IF あったかもしれない遭遇 ~黒羽vs夏希~
この小説は、完全に出来心から執筆してみた作品です。
尚、読む前に
「死体が無いなら作ればいいじゃない♪」(http://ncode.syosetu.com/n8097bd/)《現在53部》
「ラスト人類私in地球。合掌!」(http://ncode.syosetu.com/n3208bi/)《現在3部》
を読むことをおすすめします。
意味がわからないかと思うので。
ではまた後ほど!
ゴクリ、と、無意識のうちに喉が上下する。ユーキが連れ去られたダンジョン――否、建物は、白い外壁がまばゆいばかりの、花が咲き誇る城だ。一貫して感想は美しい以外に存在しないが、それが余計に不安を煽る。美しすぎるのだ。
しかし躊躇してはいられない。ユーキの貞操が危ないのだ。同性に散らされてたまるか。
豪華な百合の意匠があしらわれた白銀の扉に手をかけると、音も無く扉は開いた。まるで猛獣の口の中を覗いているような気分だ。知らぬ間にかいた手の平の汗がヌットリと気持ち悪い。
しかし一つ深呼吸して気持ちを切り替えると、俺は、光が降り注ぎ、輝くような城の中に足を踏み入れたのだった。
☆★☆
中は意外と明るかった。大きな窓が建物の内側についていて、建物の内側は広い庭園になっている。外側の壁にはドアが並んでいるから多分、部屋が並んでいるんだろう。
きぃ、と小さな音を立てひとりでに扉が閉まる。
「うふふ」
「くすくすくす」
扉を背に正面が中庭に通ずる窓、左右に廊下が伸びている。
声は、左右両方向から聞こえて来る。若い女性の笑い声だ。
まだ姿は見えない。
「きゃっきゃっ」
「あはははは」
右! 視線で牽制、左側に後ろ蹴りを放つ。空振り。
仮にも魔王のダンジョンの、そこで出現するモノに生身の俺の攻撃が通るとは思っていない。
しかし『R―convert gear』の残りバッテリーが30分程度しか残っていない。それに、ギアを使うには親機たるサーバーが必要だ。ここ魔王城にサーバーがあるとは思えないので、頼りにはならない。
空振った足をそのままに、軸足で紅の絨毯を蹴りつけ、空中で回転しながら周囲を確認する。
大事な部分を隠す――というか引っ掛けているような下着姿の扇情的な衣装に、半透明の羽衣だけを身につけた女性が1、2……全部で7人。
エロいお姉さんは大好きだ!
「ねえ坊や。私と一緒にイ・イ・コ・トしましょ」
金髪巨乳の女性が言う。
「ボクと……えっちしよ? お兄ちゃん」
女性の中で一番小さい、むしろ少女ともいえる女の子がいう。成也じゃないが凄い威力だ。
グループはみな総じてレベルが高い。全員見たことがないような美貌に、妖艶な笑みを浮かべている。
それに、なんだか頭がクラクラする。無意識にふらふら、と二、三歩足が前に進む。
「うふっ、いい子ね」
なにもかもがどうでもよくなって、本能に身を委ねそうになる。
だが。
歯を食いしばる。
「ユーキよりいい女の子はいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
全力で叫ぶと、女性グループは消えた。淫魔かな?
俺を篭絡できないからと諦めたのか、それとも他に何かがあるのか。
窓を横にスライドし、中庭に出た。
☆★☆
中庭はとても暖かい。庭かと思っていたがどうやら温室になっているようだ。
しかもかなり広い。正面の壁が霞んで見える。
さらに白っぽい百合が咲き誇り、石畳がだいぶ先まで続いている。所々に噴水があり、東屋やテーブル、椅子なんかもある。
それらはすべて白に統一されていて、よく見ると百合の意匠だ。
庭園の印象は一言でいうと上品、または幻想的。
二言でいうなれば頭に儚いがつく。
全体的に白っぽいため景色がまるでフィルターをとおしたように白み、幻想的な景色を生み出している。
段々視界が白んでいき――ってまずい!
