よく眠る男と女性の悲劇
成田空港 搭乗待機室
「おめぇ、あんまりふざけると容赦しねぇからな」
すべての手続きを終え、搭乗開始時刻まで過ごすためベンチに腰を下ろした瞬間、遠藤から最初にかけられた言葉はこれだった。
どこから用意したのか、精巧に模されたパスポートとチケットだけの手荷物。どこか、むなしさを感じる。
こ洒落た白いソフト帽を被った遠藤はもともと無口なのだろう。一切話し掛けられず、ほぼ沈黙で時間が過ぎていった。
711便であるB777型機に乗り込み、CAの誘導を受けてファーストクラスへと進む。チケットに書かれた席番号を見つけ腰を下ろそうとすると、遠藤が割り込むように前へ出てきた。窓側2列の窓側が彼の席らしい。
「お荷物はございますか?」と美人のCAが愛想笑いを浮かべつつ、手荷物の有無を確認してきたので、「いや、”これだけ”だ」と遠藤を見つつ右手を挙げて応え、諦めた顔をしつつ通路側の座席に腰を下ろす。
席はゆったりとした座り心地で快適だった。隣にこいつさえいなければ...。
離陸に備えるためシートベルトを締め、座席に座るようアナウンスが流れる。先程まで各座席をチェックしていたCA達も、自分達の席についたようだった。
隙をうかがっていた伊達は行動に移した。CAに見つからないよう姿勢を低くしつつ、通路後方にある
他の乗客が注視してくるが、誰も声をかけようとしない。
ファーストクラスとエコノミークラスの座席が分かれるオーブンや電子レンジが並ぶ、言うならば「キッチンルーム」と言うべき場所で腰を下ろす。カーテンは閉まっているから誰かに見られえることはないだろう。
右手で床にあるハッチを開ける。すると、下は貨物室へとつながる連絡通路であった。手すりに手をかけつつハッチを閉じる。
機首側へ進む。扉をさらに開けて、また床にあるハッチを開ける。
するとそこにはむき出しの車輪と滑走路が見えた。
成田空港内
「“鷹”は舞い上がりました。これから例の場所へ行きます」
公衆電話で話す鈴木は受話口に一方的に話すと、相手の返事も聞かずに受話器を戻した。盗聴を恐れてここまで凝っているが、いかんせん携帯を使いたい。
「鷹」、すなわち伊達はきっと任務を果たして来るだろう。まさか「シュワちゃん」みたいに飛行機から飛び降りることはないだろう。
呑気に考えた鈴木は公衆電話から離れた。出口に向かって歩いていると、通路の端のほうに携帯で通話している美人な女がいた。
根っからの女好きの鈴木は近づいて行った。
711便
「“シュワちゃん”じゃないんだから」と1人ゴチつつ777型機の前脚部車輪にしがみ付いている伊達は、今まさに飛び降りようとしていた。
幸いにして、先行の着陸機がいたらしく滑走路脇の誘導路で待機している。ここで降りなければ滑走路で降りるか、それこそ「上昇中の機体から水面に向かってダイブ」だろう。
タイヤの高さまで何とか下がった伊達は、手を放して機体から降りた。
しかし、問題はここからだ。迂闊に歩いて発見されれば「侵入者」として連行されるのがオチだ。こそこそ隠れながら離脱するより他なかった。
成田空港内
「どうやら誘いには失敗したようだね、お姉さん」
そうやって鈴木は女を口説いていた。
電話の内容や相手はいざ知らず、とりあえず「CAの彼女がフライトから成田に帰って来たので、食事に誘ったら先方の都合が付かず断ってきた」らしかった。
見るからに美人で且つ、スタイルの良い女。胸のボリュームは全くないが、顔は間違いなく美形だった。新垣結衣に似ている。
「私は忙しんです。離れてください」とにらむ顔もこれまた可愛い。
「悪くはしないからよ、ちょっとその辺でお茶にでも付き合ってくれれば」
「嫌ですよ」と彼女は出口に向かって歩き始めた。
「姉ちゃん、久々の成田なんだろう?俺が送って行ってやるよ。タクシーに乗ろうぜ」
「人の会話聞いていたんですか?失礼な人ですね。いい加減にしてください。それに車はありますから」
鈴木は駐車場まで追うつもりだった。この手の女は折れるまでが長いが、折れれば…
「いい加減にしないと、人呼びますよ。大声あげますよ」と彼女が言って来ればその目論見もあきらめるしかなかった。
「ちっ、この馬面目」
と捨て台詞を残して帰るしかなかった。
なんて失礼な人なんだろう。嫌な気分しかない。
そんな気分を引きずったまま彼女は愛車に向かって歩き出した。3年前に5年ローンで買ったイエロー・ミニコンバーチブルのカギを開けようとイモビライザーキーを愛車に向けた。左ハンドルだから左側にまわる。
「動くな、静かにしろ」と彼女の後ろで大男が警告した。
思わず小さな悲鳴を上げる。
「君を傷つけたりはしない、協力してほしい」と一方的に大男に言われる。
「な、なんですか脅しておいて…怖い」
「本当だ、何もしない。まずは運転してくれ」
そう大男は言うなり、右側へと歩いて行った。
完全に身の危険を感じた彼女は、おとなしく指示に従うことにした。
が、大男が右扉を開けるなり助手席を外し始めたとなれば別だった。思わず悲鳴を上げるが、そんなことより思ったこと。
「なんでわざわざ外すのよ???」
「わ、わたし空手やっているケイコとお茶の約束があるんだけど」と嘘をつく。
「そんなの断れ」と一括されては手詰まりだ。
大男は席に着くなり「あれだ、あいつを追ってくれ」と正面に向かって指を差した。
と、そこには先ほど声をかけて…ナンパしてきた男がいた。遠くにいるが、タクシーを止めて乗り込もうとしていた。
「さぁ早く出すんだ!」と大男にせかされる。仕方なく彼女はエンジンキーを回した。
「俺は伊達という男だ。娘が昔の仕事が敵に拉致された。だから俺は何としても娘を救い出す」
「それはあなたが直接助けに行けばいいことじゃないですか」
「俺は人殺しを頼まれている。もし、無視すれば娘を殺すと。だから迂闊に近づけないんだ」
車はひたすら走り続ける。そろそろ酒々井プレミアム・アウトレットの近くだ。
すると、タクシーは突然路肩で止まった。
「ここで止まれ」と伊達が呟く。要望通り路肩に車止める新垣。
タクシーから男が出てきたことを確認すると、伊達はそのまま降りた。
「君も降りろ!!」
「なんで!私には関係な...」
「いいから!」
「きゃっ!」
その後を追って2人も車を降りた。1人は嫌々だが.....
しばらく投稿しません。
気が向いたらします。すいません




