第九十七話 流転する覚醒 決闘! メノウvsショーナ(前編)
『ゾッ帝の個人的な考察No.13』
ゾッ帝の世界には魔法が存在します。
基本的には魔法名を叫ぶ=詠唱のような扱いになっています。
とても分かりやすくて個人的にはいいと思います。
カイト編には『ウォーターボール』や『シルバーレイン』という技が登場していますが、ジン編にはそう言った物は登場していません。
ジン編はマッドマックスシリーズを意識して書かれているらしいので、世界観に合わないと考えたのでしょうか?
あれから数日が過ぎた。
あと数日でメノウ達はこの北アルガスタから旅立つこととなる。
次に向かうのは東アルガスタだが、到着まである程度時間がかかるため少し早めにいくこととなる。
すぐ出発できるようショーナとメノウは、少し早めに荷物を纏めていた。
「う~ん…」
「どうしたショーナ?具合でも悪いのか?」
「いや、少し考えたんだけどさ…」
「なにをじゃ?」
「これから先、魔王教団との戦いは間違い無く激しくなるよな」
「当たり前じゃ」
彼の問いに対し即答するメノウ。
魔王教団だけでは無い。
グラウの言った、もう一つの隠された勢力とも戦うことになるかもしれない。
「そのときに俺は役に立つのか?」
「なにを言うかショーナ。お主は以前、シェンのやつを倒したじゃろう」
禁断の森での特訓中に襲撃してきたシェンをショーナは撃破している。
彼の持つ魔力を一時的に無力化し、その隙に攻撃に転じ彼を倒したのだった。
しかしそれはメノウと共に戦っていたから。
もし一人だけだったら確実にやられていただろう。
「俺にはグラウのような特殊な力も無いし、ジンさんのような剣技も使えない。ミーナの様に軽やかに舞うこともできない」
「なるほど。つまりこれから先にの戦いについて行けるか不安というわけじゃな」
「ああ…」
「そんなことは無いぞ。お主は強いぞ、ショーナ」
あれからメノウに稽古をつけてもらっているものの、ショーナ自身はいまいち強くなったという実感がわかない。
自分は本当に強いのか、実戦の中において役に立つのか。
その考えが彼の脳内をよぎる。
「けど…」
「ならば今日の稽古は少し方法をかえるか」
「ん?」
「今日の特訓は加減は一切無し、実戦形式でいくぞぃ」
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現在メノウ達が宿泊しているシャムの屋敷。
その裏山にある広場にて二人は武術の特訓をしていた。
その内容は以前、禁断の森で行っていたものとほぼ同じ。
あるいはそれよりも高レベルなものだ。
しかし、今日の特訓は違った。
「手加減は無し、か…」
「さすがに命まではとらんよ」
「わ、わかってるよ!」
「まぁ、そのギリギリまではいくかもしれんがのぅ…」
数メートルの距離を取り対峙するショーナとメノウ。
仮に負傷してもメノウは治癒の魔法を使用することが出来る。
そのため、両者のうちどちらかが致命傷を受けても死ぬことは無い。
逆に言えば、死ぬ寸前まで痛めつけても問題ない。
ということになるのだが…
「さぁ、いつでも来ていいぞ。ショーナ」
構えも取らず、自然体でそういうメノウ。
隙だらけであるがそれゆえに攻め辛い。
隙だらけということは、いつでも反撃の体勢を取ることが出来るという意味でもある。
「じゃあいくぜ!」
しかし、だからといっていつまでも様子見を続けるわけにもいかない。
反撃をする間もないほどの速い攻撃を打ち込む。
それがショーナの考えた戦略だった。
「うッ…んッ!?」
それを見たメノウが驚嘆の声を上げた。
彼の性格から、最初の一撃は様子見の軽いものだと考えていた。
しかし実際の攻撃は速度と威力を重視した攻め。
