幕間 魔女達の夏祭り
今回は本編とはまったく関係の無い番外編です。
時間軸は本編より少し未来となっております。気をつけてはいますがもしかしたらまだ本編で公開してない設定が出てきてしまう可能性があるのでご了承ください。
夏。俺ら六人が家族になって三ヶ月も経ってしまった。
まだまだ問題は山積みだが、折角の夏休み。今日は皆で近所の神社にて行われる夏祭りに行こうということになった。
一足先に着替え終わった俺…というか、TシャツにGパンというありきたりな服装なため、時間も何もかかる訳がない。
そんなわけでわざわざ浴衣に着替えている女性陣を待っているのである。
「お兄ちゃんおまたせー!」
一番乗りで俺の元に文字通り飛んできたのが、もちろん風音。
風音の浴衣は髪の色と同じ翡翠色。丈は膝上までしかない、
いわゆるミニスカ浴衣という奴だ。
てか、あれだね。ミニスカ浴衣とニーソって以外と会うのね。
丈と袖の長さが同じなのも加算ポイント。
「風音!そんな恰好で飛んでったら下着見えちゃうでしょうが!」
火穂が風音の後から駆けてくる。
火穂も髪の色と同じで燃えるような真紅の浴衣。
もともとスタイルも良いので浴衣との相性もバツグン。
結い上げた真紅の髪からのぞくうなじが眩しい。
「水希お姉ちゃんが"浴衣の下は下着を着ない"って教えてくれて、ぱんつ履いてないから見えないよ?」
「「今すぐ履いてきなさい!!」」
俺と火穂、声を揃えて叫ぶ。
「…何を叫んでいるの?近所迷惑になるわよ?」
「夜月兄、着替え終わったーん!」
水希と光璃がトコトコと歩いてくる。やはり二人とも髪と同じ色の浴衣を着ている。
水希は浴衣や髪の蒼色と合わさって、涼しげな印象を与えていた。
スレンダー体型なので浴衣自体が似合って見える。
光璃は風音と同じミニスカ浴衣の色違いという感じ。
しかしニーソではなく生足なので、風音とは違う趣がある。
「水希!あんたまた風音に妙な事吹き込んだでしょ!?
早くパンツ履かせてきて!」
「…ちっ、こんなに早くバレるとは思わなかった。」
こいつ舌打ちしたぞオイ。
てか風音はピュアなんだから火穂になんの抵抗も無く喋ってすぐバレるだろ。
「てか、地花は?まだ着てないみたいだけど。」
「地花姉はまだ着替えられてないん。水希姉のおさがりの浴衣が着れないみたいなんな。」
あっ。(察し)
ふと水希の方を見ると、「くっ」とか呟いて爪を噛んでいる。
「私のおさがりは入らないの?」
「火穂姉の浴衣は縦の長さが余るのん。」
そっちかい。
確かに地花は胸以外は一般的な小学生よりちょっと高いくらいの身長。
結局、火穂が風音にパンツを履かせるついでに地花の着付けのフォローに行くことになった。
「出発までにどんだけ時間食ってるんだよ!?」
「…女子は着替えや準備に時間がかかるもの。そんなことも待てないようでは女の子にもてないわよ?」
くっ!痛いところを!
てか8割方お前のせいだろ!
