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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第5章 東アルガスタ最終予選 史上最大の『前哨戦』…!
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第百一話 恋する不思議の少女(後編)


 カフェでの食事を終え、再び街へとくり出したメノウとショーナ。

次にどこへ向かうかを歩きながら考える。

行き交う人々、コンクリートとガラス、鉄筋で作られたビル群、アスファルトで固められた道路。

他の地区では見られぬ建造物、。

 もちろん、東アルガスタにあるのはそれのようなものだけでは無い。

名所もたくさんあると聞く。


「どこに行きたい?メノウ」


「特にはないのぅ…」


 改めて二人きりで遊ぶとなると、やはり少し緊張してしまうらしい。

いつものような元気がメノウには無く落ち着きのない感じだ。

それを先導すべくショーナが切り出した。


「…よし、何か買いに行こうぜ!」

 

 食事を終えた二人が次に向かったのは、街の郊外にある大型複合ショッピングセンターだった。

どうやらこの東アルガスタに何個か系列店を持つ大型店舗だという。

名を『イェオン・モール』というらしい。


「はぇ^~」


「おおきいなぁ…」


「そうじゃなぁ…」


 こういった場所に来たことの無い二人は建物を見て思わず圧倒されてしまった。

似たような場所を上げるならば、西アルガスタの『センナータウン』だろう。

 以前、メノウは砂漠の交易都市『センナータウン』へと訪れたことがあった。

街全体が市場と発電施設となっている都市だった。

広さもそこそこあったが、このイェオン・モールというショッピングセンターはそれよりも遥かに大きい。

イェオン・モールの敷地内にセンナータウンがそのまま入ってしまうくらいはあるだろう。


「あーなるほどのぅ。この大きな建物の中に小さな店がたくさん入っているんじゃな」


「南アルガスタにも似たような店あるぜ。小さいけど…」


「お、映画もやってるみたいじゃな。『メタル男vsテラシャークvs女ニンジャ~ギガデストラクタ―編~』じゃと」


「映画は時間かかるからまた後にしようぜ。店を軽く見てこう」


「そうじゃな」


 映画は後に回し、まずは店を巡ることに。

飲食店や遊技場の並ぶ場所を抜け別の店が並ぶコーナーを見ていく。

まずメノウが眼にとめたのは服飾店だった。


「あ~服かぁ…」


「気になるかメノウ?」


「いつもこれじゃからなぁ」


 自身の身に纏っているローブとベールを改めて見るメノウ。

これはメノウ自身の魔力と連動する特殊な素材で作られている。

そのため、劣化し辛く汚れもすぐに取ることが出来る。

物理、魔力的な防衛能力も上がるため愛用していたが、ずっと着ているとやはり飽きがきてしまう。


「だったら新しいの買おうぜ」


「え…?」


「金は俺が出すからさ」


 メノウを引っ張り店へと入る。

女性向けの服が多く並ぶ店だ。

雑多とした店が多い中、比較的小奇麗にまとまっていると言える。


「店員さーん!ちょっといいですかー!」


 店員にメノウを任せ、服を選んでもらう。

何着か候補を選び試着室へ入って行く。

そしてしばらくして…


「ショーナぁ…」


「んー?」


 メノウが恥ずかしそうに顔を赤く染めながら試着室から出てきた。

薄めのワンピースに大きな帽子、両方とも純白で揃えてある。

そして薄い緑色の上着、メノウの髪の色に似た色のものだ。

これから暑くなる季節なので、涼しめの服を店員が選んだらしい。


「ショーナ、ほんとうに似合うか…?」


「似合うって!」


「そ、そうかのぅ…?」


 いま、彼女の気ている服は夏物であるため布地が薄い。

普段のローブとは異なるものであるため少し違和感を感じているようだ。

とはいえ、外観年齢十三歳の少女が着る服としては全く違和感のないものだ。


「お前だって女の子なんだからさ、もう少しおしゃれしてもいいはずだぜ」


「…そうかのう」


「そうだって、遠慮すんなよ」


「う~ん…ちょっと恥ずかしい…」


「もう少し他の服も買おうぜ」


 慣れぬ服装に少し戸惑いを隠せぬメノウ。

元々来ていたローブとベールを畳んで紙袋に入れ、代金を払い店を出る。

新しい服を着て少し恥ずかしそうにする彼女を連れ、別の店へと向かうショーナ。

別の服も何着か買い、それも紙袋に包んでもらった。

ショッピングモール内の店を一通り回っていく二人。


「ショーナ、金は大丈夫か?」


 訪れた店で購入した商品を入れた紙袋を抱えながらメノウが言った。

両手で持てる程度の小さな袋だが、高価な本やアクセサリーなど価値の高いものが入っている。

遠慮するなと言われて買ってもらったが、少しやり過ぎたと感じてしまう。

だが金を支払った当の本人であるショーナは特に気にしていないようだ。


「こう見えても一応、南アルガスタ四重臣だからな。金は結構持ってるんだぜ」


