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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第5章 東アルガスタ最終予選 史上最大の『前哨戦』…!
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第百四話 ミサキ功々大暴れ!

ヤマカワはこの作品の強さランキングではでは結構上位にはいります。



 東アルガスタ予選の最中、参加者に強襲を仕掛けた魔王教団の眷属、人斬りミサキ。

開陽と玉衝の使い手であるヤマカワを襲撃するも一度は失敗に終わった。

二人の二度目の戦い、それは予選という正式な試合の場で行われることとなった。


「ヤマカワ、ヤツは…ミサキは強いぞ」


 参加者控室でヤマカワに対しメノウが言う。

対戦前であれば相手が誰であろうと大なり小なり緊張するのが普通だ。

しかしヤマカワは違った。

その言葉を聞いても平静を崩さない。


「だろうな」


「勝てるか?」


「すいぶんと直接的な質問だな」


「気分を悪くしたのならすまん」


 先ほどのミサキの襲撃を見てその実力はおおよそ察しているようだ。

単純な実力だけならばミサキの方が高い、ということも。


「うまく立ち回れば勝機はある」


「そうか」


「…勝ってくる」


 そう言ってミサキの待つ試合会場へと向かうヤマカワ。

通路を抜け、予選会場のあるドームへと入る。


「やっ!」


「手加減は不要だな」


 予選会場の試合場で対峙するミサキとヤマカワ。

ミサキは小柄な少女、武器は持たず素手。

一方のヤマカワは細身で長身の青年、そして競技用の混を所持。

単純な攻撃リーチであればヤマカワの方がはるかに上だろう。


「この試合、ほんとうに止めなくていいのかメノウ?」


 通路から二人の試合を眺めるメノウとショーナ。


「無理に中止して暴れられても困るからのう…」


 万が一、観客などに被害が及ばぬよういつでも防御魔法を使用できるように魔力を溜める。

仮にミサキが攻撃魔法を使用してもメノウのウォーターボールの魔法でそれを受け流すことが出来る。

 とはいってもルール上、試合で魔法を使うことはできない。

使えば反則で敗北となる。

試合に参加している以上、ミサキもあまり無理なことはしないだろう。

…恐らくは。


「そうじゃ、昨日作ったひよこ豆パン持ってきたのじゃが食うか?」


「あ、ああ。ありがと、いただくよ」


「水も買ったからのぅ」


 二人でパンを齧りつつ、ミサキとヤマカワの試合を観戦する。

既に試合は始まっているものの、互いに相手の出方を伺う膠着状態に陥っていた。

開始から数十秒、互いに戦闘態勢をとったまま動きを見せない。


「互いに相手の力量を察しているんじゃろうな」


「先に動いた方が不利になるのか…?」


「一概にそうとは言えん。その後の立ち回り次第じゃな…」


 痺れを切らし先に動いたのはミサキの方だった。

試合場の床を蹴り、ヤマカワの『左前』へと跳んだ。

距離は詰まったがこの位置からでは攻撃に移ることは不可能。

しかし…


「妖術や刀が使えなくても『幻覚』は見せられるんだよー!」


 彼女が使うのは、東洋の剣術の一派である幻狐流剣術。

これは幻術による残像を操り相手を幻惑する剣技だ。

しかしこの大会では許可が下りた武具以外の使用はできない。

当然、刀剣の類も使用不可能となっている。


「残像か!?」


 さらに床を連続で蹴り、ヤマカワの周囲を高速で回る。

本来ならば妖術で自身の分身の像を作りだし、相手を惑わせるのが彼女の戦術。

しかし大会ルールでその類の技は禁じられている。

妖術では無く、純粋な体術による残像を用いた戦術。

それが今のミサキの戦い方だ。


「速ッ!?速いぞ!」


「あの子が何人もいるように見えるぞ!」


「すごいな…」


 それを見ていた他の観客たちも口々に驚嘆の声を上げる。

そしてメノウも…


「この戦い方は…!」


 高速移動による攪乱。

それは偶然にも、数年前にヤマカワと戦った際のメノウが使用した戦術と同じだった。

当時の彼はメノウの高速移動にただ翻弄されるのみだった。

しかしミサキの対戦相手である『現在の』ヤマカワは違った。


「確かに速い。だが…」


 ミサキの技はあくまで視覚を惑わすだけのものに過ぎない。

それを見極めることが出来るのであれば、突破はさほど難しいことでは無い。


「そこだ!ビャッ!」


 ミサキの反撃に注意を払いつつ、衝撃波を繰り出すヤマカワ。

残像に惑わされず的確に彼女のいる地点を察知。

攻撃に転じたのだ。

対するミサキもそれを黙って受けるわけでは無い。

相殺のための手刀でヤマカワの攻撃がすべてがかき消された。


「お兄さんの技、どこかで見覚えがあるねぇ」


「東方大陸に伝わる古武術、開陽拳。その基本的な技だ」


「開陽拳…そうか!数年前に戦ったカツミって子の技と同じなんだ!」


「カツミのヤツを知っているのか?」


「まぁね。昔戦ったことあるんだ」


「ほぅ、それはおもしろい!」


 ならばと、ヤマカワはその手に握った棒術用の混で攻撃を繰り出す。

開陽拳の技だけではなく、玉衝の技も彼は使うことが出来る。

混による鋭い連続突きでミサキを攻める。