一瞬対応が遅れ、攻撃を受けかけてしまった。
「い、意外とやるのぅ…」
「そうか、ありがとうよ」
メノウは今の攻撃に対し反撃には転じ無かった。
攻撃を避け数メートルほど背後に下がり、これまでとは逆に彼女がショーナの出方を伺っている。
先ほどの彼の攻撃で、頬に一筋の傷がついてしまった。
それを魔法で治癒。
それと同時に一転攻勢。
攻撃に転じた。
「ワシが上じゃ!ショーナ、お主は下になれ!」
上空から放つメノウ必殺の一撃。
魔力を身に纏った破壊拳、幻影光龍壊だ。
通常ならば一瞬の魔力の溜めが入るこの技。
今回は威力よりも発動までの時間差をなくすことを重視し、その溜めを無くしている。
そのクイック光龍壊を右手で放つメノウ。
一瞬でショーナの間合いへと入り込んだ。
ここからの攻撃ならば避けられることはまずないだろう。
「入ったぞ!このまま一気に…」
「う、やばッ…!」
この距離では攻撃を避けることはできない。
威力の低いクイック光龍壊ではあるものの、生身の人間が直接受ければ大怪我は免れない。
ならばここで彼がとるべき選択肢は…
「くっ…!出すしかないか…!」
体内の魔力を一気に放出。
それをメノウと自身の身体の間で爆発させた。
爆発で発生した衝撃で無理矢理、身体を吹き飛ばし攻撃を避けたのだった。
当然、爆破の魔術を超至近距離で使ったショーナ自身にも多大なダメージが発生する。
だがメノウのクイック光龍壊の一撃を受けるよりは遥かにマシだ。
「どうだメノウ、俺の一撃は」
「まだまだ…じゃなぁ」
爆風により立ち込める煙。
それが徐々に晴れていく。
ショーナはこの一撃でメノウに対しダメージを与えられたと考えていた。
しかしそれは大きな間違い。
彼は知らなかったのだ。
「ワシには一切の魔法が効かないんじゃ。例外を除いてな」
メノウに対しての魔法、幻術、妖術の類は 全て無力と化す。
ただし『極一部の例外を除いて』は。
当然ショーナの放った魔法攻撃も通用しない。
「無傷…かよ!」
「そういえばお主には言ってなかったのぅ、ショーナ」
「だけど攻撃を避けることはできたぜ」
「まさかあんな方法で避けるとは思わなかったぞぃ…」
「魔法攻撃が通用しない…なら…!」
自身に簡易的な治癒魔法を掛けながらショーナが飛び掛かった。
魔法による攻撃はほぼ無意味。
そうなれば彼に残された攻撃手段は、魔力に頼らない攻撃のみ。
「メノウ、以前教えてくれたよな!」
「そうか、その技ならワシにも届くかもしれぬのぅ」
彼のとった構え、それは以前メノウが教えた技のものだった。
「禁断の森でお前が教えてくれたこの技!疾風の 裂脚!」
東方大陸の拳法をルーツとする、脚部から放つ斬撃波、それがこの『疾風の 裂脚』という技。
禁断の森で彼がメノウから教わった技の一つだ。
基礎ができていれば比較的習得が簡単。
しかしそれでありながら威力も高く使い勝手の良い技といえるだろう。
「これは魔力を持たない、単なる真空波だからな!」
「確かに。じゃが、まだまだ甘いわ!」
地面に強力な一撃を与え大地を隆起させるメノウ。
飛散した土砂で斬撃を防ぎ、それと同時に土砂を煙幕代わりに姿を隠した。
「うわッ…!?どこだ…」
「下じゃ!」
抉れた地面の中からメノウが姿を現した。
そしてその勢いのままショーナを投げ飛ばした。
メノウに投げ飛ばされ、そのまま背後の樹木にぶつかりそうになるも何とか受け身を取り衝突を避ける。
「下…だったかぁ」
「もう少し気配を探ることを覚えた方がよい。目に頼り過ぎじゃ」
「一応やってるつもりなんだけどなぁ…」
「自分ではそう思っていても、まだまだ目で相手を追っているんじゃよ」
目視に頼らず、気配で敵を探し攻撃を仕掛ける。