「そういえばそうじゃったな。しかし買ってもらってばかりというのものぅ…」


「気にするなって。お前らしくないぞ」


「じゃがなぁ…」


 そう言いながら二人が次に見つけた店、それは魔術や妖術などに使う道具を販売する店だった。

とはいっても、観光客などに売るための土産物や見世物的要素の強いものばかりが並んでいる。

このようなショッピングモールで店を出すには、そのようにしないと売れ行きがよくないのだろう。


「魔法具を売る店か…」


「よってみるか、メノウ?」


「じゃがあまりいいものはおいて無さそうじゃな」


「見るだけでも面白そうだし入ろうぜ」


「おう!」


 店の外観も『いかにも』妖しげな雰囲気を醸し出してはいる。

魔法陣や意味深な動物の骨や宝石の装飾などがが店内には飾られている。

しかし、メノウによると魔術的には意味の無いものだという。

単に販促用のディスプレイなのだろう。


「いらっしゃいませー」


 黒いローブを纏った怪しげな風貌の店員が二人を迎え入れた。

しかしその見た目からは想像できぬほど、ハツラツとした声で二人を迎える店員。

やはり店にならぶ商品はほとんど魔術的に意味の無い、あるいは重要性の低い品物ばかりだった。


「店の中では帽子をとるか」


「荷物は俺が持つよ」


 紙袋をショーナに渡し、被っていた白い帽子を両手で持つメノウ。

店内を回っていく。

棚にあった水晶片を一旦手に取り、、それを再び棚に戻す。


「…ショーナ」


「どうした?」


「ありがとうな…」


「いいっていいって!なんか調子狂うなぁ…」


「あまりこういうの…慣れてないからのぅ…」


「いつも通りでいいんだって。無理に礼とか言わなくていいからさ」


「…いつも通り」


 そう言われても今いちどうすればいいか分からない。

普段通りに接しようとしても、メノウの中の何かが空回りしてしまう。

いつも何気なく話している相手のはずなのに…


「ん?」


 そう考えていたメノウは、店の棚に『ある物』を見つけた。

それは…


「これは…ゼログリッドじゃ!」


「なにそれメノウ?」


「な、懐かしいのぅこれぇ!」


 メノウが見つけた物、それは『ゼログリッド』だった。

かつて西アルガスタの『ディオンハルコス教団 キリカ支部』が販売していたインチキ霊感アイテムだ。

緑色の箱に魔法陣のようなものが描かれている。


「ふ、ふふふ。実は以前な…」


「うんうん…」


 ショーナに数年前のキリカ支部での戦いを話すメノウ。

魔術師スートやトロム少年との出会い、それに騙されていた人々…

特にゼログリッドはメノウの記憶に何故か強く残っていた。

あまりにも意味不明なアイテムであったため、一周回って記憶に焼き付いてしまっていたのだろう。


「え、えぇ…」


「これに騙される者がいるというのが驚きじゃろう?」


「昔の俺でも騙されねぇよこんなの」


「まぁそれだけ首領だったピアロプの手腕だけは凄かったということじゃな。詐欺師の腕は、じゃがな」


 店員に聞かれぬよう小声で話す二人。

ちなみにゼログリッドは当時かなりの高額で販売されていたが、今この店では投げ売りに近い値段で売られている。

しかも結構在庫があるらしく、棚の奥にまだ何個か置かれていた。

あの時の在庫が流出したのだろうか。


「まぁ、これはいらんな」


「メノウ、これはどうだ?」


「ん?」


 ゼログリッドを棚に戻したメノウ。

彼女にショーナが渡したのは緑色の宝石のついた首飾りだった。


「緑色の瑪瑙石、お前と同じ名前の石だぜ」


 ショーナが見せた『瑪瑙石』はパワーストーンとしてよく用いられる石だ。

それは人と人を繋げる力を持つという。

精神を強くし、傷を癒す効果もあると古来より言われている。


「瑪瑙石か」


「これも買うか?」


「いや、いい。だってワシ自身が『瑪瑙(メノウ)』じゃからな!」


「だったら俺が買おう」


「ん?」


「パワーストーンだろ?もってればなんかいいことあるかもしれないしな」


「…そうか!」


 魔法具店で瑪瑙石のパワーストーンを買い店を出る二人。

これで一通りショッピングモール内を巡り終わったわけだが…


「よし、次は映画見に行くぞぃ!」


「やっぱ見るのかアレ?つまらなさそうな映画だぜ」


「今日はおもいきり遊ぶと決めたんじゃ!」


 先ほどまでの元気の無さはすっかり吹き飛び、いつも通りの調子に戻ったメノウ。

ショッピングモール内を回り結構時間を喰ってしまったため既に日は傾きかけているようだった。

映画を見終われば夜になってしまうだろう。


「晩飯もなに喰うか考えておくか」


「そうだな」


「その前に映画じゃ、さっきの見に行こうぞ!」


「いつもの調子が出てきたな!よし、いこうぜ!」

 

 この日のことは絶対忘れられない思い出となった。

これから始まる戦いの日々を前に記憶に刻まれた、最高の相棒との記憶を。

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