「わわわッ!?」


 威力自体は大したことの無い技だが、そのくり出す速度に圧倒されてしまう。

一発一発を相殺していたのでは埒が明かない。

ミサキはその連続突きを半数以上をその身で受けてしまった。


「ありゃー…」


 一旦距離を取り体勢を立て直すミサキ。

勝負はまだ序盤。

ヤマカワの方が優勢に見える。


「そういえばメノウ」


「どした、ショーナ?」


「ヤマカワさんってどれくらい強いんだ?」


 ショーナはヤマカワの実力がどれほどのものかをあまり知らない。

以何度か組み手をしたことはあるものの、そのときのヤマカワはいずれも東洋武術の基本的な技と簡単な棒術のみを使っていた。

立ち回りからかなりの実力者であることは分かるがどれほどのものなのかはわからないのだ。


「強いぞ、ヤマカワは」


 メノウは数年前、ヤマカワと交戦したことがある。

勝負自体は短時間で終わったが、当時のメノウはその際に自身の技を『二度』使用している。

単なる拳による勝負では不利になる、そう考えての戦術だった。


「力と技をうまく使いこなす器用な戦い方じゃったな」


「なるほど…」


「ただ、ヤマカワの技は斬撃波が中心じゃからなぁ…」


 大会のルール上、ヤマカワの得意とする斬撃波の類は使用できない。

しかしそれを一切のディスアドバンテージとせず、ヤマカワがミサキに対し更なる追撃を仕掛ける。

攻撃に転じられては一気に不利になる。

ミサキに攻撃の間を与えてはいけない。

彼はそう考えていた。


「(こいつの攻撃を受けるわけにはいかない、絶対に…!)」


 先ほどミサキの襲撃を受け、一般の参加者十名近くが負傷した。

その場にいたヤマカワは当然その様子を見ていた。

ミサキが刀を軽く振るだけで鋭い斬撃が発生し、周囲を切り裂いていくその様を。

そして素手で壁を砕き、衝撃波で地面を抉ったその力を。


「(受け流しても確実に多大なダメージは残ってしまう。速攻で勝負を決めるしかない!)」


 斬撃は試合では使用できないが、衝撃波は違う。

そのためこの試合でも使うことが出来る。

使われる前に勝つ、それが彼が勝つための絶対条件だ。


「ずあッ!」


 混の先端で連続突きを繰り出し、攻撃を封じつつダメージを与えていく。

ある程度距離を取ることで反撃を封じる、悪くは無い戦術だ。

しかし、ミサキは不敵な笑みを浮かべ反撃にうつった。


「あんまり調子に乗らないでよね!」


 ミサキがさらに後退、再び残像を発生させるほどの高速移動でヤマカワを翻弄する。

先ほどと同じく動きを見切り、衝撃波でミサキに攻撃を仕掛けるが…


「…やっぱりね」


「…クッ!読まれて…!」


「さっきと同じパターンだよね、これ!」


 無意識のうちに先ほどの攻撃パターンと同じ攻撃を繰り出してしまった。

当然、仕掛けた側のミサキはある程度そうなることを予想していた。

人間は反射的に動く際、その動きはある程度決まった物になってしまう。

 ヤマカワの場合、ミサキの残像に対して混ではなく『動きを見切り』、『衝撃波』で『ある程度の距離を保ち』、攻撃をしかけた。

だが…


「本当に見切れてるのかなぁ?」


「これも残像かッ!」


 勝負を急ぐあまりミサキに僅かな隙をつかれてしまった。

ヤマカワが見切ったと思った彼女の動き、それすらも単なる残像でしかなかった。

そして残る攻撃は…


「終わりだよ」


「後方か!?」

 

 ヤマカワの背後を取ったミサキ。

距離をとろうと体を捻ろうとするヤマカワの身体をミサキの手刀が貫いた。


「なッ!?」


「ヤマカワさん!」


 メノウとショーナが…

いや、会場でこの試合を見ていた者達がざわめき始める。

中には悲鳴を上げる者もいた。

単なる予選でここまで凄惨な光景が広がることはまずないと言っていいからだ。


「勝負あったね…」


 そういう彼女の手をつたい会場の床に鮮血が滴り落ちる。

ヤマカワの手から混が抜け、床に溜まった血だまりに落ちた。

木の乾いた音がざわめく会場に静かに響き渡った。


「殺すと失格だっけ?一応ギリギリで生きてるからねー」


 そう言ってヤマカワの身体を試合場の外へと放り投げるミサキ。

救護班が、そしてメノウが彼の下に駆け寄った。

腹に腕が貫通するほどの風穴を開けられたものの、ギリギリ生きてはいる。

しかし危険な状態に代わりは無い。


「止血しろ、早く!」


「しかしこんな大きな傷を…!?」


 通常ならば死んでいるような傷に戸惑う救護班たち。

そこにメノウが割って入る。


「ワシがやる!…ハッ!」


 先ほどから万が一の防御用に溜めていた魔力をすべて使い、ヤマカワに治癒魔法を使った。

なんとか一命を取り留める程度には傷が治ったものの、それでも完璧とは言えない。

ミサキから受けた傷は予想よりもはるかに大きかったのだ。

彼はそのまま病院へと運ばれていった。


「はははー!私の勝ちねー!」


「…お前さん、さすがにやり過ぎじゃ」


「怒った?けどあの人、私たちの仲間になるの断ったんだもん。これくらいしないとねー」


「ッ…!」


「邪魔になりそうなやつは同じ目に会わせるよ、はははー!」


 妙な高笑いを上げながらミサキはその場から去って行った…


ミサキはかなり強いです。

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