第十話 総出撃 速攻の電撃戦!
~前回のあらすじ~
南アルガスタ全軍がついに動き出した。
一方、メノウたちは以前の村でしばしの休息を取っていた。
メノウ達が村に来てから一週間が過ぎた。
薬の影響も身体から消え、すっかり元通りとなったメノウ。
何度か、酒場にアシッドがリベンジにと来ることがあった。
もっとも、そのたびに追い返してはいたが。
今日も朝早くから部下を数人連れてやってきた。
まだ日も昇りきっていないのに無駄に元気なヤツだ。
「今日こそウチのチームに入ってもらうぜ!」
「ま~た来たぜあいつら」
「しつこいのぉ…」
そう言うと。メノウは一人で酒場の窓から外へ飛び出した。
全快した身体の調子を試すための準備運動がてらにアシッドたちを相手にしようというのだろう。
リーダーであるアシッドは銃剣、連れてきた部下二人は棍棒を持っている。
もっとも、メノウなら軽く倒せるだろうが。
「おい、ワシは今日でこの村を出る。相手をするのはこれで最後じゃ」
そう言い終わると同時に地を蹴り、棍棒を持つアシッドの部下の一人の懐へと間合いを詰める。
一瞬の出来事に戸惑いを隠せない部下の男。
とっさに棍棒で殴ろうとするも、メノウの動きの方が早かった。
低身長を生かした低地からの頭突きで部下の男を倒し、棍棒を奪う。
「なかなかいい武器しゃ、ワシ的には銃や剣よりこっちの方が好きじゃのぉ…」
「てめぇ!」
もう一人の部下が棍棒で殴り掛かる。
全体重をかけた一撃だったが、それをメノウは片手で受け流し反撃の拳を腹に打ち込む。
それを受け、その場にうずくまる部下の男。
僅か一分足らずで残るはアシッド一人となった。
さすがに勝てないと思ったか、武器を引込めて逃走した。
「いつか絶対仲間に引き入れてやるからなぁ!」
「やだよ~ん」
アホ共を退け、店内に戻るメノウ。
先ほどの騒ぎで起きてきたミーナと、店の準備をしていた店長が中で話をしていた。
この先の旅の食糧を譲ってもらおうとしているようだ。
金はあるので、とりあえず一週間分の食料を分けてもらえることとなった。
荷物もまとめ、再び旅立つ準備もできた。
だが…
「どうした、メノウ?」
「いや…ちょっとな…」
そう言うと、メノウは店長に金を渡しあることを頼んだ。
それは…
「馬のアゲートを預れって!?」
「金は渡すから、頼む!」
「…う~ん」
この先、アゲートでの移動はさすがに目立つ。
元々がゾット帝国の軍馬だけに、軍の関係者が見れば怪しまれることもあるだろう。
これから向かう都市、『シェルマウンド』は特にゾットの軍人が多くいる地域。
目立たずにアゲートで移動するのはかなり難しい。
「もちろん後で必ず引き取りに来る!アゲートはワシの仲間じゃ!」
「まぁ、金をもらった以上引き受けないわけにはいかないからな…」
そう言うと、店長は瓶詰の水を一本メノウに渡した。
「契約書替わりだ」
「…頼む!」
そう言い、メノウたちは酒場を後にした。
ここから先は徒歩で、『シェルマウンド』を目指すこととなる。
だがそちらの方が普通の旅人を装えていいかもしれない。
「よかったのかメノウ?アゲートを預けてきて」
「ああ、全部が終わったら引き取りに行く」
「ここから先は徒歩た、ゆっくりいこう」
この村からシェルマウンドまでは何個かの山を越えなければならない。
その道中には、大戦前に作られた建造物がいまだに残る地でもある。
工場やハイウェイ、貯水ダムに鉱山跡など…
ある意味では退屈しない、素敵な場所だ。
村を出てから数時間、三人はハイウェイ跡を歩いていた。
太陽が照りつける中、ボロボロのアスファルトの上を歩く三人。
道がある程度舗装されている分、野山を往くよりはずっと楽だ。
だが、さすがに朝から歩き通しだと疲労がたまる。
街路樹が成長したと思われる大木の木陰で三人は休むことにした。
「この辺りは昔何があったんだよ…」
「確か鉱山とかがあるって聞いたことがあるよ」
ショーナの問いにミーナが答えた。
木陰の下に少し心地よい風が吹き抜ける。
それは、休憩している三人に少しの安らぎを与えた。
…だがそれもつかの間だった。
「…何か聞こえる」
突然、メノウが呟いた。
ショーナの耳には何も聞こえなかった。
聞こえるとすれば木の葉がすれる音だけ。
少し経ってミーナが言った。
「この音…何かのエンジン音か…?」
こんな古いハイウェイ跡を乗り物で通る者など今では存在しない。
だが、幻聴ではない。
しかし、エンジン音は確かに近づいてくる。
それも一台ではない。
五、十、いやそれ以上か…?