急いで建物の中に入り、スライド窓を閉める。
ピシャ、と窓が閉まるのとタッチの差で百合の間から伸びた蔦が窓を打った。
花粉で意識を朦朧とさせて、蔦で身動きを取れなくして――その後どうなるかは考えたくもない。
とりあえず廊下を左回りで進むことにした。
☆★☆
しばらく歩くと、窓の外――庭園に食虫植物を発見。坪型で、中に入った“獲物”を逃がさないために蓋をして、袋の中で消化するタイプ。
それもかなりでかい。そう、まるで人間一人くらい軽々と入りそうなくらい。
もしあの時、蔦に捕まっていたらと思うと――背筋が冷えた。
万一の時に備え、ギアの電源が入るか確認。
難無く入る。
サーバーがあるのか、ダンジョンだからなのか、理由はわからないが――能力が使えるなら問題なし!
☆★☆
再度庭園に入り、機械竜を憑依、突風のバリアを自分の回りに作る。
埒が開かないと思ったか、蔦が伸びてくるも楽々風のバリアが弾く。
痺れを切らしたのか、ついに本体が姿を現した。
10歳くらいの幼女、しかし人間でない彼女らの両腕には蔦がからみ、頭には大きな白い花。
その目には白目の部分が無い。人間で言う黒目の部分だけが眼控に埋まっている。
やはり美しい彼女らの顔には、なんの表情も浮かばず、能面を張り付けたような無表情だ。
しかし心なしかいらついているようにも見える。さっきから蔦を伸ばして攻撃してくるが、俺に届かないからだ。
というか今気づいたが――こいつらの伸ばす蔦、彼女らの身体を覆い隠す役割も担っているようで、色々と際どい。淡いピンクの蕾や花弁が―――っと危ない、俺が好きなのはユーキ、俺が好きなのはユーキ、俺が好きなのはユーキ……。
念仏のように唱え続け、気持ちを抑える。
しばらく歩くと――百合の花が群生する陰に、 建物があるのを見つけた。
普通の状態なら見つからないだろうが、蔦と花粉を寄せつけない、いわば無敵状態である俺には、どれだけ蔦女――便宜上俺が名付けた――を配置しようが関係ない。むしろ多いところは怪しい。
そこを重点的に探せば――隠したい何かが出てくるのは当然だろう。
百合の花に隠れるようにして――というか実際に隠れた状態で、かなり大きめの和風住宅がある。このまわりだけこころなしか植物が多く、また他のところに比べ圧倒的に樹木がたくさんある。
さらにご丁寧に白い木でできた壁や、異常に大きな百合が生えていたり、ここが怪しいと言わんばかりだ。
俺は周囲への警戒はそのままで、屋敷の引き戸を横にスライドした。
☆★☆
中はいたって普通の和風住宅で、入ってすぐに障子がある。靴は……脱ぐべきだろうか、やっぱり。
一瞬逡巡したが、靴脱いだら後で面倒くさいので、飛んでいくことにする。メーフィ&炎龍憑依。
某青だぬきこと未来の猫型ロボットよろしく3cmほど浮いた状態で邸内を散策。
二つ目の部屋を開けたとき――猫の鳴き声を聞いた。にゃぁ、ともみゃぁ、とも聞こえる声は、だんだんと増えていく。
気づけば、囲まれていた。
姿を見せないのはここのデフォルトなのか、聞こえるのは声だけだ。
そして、コップに入れすぎた水が溢れるように、鳴き声が大きくなったかと思うと、急に部屋中が猫だらけになる。
否、それらは猫であって猫でない。半猫半人――ようは猫又だ。猫娘だ。
やっぱあれか、魔王があんなんだから魔物は全部性別♀なのか?
猫娘――以下これで統一することとする――は、少女と言って差し支えない程度の女の子に、猫耳と先が二股に分かれている尾てい骨あたりから尻尾が生えている。服は……あって無きがごとし。それ着てる意味あるの? ってくらいギリギリ。
このダンジョン、こころなしか悪意を感じる。主に男に対しての。何のためにだ? それに、女性探検者がダンジョンに入ったら意味が無――っと、今はいいか、と突風のバリアを展開。
そして、俺が好きなのはユーキ、俺が好きなのはユーキ、俺が好きなのはユーキ、と、無心に唱え続ける。うむ、いろいろと落ちついた。気がする。だからこれは鼻血じゃない。なんか突風のバリアに煽られて飛び散り、結構グロいことになってるけど――これは鼻血じゃない。
さっきから垂れてるのはアレだから。ヘンゼルとグレーテルと一緒だから。迷わないように目印にしてんの! 入口からな!