例え相手の姿が見えなくとも、この方法ならば対等に戦うことが出来る。
しかし、これを常に行うのは難しいことだったりする。
「視覚では無く気配を感じ取れ、か」
「それができれば一人前じゃな」
そうショーナに言い放つメノウ。
しかし、やはりメノウの言う戦い方は難しい。
つまり戦いの中で『気配を感じ取り』、『相手の動きを予想』し『戦い』をする。
三つの難解な作業を高速で同時並行しなければならないのだ。
メノウは簡単に言ったが、そう軽々とできる芸当では無い。
「なら俺からも一つ言わせてもらうぜ」
「なんじゃ?」
今度はショーナがメノウに言い放った。
「メノウ、お前は驚きすぎだ」
「なんじゃ?驚きすぎ…?」
「戦いの中で相手の動きが自分の予想を超えたとき、少しだが隙が生まれるんだ」
「そうなのか?」
「ああ。いまからの攻撃でそれを証明してやる!」
そう言うとショーナはメノウに攻撃をしかけた。
その技は…
「メノウ、お前の技だぜ『幻影光龍壊』だ!」
「なに!?」
ショーナの放った技、それはメノウのもっとも得意とする技『幻影光龍壊』だった。
見よう見まねの不完全な技とはいえ、いきなり放たれた自らの技に戸惑いを隠せぬメノウ。
以前この技のコピーを使用していた者は何人かいたが、やはりいきなり使われては慣れるものではない。
「…ッ幻影制光移!」
メノウが使用した技は『幻影制光移』、かつて東アルガスタでも使用したものだ。
自身の動きを加速させる技であり、回避に応用できる。
多数の幻影を生み出しそれで相手をかく乱させることもできる。
ショーナの攻撃を回避しつつ、その幻影でかく乱することもできた。
「お前さんも使うのか、その技を…!」
「ああ、ちょっと驚いただろ?」
「まぁ、のう…」
ショーナの意外な攻撃に若干の驚き、そして嬉しさを感じるメノウ。
この幻影光龍壊は確かに原理自体は簡単な技だ。
だからといって誰もが使えるという技では無い。
卓越した技能やセンス、そして自身の体内に流れる魔力を使いこなして初めて使用できるのだ。
不完全とはいえ、それを自力で再現して見せた彼の力には、メノウといえど驚嘆せざるを得ないだろう。
「まさか幻影光龍壊を使ってくるとは…」
「へへへ、こっそり練習したんだよ」
「ふふふ、なるほどのう」
数メートルほど改めて距離を取り、構えを取る二人。
それと共に軽く口もとを緩め笑うメノウ。
そして改めてショーナの方を見る。
笑みは消え、はっきりと見据えた視線をしていた。
「ショーナ!」
「なんだ?」
「お主と南アルガスタで別れてから、ワシはいろいろな場所を旅して回った」
唐突に過去話を始めるメノウ。
何の意図があるのだろうか…?
「ああ、しってるよ。以前聞いたからな!」
「そうじゃ。そして東アルガスタを旅したワシは、人のいない辺境の村で数年過ごした。
…以前話したのはここまでじゃな?」
「あ、ああ…」
「何故ワシは辺境の地で過ごしていたと思う?それも人のいない場所で…?」
「…何が言いたいんだ?」
「ワシの身体にはドラゴンの血が流れている。それも以前言ったな」
ドラゴンの力。
それは制御不可能なほどの強大な力。
かつてメノウは東アルガスタでの旅の途中、この力に飲まれてしまったことがあった。
四聖獣士のハンターの複製融合体である合成魔獣型ハンターとの決戦の最中だった。
そのときはたった一人で戦っていた時だったため、周囲に対する被害は奇跡的になかった。
しかし、彼女にとって忘れがたい出来ごとに変わりは無い。
「数年間、ワシはその力を制御する方法を探し続けたのじゃ」
人里離れた辺境の地に籠り、数年間それを探し続けたメノウ。
長い修行の末、彼女はついに見つけた。
「まさか…!」
「いま見せよう。ショーナ。ワシの真の力の一端を…!」