表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レンジャー  作者: ひろ
OK!!
4/6

YesかNoかと聞かれたら・・・

 裏口から外に出て、壁伝いに歩き裏の倉庫に駆けよる。扉を開けて中に入れば真っ暗だ。電気をつけたいが、つければ「自分はここにいます」と敵に教えているようなものだから絶対につけない。

 奥に行くと鍵のかかったロッカーがある。脇の戸棚を開けて、鍵を取り出す。ロッカーのカギを開けると、中には黒光りする長物が3つ置かれていた。

 猟銃として保有している豊和工業製「フジ スーパーオート」と狙撃用スコープを取り付けた「M1500」、アメリカから部品単位で取り寄せて自ら組みたてた「BrowningMAXUS」だ。

 その中から「BrowningMAXUS」を選び、弾を手に取る。入る分だけの弾を弾室に押し込むと、残りは着ていたベストのポケットに放り込む。

 そしてロッカーを閉めるのも忘れて、一目散に外に駆け出した。もちろん敵がいないとも限らないから壁に沿って歩く。

 先ほど来た裏口からなかに入ろうと扉を開けると、迷彩服姿の男が倒れてきた。織田だった。すでに息はない。

 そのまま中に入り込むと、見知らぬ男が椅子に腰を掛けていた。余裕の表情を浮かべる男の顔に銃口を向ける。

 「三佐、銃を下ろせ。銃を向けられてろくに話ができると思うか?」

 「娘はどこにやった。答えによっちゃ貴様の脳天ぶち抜くぞ」

 「まぁ落ち着け。話をしようじゃないか三佐」

 「もう一度聞く、娘はどこだ?。あと俺は退官している。三佐じゃない」

 「娘はとにかく無事だよ。今のところは」

 「どういう意味だ」

 「あんたの答えによっちゃいつでも殺せるということだよ、三佐。もちろん殺す以前に子供とはいえ女だ。殺す以外にもこちらには楽しみがある」

 「ふざけるな!」

 外で物音がした。窓を見ると、黒いワンボックスが走り去るのが見えた。

 「そう怒るなよ。あんたが俺たちの望みに応えてくれれば娘は無事に帰る。俺たちに協力しろ、OK?」

答えは決まっていた。



 「OK!」

 と同時に引き金を弾く。射出された弾丸は男の眉間に直撃した。

 「ウッ!」と声と脳漿をぶちまけながら、男が椅子ごと倒れる。

 「そこでくたばってろ」と声をかけつつ、外に出る。

 ガレージの前に行くと、緑色のパジェロが止まっている。10年以上乗り回している愛車に乗り込もうとすると、ボンネットが不自然に開いていることに気が付いた。運転席の窓ガラスが割られていた。中を覗かなくても走行不能であることは容易に察しが付く。

 ならば、と運転席に乗り込み、サイドブレーキを外し、ギアを「ニュートラル」に入れる。そして車から降りると、扉を開けたまま扉の枠を掴み押し始めた。任官して間もないころ、部隊のラグビーサークルに所属していたことがある。力には自信があった。

 車がゆっくりとだが進み始める。目の前は斜面だ。傾斜50度を超える斜面は、十分な速力を保証してくれるはずだ。

 斜面に差しかかった瞬間に車に乗り込む。勢いよく滑走(?)し始めた車。目の前に木や倒木、不安定な斜面、斜面に沿って作られている車道を走破する。ハンドルさばきが重要であった。




 「あのバカ、追ってくるぞ」

 助席に座るスキンヘッドの一言に車に乗っていた運転手を除く全員が振り向く。この山奥に不似合いな黒のクラウンを爆走させているが、アスファルトの上なら快足を誇るこの車を、急カーブに未舗装の道路では走るだけでも精いっぱいだろう。

 「奴は部隊を率いる最高の指揮官だったが、少々無鉄砲なところがあるからな。己の命なんか捨てて、子供救うために地雷原とゲリラ潜伏地帯を突っ走る男だ」

 助席の真後ろに座る男は、そう言って笑った。その一言にスキンヘッドが振り向く。

 「あんたは、無鉄砲じゃないのか?」

 「俺はいつもプロであり冷静だよ。だからこそ、あんたらの誘いに乗ったし、俺は奴を見限った」

 そう言って微笑む男に胸糞悪さをスキンヘッドは覚えた。

 (そして、戦地で混乱に乗じて必要以上に敵を惨殺して、挙句金儲けのために傭兵まがいの仕事をし始めたからこそ除隊させられたんじゃないのか)と心の中で思いつつ、スキンヘッドは顔を前に向けた。




 見つけた。斜面を下りながらワンボックスを見る。なんとしても止めるつもりだった。

ハンドルを捌いて、未来位置を予測し、ぶつかる位置にパジェロを持っていく。次の車道でぶつかるはずだ。目の前にクラウンが現れる。

 と、直前になって気づいた。「娘はどっちに乗っているんだ!?」と。

 ぶつかれば、車道から落下するかもしれない。そうすれば無事では済まないだろう。クラウンかワンボックか。

 「ええい、ままとなれ!!」とクラウンに正面を向けた。誘拐するのなら大きな車に乗せるのが通例だろう。愛実、今父さんが行くからな。

まもなくクラウンにぶつかるかというとき、突然娘の顔が浮かんだ。そうだ、クラウンに乗っていないという証拠がどこにあるのだ…。

 伊達はハンドルを切った。クラウンの目の前を通り過ぎた。そして、そのまま崖に飛び出して横転した。




 「あぶねぇ!!」とスキンヘッドが叫び、運転手がブレーキをかけるのはほぼ同時であった。

 横転したパジェロから、男・・・伊達が這い出て来る。それを見て、皆が銃を構える。拳銃ならトカレフ、マカロフ、コルトガバメント、ワルサーP38。小銃ならAK-47、M16、G3と雑多だ。

 三佐が抵抗するが、多勢に無勢。おまけに素手と銃では発砲をしないとはいえ分が悪すぎた。

 あっという間に伊達は仰向けに取り押さえられた。なんとか脱出しようと動いていると、影が顔に掛かった。スキンヘッドともう一人、見知った顔が銃を構えていた…。

 「牟田口、死んだはずじゃ?!」

 「残念だったな、トッリクだよ、三佐。あんたに隊を追い出されたから、ずっとこの時を待っていたんだ。長かったぜ」

 そう言って躊躇いなく牟田口は引き金を弾いた。


「ンッグンッンッ!!」とガムテープを張られた口から、声にならない叫びをあげる。しかし、目が父親を見ているのは明らかだった。

「大丈夫、君の父上は死んでいないよ」と声をかけても無駄なのは分かっている。

憎悪が籠った視線を少女から受けつつ、目を合わせずに言った。

「三佐に今死なれたら俺たちは困るんだ」と。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