第九話 デッドラインを超えろ 真の抹殺指令!
~前回のあらすじ~
軍閥長モール・エレクションはマーク将軍の制止を振り切り、ゾット帝国南アルガスタ地区の持つ兵力全てをメノウたち三人にぶつけることを命じた。
D、C基地を壊滅させた『メノウ』、『ショーナ』、『ミーナ』の三人。
既に彼らは南アルガスタ内において大きな脅威となっていた。
軍閥長はこれを国を揺るがす大事件として全軍に招集命令を発令。
『将軍 マーク・ロナウロ』の下にゾット帝国南アルガスタ軍の精鋭部隊が集結しつつあった…
「全軍召集せよ!軍閥長の下へ全軍招集するのだ!」
地響きを立て、、南アルガスタの中央都市『シェルマウンド』の城に数十台のトラックと武装バギーの集団が現れた。
それは『テリー・ヤークィ』中佐の率いる陸軍の精鋭部隊。
それとほぼ同時に、海軍大佐の『ドン・カッツ』と空軍中佐の『マック・ブーグー』の部隊も複数の大型輸送ヘリで到着した。
城の庭に下り立つドンとマックは、数人の部下を連れて城の中へと入って行った。
大広間では、既に軍閥長のモール・エレクションが少し高めの位置から軍の者たちを見下ろしていた。
軍閥長が左手で軽く敬礼する。
「オォォォォ!!」
それに合わせるように、雄たけびを上げる全軍。
その表情はまさに今まさに戦地へ赴こうとする勇猛なる戦士そのもの。
しかし、軍閥長は黒いオーバーグラスを付けているためその表情を読むことはできない。
それが不気味だ。
その隣りにはB基地司令官の『ヤクモ』がいる。
「南アルガスタの英雄たちよ、よく集まってくれた」
将軍 マーク・ロナウロが語りかける。
この大軍団がこれから戦うのはたった三人の少女と少年たち。
普通ならば、いくら軍閥長と将軍の命とはいえ軍が動くほどの事態ではない。
マーク将軍もそのことは十分に理解していたし、できれば南アルガスタ全軍を動かすこともしたくは無かった。
ただでさえ財政が厳しい今、軍を動かすために無駄な金を費やすわけにはいかない。
だが、軍閥長の命令となれば従わざるを得ない…
軍の一部の者達もそれは承知の上のはずだ。
それを納得させ軍を動かすためマークは全軍に向け演説を始めた。
「皆も知っての通り、今この南アルガスタには複数の反乱組織がある」
軍閥長の圧政に耐えかねた市民が作り出したレジスタンス組織がこの南アルガスタにはある。
一つは武器を持ち戦う過激派組織『紅の一派』。
そしてもう一つは宗教組織『ディオンハルコス教団』。
他にも小さな組織が複数存在しているのだ。
「最近はディオンハルコス教団の動きが怪しいと聞きますが…?」
海軍大佐ドン・カッツが言った。
ディオンハルコス教団はディオンハルコス鉱をご神体として祀っている教団だ。
最近では何やら裏で怪しげな取引をしているという。
麻薬や武器売買、宗教団体を隠れ蓑にする犯罪組織とのうわさもあるが…?
「ディオンハルコス教団ではない」
「ではサイトウという男の率いる『紅の一派』でしょうか?」
「いや、紅の一派でも無い」
そう言うと、マークは壁に貼られたスクリーンにある画像を投影した。
それは、『メノウ』、『ショーナ』、『ミーナ』の写真。
全軍に戸惑いの空気が広がる。
この三人が『ディオンハルコス教団』、『野火派』よりも危険視されているとでもいうのか?
「将軍、冗談もほどほどにしてもらいたいですな」
「まぁ話を聞け、ブーグー中佐」
そう言うと、マークはこの三人について語り始めた。
懸賞金、その実力、危険度…
そして、今までの彼女たちの戦いを…
「あの少女、メノウと最初に戦ったのは元ゾット軍の馬賊だった…」
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『うるせぇ!死んで後悔しやがれ!』
馬賊の男が飛び掛かる。
その瞬間、一陣の風が吹いた。
何かがショーナを横切り、その手から鉄パイプが消えた。
『え…?』
ほんの瞬き一、二回の間だっただろうか…?