〜数十分後〜
「ふぅ、お待たせ。」
「すみません夜月お兄さん。着付けに時間がかかってしまって…」
地花が申し訳なさそうに頭を下げる。
違和感無く着れているということはこれは火穂のおさがりなのであろう。
「てかどうやってサイズ合わせたんだ?こんな短時間で。」
「そりゃ無理やり裾をくっつけたのよ、もちろん違和感無いようにしたけど」
火穂が手を此方に向ける。
手のひらからは火ではなく熱が発せられている。
こいつ魔法をアイロンにしやがった。
☆○□◇□○☆
そんなわけで自分達が住んでいる街から二駅先にある神社までやってきた。案の定人が多い。
小学生組である風音、地花、光璃は俺にぴったりくっついてはぐれないようにしている。
…風音はミニスカ浴衣で俺の肩の上、ようは肩車状態になっているがな。風音の太ももが両頬に接触しているというア○ネスも真っ青の状態だがな。
あと地花がはぐれないように必死に俺の左腕にしがみついている。
だからね、その、なんだ…胸がね…
「夜月兄。何で赤くなってるのん?」
俺の右腕を握って歩いている光璃が首を傾げて尋ねてくる。
察してくれ、少女よ。
俺は健全な思春期の一匹の男子なんだ。小学生のだろうと義妹のだろうと胸が当たれば赤くもなるさ…
「お兄ちゃん!!風音、リンゴアメ食べたい!」
屋台を指差しながら俺の肩の上から飛び降りて走り出す風音
「待て待て!はぐれるぞ!」
俺は叫ぶも祭りの喧騒に紛れて風音には届かない。
「すまん、風音追いかけてくる。」
「わかったわ…迷惑かけるわね。」
俺は火穂達に一言言って慌てて風音を追いかける。
まぁ、後で携帯で連絡を取り合えばいいだろ。
☆○□◇□○☆
「おーい、風音ー!」
リンゴアメの屋台の前で風音を発見した俺はすぐに声をかける。
ふぅ、無事で良かったよ…
どこぞのロリケンみたいな奴に声をかけられていたらどうしようかと思ったよ。
「へい!お嬢ちゃん!良かったらお兄さんと遊ばないかい!?」
「何してんだよてめぇは!?」
風音に声をかけていた見知ったおデブを手近にあった鈍器(屋台の玩具屋から拝借したやたらビックサイズなけん玉)で脳天を一閃。
おデブは屠殺直前の豚みたいな断末魔をあげてその場に倒れ伏せる。
「あっ、すみません。これください。」
「はい、650円ね。」
屋台のおっちゃんと何事も無かったかのように見知ったおデブをぶん殴った血のついたけん玉の購入手続きを迅速に済ませる俺。
ぶっ倒れたおデブ…ロリケンをつんつん突っついていた風音をひっぱって直ちにその場を離れる。
リンゴアメを2本買ってから。
☆○□◇□○☆
「知らないデブについて行っちゃいけませんとあれ程言っただろ?」
「ごめんなさい…」
あれ程というか微塵も言ってないけど、取り敢えず突然走り出していってしまった件をかねて風音を軽く叱る。
あの風音がここまで素直に謝るとは…そうとうビックリしたんだな。
まぁ知らないデブに突然声を掛けられればビックリもするわな。
「まぁ、分かればいいんだ。
もう勝手にどこかに行くなよ?」
「うん、分かった〜」
お日様のような笑顔を浮かべてリンゴアメを食べ始める風音。
うーん、可愛い。
妹ひいき目で見ても可愛い。
あれだね。美少女・浴衣・リンゴアメは祭の三種の神器だね!
「さて、リンゴアメ食べて一息着いたら皆と合流するぞ!」
「うん!」
俺と風音はしっかりと手を繋ぎ、四人と合流すべく歩き出す。
☆○□◇□○☆
「って、しまった…
荷物俺が全員分持ってんじゃねぇか…」
そう、電車に乗るとき荷物を取られるといけないので財布以外は俺が持っていたのだ…
現地で各自に渡すはずだったのだが風音の件ですっかり忘れていた。
まぁ、風音も悪気があったわけではない。自らの足で探そう。
「さて、どこから探していくかな。」
「ん?あれって… 水希お姉ちゃん?」
目の前の冷やし胡瓜の屋台の前で立っている蒼髪の女の子を見つける。
間違いない、水希だ。
「てか地花の件もそうだが風音って眼がいいよな?」
「視力はちーちゃんと同じくらいだよ?