「来るぞ!」
目の前の瓦礫の山の上にそのエンジン音の主達が現れた。
オフロードバイクを駆る数十人の黒いライダースーツとフルフェイスヘルメットの男達。
全員それぞれが手に剣や棍棒、トンファーなどの武器を所持している。
まるで戦前にいた暴走族か何かのようだった。
少なくとも味方ではないということが一発でわかる。
「何者だ!」
ミーナが叫ぶ。
それを聞いたリーダーと思われる男が自身のバイクの向きを変え、車体に描かれた紋章を指さした。
「『ゾット帝国領南アルガスタ軍特殊陸戦バイク部隊』!」
「陸戦部隊だと!?」
陸戦部隊は南アルガスタ陸軍の部隊。
ミーナが四重臣として活動していた際、陸戦部隊の一つにバイク隊があるとは聞いたことがある。
ということは、今目の前にいるのは南アルガスタの正規軍ということになる。
それを理解したミーナは驚きを隠せない。
「恨みは無いが、貴様らの命貰い受ける!」
そう言うと、リーダーの男は自身の持っていた棍棒を地面に叩きつけた。
それが合図となり他のライダー達が地響きを立てながら一斉に襲い掛かった!
いくらメノウ達でも、この地でこれだけの数を相手にするのは無理だ。
「ショーナ!メノウ!一旦逃げるぞ!」
ミーナが叫ぶ。
ハイウェイ横の防音壁を多節混と蹴りでぶち破り、そこに二人を誘導する。
人一人がやっと通れるくらいの穴だ、あの男たちはこの穴を通れない。
別のところから迂回して追ってくるまでの時間は稼げるだろう。
ミーナの空けた穴からハイウェイの外へと脱出する二人。
だが、ライダー達はそれを追跡しようとはせずただ見ているだけ。
そのかわり通信機を取り出し、仲間に連絡を入れた…
「奴らは森の方に逃げた、確実に仕留めろ…」
リーダーの男は通信機の向こうにいる仲間にそう言った。
その通信を受けたのは、森の中で待つ『陸戦ゲリラ部隊』。
森などの遮蔽物の多い地での戦いを得意とする部隊だ。
「了解」
陸戦ゲリラ部隊のリーダーは通信機をしまい、森に入ってくる三人を狙う。
森には三十人ほどのゲリラ部隊隊員を配置している。
腕に自信のある三十人だ、たとえ相手がメノウ達であろうとこの森の中でなら優位に立てる。
三人が森に入ってきたと同時に、機銃の一斉掃射を威嚇の意味も込めて放つ。
「森の中にも敵がいるのかよ!」
先ほどのバイク部隊に続き、森の中のゲリラ部隊…
突然の襲撃に戸惑うショーナ。
一方、メノウとミーナは冷静に状況を分析し敵の位置を把握。
おおよその戦力などを見積もっていた。
「(三十人チョイか…ちと厄介じゃのぅ…)」
メノウは元々はラウルの禁断の森で暮らしていただけあり、森の中での活動には長けている。
当然、森林戦も得意中の得意分野。
ミーナも森のような場所での戦いは熟知している。
だが『ショーナを守りながら』、『三十人以上を相手にする』というのは非常に難しい。
それに、まともに戦ったとしても先ほどのバイク部隊がまた襲ってこないとも限らない。
となれば、選択肢は一つ…
「また一旦逃げるぞ~ンニャッ!」
メノウが再び叫んだ。
それを聞き、ゲリラの一人が彼女たちに木陰から機銃を向ける。
だが、それを見つけたミーナが彼を多節混で殴り飛ばした。
「逃げるからと言って全くたたかわないわけじゃないんだよ!」
逃げる三人に機銃の一斉掃射を放つも、森の木をうまく利用した逃走により思ったように当たらない。