信じられないことが起きた。
『グッ…ア…』
馬賊の男は吹き飛ばされ、数十メートル先の道路の看板に叩きつけられていた。
そして先ほどまで馬賊の男がいた場所には、鉄パイプを持ったメノウの姿があった。
『メノウ、お前は一体…?』
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「…以上が逮捕した馬賊から聞き出した情報だ」
「しかし、その程度ならば俺の陸戦部隊一つで事足りるだろう」
陸軍中佐テリーか言う。
彼の率いる陸戦部隊は暗殺部隊や破壊工作部隊、その他数多くの部隊が所属している。
そのいずれも実力に自信のある者ばかりが揃っている。
だが…
「緑瞳の少女メノウ、その力は並みの軍人程度では歯が立たない。事実、D基地の隊長が交戦した際に全滅させられている…」
マークはそう言うと、映写機からある映像を映し出した。
それは以前、D基地の隊長とメノウが戦った際のもの。
あの場にいた税徴収の記録係の兵がとっさに録画していたものだ。
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部隊の隊長がメノウに飛び掛かった。
持っていた槍で殴り掛かるが、その攻撃はメノウに軽く避けられる。
『そんなものかのう?』
軽く挑発するメノウ。
頭に血の上った隊長は、他の兵士達にアイコンタクトで指示を送る。
それ合図に、数人の兵士が一斉に飛び掛かる。
『(やべぇ、今のメノウは丸腰!いくらなんでもあの人数相手は…!)』
だが、そんなショーナの心配は不要だった。
一人の兵士を空高く蹴り上げ、さらに別の兵士の顔面に拳を叩きこむ。
さらに、先ほど蹴り飛ばした兵士の持っていた槍で他の兵士三人を纏めてなぎ倒す。
あの華奢な体からは想像できないパワーと動きに圧倒される隊長。
『く、ぐうぅ…』
『安心せい、どいつも殺してはおらん』
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映像はここで終わっている。
それを見て少し考え込むテリー中佐。
少女と思い油断していたが考えを改める必要がありそうだ。
そして、また別の映像に切り替わった。
「そしてメノウその勢いのままD基地をいとも簡単に壊滅させた…」
「D基地をいともたやすく…?」
「そう、D基地の司令官シヴァも奴にはかなわなかった…」
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『さぁ、始めようか』
まずは小手調べとばかりに、シヴァはメノウに殴り掛る。
しかしその拳は受け流され、メノウの後ろの電燈の柱にめり込む。
大きな電燈の柱はその部分からヒビが入り、音を立てて崩れ落ちる。
『ま、マジがよ…』
絶句するショーナ。
あんな力、とても人間業ではない。
しかし、それとは対照的にメノウはとても冷静だった。
『どうした?わしに攻撃を当てないのか?』
『へへ…結構やるじゃねぇか…』
そういうと再び攻撃を続けるシヴァ。
しかしそれもことごとく避けられる。
『チッ!動くと当たらないだろォッ!』
そう言いながら拳を繰り出し続けるシヴァ。
しかしそれもすべて見切られメノウに当たることは一切無い。
『何の面白味も無い戦法じゃ、もうワシは飽きた…』
『なに!?』
『もう終わりじゃよ』
そう言うと、メノウはシヴァの左腕に飛び掛かる。
それと同時に、骨を砕き筋を切り裂く。
シヴァの左腕が通常とは全く違う方向に曲がる。
『お、俺の腕が…な、なにを…』
『これ以上続けても無駄じゃ、さっさと降参すれば命くらいは助けてやるぞ』
『誰が命乞いなど…するかぁ…!』
シヴァが叫ぶ。
半ばヤケクソでメノウへ特攻するシヴァ。
しかし、そのような攻撃は当然通用するはずもなかった。
『やれやれ、しょうがないのぅ…』
シヴァの腹へメノウの強烈な拳が叩き込まれる。
一発だけではない。
十、いやもっとあるだろう。
その攻撃を受け、シヴァは完全に沈黙した。
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「その後、メノウはC基地の司令官ミーナと交戦したが…」
C基地での出来事は全て、『ミーナの裏切りによる暴走』として処理されていた。
当事者のほとんどが再起不能であるため、マークもそう判断するしかなかったのだろう。
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『全部避けたか、結構やるじゃない』
『あんなもの全部当たったら、しまいには、骨がくだけるぞ!』
『なら当ててやるよ!』
そう言うと、ミーナが再びメノウに向かって突進する。