前に水希お姉ちゃんに教えてもらった『えこーろけーしょん』?っていうのを使ってるだけだよ。」
エコーロケーション。
反響定位ともいい、動物が自分が発した音が何かにぶつかって返ってきたものを受信し、それによってぶつかってきたものの距離を知ることである。それぞれの方向からの反響を受信すれば、そこから周囲のものの位置関係、それに対する自分の位置を知ることができる。したがって、音による感受法でありながら、一般の聴覚よりも、むしろ視覚に近い役割を担っている。
おそらく風音は姿形までしっかり受信しているのであろう。
風と音の属性を使役する風音ならではの技だ。
なんで俺がこんなこと知ってるかって?ハハ…聞かないでくれ。
水希は水希で凄いし、それを習得しちまう風音もすげえ。
「おーい、水希ー!」
「…夜月兄さんと、風音。見つけられたのね。」
「あれ?他の三人は?」
「…はぐれた」
お前もか…
しかしこの無口少女はまったく気にしていない様子で屋台で買ったと思われる胡瓜をボリボリと齧っている。
つか年頃の女の子が胡瓜丸齧りすんなよ…
「…この胡瓜ぬるい。」
一瞬だけ水希から冷気が発せられる。一瞬とはいえかなり冷たく感じた。
「…はい、夜月兄さんの分。と、風音の分。」
水希から渡された胡瓜を一口齧る。
…冷たい。
真夏の夜なので、それなりに暑いのは当たり前なのだが水希から渡された胡瓜を一口齧っただけで心地の良い冷たさが体を駆け巡る。
流石水と氷属性を使役しているだけある。
完全に無駄遣いだがな…
取り敢えず風音のエコーロケーションを使って残り三人を探すためにまた、俺たちは歩き出した。
☆○□◇□○☆
「あったよ!あっちに火穂お姉ちゃんと、あっかりんの気配!」
「でかした!」
「…みんな、丸太は持った?」
なぜか彼岸島のようなノリの三人。
丸太はねぇよ。
「火穂!光璃も!二人は一緒か?」
「あんたも風音見つけたのね…ついでに水希も。」
「…酷い。」
まぁ水希は次女だし、しっかりしないといけないからこの扱いは妥当だよな。
しかし流石火穂。しっかりと光璃がはぐれないように手を繋いでいる。
「で、水希。地花は?」
「…忘れてきた。」
どうやら水希と地花は二人一組で行動していたらしい。
何時ぞやの風音のようにてへぺろっ☆と舌を出す水希。
ぎこちないのがよけい腹立つ。
「「忘れてきたって何してんの(だ)よ
あんた(お前)はぁぁぁ!!」」
ダブルで水希にキレる。
ちなみに( )が俺だ。
☆○□◇□○☆
仕方ないのでまた分担して地花捜索をすることになった。
火穂、水希、光璃組。こちらは火穂が問題児である水希もついでに世話を見ることになっている。
で、俺と風音。
エコーロケーションがある分こっちが有利だな。
風音にエコーロケーションを仕込んでおいてくれた水希に感謝。
☆○□◇□○☆
風音のエコーロケーションが反応したところは屋台群の外れから。
「本当にこっちなのか?」
「間違いないよ!風音と同じくらいの身長に二つのおっぱいの反応があったからね!」
間違いない、地花だ。(確信)
しばらく外れを歩いていると…
本当に地花がいた。
「おっ、いたいた。また泣いちゃってるかな…
ん?」
「どうしたの…むぎゅ!?」
木陰に風音を押し込んでとっさに隠れる俺。
何か地花の様子がおかしい。
そう、地花が今にも泣き出しそうなのだ。
理由は明確である。なにやらチンピラ風の野郎に絡まれているのである。
…野郎、人の妹に。
万死に値する。
「風音、ここで待っててくれ。地花を助けてくる。
いざという時は火穂達に連絡してくれ。」
「わ、わかったよ!」
俺は不届きな輩を成敗するために
エロケンの血が残るけん玉を装備し一歩ずつ歩き出す。
最悪喧嘩になったらこれで応戦しよう。体術には多少の自信がある、なんとかなるだろう。
「あ、あぅあぅ…」
「な?いいだろ?俺と遊ぼうぜ?」
地花はすっかり怯えて喋れなくなってしまっている。
俺の怒りのボルテージはMAXレボリューションである。いまにもこの野郎をぶん殴ってしまいそうな勢いだ。
しかし紳士な俺はまず地花に声をかける。
「よう、地花。無事か?」
「や、夜月お兄さんん〜」
安堵の泣き笑顔を浮かべ、こちらに走ってきて俺の背後に隠れる地花。
最後まで魔法を使わなかったな。偉いぞ。
「あんだ、てめェ?