森の中での戦いでは、ゲリラ部隊隊長よりもメノウの方に分があったようだ。
バイク部隊とゲリラ部隊の追跡から逃れた三人。
だが、それをさらに追いかける別の部隊が現れた。
森の上をホバーボードで走る五人の男達。
「ゾット帝国領南アルガスタ軍特殊陸戦ホバーボード部隊!」
「今度はホバーボードかよ!」
「緑眼の少女メノウ!元C基地司令官のミーナ!あとガキ!お前らをここで始末させてもらう!」
『ホバーボード部隊』隊長が声を荒げて叫ぶ。
だが、彼らは追跡をするだけで攻撃はほとんどしてこなかった。
威嚇のように銃を撃つだけで当てる気は無いようだった。
何か違和感を感じる三人。
やがて、森が開けて大きな広場に出た。
どうやら木材調達のための森林伐採が行われている場所のようだ。
あちこちに切り株が並ぶその地には、大型の工事用重機を操る『壊し屋部隊』が待ち構えていた。
「チッ、誘導されたってわけか…」
「へへ、ここから先は通さないぜ」
森林伐採用の油圧ショベルカーに解体用の鉄球クレーン車、カニクレーン車。
ブルドーザーにホイールローダー、コンクリートミキサー車。
そして、それらの中央には壊し屋部隊リーダーの乗る大型オフロードダンプ。
十数台の重機が大きな壁のように並列している。
後ろからはホバーボード部隊、前には壊し屋部隊、これでは逃げることもできない。
「挟み撃ちだ!」
「いけぇ!ぶっ壊せ!」
ホバーボード部隊の隊員たちが剣を構え、壊し屋部隊が一斉に重機を発進させる。
地響きを立てながら進む重機を今の状況で相手にするのは不可能。
となれば…
「お前さんらのホバーボード、借りるぞ!」
そう言うとメノウは近くに置いてあった伐採された丸太を持ち、勢いよく跳び上がる。
そして、ホバーボード部隊の隊員たちに丸太をぶつけて地面に叩き落とした。
「お主らもそのボードを使え」
メノウがショーナ達に言った。
ホバーボードを一つを奪い、メノウは隊長と対峙する。
「お前、ホバーボードの操作は得意か?」
「いや、初めてじゃ。じゃが、案外勘で何とかなるのぉ…」
木材を構えるメノウと剣を構える隊長。
そして二人がほぼ同時にホバーボードを発進させ、空中で交差する。
たった一回の交差で勝負は決した。
メノウの持っていた丸太は中央から真っ二つに切断された。
だが、その木材による打撃が既に隊長を襲っていた。
先ほどの隊員たちと同じように、呻き声を上げながら地面に落下していく隊長。
一方、ショーナ達は…
「凄ぇ!俺が以前使ってたオンボロボードとは全然違うぜ!」
ホバーボードを使い、来た道をいったん戻る三人。
先ほどのゲリラ部隊に合わないよう、森の中の別の道をたどって行った。
「ご自慢のホバーボードを奪われるとは情けねぇな…!」
壊し屋部隊のリーダーが呟く。
いくら重機でも素早いホバーボードを追いかけることは不可能。
この場は潔く引き下がるしかなかった。
バイク部隊にゲリラ部隊、ホバーボード部隊に壊し屋部隊。
四つの部隊が三人を逃してしまったという連絡は、すぐさま前線基地へと送られた…
名前:テリー・ヤークィ 性別:男 一人称:俺 年齢:24歳
恰好:ゾット帝国の軍服
南アルガスタ軍の中佐。
大佐が現在不在なため、その代わりに南アルガスタの軍閥長に召喚された。
若くして中佐の座についており、勇猛な男として名高い。