吊橋の両側の手すりのロープを足場代わりとし、身軽な動きでメノウを翻弄する。
猫のような素早さ、身軽さで敵を翻弄し混乱させたのちに敵を倒すのだ。
『確かに早いが、見切れんほどでも…』
『そうかな!?』
ミーナが棒を、メノウの頭上から思い切り叩きつける。
当然、その攻撃もメノウは避けた…はずだった。
だが…
『あ、かぁ…!』
頭上からの攻撃をメノウは体を右に移動させることで避けた。
しかしその瞬間、ミーナの持っていた棒が割れ、メノウの横腹に叩きつけられた。
脇腹を抑え、思わずその場にひざまずくメノウ。
『さすがのアンタも、極東の武具である多節混までは知らなかったようだね』
『ま、まさかワシが攻撃を受けてしまうとはのぅ…』
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「もっとも善戦したミーナだったが、敵側に寝返ってしまったというわけだ」
「しょせんガキだ、心変わりもするだろうよ」
テリー中佐が嘲笑うように言った。
しかし、それも仕方がないのかもしれない。
求心力の無い少女を司令官にしたのは単なるミスとしか言いようがない。
もっとも、任命したのは軍閥長であるモール・エレクションなのだが…
「ミーナの裏切りはさすがに読めなかった。これがC基地の主戦力を失うきっかけとなってしまった…」
ミーナの裏切りにより失った貴重な戦力。
幻術師のサヨア、隊長ロビノ、そして副司令官マイホム。
C基地そのものはそこまで打撃を受けたわけではないが、この三人を失ったのは痛手だ。
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『油断したなバーカ!このままマイホム様に言いつけてやるからね!』
傷も癒えぬまま、サヨアはとても重傷者とは思えぬ動きでその場を去ろうとする。
だが…
『うるせぇ!落ちろ!』
ミーナが思い切り多節混でサヨアを殴り飛ばした。
勢いよく吹き飛ばされ、館の下の湖に落ちていった。
◆
『この勝負、もらった!』
サーベルを構え、ミーナへ突進するロビノ。
ミーナはいつもの戦術で攻撃を仕掛けてくる、ロビノはそう読んだ。
だが、その一瞬の判断が命取りとなった。
多節混をミーナは展開せず、棒形態のままロビノに攻撃を仕掛けた。
リーチではサーベルよりも棒形態の多節混の方が圧倒的に上。
頭から多節混の打撃を喰らい、その場に倒れた。
『あッ…ぐ…』
『自分の戦術の弱点くらい理解してるよバーカ』
◆
『うげェッ!』
叫び声をあげながら、マイホムが仰向けに倒れた。
掴む手が離れ、放り出されるメノウ。
『やっと見つけた…俺の旅の本当の目的を…』
そう言ったのは、先ほど衛兵から奪ったSMGを構えたショーナだった。
今までとは違う、静かな口調で語りだす。
『ひ、ひぃぃ!』
そう言いながら後ずさりするマイホム。
だが、それは途中である者に遮られた。
『よ、よう言ったショーナ…それでこそ男…じゃ…』
それは、まだ薬も完全に抜け切っていないメノウだった。
身体が震え、目の焦点もはっきりとしていない。
無理矢理立ち上がっているような状態だ。
『それなら…この南アルガスタのトップを潰す…じゃが、その前に…』
『ひいぃ…』
『こやつを叩きのめす!』
そう言うと、まだ本調子ではないその体でマイホムに全力の拳を上から叩きつけるメノウ。
それを喰らい、マイホムの身体は屋上と屋敷の二階の床をぶち破り、一階へと叩きつけられた。
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「ならず者集団のリーダー、アシッド。その他にも名のある実力者達が倒されている」
全軍に衝撃が走る。
この南アルガスタの名のある実力者のうち、およそ半分近くがメノウたちに倒されたという人になる。
いままでの資料が本当ならば、これは驚くべきことだ。
「いいか、奴らは並みの力では倒すことはできない。我ら全軍の力を結集し奴らを抹殺するのだ!」
マークの叫びが全軍の士気を高揚させた。
これだけの軍が集まればどのような強者でも敵では無い。
「奴らを倒した部隊には好きなだけの褒美をやろう!」
金!力!女!
領地、地位何でも構わない。
マークはそう言い放った。
決戦の火ぶたは切って落とされた。
名前:マーク・ロナウロ 性別:男 一人称:私
恰好:ゾット帝国の軍服に赤いマントと金色の羽飾り
南アルガスタ軍の将軍。
先代の軍閥長(現軍閥長の父)の頃から南アルガスタに仕えている。
かつての大戦時には優れた将として戦地で戦っていた。
現在では老いもあり、直接戦地に赴くことは無い。
軍閥長に代わり、人前に出ることが多いため求心力を高めるため派手な格好をしている事が多い。