プロローグ
この小説は裕P様のゾット帝国シリーズの外伝作品です。
裕P様と比べるととても稚拙な文章ですが、どうかよろしくお願いします。
全てはこの物語の数百年前に遡る。
地底深くから噴出した未知の鉱物『ディオンハルコス鉱石』。
この妖しくも美しく、緑色に輝く鉱石の発見がきっかけだった。
『ディオンハルコス鉱石』はこの世界に存在するどのエネルギー源よりもはるかに高い力を持っていた。
子供の指先ほどのサイズのディオンハルコスが石油100ガロンと同等の価値があるとも言われた。
『ディオンハルコス鉱石』は世界中から『ほぼ同時期に』噴出しだした。
手に入れようと思えば誰もが手に入れられる夢のエネルギー源。
それが『ディオンハルコス鉱石』だった。
さらに、『ディオンハルコス鉱石』には更なる力があった。
それは『人の心を優しくする』能力。
ディオンハルコス鉱石が現れてからというもの、世界から争いは激減。
犯罪も無く、『優しい世界』が生まれた。
しかし、それも僅かな期間にすぎなかった。
ほぼ無限にあると思われた『ディオンハルコス鉱石』。
しかしそれはまやかしに過ぎなかった。
わずか100年ほどでディオンハルコスの採掘量は激減。
ほとんど採掘されなくなってしまった。
世界中、ほぼすべての採掘場から。
理由は分からなかった。
なぜディオンハルコスは姿を消したのか?
世界中の科学者たちが集い、意見を出し合ったが答えは出なかった。
やがて、残ったディオンハルコスを求め、世界は長い争いの時代へと突入した。
『人の心を優しくする』能力は忘れ去られ、ディオンハルコスは戦争の兵器へと転用された。
核兵器を遥かに超えるその兵器は世界を破滅に導くのには十分すぎる威力だった。
そしてその『世界大戦』から数十年後の世界。
生き残った人々はかつての文明の遺産を拾い、かき集めながら暮らしていた―――
――――――――――――
深い森の中、太陽の優しい光が枝葉の隙間から差し込む。
一見のどかな光景だが、今この森にいる『二人』にとってそれはあまりにもどうでもいいことだっただろう。
森の中を横断するために、大戦前に作られたバイパス道路。
かつては整備されていたアスファルト舗装もすっかり朽ち果ててしまっている。
割れた舗装の間や、かつて街路樹が植えられていた植え込みからは多数の木が生えている。
そこを木を避けながら反発重力式のホバーボードで移動する一人の少年。
そして、それを追いかける黒い馬を駆る大柄な馬賊の男。
「思ったよりずっと速えぇ!このポンコツホバーボードじゃあすぐ追いつかれちまう!」
「運がいいぜ!まさかこんな小僧が『ディオンハルコス鉱石』をもってるとはよ!」
馬賊の男が叫ぶと同時に、彼の駆る馬の速度がさらに上がる。
よほど彼は馬の扱いに長けているのだろう。
ホバーボードと馬というハンデを無視するかのように、少年と馬賊の男の間距離はだんだんと狭まっていく。
「(このままじゃ捕まるのも時間の問題だ…)」
何か解決法は無いか、少年は足りない頭で策を練る。
ホバーボードの出力を上昇させ、スピードをさらに上げた。
少年の布で纏めたボサボサの長髪が風に吹かれる。
少なくとも、こんな森の奥のバイパス跡地では助けなど呼べない。
呼べるわけがない。
かといって、このままアイツに貴重な『ディオンハルコス鉱石』を渡すわけにもいかない。
「(…あれは!?)」
少年はバイパス道路の脇の水路に目を付けた。
まだ水が流れている。
恐らく森の奥から流れてきているのだろう。
「この水路を利用して…」
ホバーボードなら水の張ってある水路の上でもわたることができる。
しかし、あの馬賊の乗る馬では水路を走ることはできないだろう。
仮に水路の水位が低かったとしても地上を走るよりスピードは落ちるはず。
水路の両側は木が生い茂っていてとても馬が走れるような道ではない。
逃げ道はここしかない!
「よし、いけ!」
「な、水路に飛び込みやがった!」
水路にホバーボードごと飛び込む少年。
なんとか体勢を保つことに成功、そのまま水路を上って行った。
下流へと行けばこのまま逃げられたかもしれない。
しかし、この少年『ショーナ』にはある目的があった。
それはこの森のさらに奥、『禁断の森』と呼ばれるエリア内にあるといわれる『ラウル古代遺跡』を探すことだった。