☆★☆
屋敷を一通り周り、何も見つけることはできなかった。いたのは猫娘だけで、あまりに何もないから畳をはがしてみたら蔦娘がいてビビったけど、何もなかった。
厳重に隠してたのはブラフ――製作者の悪意を感じるぜ。というか、猫娘の接近を阻むすべを持ってなかったら、今頃大変だろうな。擦り寄ってこようとするし。
うむ、つい出来心から手を出してしまわないか心ぱ俺が好きなのはユーキ、俺が好きなのは……。
☆★☆
屋敷を出、庭園に再度やってきた。
今度は天井ギリギリを飛行しようと思う。下にいたら――いろいろと危ない気がする。理性が持ってかれそうになるし。蔦娘まじでエロ俺が好きなのはユーキ、俺が好きなのは……。
ふぅ、危ないところだった。
魔王のところに着くまでに貧血で倒れないかが心配だ。
庭園を見渡しながら、15m程上昇。城内部は一回建てみたいだけど、庭園はドームみたいになっていて存外に広い。最大でまだ5mは上昇できるかな?
天井には特になにもない。普通じゃのぼれないから仕方ないのか。で、あれは鳥の巣かな? 鳥とかいたっけ。ホント、どこにでもいるもんなんだな。
日本庭園から城の入口とは反対側へと飛んで進む。
と、そこで背中に衝撃。なにかに飛び乗られたような軽い衝撃だ。
「うわっ!?」
なんとか体勢を整えることに成功した。
少し高度を上げてから、背中を見やる。鳥娘と眼があった。腕は翼。膝から下は鶏の足みたいなゴツイ鉤爪。体型は高校生くらい、他は普通の人間と変わりない。その体を覆うモノは一切ない。
全裸だ。
全裸だ。大事なことなので二回言いました。
失血死する!
俺は、墜落した。
☆★☆
「ん、うーん」
「あ、目が覚めた」
「黒羽様? 大丈夫ですの?」
目を開くと、眼前にユーキの顔があった。
「うわっ!?」
「あうっ!?」
びっくりして体を起こすと、ユーキの額と俺の額がごっつんこ! しそうになったところで体をひねって回避。セーフ。セーフ!
辺りを見回すと、俺はどうやら布団で寝ていたみたいだ。
周囲の壁は木、床は畳、えーっと、社会の教科書で似たようなのを見たことがあったな。そうだ、書院造だ。
で、俺とユーキがいて、そして――
「魔王!」
「失礼ね、私はそんな名前じゃないのよ。男に名乗る名前はないけど」
大学生くらいの女の人がいる。本当に魔王なのか?
というか俺、ハーピィにやられて(失血で)墜落して、えーっと、あれ? そこからの記憶が混濁している。
「うちのモンスター娘たちを傷つけなかったからそれに免じて助けてやったけど、なにか言うことは?」
えーっと。
「いい趣味してるぜ!」
サムズアップ&最高の笑顔。きっとはたから見たらキラーンという擬音が聞こえたに違いない。
「あー、男はやっぱこんなもんか。いいよ、帰ってじゃーね」
俺がいたところの畳が急になくなり、落ちた。
☆★☆
「おー、痛ぇ」
ダンジョンの入口の横のところに落ちた。
ユーキはいない。うむ、振り出しに戻る。
ダンジョンの扉に手をかけようとしたところで――声が聞こえた。
『ちょっと、せっかく人様が助けてあげたのに、もう入ってこないでよ』
「うおっ!? なんだこれ」
壁から声が聞こえる。
『あー、壁を振動させて声を届かせてるんだけど、面倒くさいから電話ってことで』
壁を振動させて、か。魔王なんでもありだな。
「というかユーキは!?」
『うん? ユーキちゃんは、えーっと、ちょっとお話してから責任をもってあなたのところに返すわ。あなたに免じて――今回は、手を出さないでおいてあげる』
今回は、に妙にアクセントを置いて魔王が言う。
まぁ、ちゃんと帰ってくるなら文句はない、かな?
俺の意識は、貧血によりフェードアウトした。
このような作品を読んでくださりありがとうございます。
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また、この小説を書こうと思ったきっかけの話もあります。
ではまた!