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レンジャー  作者: ひろ
OK!!
3/6

再会

高知県馬路村


 音は近づいていた。確実に。

 窓に近づくと、緑色で小型のヘリコプターが近づいて来ているのが見えた。それが陸上自衛隊にとって、もっともポピュラーな偵察ヘリコプターである「OH-6D」であることを男は知っていた。

 そのヘリは家の真上を通過し、ぐるりと何周かすると玄関先にある車両用駐車スペース兼資材置き場の広いスペースに着陸した。元々小さいヘリ、特に支障はない。おまけに軽いから多少ぬかるんでいても問題はない。




 自らハッチを開けて地に足を付ける。まだ回転中のローターに気を遣いつつ、背を低くして前へ出る。

 「マルヒト、マルフタ。周辺を確認しろ!!」

 小型とはいえ、ヘリはヘリ。とてもうるさい。

 目視と赤外線監視装置(FLIR)を使って上空から確認したとはいえ、偽装はいくらでもできる。用心に越したことはないだろう。特殊作戦群所属の二人は、まるでライオンのように、すばやく森の中へ消えて行った。

 本当に奴はここにいるのだろうか...、胸の奥底に不安を抱えつつ、久々にこの名前を叫んだ。

 「伊達!私だ、梅津だ!!。いるんだろう!」

 これだけ騒がしいのだ。外に出てきていてもおかしくはないのだが...玄関まで来いというのか?。

 仕方なく、扉の前にたつ。呼び鈴を押そうと手をあげた。


 「ご無沙汰してます、二佐」と突然耳元で声をかけられたから驚いた。慌てて振り向く。

 と、そこには懐かしい、いや、幾分老けた顔がそこにあった。

 「静かに素早くか。変わらないな貴様は」

 「二佐こそ、お変わりがないようで」

 「昇進したよ。陸将補だ。あと数年で退官だがね

 内心は驚かされて気分が悪いが、顔が緩んでしまうのを禁じ得ない。

 握手をしてから傍らに小さな影があることに気がついた。

 「愛実ちゃんか、大きくなったな」

 伊達が最後の任務を終える直前に産まれた愛実。写真を見せてもらってはいたが、想像の中の彼女は3歳のままだった。

 「父さんを何処かに連れていくの?」

 上目遣いに聞いてくるその姿は大人の男でも惑わす魅力が...あるわけではないが、少なくともかわいいの部類には入る。この年にしては目鼻立ちも整っている。

 「大丈夫。連れてはいかない。それよりお父さんとお話があるんだ」

 「令状あるの?」と返されれば、なにも言えなくなる。

 「家に入っていなさい、愛実」

 「は~い」

 「不服」という文字を背中に描き彼女は中に入った。

 と、子供がいなくなるのを待っていた先程の二人の陸上自衛官が現れる。

 「確認終了、状況、異常無し」

 「待機せよ」

 二人の自衛官は玄関前で立哨した。



 少し距離をとってから、梅津は伊達に話始めた。



 「実は問題が起きた。貴様の部下、宮坂、橋本、牟田口が殺された」

 「なんですって?」と動揺する伊達。

 「唯一、貴様が生きている」

 「待ってください。布袋は?」 

 「やつとは連絡がとれない。死んだが、それとも....」

 「布袋が殺してる、というのですか?」

 「いや、まだなんとも言えない。これから警察と警務、あと公安と合同捜査を敢行する予定だ。縦割りが繋がるとは思えないがね」

 「...せっかく、落ち着いて静かに暮らせると思っていたのに」

 「暮らせるさ、貴様に変化はない。織田と高橋、つまりあの自衛官二人を置いていく。彼らはその気になれば自給自足と忍耐で生きられるが、一応飯を振る舞ってくれ」

 「使えますか?」

 「あぁもちろん。なんせ特戦(特殊作戦群)所属だ。貴様には劣るかもしれんがな」



 左手をあげてヘリに乗り込む梅津を見送りつつ、二人の自衛官を見る。

 サイレンサーを付けたM4とUSP拳銃を装備する二人は、氷のような目をしていた。場所が場所だけに着てきたのであろう迷彩服は、その訓練の凄さを物語るかのようにいくらか擦りきれている。

 「ねぇ、本当にどこにもいかないよね?」

 愛実が不安そうな目を向けて聞いてくる。

 「あぁ、もちろんだよ。行くわけない」

 OH-6Dは、軽やかに機体を北へと向け飛び去っていった。



 不意に訪れる静寂。そのとき、明らかにいつもとは違う気配を感じた。

 そこに目を向ける。そこにあったのは、迷彩の塗装をされ、森と一体化していた銃と気づくのにさほど時間はかからなかった。が、発砲よりは遅かった。

 愛実を庇いつつ、横目で高橋の鼻から上の頭部が血しぶきをあげながら弾け飛ぶのを見た。真横にいたため少量ではあるが、体に血液とピンク色の脳漿が背中に打ち付けられる。

 すぐに玄関を開けて中に飛び込む。外からは乾いた銃声が響く。こっちはサイレンサーをしているから敵のだろう。

 玄関の奥で伏せていると、匍匐前進というより這って織田がやってきた。

 「どこか撃たれたのか」

 「左足をやられました。しかし武器もあるし戦えます」

 「ここを見張ってくれないか。猟銃をとってくる」

 「了解しました」

 「ここは風上だ。見なくても近づいて来ればすぐに気付く」

 「いったいどうやって。まさか、匂いでも嗅げと」

 「あぁ、その通りだ」

 織田にここは任せて愛実を自室のクローゼットの隠れているように促す。俺は、銃を取りに走った。


 

 あの人は「匂いを嗅げ」と言っていたが、犬でもあるまいしどうやって。ま、よっぽど臭い人間ならば問題ないが。

 銃声はとくに止んでいる。M4を構えつつ、いったいいつから敵はここに潜んでいたのかと考える。見逃したとは思えない。少なくとも高橋と俺が確認したあとだ。

 「まさか、俺たちを追ってきたわけじゃないよな・・・」

 と、突然玄関に気配を感じた。銃を構える。なにかが飛んできた。

 が、そこにはいなかった。が、たしかに首に衝撃があった。

 異物が刺さった首から血が溢れ出ていることを想像しつつ、こんな技やってのけられるのが単なるテロリストではないと思う。

 と、目の前にスキンヘッドの大男が立っていた。

 「お、お前は・・・!!」

 声にならない音を発した織田は、信じられない光景みた。それは特戦の前に所属していた部隊にいたころの同僚であった。

 男が腕を振り上げる。胸に何かが突き刺さる。痛くはなかった。


 クローゼットに隠れて、まだ3分も経っていないだろう。

 早く父さん、助けに来て。


 その時、扉の隙間から誰かが室内に入ってくるのが見えた。その人影は、部屋を少し調べた後、まっすぐクローゼットに接近してきた。

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