この俺っちの恋路を邪魔すんのか?あぁん?」
一人称俺っちって…
今時、三下でも言わねぇよ。
てか地花は小学生だよ。
この胸だから初見では誰もそうは思わないだけなんだよ。
目の前のチンピラは思った以上に胸板も薄くヒョロヒョロしている。
「邪魔する野郎はぶっ殺すのが俺っちのモットーだ。
行くぞオラァ!!」
拳をかまえ臨戦態勢のチンピラ。
(ミスリル、力借りれるか?)
(かかっ、今回は出番が無いかと思ったぞ?)
脳内テレパシーで"魔女の鍵杖"にコンタクトを取る。
(こんなヒョロ男との喧嘩ごときに妾の力を使うまでも無いと思うが、まぁいいじゃろ。
妾もこいつを一発殴って起きたいからな)
小さな銀色の光が一瞬だけ俺を包む。
体術強化。俺がミスリルと少しずつ練習していた魔法だ。
この間にすでにこちらへと放たれていたチンピラのパンチをやすやすと受け止める。
「なんだこのパンチは…
パンチってのはこうやるんだよ!」
俺の怒りと魔力が込められたパンチがチンピラの下腹部にグリーンヒット!
うずくまるチンピラをヘッドロックして、密談をとれる形にする。
「て、てめぇ!どうゆう鍛え方したらこんなパンチ打てるんだよ!
人間のパンチじゃねぇぞ!」
何やら喚いているな、今はそれどころではないんだよ。
「あのさ、あんたがナンパしてた子な?あれ、俺の妹。小学生。
おk?」
「ファッ!?」
一瞬だけ地花の方を向くチンピラ。
「って、あんなでかい胸が小学生なわk…むぐ!?」
黙らせるためにけん玉の玉を口に突っ込む。
ロリケンの血が付いてるが気にしない。
さて、トドメを指すかな。
「なぁ、地花。お前今何歳で干支は何だ?」
「ふぇ?えぇと…」
怯えてて答えられないかと思ったが、きちんと答えてくれた。
チンピラは口に玉を突っ込んだまま指折り計算を始め、とたんに青ざめ走りさっていってしまう。
…俺のけん玉が…
「…す、すごいです!あんな怖そうなお兄さんをあんなに簡単に追い払ってしまうなんて!やっぱり夜月お兄さんはすごいです!!」
「えぇ!?」
大絶賛!?
とあるラノベで読んだ撃退法実施しただけなのに!?
「すごいすごい!やっぱりお兄ちゃんは私達のヒーローだよ!!」
こちらに走り寄ってきた風音が満面の笑みで俺に抱きつく。
…まぁ、この子たちの笑顔が見れただけでOKとしますか。
☆○□◇□○☆
なんとか全員合流し、もう夜も遅くなってしまったので家に帰ることになった。
帰りの電車は思った以上に空いており、座ることができた。
「あーあ… あまり遊べなかったなぁ…」
「…同感。射的とかしたかった。」
風音と水希が溜息をつく。
「あんたたちが余計なことしなかったらもうちょっと楽しめたわよ…」
完全に疲れきった表情の火穂。
わかるぞ、その気持ち。
「…あ、花火なのん。」
窓の外をずっと見ていた光璃がぽつりと声をもらす。
空いっぱいに広がる夜空に、炎の華が一面に咲き誇っていた。
「わぁ…綺麗…」
全員が夜の街を走る電車の窓から空を見上げる。
…これで十分祭りを楽しめたことになるんじゃないかな。
花火を夢中で見上げる五姉妹を見て、ひとり心の中でそう思う俺であった。
次回からは本編に戻ります。
第二章突入予定です!
乞うご期待!