が…!?」


 先ほどミサキとヤマカワが試合をしていた会場が何者かに破壊されていた。

屋根は崩落し、壁も一部が崩れ落ちている。

周囲の資材に引火しているのか、第二会場の周囲は炎に包まれていた。

メノウたちのいるヒィークの個室と第二会場は約百メートルほど離れている。

もう少し近ければ彼女たちも被害を受けていただろう。


「魔王教団の奴か、残ってやがったのか!?」


 ショーナが叫んだその瞬間、燃え上がる第二会場の残骸の中から『何か』が飛び出した。

炎を纏った人型のソレは約百メートルの距離を一気に詰め、メノウに襲い掛かった。

腰に下げた剣を引き抜き、彼女に斬りかかる。


「…ッ!」


「ヌッ!?」


 身体を捻り、その攻撃を避けるメノウ。

しかし剣から発生した斬撃波によって彼女の後方にあった建築資材が切断された。


「(この感じは…?)」


 今の攻撃に何か妙な感覚をメノウは感じ取った。

衝撃波を放ち、襲い掛かってきたソレとの距離をとる。

ソレも攻撃を止め、メノウの方を見据える。

炎に包まれた黒いマントとフードを身に纏ったその男。

身長はショーナより一回りほど大きいくらいだろうか…?


「お前さんは何者じゃ!眷属か!?それとも魔王教団の正規メンバーの…」


 メノウがその黒マントの男に問いかける。


「わからないか」


「…ああ」


「ならこの顔を見れば思い出すか!?」


 黒マントの男が頭に被ったフードを脱ぎ捨てた。

そこにあったのは傷だらけで右半分が潰れた男の顔。

腐り落ち、一部分は骨まで見えている。


「うっ…!」


 あまりのおぞましさに、思わず目を逸らすショーナ。

しかしそれと同時にその顔を見ていたメノウは別の感情に囚われていた。

彼女にとってその男の『顔』は別の意味を持っていた。


「あ…ああ…お、『お主』は…」


「思い出したか!忘れたとは言わせんぞ…!」


「ふ、『ファントム』…!」


 メノウが言った『ファントム』という名。

それがあの傷だらけの男の名前だ。


「メノウ、貴様に受けたこの傷は決して忘れんぞ」


「お主はあの戦いで…何故ここに…!?」


「蘇ったんだよ、お前に復讐するために!こいつの力でなぁ!」


 ファントムの右半身に刻まれていたのはあの魔王教団の眷族の紋様だった。

ミサキやシェンのものとは大きさも、込められた魔力の量も格段に違う。


「違う、違う!違う!違う!違う!ワシではない!それはあの戦いの…」


「貴様がいなければ受けることの無かったこの傷!失うことの無かった命!」


「ああああああああああああああああ!嘘じゃ!ありえん!あああああああ!」


 頭を抱えその場にうずくまるメノウ。

彼女のそのような姿をショーナは見たことが無かった。


「ここで貴様にも同じ苦痛を刻んでやる!」


 刀を抜き、ファントムがメノウに襲い掛かった。

錯乱状態にある彼女に防御がとれるとは思えない。

ショーナとヒィークがファントムの攻撃を受け流そうと一歩前に出ようとした。

しかしその瞬間…


「そうはさせない!」


「なに!貴様は…!」


「は、灰色の…!」


 ファントムの攻撃はメノウに通らなかった。

その攻撃を受けたのは、灰色の少女グラウ・メートヒェンだった。

ファントムの刀を自身の持つ天生牙で受け流すグラウ。

攻撃を弾き、一旦距離をとる二人。

戦闘を続けるか?

そう思われたが、ファントムとグラウは同時に、武器をしまった。


「…コイツに救われたな。メノウ、お前を殺すのは次だ!」


「そうはさせん」


「好きにしろよ灰色女。ガランで待ってるぜ!」


 そう言ってファントムは闇の仲に消えて行った。

その場にうずくまるメノウにショーナが話しかける。

しかし彼女はそれに答えようとはしない。 


「ああ…うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「め、メノウ!?あのファントムってヤツは一体…」


「あああああ…」


 泣き叫び錯乱状態にあるメノウ。

そんな彼女に代わりグラウがショーナに言い放った。


「ショーナ…あの男は…ファントムは…」


「奴は…?」


「ファントムは、彼女の…メノウさんの…」


「あああああ…」


「かつての『仲間』であり『友』だった男…」


「あああ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 東アルガスタ予選会場。

その既に人々が去り閑散としたこの地にメノウの叫び声だけが響き渡っていた…



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